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「母さん」と彼は尋ねた。「俺たちやり直せるかな?」
それまで、ずっと、彼にまで息子自慢をしていたお婆さんの表情が唐突に変わった。「やり直せない人もいるでしょう。でも、私たちは違うわ」
……私の知っている話にこんなモノがある。――“モヒート第五代の皇帝である二人羽織鐘道は変態であった”から始まる、それはジョークだ。
二人羽織が実際に変態であったかについてはいまもって議論が分かれるところだ。なにしろその変態性を証明するのが彼の恋人、愛人、それに金銭により関係を持った、併せて八六人にもなる女性たち、及び当時の部下による談話しかない。これらの談話は玉石混交もいいところ、ニ秒で嘘八百だとわかるものもあれば、入念に作り込まれた嘘、嘘のような本当、どう考えても本当であるのに嘘である話、そういうものが入り乱れて規則性すら存在しない。或いはその不規則性こそが二人羽織という人の変態性を著しく表すものなのかもしれないが、ま、そこまで深く考えたことは私にはない。
二人羽織は家族から愛されずに育った。結果、歪んだ性格と性癖とを有する狷介な青年に成長した。彼がモヒート皇帝にまで上り詰めたのは出世に対する異常なまでの執念によるものだったようで、その点について、当時を知る者の意見は完全に一致している。
栄達した五代皇帝は外征に興味を示さなかった。劇的な勝利によって自らの名声を高めることよりも安定的な治世と経済発展によるそれを求めた。彼は自らの才能の限界を知っていたのだろうか? それとも敗北した場合の反動を想像すると恐ろしくなったのだろうか? 答えは誰も知らない。彼は親会社からの要求に従った戦争しかせず、それも最低限の規模で遂行されたに留まる。(我がモヒートが強大な工業力を持つのはこの時代の、彼の下地作りによるものが大きいと見る向きもある)
さて、仮想とはいえ国家の君主たるもの寝る暇もないのが世の常ではあるが、モヒート危急存亡の舵取りを任せられるような場面についぞ直面することのなかった二人羽織は連合生徒会館に女性を招くだけの時間的余裕を得ていた。ある生徒の述懐によれば、二人羽織はそれらの女性を自らの執務机の下に潜らせて’なにかしていた’という。どころか、’なにかしながら部下と話をしていたことすらある’と話は続く。またある生徒の手記を参照した場合、二人羽織は庭で、屋上で、そして地下室で、恰幅がいいというか、グラマラスというか、そういう女性の胸に抱きついて『ママ!』と叫びながら腰を振っていたともされる。
これらの証言は二人羽織が現役であった頃には世に出なかった。なにしろ証言をした誰もが二人羽織が処世術として身につけた気前の良さ、その恩恵にどっぷりと腰まで浸かっていたからである。彼らが彼らの恩人をメディアに売り飛ばしたのは二人羽織が大学へ進学して後のことだった。
信頼はせずとも頼りにはしていた部下ども、加えて小銭欲しさに自分の性癖を(あることないこと交えて)暴露する情婦たち、彼彼女らに反駁することすらなく、二人羽織はニニ歳で死去した。ある冬の夜に車に轢かれたのであった。それは事故と自殺、その中間地点にある唐突な死であって、当然、メディアは連日に渡って彼の生前を(ストーリー仕立てで)報道した。すると生前の彼を理解しようともしなかった者たちは列を為した。彼らは口々にこう嘆いた。『可哀想な奴だった。辛いなら言ってくれれば良かったのに。何かしてやれたことがあったはずなのに。悲劇の英雄! おお、悲劇の英雄!』
遺族への批判も相次いだ。
幼少時代の二人羽織を苦しめたギャンブル狂の母親は六度に渡って転居を繰り返したが、ついに追跡を撒くことはできなかった。彼女はニュースでしか二人羽織のことを知らない人々から『あなたって本当に最低のクズだわ!』と言われ続け、いやそれだけならまだしも、年単位で陰湿な嫌がらせを受け続けた。嫌がらせの中には“流石にそこまでしなくてもいいのでは“というものが含まれた。多いに。
二人羽織の恋人の中にも良識に富んだ人はいた。仲間という名前の“かつては男だった女“は数日しか付き合いのなかったという元カレを弔うべくある団体を設立した。それは心、身体、それに人生に悩みを持った人々を救済することを目的としていた。
組織は半年で解散した。その行動が売名目的、利益のため、何よりも下らないことだと断定されたからだった。虐めや性的被害にトラウマを持っている諸氏のために開通された電話、それに殺到したのは全て『お前に何がわかる』という苦情だけだったという。『相談したところで何も変わらない。いや、相談できないからこそこんなことになっとるんだっつーの。相談して気が楽になるのは精神病のフリをしている奴らだけなんだよな!(勝利宣言)』
仲間は間もなく二人羽織の後を追った。二人羽織に対する世間からの熱はもう冷めきっていた。だから仲間に対する人々の評価は『つまらない自己満足野郎』となった。その評価に対する評価、及び仲間のしたことの是非については脇に置いて、ココではそろそろ話のオチを急ごう。
彼の組織した団体のホーム・ページはいまでも残っている。アクセスすることも閲覧することも思いのままだ。で、そのトップ・ページにはこう書かれている。
『人はその気になればわかりあうことができるのです。他人を傷付けたり、自分を傷付けたり、死んでしまうとか、殺してしまうとか、そういうことには何の意味もありません』
ね? 笑えるジョークでしょ。





