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黒猫サンマの人間奇譚  作者: 華井夏目
4/4

家出の話じゃ

前回から話が続いております。

良かったらそちらもぜひ読んでいただけると幸いです。

 ワシは猫じゃ。サンマじゃ。


 この前は何の話をしておったかの。


 ・・・そうじゃ、ワシが家出をしたっていう話じゃった。今回はその続きを話すかの。


 そう、(あるじ)に愛想を尽きてな。思い切りで飛び出したは良いものの、ワシは肝心なことを忘れとったんじゃ。


 ・・・そう食料じゃ。


 余りの苛立ちに忘れておったが家出にはその問題があったのじゃ。


 じゃが、まだ慌てる時間じゃない。数日くらいなら食べずとも耐えられるからの。


 それに、なければ調達すれば良いのじゃからな。


 じゃから、家から飛び出して数日たったある日、腹の空いたワシは食料を探したんじゃ。キャットフードでも、ネズミでも・・・何でもいいからの。


 そしたら、何も無いんじゃ!


 キャットフードは元々期待しておらんかったが、ネズミの一匹も、人間どもの食べ残しも、塵一つないんじゃ。


 何故じゃ!


 ネズミが居らんかったのも解せぬが、人間どもの食べ残しくらいあってしかるべきなもんじゃろう。


 ・・・まあ、ともかく。ワシはそのまま数日間、食にありつけんかったんじゃ。


 そん時に主の下へ帰っておけば良かったんじゃが、そん時のワシはまだ意地を張っておっての。あんな家、二度と帰ってやるかと思うておってそんな考えは起きんかったんじゃ。


 そうして何も食えず疲れ果てたワシが途方に暮れているとな、ワシはとある神社に辿り着いたんじゃ。


 人の気配はせんかった。じゃが、とりあえず雨風が凌げる場所にワシは辿り着いたわけじゃ。


 ワシはそのまま縁の下に潜り込んで泥の様に倒れ込んだわ。長い事歩きずくめじゃったからの。それでそのまま眠り込んでしまったんじゃ。


 その夜、眠りから覚めたワシは暇つぶしがてら境内をウロウロしておったんじゃ。ついでに何か食料が無いか探しながらな。


 すると、珍しく一人の人間が鳥居をくぐってきおったんじゃ。


 変な男じゃった。全身黒色の服での、なんか美味しそうな匂いを漂わせながら境内をウロウロし始めたんじゃ。


 思わずワシはその怪しい男を凝視したよな。「何やこいつ」っての。


 そしたら、その男がワシの事を見つけての。ワシの下へ近寄ってくるんじゃ。


 そして、そやつはワシの目の前でしゃがみ込むと徐に懐から食べ物を差し出してきよったんじゃ。


 「お前良い奴か?」・・・なんて最初こそ思うたが、流石に怪しいとワシも思うたわ。


 じゃって、素性も分からぬ人間がいきなりそんな物を差し出してきよるんじゃ。疑わぬ方がどうかしとる。


 じゃから、そんな気色悪い男は捨て置いて、ワシはその場からさっさと立ち去ったわ。


 その後、ワシは近くの雑木林をウロウロとしておったんじゃがな。また疲れて境内に帰ってくるとあの男はいなくなっておった。


 じゃが、あやつがいなくなった代わりになんや鼻をくすぶるいい匂いが境内に充満しておった。


 それが何でなのか不思議に思うて、ワシは境内を散策してみたんじゃ。


 そしたら、さっきまで無かったなんや変な箱からその匂いがしておることが分かったんじゃ。


 見るからに怪しかったが、その時のワシはもう一週間も何も食うておらんかったからの。背に腹は代えられんと思うてその箱の中に入ったんじゃ。


 そしたら、いきなり凄い音がしての。出口が閉じてしまったんじゃ!


 「しくったぁ」と、遅ればせながらも思うたの。「罠じゃったかぁ」ってな。


 じゃが、それよりも腹が空いておったワシは、そこに置いてあった食料を食べての。抵抗するもの無駄じゃと思うてそのまま箱の中で一夜を過ごしたんじゃ。


 翌朝、昨日境内に居った怪しい男がワシの入った箱を回収しに来よった。


 「ああ、よかった。入ってる、入ってる。入ってくれたんか、ありがとな。」


 なんやそんな事を言いながらワシが入った箱を・・・なんや、町によう居るでっかい動く箱に積んでどこかへ連れて行ったんじゃ。


 流石にワシもいよいよ焦りを覚え始めての、体中から冷や汗が垂れてきたんじゃ。「ワシはこれからどうなるんじゃ?」っての。


 もしやワシはこのまま殺されてしまうんじゃないか、って・・・本気でそう思うた。


 そしたら、なんや見覚えのある場所に運ばれてな。僅かに懐かしい臭いを感じ取ったんじゃ。


 ワシは嫌な予感がした。「もしや」とな。


 その予感は見事に的中じゃった。


 「サンマ!お帰り~」


 連れて行かれた場所は主の家じゃった。


 ワシは意図せず主の下へ帰ってきたんじゃ。


 「はあ。」と、思わずそんなため息を漏らすワシを気にもせず、主は箱に入れられたワシを見てなんや安心したような顔をするとワシの名前を呼んで「お帰り~」と呑気に言いよった。


 その様子に少々虫唾が走ったが、突然いなくなったワシを主は心配しておったのじゃろう。


 ・・・とまあ、こう言うわけで、ワシはまた主の家に帰ってきたわけじゃ。誠に不本意ながらの。


 じゃが、まあ。


 なんやかんやあっても、あやつはワシに食料を貢いでくれるからの。


 じゃから・・・まあ、仕方ない。


 もう少しくらいはここに居てやるかの。


書き溜めを消費しました。

なので、投稿はしばらくお休みになります。申し訳ありません。

次回はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。

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