旅立ちまで 2
四話 旅立まで 2
それから毎日、ピーチャンはミャーちゃんのために食べ物を持ってきてくれました。一度にたくさんは持ってこれないので、何回も何回も飛んで行っては持ってくる、というのを繰り返すしかありません。いつもはそんなに長い時間帰らないということはなかったのですが、ある時、ピーチャンの帰りが遅くなった日がありました。
「ピーチャン、いつもありとうね。でも今日は帰って来るのが遅かったけど、なにかあったの?」
ミャーちゃんが訊くと
「ううん、別になにも無いよ。食べ物を探しながらミャーちゃんのお母さんも探しているんだけど、どうもこの街では分からないみたいなんだ。それで隣の町まで飛んでいってみたんだ。それで今日は少し遅くなっちゃった。ごめんね、心配かけて。」
ピーチャンは、食べ物を探して持ってきてくれるだけでなく、ミャーちゃんのお母さんのことも一緒に探してくれていたのです。そんなことはなにも知らなかったミャーちゃんは、ピーチャンはただ食べ物だけを探して持ってきてくれていると思っていたのです。でもお母さんも一緒に探してくれていたと知ったとき、小さな体で遠くまで飛んでいって、暗くなったら目も見えにくくなるのに、遅くまで探してくれるピーチャンの姿を想像すると、その目に光るものが溢れ、滴となって零れ落ちるのでした。
それからしばらくして、そろそろミャーちゃんも軟らかいものでなくても食べられるようになってきました。そんなある日のこと、ピーチャンがいつもより遅く帰ってきました。そしてミャーちゃんの前にお煎餅の欠片を置くと、勢い込んで言ってきたのです。
「ねぇ、ねぇ、ミャーちゃん、分かったよ。ミャーちゃんのお母さんのこと。やはりこの街じゃないみたいだよ。ミャーちゃんのお母さんらしい黒い猫がこの街で食べ物を探していたらしいんだけど、野良猫だということで、その地区のおばさんが保健所というところに連絡したらしいんだ。そして、その保健所の人というのが野良猫退治ということで、お母さんを追っかけ廻したみたいなんだ。その時、お母さんは怪我をしたみたい。でも優しいおばさんに助けられたようだよ。でもその助けてくれたおばさんは、隣町の人らしくて、隣町で介抱してもらっているようだよ。」
それを聞いたミャーちゃんは大喜び、
「ピーチャン、私会いたい。お母さんに会いたい!
そしてお母さんと一緒に暮らしたい!」
そう言われてもピーチャンは心配でした。
「でもミャーちゃん、それってとっても危険だよ。お母さんだって人間に追いかけられて怪我までしたんだよ?それに、まだ隣町のどこか分からないんだから、僕が探して居どころが分かるまでもう少し待ってて。」
少しでも早くお母さんに会いたいのですが、今のミャーちゃんはピーチャンの言う通り待つしかありません。今すぐにでもお母さんのところに駆け寄って、
『私こんなに大きくなったよ。ピーチャンに助けられてだけど。でもこれからは私がお母さんの分まで食べ物を探してくるから一緒にいて!』
とお母さんに甘えたいのです。それでも今はピーチャンの言う通り、ピーチャンがお母さんの居どころを探し当ててくれるのを待つしかないのです。持ってきてくれたお煎餅をミャーちゃんはペロペロと舐め、軟らかくなるとそれを口に咥えて食べました。そのようすをピーチャンは傍でジッと見ていましたが、やはり少し元気がありません。一時はあんなに元気にはしゃいだようなのに、すぐに会えないもどかしさを思って元気がなくなったようです。
「ミャーちゃん、ごめんね。なるべく早くお母さんの居どころ探すからもうちょっと我慢して。」
一羽だけで飼われていたインコのピーチャンには寂しさが身に沁みるほど分かったのです。ミャーちゃんはお煎餅の欠片を食べ終えてからは体を丸くして踞り、軽く目を開いて遠くを見ているようです。まるで遠くにいるお母さんを見つめてでもいるかのように。
「ミャーちゃん、明日になったら、今日お母さんのことを聞いた猫さんに詳しく聞いてくるから、今日は早めに寝ようか?」
そう言ってインコは羽の中に頭を入れて眠りにつこうとします。その横にいた黒い子猫はソッとインコの傍に行き、風に当たって寒くならないように、体を丸めて小さなインコを守るかのように目を閉じるのでした。
そんな一羽の小さなインコと、一匹の黒い子猫を見守るように、オレンジ色の太陽が地平線に隠れて、暗い夜が訪れてきました。