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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第1部
12/254

12・アクションマジックショー

 ノーランが怠そうだったのが気になるルシャだが、研究室でミーナとリオンと一緒に昼食を摂っていると彼が入ってきて、仕切りの奥で机の引き出しを開けた。

「今日は何するんです?」

「あー、今日はー…えーっと…」

「どうした?」

 リオンが馴れ馴れしく訊いてみると、ノーランはハッキリしないまま答えた。

「アレだ、魔法を…だね、動きながら使うことがあると思うんだ…運動しながら魔法を使う特訓をするんだ…」

 ノーランの様子がおかしいのでミーナが仕切りの奥を覗いてみると、ノーランの机の上には水着の女性の載った雑誌が置かれていた。

「グラビア見てるぞ!」

「なにぃ!?」

 一斉に女性陣が飛び込む。リオンが素早く写真集を取り上げると、ノーランは正気に戻って取り返そうとしてきた。

「やめろ!それは俺の心のオアシス…」

「ここ学校ですよ!?家帰って見ましょうよ!」

 ノーランは学校で嫌なことがあったときにストレスを解消する方法として水着写真集を隠し持っていた。鍵付きの引き出しに入れているから誰も見つけなかったが、仕切り1枚だけで隠し通せるとはなんとも浅い考えだった。

「すまん…寝坊して急いだら朝っぱらからすっ転んで、弁当は偏るし額を打つしで最悪の気分だったんだ…授業の時に怠そうだったのはそのためだ。公私混同も甚だしいところだが、俺だって人間なんだ。勘弁してくれ」

「うーん、なんか怒る気になれない」

「こんだけの不幸に見舞われた人を前にして、私たちがするべきことって怒ることかな?それで誰かが幸せになるかな?」

 急に真剣になったミーナの言葉を受けてルシャとリオンはノーランの背中をぽんぽん叩いて励ました。ノーランは愛すべき生徒の行動に思わず涙した。

「先生最近情緒不安定じゃない?」

「ごめんな…いろいろあるんだよ…」

 ここでルーシーが来て彼の悩みを聞いたため、3人は弁当の残りを食べることができた。「で、今日は何をやるの?」  


 元に戻ったノーランは正しい説明をして4人を特設会場に連れて行き、体育倉庫からラインパウダーを取り出して白い線や円を引き始めた。4人にはまだ意図が見えていない。

「よし」

 トラック上にはテイクオーバーゾーンの線やケンケンパの円がある。ノーランは次の段階に移ったようで、的をフィールドに配置している。待つこと10分、今日の特訓のための設備が完成した。

「ふぅ。トラックだから無限にできちゃうすごい特訓だ!内容はさっき言った通り。走りながら的に当てる。当たったら次の周はやらなくていい。全部の的に当ててから5周したら終わりだ」

 トラックは1周200mになっているため、5周で1kmである。ノーミスで達成したとしても1200mは走ることになる。

「長いよ!」

「長くなきゃ特訓にならないだろ?」

「うぇぇ…」

 ルシャとミーナはゲンナリしているが、リオンとルーシーはやる気だ。特にリオンは6周で終わらせるつもりで、元気よく走り出した。短距離でも長距離でもお任せあれなリオンでもノーミスは難しいようで、1周目は5つのうち3つを破壊した。運動神経に優れる彼女だから2周目でしっかり修正していて、残りの2つを撃ち抜くことに成功した。こうなれば彼女はただ走るだけで、さっさと終えて戻ってきた。

「ハッハッハ、むずいねぇ」

「よくそんな走れるね…」

「元気以外取り柄のない人です」

「そんなことないけど…次は私だね。やるだけやってみるよ」

 ルシャはいつものペースで走って的を狙った。リオンより遥かに遅いのでエイムは楽に思われるが、美しいフォームを知らない彼女の身体は大きくぶれているため全く定まらない。大きな魔法を使えば簡単に的を破壊できるが、それでよいのかという疑問がある。6周で終わらせるために大魔法で突破すると、2周目の途中で新しい的が置かれてミーナがスタートしていた。

