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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・2年生編
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108・どうせ濡れるなら

 夏は雨が降るし台風が来るし大変な季節だ。朝には晴れていたので今日も爽やかな日になるのだろうと思っていたら放課後になって突然豪雨になったのでダテトリオにアイを加えたダテフォーは雨を弾きながら帰ろうとした。

「けどさぁ、これびしょ濡れになって『キャー!』って言いながら家に駆け込んで透けたブラなんかがちょっとエッチなやつだよね」

「それはどこで聞いたの?」

「まあでも意図せず濡れてエッチになっちゃうのは興奮するね…やってみる?」

「いや下にキャミ着てるし…濡れると言われて思い出したけどプール入りたいわ」

 運動好きが夏と言えばプールだろうと言うと変態が水着見たさに同意したので明日キルシュ邸の温水プールを久々に起動させることにした。久々なので成長期の3人は去年と同じ水着を着られるか不安だ。


 というわけでこの後水着を買いに行くことになった。幸いにも4人とも夜まで暇だし金がある。一旦自宅に戻って私服に着替えてから商店街の西門に集合するのに一切問題ない。

「みんな短くしてきたね」

 冬の流行がニットなら夏の流行はショートパンツだが、今日はそれぞれ異なるボトムで来た。ミーナは子供サイズのハーフパンツでフロントのポケット付近に刺繍が施されている。

「あらかわいい」

「これねぇ、高いやつなの」

「ほえぇ…どこで買ったの」

「王都」

「すごい細かい刺繍だねぇ…あと、良い感じの流線だねぇ…」

「尻から脚へかけての線を見てるな?」

 ミーナのいい具合の尻から太腿の輪郭を見ればハーフパンツの刺繍がどうでもよくなるようだ。一方でルシャは慣れ親しんだショートパンツに変化をつけてキュロットスカートと薄めの生地のオーバーニーソックスを穿いている。なるほど、短めのスカートを穿けば人の目は胸に集まらず下へも向かうのだと分かった。リオンはというと、カーキのショートパンツの裾を折り返してボタンで留め、靴下はスポーティーなショート丈、靴はお馴染みの運動靴ではなく綺麗なスニーカーだ。お気に入りに何かしらをプラスしたような格好はいつもの安心感も新鮮味もある。

「さて今年はどんな水着にしてやろうか…」

「私思い切ってビキニにしようかな。面積狭いやつ」

「それ家用?」

「もちろん。余所で着たらなんか言われそうじゃん」

 ミーナ曰く、自分のような体型の人間が”ご立派に”ビキニを着ることには賛否あるらしく、それゆえ笑顔で頷くような人にしか見せたくない。腹を出すことに賛否あると思っているルシャはワンピースタイプを考えたが、隠れているほうがむしろエッチな感じになるのでセパレートにしておく。

「ってか布が引っ張られて不自然な感じになるか、強調されるかのどっちかなんだなぁ」

「じゃあそれをうちで着ればいいよ。いかなる装いだろうとルシャたそである限り我々には甘美な報酬…報酬?ってのはヘンだな。まあいいや」

 甘美な報酬はさておきモデルに筋肉を足したような体型のリオンはどちらを着ても問題ないが、それ故に迷う。

「じゃあどっちも買えばいいわな」

「ほう?」

 スポーティーなリオンとセクシーなリオンのどちらも見たい変態が金を出すそうなのでリオンは既に所有しているものとは異なる色やデザインの水着を探す。

「じゃあリオンさん、あんたにはこれがいいよ」

「めっちゃフリフリだな!」

 無駄を省いた機能的なフォルムを好むリオンに敢えてフリルを勧めるのはフリルが水着につけるものとして決して無駄ではないと教えるためだ。

「誰もが可愛いを追求する権利を持つんだ。ってかお前の可愛いところ見たい」

 リオンが可愛さに振り切った装いをすると非常に萌えることはルヴァンジュダンジョンで判明している。では水着もそうしてやろうじゃないか。

「アイ、迷ってる?」

「何を着ればいいの?」

「好きなものを…うーん、アイはこういうのがいいかな。着脱しやすいの…」

 後ろで結ぶのが苦手なアイには被って穿くだけで完了する子供向けのフリルのついているものを勧めた。スカートが好きと言っていたのでスカートっぽくしてみたが、もっとセクシーなのがいいかと尋ねたところセクシーがよく分からないというのでセクシーなのはミーナに選ばせた。その結果アイはマイクロビキニを着せられて困惑した。


