地獄の始まり2
俺は、ゆっくりとその女に近づいていく。おそらく、俺のいった嫌な予感とは、これのことだろう。
スタンピードよりタチが悪い。
「おい!坊主!感情だけで動くな!今残ってるこの3人で力を合わせるんだ!」
「そうだよ!アル!」
シューとドランさんが俺を説得するように叫ぶ。
しかし、俺は激怒しているだけで、まだこれといった行動はしていないし、これからも1人で勝手に行動しようとは思わない。
「魔王の配下だかなんだか知らないが、ルカを苦しめるなら死して償ってもらう!いや、殺す!」
そう強い語気で言う。
これは、俺なりの覚悟だ。たとえ相打ちになったとしても、こいつだけは許さない。
ああ、ごめん。ルカ…
くっそう!俺にもっと力があれば、こんなことにはならなかったのに…
俺がもっと周りを注意していればこんなことには…
俺が魔導士、金食い虫ジョブじゃなくて、別のジョブだったら…
俺が…。俺が…。
俺はどうしようもない自己嫌悪に飲まれてしまいそうになる。
これは、いつもの魔導士としての劣等感と似て非なるもの。
「あら?どうしてそんなに強気なの?あなたにそんなことできるようには見えないけど?」
強気…か。そう見られたならいい。俺はただ強がっているだけだ。
魔石はもうない。疲労回復に使ってしまった。今の俺が持っているのは、今までたゆまずに努力してやってきたこの剣術のみ。
きっと、シューにお願いすれば一瞬で蹴りがつくだろう。
しかし、大切な人を苦しめた奴を俺は俺の手で殺してやりたい。
そう。これは単なる俺のわがままだ。
どうすれば…どうすればいいんだ。
そんな時、お父さんに言われたことを思い出す…
ーーーーーーーーーー
「いいか、アル。よく聞け」
お父さんが真面目な顔をしている。こういう時は、本当に大切な事を伝えたい時にする顔だ。
「うん」
俺は、聞き逃すまいと耳を全集中させる。
「いいか、お前は、1人でなんでもしようと考える癖がある。それは、冒険者にとっては命取りだ。
なぜなら、人1人の力ってのはそこまで強くない。だから、パーティーやアライアンスって制度がある。
お前は魔導士だから、あまり多くの人には巡り会えないかもしれない。でも、冒険者は、皆が皆魔導士嫌いな奴ばかりじゃない。きっといつかアルが頼れる人も出てくるはずだ。
そうなったらだ。もし、困ったこと、助けて欲しいこと、それがあったらその人にしっかりと頼れ。
人を頼ることは悪いことじゃない。むしろ大切なこと…頼れる人がいることは素晴らしいことなんだ。
だからといって、誰彼構わず頼りまくるのは良くない。
頼っていいのは、本当に信頼できる奴だけだ。
まぁ、お父さんなんかは忘れっぽいから常に誰彼構わず頼りっぱなしだがな。ガッハハ。
まぁ、つまり困ったことがあればその頼れる奴に迷わず頼れ!って事だ」
ーーーーーーーーーー
今、俺が一番頼れる人…。それは、シューだ。
はっ!…そうだ!
シューのあの力…いやあの時よりも大きな力がシューに出せるなら奴を殺せるかもしれない!
こんなわがままで自分勝手な考えが通用するかはわからない。でもやってみなきゃわからない事もある。
「シュー!さっき、上級魔物と戦った時のやつのもっともっとすごい版ってできるか?」
「できるよ」
俺は、一縷の望みをかけて言葉を放ったがシューは意外とあっさりと答えを返してきた。
そうか。できるのか。
なら好都合だ。
「ならそれを俺にやってくれ!それと、ドランさん、俺はが戦っている間他の人たちを守ってくれませんか?あの女が他の人に攻撃しないとも限らないので」
おう!こっちは任せとけ!とドランさんからありがたい返事が返ってくる。
すみません。俺のわがままに付き合わせてしまって。そういう意味を込めて軽く会釈する。
「作戦は終わったかしら?」
相変わらずムカつくなー。
それに、作戦っぽい作戦なんか立てれてない。
当たって砕けろの脳筋戦法。だけど、時間が許さない。
3時間…3時間で決着をつけなからばならない。
「ああ。お前こそ、そんな余裕面して大丈夫なのか?」
実際には、顔はよく見えないが絶対そんな顔してるはず!
「余裕?ええ、そうね。あなたの相手なんて蟻を捻り潰すのと同じくらいの余裕のよっちゃんよ」
蟻?なんだそれは?魔王国の生物か?それとよっちゃん?
