追放
(アルが冒険者となって6年後)
「金食い虫は出て行け。いつもいつも役にたたねぇんだよ!」
冒険者ギルドでそう、リーダーの剣使いのベストジョブのヤンキから言われた。
たしかに魔導士は、金食い虫だ。そう何回目かになる納得をした。
「ちょっと、そこまでひどく言わなくてもアルのおかげで助かったことは何回かあるじゃない。金食い虫だけど。」と回復使いのベストジョブのビルチが庇ってくれる。
「うるさい!ビルチ!それに片手で数えるくらいしか助けられてねぇなんて役立たずも同然だろ!それにあの時は、こいつがいなくてもなんとかなっただろうが!」
「そうだぞ、ヤンキ確かに金食い虫だが追放するのには賛成だ。それでも、もう少し優しくできないのか?金食い虫だけど」と盾士のベストジョブのナリーヤが言う。
「ああ?!ナリーヤ、お前も賛成なら細かいこと抜かすな」
「ちょっと2人ともやめて、そんな大きな声出したらAランクのあたしらの評判下がんじゃん」
はぁー。もうここにいるのもやめるべきかもしれないな。
「皆。お世話になった。少しでも役に立ったみたいでよかったよ。」
「少しなんかじゃないわ。私たちがAランクになれたのもアルのおかげもあるのよ。最後まで、金食い虫だったけど。」
そう言ってくれるのは嬉しい。…最後以外。
「そうだぞ、その、追い出すような形で悪いが本当に感謝している。これからも頑張ってくれよ。本当に最後まで金食い虫だったけど。」
応援ありがとう!…最後は余計だっつうの。
なんだよ、さっきから金食い虫、金食い虫言いやがって。小声ならいいと思うな。小声の方が余計傷つくだろ。
「いやいや、Aランクになるには、個人個人の強さも必要だろ?俺だけの成果じゃない。それに俺は、確かに金食い虫で少ししか役に立たなかったんだから」
自分で言ってて悲しくなる。この6年間ずっと金食い虫金食い虫言われて耐えてきた。長男じゃないけど耐えてきた。
「じぁあ、みんな元気で!」笑顔でそう言って俺はギルドを小走りに後にした。こいつらに涙だけは見せたくない。
今年になってからもうすでに三回もパーティーを追い出されている。
最初こそは、順調にソロで依頼をこなして、ランクを上げ、パーティーを組めるランクになるまで頑張った。その間なんと4年。
そして、初めてパーティーを組んでもらえた時は嬉しかった、だから頑張った。
しかし、今年の初め、金食い虫だと追い出された。
それから今の前にももう一つ入ったが、しばらく経つと、偉そうにに金食い虫だと言われて追い出される。
そして、これで三回目だ。
みんな金食い虫金食い虫言いやがって。心の中でそう叫ばずにはいられない。
本当なら、声を大にして言いたいがグッと堪える。悔しくて悔しくてたまらない。そしてそれをどうにもできない自分にもイライラする。
はぁー。思わずため息が出る。これは、魔導士のベストジョブを持ってから覚悟していたことだ。魔導士は冒険者界隈では別名、金食い虫と呼ばれている。
それは、冒険者の収入源である魔石を使うからだ。
しかし、俺としても、金食い虫とは呼ばせないほどの働きはしてきたつもりだ。そこら辺のベストジョブの魔導士より優れている自信はある。
それに、魔導を使わない時は、剣で応戦もしている。まあ、やはりベストジョブ持ちと比べると当然役に立たないが。だから、荷物持ちや物資の補給、野営の準備などあらゆる雑用もやったりしてきた。
それなのに…結局…金食い虫と言われて追い出される。
よし、今日は、やけ酒だ。そう思って近くにある酒場に入る。ここの酒はとてもうまい。
辛い時はいつもここで飲んでスッキリしている。
中に入るとそこではギスギスした雰囲気とともに怒号が響いていた。
「この、役立たずの回復士!何度言ったらわかるんだ。あそこの場面は…。今日からお前は追放だ!もう顔も見たくない!さっさと失せろ!」
どうやら、こちらでも追放されているみたいだ。
しかし、ふと疑問に思った。なぜ?回復士ってレアジョブを追放なんてするんだ?と。
なにがあったら回復士なんて追い出せるんだ。逆に興味が湧いてくる。
回復士の方を見ると、俯いて涙を堪えているように見えた。
「はい。」
そう言って回復士の女の子は、僕の方に向かってきた。
急にこっちにくるもんだからドキドキする。
えっ?なんで?
あっ、出口か。俺も父さんを馬鹿にできないかもしれない。父さん元気にしてるかな?
俺は女の子のために道を譲る。
そして、ふと、
すれ違うその顔は、どこかで見たことがあった。それがどこかは思い出せない。しかし、だからだろうか、
「あの、よかったら俺のパーティーに入りませんか?」
このようなふざけたことを言ってしまったのは。しかし、この言葉に後悔はなかった。
まぁ、まだ、パーティーは作ってないけどもしOKなら、これから作ればいい。
「えっ?」
女の子は一瞬惚けたような顔をしてこちらを見た。その顔は、とても整っていた。そして、その流れるような金髪と見事にマッチしていた。
僕を見た彼女は、
「ごめんなさい。」そう冷たい声で言って彼女は酒場を後にした。
盛大に断られた。
酒場には、笑いが起こった。さっきまでのギスギスした雰囲気が嘘みたいだ。追放したやつも上機嫌だ。
しかし、俺はやけ酒の量を倍にしなければならなくなった。鍵を使おうとさえ思ったが、すんでのところで踏みとどまる。
魔石にも限りがあるし、明日からの生活に不安が募る。
お読みいただきありがとうございます。
これから続けられるように頑張ります。