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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・3年生編
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187・ダテに条件などない!

 在校生の登校日、ルシャをリーダーとするダテの8人は帰りのホームルームの終わった直後に飛びだした。目指すは1年3組。教室で荷物をまとめているクロエを呼んだ。

「クロエちゃーん!」

「わぁ!」

 教室内の生徒全員が振り向くほどの声量でリオンが呼ぶと、クロエはリオンの隣で手を振るルシャを見て目を大きくした。

「ルシャさん!」

「お、なんだお前もう蜜月か」

「保健室のベッドでアレしたぞ」

「え!?」

 うるさい奴らを廊下へ追いやったルシャは駆け寄ったクロエにこの後の予定を尋ねた。

「その、私はこの後帰るつもりです…」

「よーしよしよし…」

 そう言ってルシャがクロエの肩に手を置き、ダテの輪に入れようとした。困惑するクロエは男子までいることに驚いて咄嗟にルシャの背中に隠れてしまった。

「お前ら顔が怖いんだよ。いつもみたいにバカになってろ」

 野郎が一斉に緩むもクロエは怯えたままだ。そこで3人には一旦退いてもらって説明をした。

「私がダテの総長のルシャ、こいつが可愛いミーニャン、こいつが運動能力が人間じゃないリオン、こいつがあのいちばんアホな顔をしてる…左にいるルートくんの弟子のリリアだ」

「ミーニャンさん、リオンさん、リリアさんですね…私クロエです」

「よーしクロエちゃん、緊張しなくていいんだよ。お姉さんたちみんなバカだから。バカには何をしてもいいんだぞ」

 緊張を解す言葉としては適していないことを言ったミーナは自分より背の高いクロエの背中を優しく撫でた。その瞬間、クロエはミーニャンならいけそうだと思ってルシャの背後から出てきた。

「えっとね、こいつが体育館に忍び込んだのが発端であったとしても、これを何かの縁と思いたいわけだ。ってわけでお茶しない?」

 ここに収束すればそれまでの話は何でもよかった。クロエはこの後帰って勉強するつもりだったため、少しの間なら付き合うとして同行を決意した。


     ☆


 お茶も出すファミレスには宴会場があって、本来であれば手紙や来店での予約が必要なのだが、偶然に空いていたので入れてくれるということだ。決して権力を用いたわけではない。

「まあまずはノンビリ飲み食いしましょうや。そうだ、折角だからこの大先輩が歓迎の証にすべて奢ってあげよう。我が物顔で好き放題に注文するがいい」

 鋼鉄の精神力を持っていれば容赦なく1万セリカ分くらいをいっぺんに注文したのだろうが、その真逆の絹豆腐のような精神力を持つクロエはいちばん安いおつまみヤングコーンを注文するに留めた。大先輩たちは後輩の萎縮を見て無理強いをしないことを誓い、後輩を導く好き勝手な注文をした。

「我々はよく食べることで知られてるんだ。だから誰がどんだけ食ったとか関係なく均等に金を出す。たまに気のいい奴が奢ってくれるから、それには甘んじる」

 着々とダテルールを教え込むルシャたち。野郎は今のところ喋らずにじっと様子を見ている。

「中学校にいるときうちへの志願者数とか聞かなかった?制服変わるって話で急遽変更した人もいるんじゃないか」

「勇者学校である必要が希薄になったので他に散ったと思います。あ、けどルシャさんのいる学校ってのはみんな知ってましたし、制服のことも知ってる人は多かったです」

「あーそうか。私が魔王をぶっ殺してしまったせいで勇者が要らなくなったんだよな…まあでも文武両道を他より強力に養成する学校として機能してる。志願する理由はあるはずだ」

