無限大の可能性
しばらくして、頼んだものが来た。
頼んだのは、紅茶とケーキのセットだ。ここのケーキは、酒場なのに何故か美味いとまさに知る人ぞ知る名ケーキだ。
これは、2番目にいたパーティー、ブラックサンダースのリーダー、剣士のベストジョブケニーさんから教えてもらったものだ。ケニーさんは、大の甘党好きで他にも色々と教えてくれた。
そうだ!今度、ルカに奢るのは、あそこにしよう。そう密かに考えた。
「うわ、このケーキ美味しいです。上に乗っているいちごがいいアクセントになってます。ここ本当は酒場じゃなくてケーキ屋やった方がいいんじゃないんですか?」
ルカは、そう言って美味しそうにケーキを食べる。
「うん。確かに、そうだね。ところで…」
「何でルカさんはパーティーを追放されたんだ?」
昨日から気になっていたことを聞いたた。女子はスイーツに弱いと聞く。だから今が聞くチャンスだと踏んだ。
「はい…それなんですが、私実は、回復士はジョブでして、魔導士がベストジョブなんです。」
「なっ、すごいじゃないか、ダブルジョブでしかも二つとも『士』だと!」
ダブルジョブとは、ジョブ、ベストジョブを持つもののこと。それ自体はたくさんいるのだがその両方が『士』なのはとても珍しい。
それに、同じ魔導士と知ってさらに興味が湧いた。
「いや、そうなんですが…私、物心つく頃には両親は死んでいておばあちゃんに育てられたんです。それ自体は、よくあることだと思うのですが、私のベストジョブが魔導士だと分かると、おばあちゃんは、大量の色んな種類の魔石を用意して来て、それからは魔石を効率よく使う訓練とか、魔導士としての訓練をさせられ続けて…結局、回復士の訓練はあんましてなくて、それで、普通の回復士よりも劣ってしまっいるのです。なので昨日の様なお見苦しい姿を…」
えっ?なにそのおばあちゃん。普通魔導士の訓練なんかさせる?訓練させるなら回復士だろ!老後の世話とかに役立つしさー。もちろん冒険者ギルドでも引っ張りだこになるくらいに役立つし。そのバァさん奇天烈すぎだろ。
「はぁ、本当、あのババアなにしてくれてんじゃボケェ、あんたが、『魔導士には無限大の可能性がある〜』『魔導士には無限大の可能性がある〜』とかほざきあがって。結局役立たずって追い出されたじゃない!何が無限大の可能性よ!あー思い出したら無性に腹が立って来た。」
そう言って俺の分のケーキまで食べてしまった。
えー。ちょっと引いたんだけど。ルカさんって毒吐くことあるんだー。
でも、『魔導士には、無限大の可能性がある。』か。いい言葉だ。感動的だ。だが、実際に信じたって意味なんて無いのだろう。
現にルカは、その言葉で苦しんでいる。
だから俺は、その顔を笑顔にしたいと思った。さっきのような太陽のような笑顔をもう一度見たい!そう思った。
「そうだな。魔導士は、所詮金食い虫でしか無い。無限大の可能性なんて存在しない。」
そうだ。魔導士なんかに可能性などない。三回も追放されたこの俺が一番わかってる。
「それをこの年で気づけたんだからいいじゃないか。ルカさんはまだ若いんだ。これから、回復士として訓練すればいいだけの話だ。魔導士なんて金食い虫より、これからの人生の方がよっぽど無限大の可能性が広がっている。だから、だから俺と一緒に無限大の可能性を探さないか?」
昨日断ったのに懲りない男。諦めの悪い男。これで断られたのなら諦める。
それに、なんだよ無限大の可能性を探さないかって。気持ち悪っ。
「あの、あなた、名前は?」
ポカン…
俺もう老化始まったの?無限大の可能性は?
「…アーベルト。アルでいい。ジョブは、ベストジョブの魔導士のみ。以上。」
すげー早口だったけど聞き取れたかな?
「それでは、アルさん。その、まだまだ未熟ですが、よろしく、お願い、しましゅっ。」
かんだ。かわいい。さっきまで毒吐いてたのが嘘みたい。癒される。
あっ、噛んだこと恥ずかしがって顔赤くなってアワアワしてる。あーー、
「結婚したい。あっ。」
思わず心の声が漏れてしまった。やばい、どうしよう、どうしよう、脳よフル活動せよ!
そうだ。鍵、鍵使おう。そうだ今こそいざという時だ。
「ありがとうございますっ。」そう言ってニコッと笑った。
その瞬間全てが報われた気がした。まさに女神である。
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