蟻?というのはわからないがなんか馬鹿にされているのは分かった。
よし!さっさと殺そう!そうしよう!
まぁ、必ず殺せるかはわかんないけど。
今更怖気付いても仕方ない。そう気持ちを切り替える。
それに、もし死んだとしてもシューがやってくれるでしょ?
多分、この俺のわがままも気付いて手伝ってくれてるんだと思う。
「あっそう。なら…倒させてもらうぜ!」
シューと目を合わせる。すると、シューは「わかった」とばかりに相槌を打つ。
俺は、それに対してニヤリとほくそ笑む。
ありがとう。シュー。
「エンハンス フルパワー!エンハンス フルガード!エンチャント バーニングファイア!エンチャント ギガントサンダー!」
うおお。なんだこれ?体中に力がみなぎる。それもさっき以上に!
さらに、体の周りが炎とおそらく雷?が纏っている。
そして、剣にも纏わり付いている。
とても綺麗だ。
そして、やはり俺は痛くも痒くもない。おそらくこれも魔術の一種。
すげ〜!
よし!これなら行ける!イケイケドンドンだ!このまま行くぜ!
「ふんっ!その程度の小細工でこの私に敵うとでも?」
俺は、その女に近づき、彼女の顔を見てふぅ。と安心する。
彼女はまだ余裕の表情だ。
この女は、油断ドラゴンって言葉を知らないな。
油断ドラゴンってのは、初代勇者様が、たとえどんな敵であろうと油断と言うものは、ドラゴンと同じ強さだ。って言葉からつけられたものだ。
上級冒険者でダンジョン内でよく人が死ぬのは、油断ドラゴンがほとんどだという。
まぁ、今じゃドラゴンなんて見かけないけどな。
12魔将、お前の敗因は油断だ。
「ああ!」と俺は、女の言葉に嬉しく思う気持ちを抑え平常を持って返す。
「はぁぁ!」
気合を入れた一閃は惜しくも、しかし予想通りに受け止められてしまう。
すると、ドピュッ。と受け止められたものから毒が出る。
髪の毛からだった。女は自分の髪の毛で俺の剣を防いだのだ。
はっ?こいつの髪の毛硬すぎだろ?これ、結構いい剣だぜ?父さんのお下がりだけど。
そして、髪の毛の毛先は毒針のようになっていて、そこから毒が出ている。
これは、予想してなかったというよりできなかったため、俺は避ける間も無くこの女の毒が降りかかってしまう。
しかし、不思議と毒が効く様子はなかった。
おそらく、シューの使った魔術のフルガードってやつの効果だろう。
今も毛先から毒がピュッ、ピュッと出ているがそれが可愛く見え………ないな。
そして、俺に毒が効かないことに、相手は、まだ気づいていない。
俺はこれ幸いと二閃目を放つ。
「へっ?くっ、はぁぁ!…くっ、なぜ私の毒が効かない?はぁ。はぁ」
しかし、ギリギリのところで受け止められる。
そして、ドピュッと毒が飛び散る。
そして、相手は明らかに疲弊しきっているのがわかる。
息の荒さがそれを物語っている。
この後に及んでブラフとは考えにくい。
この女の体力があまりないようで助かった。こちとら、連戦でもう体力も残ってない。もし、この女が体力モリモリ型だったら俺は死んでいたかもしれない。
運が良くて助かった。
「おうら!」
次の斬撃を喰らわせる。
相手は避ける。が、さっきほどまでの威勢はどこえやら。無言である。
そして、避けるのも精一杯感が出ている。
俺は攻め続けた。縦に切りかかり、横に凪、斜めに袈裟斬りし、下から掬い上げるように切る。
徐々に相手に傷が増えていく。
そして…
「見えた!勝利の道しるべ!ぐうぉぉぉぉ!
超・雷・炎・斬!」
確実に相手を仕留める最後で最高の一閃を放つ。
自分で言っておいてなんだが、超雷炎斬ってなんかかっこよくない?
そして…
「くっ!あああああああああああああああ!」
苦しそうに悲鳴を上げながら彼女は光の粒となって消えてしまった。
すると、俺に纏わりついていた炎や雷もきえ、そして、どっと疲れが一気に迫ってきた。
俺は、思わず膝から崩れ落ちる。
俺は勝った…
俺はルカたちを苦しめた奴に勝利した。
いや…
俺たちが勝利した。
「よっしゃーーーー!」
女がなぜ消えたかなんてどうでもいい。今はただこの満足だけを実感したかった。
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