「はぁ、はぁ…」

「あと5周がんばれ…」

「いけそうかい……?」

「いけなさそう…」

 ルシャは最後の1周の途中、ミーナは2周目で倒れてベンチに搬送された。最後に挑戦したルーシーは難なくクリアーして先生の実力を見せつけた。

「制限時間をつけるか。あるいは挑戦回数だな。ハードルを上げて鍛えよう」

「私の場合は長距離走をやるべきなのでは…?」

「え、ただ走るだけって嫌じゃない?」

 それはノーランの私的な意見であるため、ルシャとミーナは首を横に振った。走るだけでも大変なのに的を狙うのはもはや無理なのでまずは持久力をつけたい。

「じゃあ明日から持久走だな…あれ、研究関係ない…」

「陸上部ですね。まあ3人とも頑張りなよ」

「私も入っているのか…」

 ルーシーがどちらサイドなのかという議論がある。本人はできるサイドの人と認識しているが、ルシャとミーナは味方にしたい。

「研究することがないのが悪いね。この後はどうするんですか?」

「ちょっと体力わけなさいよ」

「脂肪なら分けてあげるよ?」

「いらん」

「私も脂肪なら」

「くれ!」

 ノーランはどうして2人への対応が異なるのか疑問に思って首を傾げた。今日は解散となったのでルシャとミーナはリオンに肩を借りながら分岐点まで歩き、残りは風に乗って帰った。風に乗って登下校するのが勇者学校の生徒の間で流行りそうだ。




 翌日、特殊運動場が様変わりしていてルシャたちはビックリした。まるで別世界が切り貼りされたような異様な光景の中でノーランが手を振っている。

「おーいお前ら~!」

「先生!朝っぱらからなんですかこれ!?」

 ノーランは段差の奥に消えたり視界の外から現れたりしながらルシャたちのもとへ来た。かなり複雑な構造になっているようだ。

「今後の授業内容をアクションマジックにしようと思って2時から改造してたんだ…手伝ってくれた有志の人はもう帰ったが、俺はこれから授業だ…ああ、眠い…」

「休日にやればいいのに。そんなにすぐやりたかったんですか?」

 今すぐ始めることに大きな意味があるのかとの問いに、朦朧としているノーランは頷いて説明した。

「ふと考えたことが重要だってことあるだろ?学校対抗戦のことを考えてたんだ…あれは動きながら魔法を使う。どうしてうちの成績が芳しくないのかというと、動きながら魔法を使う特訓をしてなかったからだ…」

「対抗戦ってどんな感じなんですか?」

 ルシャたちはより詳細な説明を求めた。ノーランがふらふらしているのでまずはベンチに座らせると、彼の代わりに後から来たルーシーが答えた。

「5人のメンバーと3人の控えで1チーム。制限時間内に複雑なフィールドに飛び回るキャピシュを倒したり、的に魔法を当てたり、置かれている宝物を集めたりして点数を競う。うちは毎年出てるんだが、どうにも順位がよろしくない」

「そうなんですか…優秀な人がいるのは他の学校も同じですもんね。それで思い立ったが吉日で夜のうちに作っちゃったわけですか」

 有志と一緒に一生懸命に道具を運んでいる姿を想像すると、労いの精神が強くなってくる。ノーランはルーシーに背負われて保健室へ行き、ルシャたちは教室へ行った。今日の特訓はなしになりそうだ。


 魔法実技を行うクラスはアクションマジックをやることになるため、1時間目に経験する人の様子を見ようと先生までもが窓に貼り付いた。

「うーん、こうして見るとよく一夜で建てたなぁ」

「どれだけ有志がいたんだって話だよ。ノーラン先生ってそんなコネ持ってるんだね」

「謎多き人だからな…」

 生徒たちは対抗戦を想定した特訓をする。チームを組んで本物のルールに則ったやり方で行われるのが初めてで困惑している様子が伝わってくる。ブロックを登るのにも一苦労だし、不安定な足場でキャピシュを捉えるのも難しい。ここで生徒たちは他の学校へ意識を向け始めた。自信が井の中の蛙のものだと思い込むと、この特訓を楽に思えるように励もうという気が起きてきて、動きが激しくなってきた。