「はい」

「制服気に入った?」

「かわいいと思います…私が着て似合うかは分かりませんが」

「かわいいよ。カワイイ……」

 にじり寄ってくる青髪を抑えて無難な褒め方をしたルシャは、高校生活への意気込みなどの在り来たりなことを質問した。

「いい先生に教わりに来たので、常に満足できる成績を出すことが目標です」

「おー模範的な生徒だ。その意気があるのにうちらに入れるのは…アレだなぁ」

 ダテらせてしまうと多少なりともバカになるので真面目に勉強したい人を入れることには消極的だ。しかしリオンがダテるメリットを訴えた。

「魔法に関しては他に教わるより圧倒的に伸びるぞ」

「そうですよね。最も魔法の扱いに長ける人がいるんですから」

「勉強はまるでダメだけどな。あ、こいつは優秀だぞ?キルシュ・グループのお嬢様だもん」

 その名前を聞いてピンときたクロエはにじり寄ってくる先輩が次代会長と聞いて俄然縮んだ。

「あーあー、大丈夫だから。ほら、私なんかキルシュのお嬢様を片手で押さえてるよ?手汗出てるし」

「うん。さっきから鼻がビッショビショ」

 ミーナが顔を引いたのでクロエはその顔を見つめた。この小柄な先輩の中に僅かに風格を感じる。小柄でダテだからとナメてはいけない。


 そうこうしていると料理が来た。

「さあ料理が届いたぞ。食べよう!」

 瞬く間に皿を空にするダテに対して小さな口を開けてゆっくり食べるクロエ。まだ腹を空かせている野郎が物欲しげに彼女の前の皿を見つめる。

「食べますか?」

「お」

 漸く男子が口を開いた。クロエが取り皿に少し分けてあげると、3人は大喜びで平らげた。飼い犬は主の仲間に好感を持っているようだ。


 野郎も喋っていいということにして質問してもらった。最初に喋ったのはルートで、魔法についてどれほど鍛えたいかということを問うた。

「魔法も含めて勉強なので実技であってもいい結果を出したいです」

「どのくらいとかある?」

「クラスで上位になるくらいには…」

「俺らと鍛えれば学年1位になれる。ルシャと俺がいるから学校1位は難しいがな」

「私を忘れないで!」

 3年が卒業しても1年間は覇権を獲れない。リリアという王者が君臨しているからだ。彼女さえも見送ったら念願の覇権に手が届くだろうと言うと、覇権は狙っていないという。

「暮らし?って言うの?学校生活全般の目標みたいなのは?」

 ロディは学校に行くことが楽しみであるべきだと言ってそのためにクロエが何をするつもりなのか尋ねた。

「えっと…みんなと仲良く、ですかね」

「うん。いい雰囲気のがいいね。休日に遊ぶ友達ができると楽しいよね」

「あ、そうですね…私、そういう友達いなくて…」

 それを聞いたルシャがクロエの肩を掴んで抱き寄せた。彼女も中学時代はそのような友達を持っていなかった。高校でここまで変わったのだから、クロエも変われる。

「人付き合いが面倒って人もいるだろうし私もどっちかって言うとそうだったけど、私はこいつらと付き合ってて楽しい。はっちゃけられる友達がいると好き放題できるよ」

「できるかな…こっちから話すのが苦手だし、あっちから話しかけてくれても上手く返せなくて…」

 なにか苦手意識が芽生える経験があったのか、元から寡黙な子だったのかはさておき、人と話すのが苦手であることは人の性質としてある。クロエはそれで辛い思いをすることがあると言うから、ルシャたちがダテの力を与えようとした。

「もしよかったらうちらの友達になってよ」

「あ、いいんですか…?こちらからお願いします…!」

 クロエは親切な大先輩の仲間になることで学校生活を楽しく過ごせると確信した。もはや断る理由はない。波乱なんて上等で、自分を変えたいと強く思うことに正直になりたかった。


 クロエはこうしてダテに加入したわけだが、何が待っているかは全く想像がついていなかった。

「よーし、じゃあ詳しいことを説明しよう。来たかったら来い。以上」

「短!」

「それ以外に制約などないさ。気が乗らないとか調子が悪いとか、行かない理由があってもいいし、気まぐれに帰ってもいい。人間なんてそういうもんだ。けど楽しみたいときは迷わず来るがいい」