 試着室は人が人を最も感動させる場所だと思う…というのがミーナの名言だ。何故ならプールでも海でもないのに人が水着を着ているからだ。普段着に水着を選ぶ人のいないジュタでは貴重だ。

「すっげぇ」

 ルシャは水色の子供っぽいワンピースを選んだが、これは大人向けである。ミーナにとっては残念なことにルシャは子供向けだと胸がきつくて入らないのだ。

「でも大人向けの可愛いのもあってよかったね」

「大人だって可愛くしたいんだよ」

「そうだね。うちの周りの大人にはかわいくあってほしいね。かわいいけど」

 大人の美しさと子供の頃から続く可愛さとを兼ね具える知り合いが多い。その人たちも誘えばよかった。

「勇者の孫とかね」

「ねー。波長が合うよね。あのユルい感じはルリーさんでだいぶ馴染んでるからねぇ」

「あの2人セットにしたらユルすぎてペースト状になりそうだね」

「ならんわ…でも呼べるなら呼びたいね。プリムラ先生の水着とかマジで見たいし」

「となるとルーシー先生もだな。黒ビキニとか着そう」

「うわ、憧れるやつじゃん」

 可愛いから逸れてきたが問題ないので水着選びは継続している。ルシャは去年より大きなサイズのビキニとワンピースタイプのを、リオンも2種類の水着を、そしてミーナもセパレートタイプのビキニを買った。

「意外といけるなぁ」

「だろ?でもこれ引っかかりが弱くてちゃんと後ろ縛ってないとズレるんだよ」

「ポロンする?」

「ポロンって感じじゃないね…スッ、って感じだね…」

 寂しくなってきたのでルシャがミーナの頭を撫でて解決した。外が土砂降りなのを全く意に介さず服選びに夢中になった4人はまた雨を弾きながら帰宅した。


 家に帰ってきたルシャは夕飯を作り始めた。アイはどうやらルシャの買った水着が気になるようで、紙袋を漁ってルシャのワンピース水着を身体の前に当ててみた。

「おおきい…」

「ん、私の着てみる?」

「おおきくて入らないと思う」

「まあ、そうだろうね。着てもいいよ」

「着てみる…」

 アイが後ろで脱いだのが少し気になって度々振り向いてしまう。焦げたら嫌なので強火でサッと炒めて完成させてからじっくり見た。やはり胸のところが余るし、全体的にぶかぶかだ。

「私はルシャみたいになれるかな」

「私になりたいの?もっと背が高くなりたいって思ったほうがいいと思うよ?」

「だってルシャはお姉ちゃんだから私はお姉ちゃんになりたいと思う」

 アイは標となっているルシャに似ればルシャのように生きてゆけると思っているようだ。詳しいことをまだ語れないが、行動で示すことはできる。ルシャがそれを汲めるかどうかは定かでない。




