表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫サンマの人間奇譚  作者: 華井夏目
1/4

名前の話じゃ

 ワシは猫じゃ。


 名前は・・・・・無い訳ではない。


 と言うのもワシは飼い猫じゃから人間の(あるじ)がおる。その主がな。日頃、ワシを呼ぶ言葉がある。それがいわゆる「名前」と言う物なんじゃろう。


 ともかく、その名前が「サンマ」と言う。


 変てこりんな名前じゃろう?ワシもどうしてそんな名前になったのか皆目見当もつかん。


 何せワシは猫じゃ、人間の言葉など理解できる訳もない。


 ただ、そう呼ばれるようになった時、珍妙な鳴き声を聞いた事だけはよう憶えておる。確か、こんな声じゃった。


 「ファー!ファー!(甲高い引き笑いの様な声)」


 ・・・珍妙な鳴き声じゃろう?これが一体誰の声じゃったのか未だに分からぬ。じゃが、こんな珍妙な鳴き声じゃ、余程珍妙な生き物だったのじゃろう。


 まあ、それはさておき。ワシの名前はサンマじゃ。普段、主からはそう呼ばれておる。じゃが、これには少し問題があってな。


 と言うのも、ついこの間の事じゃ。あの日は主が外出中でワシは部屋で独り、自分の寝床で昼寝をしておった。


 実に静かで実に穏やかじゃった。昼寝をするには最高の環境じゃったよ。


 じゃと言うのに、そんな時に主が帰ってきおった。そして、偉く上機嫌に言うんじゃ。


 「サンマ♪サンマ♪」


 「はあ、」とまあ、こんな風にワシはため息を吐くわけじゃ。折角の至福の時間じゃったのにうるさい主が邪魔をしおった。


 じゃが、その時のワシは主の相手をするのは面倒じゃと思うて、その声をしばらく無視することにしたんじゃ。行ったところで精々弄ばれるのが関の山じゃと思うての。


 じゃと言うのに、主は懲りずに「サンマ♪サンマ♪サ~ンマ♫サ~ンマ♫」と煩いもんじゃから、心の折れたワシは重い腰を上げて主の下へ向かったんじゃ。


 するとな、主はわざわざ来てやったワシには見向きもせずに、皿に乗せられたなんや体の細い魚を見て「サンマ♪サンマ♪」と言うておったんじゃ。


 ワシの名前は何じゃったかの?・・・そう、サンマじゃ。


 おかしいと思うじゃろ?


 サンマと言うのはワシの名前じゃと言うのに、主は魚に向かって「サンマ」と言うておる。


 流石のワシもこれにはカチンと来ての、主に言うてやったんじゃ。


 「そやつはワシじゃない。ワシはこっちじゃ。」


 っての。


 そしたら、主はワシに向かってなんや憎たらしい笑顔を見せると、ワシの頭を撫でて言うんじゃ。


 「ああ、ごめんごめん。お前の事じゃないんだよ~」


 この時、主が一体何を言うたんかワシには全くもって分からんかったが、主がワシを小馬鹿にしておる事だけはよう分かった。


 何故じゃ?


 ワシは本当に頭にきてそう言うたというのに、主は平気な顔して笑みを浮かべておる。


 不愉快じゃ、誠に不愉快じゃ。


 ワシは真剣な話をしておると言うのに、主は笑っておるのじゃからな。


 まあ、後から知った事じゃが。どうやらあの魚も「サンマ」と言う名前らしいの。


 じゃから、主のあの反応も、まあ・・・分からなくもない。


 じゃが、じゃとしたらじゃとしたらで、何故ワシの名前を魚畜生と同じにしたんじゃ!


 それはそれで腹が立つの!


 ・・・・・まあ、良いわ。


 ともかく、そんな事があったんじゃ。誠に不愉快なことにの。


 ・・・本当に、何で魚と同じ名前にしたのじゃ。


 全く、人間とは真によう分からん生き物じゃのう。


 お(ぬし)もそう思うじゃろう?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