「大会辞退して正解だわ。あんなに動けないよ」

「あんたは魔法でどうにかできるでしょ。宝集めなんてもはや独り占めできるレベルじゃん」

「杖の持ち込みは禁止でしょ…」

 もし出るのなら体力をもっと強化しておきたいところだ。ここで先生が教室に戻るよう促したので、観戦を終えて眠い座学を始めた。頭の良さも重要だが、国は生徒に魔法だけを期待しているように思える。それだけ魔法が重要な役割を担っていると納得することもできるが、納得したくはないのだった。


 4時間目は体育だ。今日の内容はサッカーで、ルシャとミーナはやはり落ち込んでいた。同じ側にいると思われるロディに同情を求めると、彼は意外な反応をした。

「実は僕、小学生の時にサッカー部だったんだ。だから嫌いじゃない」

「マジかよ…お前はこっちサイドだろうよぉ」

「得意ではないよ。リオンのほうが上手いんじゃないかな」

「そんなこと言ってスーパープレーするつもりだろ?お前は隠れた能力者だと思ってる」

 リオンがロディの肩を揺すって彼をからかった。ウォーミングアップが始まると、ルシャとミーナは近い距離でのぎこちないパス交換を始めた。

「このくらいが精一杯だよ…ってかどこで蹴ればいいの?爪先はダメだって誰かが言ってた気がするけど」

「正確なコースに蹴りたいならここだね。インサイドってとこ」

「おお、まっすぐ行くけどなんか違和感あるなぁ。身体ごと傾いちゃう」

「スポーツは慣れだよ」

 ロディの教えに従っているうちに慣れてきたので、距離を遠くしてパスを蹴ってみた。明らかに途中で奪われそうな球速だが、コースは正しい。

「リオーン!ボレーしようぜー!」

 元気なサッカー部の男子が誘ったのでリオンは駆けて浮き球に右足の甲を合わせた。見事なボレーシュートがゴールの隅に突き刺さる。

「天才か」

「プロ目指せるね。人にできることとは思えない…私たちはちゃんとパスできるようになろうね~」

 ルシャとミーナはひたすらパスの練習をした。チームを組んで試合をすると、いきなりルシャへパスが飛んできた。

「速っ」

 トラップにも技術が必要で、足を振ってしまうとボールを弾いてしまうため置く感じでボールの勢いを殺す必要があるのだが、ルシャは振ってしまったためあらぬ方向へ転がってしまった。

「あああ」

 相手に突破を許すもキャプテンが奪い返してくれたので失点を免れた。ルシャは戦術を全く理解していないため、攻撃の時にどうすればよいのかわからない。するとサッカー部の子が教えてくれた。

「空いてるところに軽く走ればいいよ。分からなくなったら味方のまねっこすればいいし、ミスってもなんとかなる」

「うん!」

 極めて優しい教えに感動したルシャはディフェンスラインを揃えて相手のオフサイドを誘った。

「オッケーオッケー。ちゃんと攻められてるよ」

 ルシャのチームはサッカー部が2人いてたくさん動いてくれるのでルシャがサボっていても負けない。華麗なパス回しから2人で得点すると、後ろのほうで見ていたルシャは拍手を贈った。

「すごーい!」

「お前のパスからだぞ?」

「あ、そうなの?」

 試合が終わってもどのプレーにどんな意味があったのか全く分からないが、勝てたので嬉しい。水分補給をしながら次の試合を観戦していると、虐殺が起こっていた。真の力を露わにしたロディとリオンのコンビが容易くディフェンスを躱して次々にゴールを決めている。

「ロディの動きが超人みたいなんだけど」

「小柄なのが活きてるね…ヌルヌルすり抜けていく」

 するとキャプテンが言った。

「あいつ部に誘うわ。中盤やらせたら勝てる」

 12-1で勝利したロディが戻ってきたのでさっきより激しく肩を揺すってやる。

「お前めっちゃ強いじゃないかよぉ!」

「あはは…昔のこと思い出しちゃった」

「なんでサッカー部じゃないんだ…」

「弟と妹の面倒見なきゃいけないから部活には入れないんだ」

「あ、そういうことなんだ…」

 ロディを部活に誘うことができなかったのは残念だが、彼が素晴らしいプレーヤーだというのが分かったのはよかった。ミーナのチームは惨敗したが、ミーナはトーキックで1点を決めているので仲間から褒めちぎられていた。