 翌日、ぴったりの水着に身を包んだ4人がプールに集った。

「さあ、久々に泳ぐぞぉ」

「アイって泳げるの?」

「泳いだことない…」

 というわけでルシャはリオンにコーチを任せてミーナと海底探索を始めた。底に沈められた宝を探すというもので、泳げなくても潜れるならある程度は集められる。

「浮くなぁ」

「潜るのがしんどいっていうのはまあ、アレだ」

 ミーナは続きを思いつかなかったので曖昧なまま切って潜った。ルシャは脂肪が多くて細長くないので浮きやすい。

「背中のそれは濡れても大丈夫みたいだね」

「だね。パラディムシュヴァルヴェが濡れても大丈夫だからかな」

 パラディムシュヴァルヴェが雨で無力化や破壊されたなら拍子抜けだ。アイの背中の欠片は水中でも光を反射して美しく輝いている。

「潜れるねぇ」

「うん。息を止めればいいだけ」

 それが難しい人のいる中でアイは全く問題なく潜水できている。ならば動きを教えて泳がせるだけだ。リオンが手本を示すとアイは真似をしてぎこちなく泳いでみた。

「将来性はあるけど動きがヘンだね…まず脚からいこうか」

 丁寧に1つずつ教わったアイはすぐに泳げるようになったがルシャと同じようにバテるのが早くてすぐにベンチにあがってしまった。

「ふー…」

「しかし気持ちいいねぇ。温水だから寒くならないし」

 夏真っ盛りでないならこの温度が最も快適だ。いつまでも泳いでいられそうなのでリオンはコースを作った。

「プールの授業がなくてよかった。ここで凄まじい特訓をするところだったよ」

「間違いない。陸上はなんとかなっても水はどうにもならんぞ」

「んなことないよ。ミーナは泳げるじゃん」

「ミーナは泳げるニャン」

 泳げるニャンだが長くは泳げない…泳げニャいので授業になるとあまりよい点をとれない。リオンだけが授業にないのを残念がっている。

「私も休憩…お前、よぉそんな長く泳いでられるな」

「前世は魚だったのかね」

「面影ないけどね」

「普通はねぇよ」

 魚の顔をしていると言うのは一般的に悪口である。リオンは魚顔ではないが魚のように素早く泳ぐ。結局三十分ほど泳いで漸く疲れた。

「いやぁ楽しかった。みんなの水着も見られたし幸せだわ」

「そうだね。ルシャたそは相変わらずぷるんぷるん」

「もはや揺らさずにってなると鉄の鎧みたいになるよ?」

「そうだね…悩ましいね」

 悩ましいのはお前の思考だよとツッコミを入れたくなったが胸のことを禁じると無口になりそうなので好きにさせる。

「アイ、楽しかった?」

「うん。でもつかれた」

 もっと暑くなればより楽しめるのかもしれない。あるいは夏には水着になってプールに入るということを多くの人が楽しむ習慣として認められるようになれば積極的になれるかもしれない。欠片が増えればもっと多くのことを感じられるようになるだろうか。

「アイ、こんどはマイクロビキニで来てよね」

「え…?」

「見たいから」

 他の子より明らかに露出の激しいマイクロビキニを着るのはアイでも恥ずかしいそうだ。今のままだと着てくれそうにないのでミーナにはアイにマイクロビキニの魅力を伝える必要がある。

「よっしゃ、プレゼンは得意だぞ」

「ビジネスみたいに言うなぁ」

「ビジネスより大事だよ」

「ビジネスをもっと大事にしろぉ!」

 アイがより豊かな感情を持つようになれば1発で嫌われるような発言だと思ったルシャはミーナの線引きが疎かになっていることを密かに危惧した。かといって自分が標的になる気はしないので、ミーナの中で解決できないか考えてみた。




 後日、ルシャに個人的に呼び出されたミーナが興奮気味についていくと、ルシャはあの伝説のショップにミーナを案内した。

「うお、なんだここは」

「知る人ぞ知る名店よ…ここならお前の普段の欲求不満を見事に解消してくれるものがあるはずだ」

 自分でばかり解消するのは不健全だとしたルシャはミーナが自己解決することを期して思い切りよく秘密を明かしたのだった。ルシャがこのような店に出入りすることを初めて知ったミーナは驚いたり馬鹿にしたりするのではなく安心した様子を見せた。

