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黒猫サンマの人間奇譚  作者: 華井夏目
3/4

主の話じゃ

 ワシは猫じゃ。名前はサンマと言う。


 今回はあの生意気な(あるじ)の話をするかの。


 ワシがあの誠に生意気な主と出会うてから10年くらいは経ったかの。そこは犬や鳥なんかが見世物になっとった場所でな、ワシもそこに居ったんじゃ。


 そこにあの主が現れてワシを貰って行ったんじゃ。


 今思えば、あの時に全力で抵抗すればよかったの。そうすればこんな事にはならんかったというのに。


 後悔先に立たず、と言うやつかの。本当に悔やんでも悔やみきれぬ。


 と言う訳でな、本当に、誠に心外じゃが、こういう事があってあの主とは切っても切れない関係になった訳じゃ。


 まあ、あやつはワシの飼い主じゃからどうあがいても切れる訳はないんじゃが・・・


 ともかく、ワシと主の関係は10年になるんじゃ。不本意ながらな。


 最初こそは・・・まあ・・・あの檻から出してくれたから?楽しいと思うておった時期も?あったかもしれんかの。


 じゃが、今はただただ鬱陶しいだけじゃ。


 主が居らん部屋の平和っぷりは本当に至福じゃ。ワシはあやつは居らん方がいいと本気で思うとる。


 じゃが、そうするとワシに食料を献上するものが居らんくなるのが悩みどころじゃ。


 いやなに、ワシがその気になればネズミの1匹2匹を捕まえる事ぐらい容易いがの。出来れば楽して食料にありつきたいところじゃろう?


 じゃから、仕方なく主のところに居うてやってるんじゃ。本当に仕方なくの。


 じゃが、この間・・・と言うても先週の話じゃがの。ワシは主の家を脱走してやったんじゃ。そん時のワシは本当に主にムカついたもんじゃから。


 いや、何があったかというとな。あの時、ワシはソファでくつろいでおったんじゃ。うるさい主を横目にな。


 すると主が、徐にワシの方へ近づいてくるとワシの隣に座ったんじゃ。


 それは別にいいんじゃ。隣に座るくらいならの。じゃが、場所が問題だったんじゃ。


 主は、あろう事かワシの大事な尻尾を手で踏みつけにしよったんじゃ!


 ワシは思わず飛び上がったわ!「ん“に”ゃ“あ”あ“あ”あ“‼」ってな。


 そのワシのただならぬ反応に主は驚いてなんや声を上げるんじゃ。「ごめん、サンマ大丈夫?」ってな。


 でもワシはそれどころじゃないんじゃ。急に気色悪い感覚が襲って来たんじゃからな。


 じゃから、ワシは仕返しに主の手を引っかいてやった。思いっ切り爪を立てての。


 それに痛がる主に「ざまぁみろ」と思うたが、それでも気が晴れんかったワシは、主が気を抜いた隙に窓の網の戸を自力で開けて脱走してやった。


 そうしてワシは、軽快な足取りで外に出ると街を悠々と闊歩してやった。


 久々の外の空気は非常に美味く・・・・・・・なかったがの。


 むしろ臭い。鼻をつまみたくなるほどの悪臭じゃ。


 なして、こんなに臭いんじゃ。まるで、山火事の中を歩かされておるみたいじゃった。


 常に何かが燃え続けてる様な鼻を突く焦げ臭さが辺りに充満しておって、とてもじゃないが正気じゃおれん。


 よくもまあ、人間どもはこんな臭い中を平然と歩けるもんじゃ。誠に理解できん。


 じゃが、自由じゃ。何をしてもいいんじゃ。それがたまらなく心地が良かった。


 ワシは思う存分に走った。息が切れるまで、足が痛くなるまで。あんな場所からずっと、もっと遠くへ。


 主が居ない自由で静かな時間を堪能したんじゃ、


 そうして思い切りで飛び出したは良いものの、ワシは肝心なことを忘れとった。


 ・・・話が長くなりそうじゃから、今日はこのくらいにしておくかの。


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