 放課後、ルシャは復活したノーランに質問をした。

「先生って苦手なことあるんですか?」

「水泳」

 シンプルな答えが返ってきたのでルシャは呆けてしまった。

「先生泳げないんですか?」

「ああ。昔から苦手でな…頑張って泳いでるのに沈んでしまうんだ。やはり人間は地上に限る」

「ところで先生は復活したんですか?」

「軽い運動ができるくらいには…どうする?走りたいなら付き合うが」

「結構です!」

 運動の苦手なルシャは反射的に答えてしまった。そのせいで活動がなしになり、ルシャは部活に行くミーナとリオンを見送って帰ることになった。特訓して身体を鍛えねばならないと思う一方で苦痛を避けようとする気持ちが表に出てくるため、ルシャはなかなかに悩むのだった。もしかしたら彼女は特訓をするより先にこの怠惰を滅ぼさねばならないのかもしれない。




 とは言え家の彼女は手芸に集中する素晴らしい職人で、誰もが及ばないほどの熱意を作品に込めているから、全体的に努力が足りないとか怠け者だという批判は的外れである。目標に据えた200個にはあと10個ほどで到達する。7月上旬に開かれるフリーマーケットに出品するのはヘアピン、ヘアゴム、栞、ブックカバーなど多様だ。計画を立てずにその時にやりたいことをやった結果こうなった。緻密な販売方針に則っているわけではないし、個人事業だから全く問題ない。


 母は今日も仕事に出ている。夕方に帰ってくるらしいが、疲れているので夕飯は彼女が用意することになりそうだ。先日のように心の籠もったものでないが手抜きというわけではない4品を完成させて待っていると、母は予定通りに帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま。今日は早かったの」

「うん。先生が魔法実技のための設備を作ったせいで疲れてたから休みにした」

「ふーん…先生は大変なのねぇ」

 ルシャは母の仕事について多くを知らないためどの程度大変なのかわからない。ただし先生の仕事が大変だというのは知っているから頷いた。

「動きながら魔法を使っていかないと対抗戦で勝てないらしいんだよ。全員が出るわけじゃないんだけど、学校の方針としてそうすることにしたんだって」

「対抗戦ねぇ…あんたは出るの?」

「辞退した。けど目前になって出ろって言われるかもしれない。でもさぁ、動きながらの部分が苦手なんだから選外になると思うんだよね。出るのは3年がメインって言うし」

 母は娘の躍進を願っているから活躍の機会があれば参加すればいいという意見を伝えたが、ルシャは対抗戦は総合的に能力の高い人こそ出るべきでバランスの悪い自分には相応しくないと主張した。

「運動は私の遺伝ね…ごめんねぇ」

「まあいいよ。何でもできる人なんていないもん。他人のことをすごいって思えるのは私が完璧じゃないからだし…そのおかげで友達ができるんじゃない?」

「そうね。あんたはいい友達を持ってるみたいだから、能力が不足していても安心だわ」

「補って余りある魔力を持ってるのがよかったね」

 全くの無能でなかったことが幸いした。ルシャは皿を空にして片付けを始め、ふと思ったことを母に伝えた。

「もし私が対抗戦に出るとしたら、お母さんは見に来る?」

「行くよ。晴れ舞台だもん」

「晴れるか曇るかは分かんないけどね…」

「それでもいいわ。出られるだけですごい人ってことなんでしょ?それなら鼻が高いわ」

「お母さん…」

 ルシャは意外にも涙もろいので母の優しさに触れて目頭を熱くして照れ隠しのために自室に逃げ込んで残りを完成させた。これでフリ―マーケットの開催まで何も作らず過ごせるが、彼女はそうするつもりはない。いつの間にか寝てしまっていたようで、風呂上がりの母が呼びに来た。

「あぁ、ごめん…」

「疲れてるの?」

「いや、集中しすぎたんだと思う。ノルマ達成したから明日からは早めに寝るよ」




 今日の授業には魔法実技がある。ルシャはつい最近になって注目するようになった移動系の魔法の精度を高めるという目標を据えて望んだ。

「まあ、好きにやってみてくれ…」

 チーム編成まで投げられたのでルシャはミーナ、リオン、ロディ、ラークの4人を選んだ。

「ルシャだけで最強なんだけどさ…」

「実際は控えを含めて8人でしょ?それで基準が作られてるから、私1人じゃきついよ」

「どうだか」

 彼女らより意気の強いルートのチームは1780点を記録した。公式大会の歴代最高記録が3425点なので半分程度だ。トップクラスのレベルの高さがハッキリした。

「チッ…」

 ルートは1780点のうち1000点以上を稼いでいるため、4人の不出来に苛立っている様子でベンチに腰掛けた。その様子をまた嘲ったルシャはその顔を保ったまま開始位置に立ち、ノーランの合図とともに動き出した。