「わかりました…ちなみにこの後は何を?」

「何してもいいよ?何かしたいのがあれば是非」

 提案を求められたクロエだが、本来は帰って勉強するつもりだったのでそうするべきだと思った。そのことを言うと数人は肯定したが、数人は違う提案をした。

「えっとね、クロエがいまどれだけの実力を持ってるのか知っておきたい。教育者じゃないけど、ダテは協力していろんなことをするからね。地震の時だって停電の時だって集まって人助けしたんだ」

「あ、新聞で見ました。あれみなさんだったんですね」

「そうだとも。稀代の魔法使いってのは自分たちにしかできないことをするもんで、魔法がどうやって人を幸せにできるか考えるもんだ。私の得意技の発光が役に立つ」

「怖い人を撃退するのに便利ですね…」

 まさにそのような使い方をしていた。クロエがそれを羨んだため、使うコツを教えるためにもこの後はちょっとした試験をすることになった。


    ☆


 ダテバトルではお馴染みの地、フッカーズ・ヒル。当たり前のように飛行で移動する先輩に驚きながらもルシャの背中にしっかり掴まっているクロエは、丘の上に降り立ってすぐに大量のキャピシュに包囲された。

「君の魔力を測る。全部とは言わないから、攻撃してみてくれ」

「はい!」

 試されていると思うといつもより気合が入る。クロエは緊張していても良い結果を出すことができる子で、親から『怯える必要はない』と何度も言われていた。

「それってホントだよ」

 東屋のベンチに座って観戦しているルートがそう言った。彼の目にもクロエの能力が決して低くないと見えていて、伸びしろもあるという予想をした。

「ただまあ、伸びしろのほうがずっと長いね」

「うん…」

 ロディは自信のない自分にも及ばない程度だと評した。しかしこれは悪く言ったのではなく、自分と似た成長曲線を辿るだろうという予想のためだ。

「お前もあまり得意ではなかったよな。けどルシャたちに教わってダテになった」

 ダテになるとは魔法が得意になるという意味で、クロエもそうなる。ラークは運動能力の低さを指摘し、こちらにも伸びしろがあると言った。

「つまり可能性の塊だってことだ!」

 それが野郎の出した結論だ。傍で聞いていたリリアも頷いて3年になる頃には自分たちに比肩する能力を持つだろうと予想した。

「アイはどう思う?」

 アイは父に教わった魔法の使い方を含めた記憶を取り戻しているため、以前より遥かに多くの魔法を使えるようになっている。そんな彼女は運動能力は自分より高いとしながらも、魔力では明らかに自分が勝っていると断言した。

「そりゃダテ屈指の魔力だし」

「たぶん私の1割くらい。いくら扱いが下手だからって、キャピシュを消し飛ばせないのは魔力そのものの少ない証」

「んー…」

 残念に思っているのではない野郎とリリアはこう思っている。

(1割ありゃ十分じゃね?)

 中国人の1割に人気というのは1億人以上に人気ということなので、大人気である。それと同じように、100万に対しての10万だとしても、並の人が5万ならスゴいということである。

「その1割を全部使えてるわけじゃない。変換効率がすごく悪そう」

「ってことはそれを改善すればキャピシュを1発で消せるようになる?」

「うん。そう思う」

 アイというルシャに次ぐ稀代の魔法使いがそう言うのだから間違いない。彼女の結論もクロエが伸びるというものだった。だとすると、ダテらせることこそ最善と思える。それぞれが持ち味としていることをこの新人に仕込むことで、卒業を前に最強の生徒を完成させられる。

 新しい目標を作った8人はまず、クロエと仲良くなることから始めた。

職場ではあまり年齢関係なく仲良く喋ってますが、学校だと先輩だらけのところに自分だけ行くのは気が引けるんですかね?でも馴染ませるために先輩が囲ってくれるのっていいっすよね。

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