「私だけじゃなかったと思うとなんかホッとしたよ」

「そりゃ誰もが少なからずそういうのを抱きながら生きてると思うよ」

「しかしマニアックだね…子供が来ていいところなのかい?」

「いかがわしい雰囲気の内装だけど、子供も来ていいんだよ。人に見せられないようなラインナップは僕に言ってもらえば裏から出す感じだから、子供の目に触れることは少ない」

 店主は気の良い人で、たまにしか来ない女性客には特に優しい。それは女性の集客を増やす戦略でもある。ミーナをここに連れてきた具体的な理由は、いつも行くような一般的で常識的な下着ショップや水着ショップでは扱っていないサイズのものを買うためだ。

「うちは胸の大きな人や背の高い人が子供っぽいものを着たいとか、逆に小さな人が思いきり大人びた服を着たいという要求に応えるものを用意しているんだ。女性スタッフの市場調査によると、子供向けのブラジャーは可愛らしいものばかりで、セクシーなものが少ないらしい。だからうちは子供向けのセクシーなブラジャーを扱うのさ。見ていくかい?」 この取り組みに感激したミーナは子供服売り場でセクシーなブラを探した。なかなか見つからなかったセクシーな子供サイズのがたくさんあるのでミーナは思わず財布を出した。

「これ全部買おうかな…」

「気に入ってもらえたかい?」

「はい!こういうの欲しかったんだよなぁ…!試着していいっすか!?」

 ミーナが嬉しそうなのでルシャも嬉しくなった。この店はルシャが来てから可愛いデザインの大きなサイズを作ってくれるメーカーと契約したようで、いくつかルシャに合うものを扱うようになっていた。そこでルシャは垂涎していくつか選んで試着した。

「ここで扱ってくれるならオーダーメイドする必要ないし、選択肢が増えますよ」

 試着室の中から店主に話しかけるくらい嬉しかったようだ。鏡で確かめてから候補にしたすべてを買うことを決めると、ミーナもすべて買うと言って財布から札束を取り出した。「お嬢ちゃんお金持ってるねぇ」

「この人ビッググループのご令嬢なので…」

 勲章持ちと上級が来たのでこの店の戦略は正解だった。店主は大喜びで下着を売って万札を得た。

「あとこの人に会いそうなビキニがあればください」

「ほー、あるっちゃあるよ。ただねぇ、真面目に着ないほうがいいよ。海とか区民プールとかで着たらつまみ出されるようなものばかりだからね…」

 それは子供厳禁なのではないかと思ったが店主はファッションの1種と理由をつけて出すことを合法にした。

「うわ、透けてるじゃん…」

 透けビキニを目にしたミーナはこれを子供向けで作ったことが驚きだと言った。

「ああいや、これは小柄な大人の人向けだよ。さすがに子供向けって公表して売ると怒られるからね」

「そっか…しかし上も下も透けるのはなぁ」

「それが興奮するっていうのは?」

「まあ、ありそうだけど…これ部屋で着てるの家族に見られたらもう顔を合わせられないよ」

「じゃあうちで着ろ」

「!」

 最高の発想だとルシャを褒めたミーナはこの禁断に手を伸ばした。自分で解決するというのは自宅でのみ変態行為をするということではなく効果範囲が自分のみということなので、ルシャの家でも構わない。

「他にないっすか!?そういうの」

「お嬢ちゃん興味津々だねぇ…」

 他にもやたら生地が薄いビキニや大事なところにスリットの入っているビキニ、スリングショットビキニなどを扱っていたのですべて試着した後気に入って購入した。

「買っちゃった…」

「それでいいんだよミーナ。私はお前が自分で満足する手段を得るならいくらでも手伝うんだよ」

「ルシャたそぉ…これ、お前に着せてもいい?」

「解決してねぇ!」

 解決しなかったのでこれからもこの変態に付き合ってやらないといけないようだ。しかしこの変態ビキニは頻繁に着るからという理由でルシャ宅に置かれた。アイが興味のままに着ようとするのを止めるのに苦労したとか。

そろそろ夏なので水着回です。夏になったらまたやろうと思います。

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