 個人戦ではないため、味方の動きをしっかりと見ておくことが重要になる。ルシャは上空まで舞い上がって特大魔法を撃つことでキャピシュを全滅させて一挙に1000点を稼ぐことができるのだが、間違いなく味方を巻き込んでしまう。

「ルシャとミーナが有利だね!移動力がモノを言うこの競技で飛べるのはでかい」

「ああ、だが飛んでるが故に見えないところがある。そこを俺らが見るんだ。奴らは鷹、俺らは虫だ」

「虫は嫌だから猫とかにしない?」

 確かにルシャとミーナは細かな部分にまで目を届けることができないため、隙間や陰に隠されている宝物による点数を稼ぎにくい。宝物の配点は高いため、地上部隊がしっかり拾っておきたい。

「最後にキャピシュ分を足すってことでいいー?」

 ルシャが舞い降りて声をあげる。各々の場所から返事を飛ばすと、ルシャはキャピシュが配置最大数になるまで地上で奮闘した。止まっていてもよいので彼女は止まって的を撃つを繰り返して点を足した。

「1500…あと1分。キャピシュは30秒前で100体になる…」

 ノーランが魔法の準備をしながら呟いた。その隣でルートが悔しそうに声を絞り出す。

「1000点が入るというわけだ…!」

 彼は敗北を見る度に心の闇へと身をやつしてゆく。より強い力を求めて…先程のゲームでも彼だけは黒いオーラを放っていて明らかに他とは違っていた。隠す気のない暗闇に、ノーランは敢えて何もコメントしなかった。

 ルシャのチームは2630点を獲得してクラス1位になった。1310点稼いだルシャの活躍が大きかった。

「待て、あいつの杖…」

「ノーラン先生が脇に挟んでるよな?ってことはあいつ杖抜きであの点数稼いだってか!こりゃすげぇや!」

 取り巻きたちがルシャの周りで踊り始めたので彼女は困惑してその場に座り込んだ。謎の儀式が30秒ほど続くと、男たちの隙間からドリンクのボトルが差し出された。

「やっぱり出た方がいいんじゃない?」

「知らない人と一緒に出ても連携取れなくてダメだよ。気楽にやれる人とがいい」

「そっかー…杖抜きでそれだけやれるなら出ても良いと思うんだけどなぁ」

 ルシャが期待を受けて困っていたのでノーランが収拾をつけた。彼は杖を持ち主に返してルシャだけに聞こえるようにボソッと呟いた。

「これにしろウルシュにしろ、教頭が見たがってる。悪いが1人でやってもらうことがこの先あると思うから覚悟してくれ」

「いいですけど…出場へのアピールになっちゃわないかだけ心配ですので、そこらへんはうまくやってくれると助かります」

「ああ、お前の意思を尊重する」

 これでルシャは大会に出なくて済む。ここで特訓をしていても出る気があると勘違いされないため、存分に練習しようと思ってそのこともノーランに相談した。

「やはりお前といると飽きないな…よかろう、もともとこの会場は俺の提案で学校が建てたもので、管理者は俺になっている。つまり俺さえ許せば好きに使えるわけだ。よかったな」

「いろいろやりますね、先生」

「ああ。なんなら個人的にお前に都合のよい環境を作ってもいい。もっと複雑にするか?暑い日でも練習できるように屋内にするか?全部国の金だ」

 悪い大人だなぁ、とルシャは笑った。ニタニタしていたノーランは職員室へ行こうとして途中で立ち止まった。

「そういえば、次の金曜は授業参観だ。よかったな、魔法実技あるぞ」

「えー!?」

 ついに母に自分のヤバさを知られる。ルシャはルートの前でドヤって家族ぐるみの対立にならないか心配した。

ノーランがすごいものを作る回でした。彼の権限はどうなっているんだ。

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