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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編2章『七導館々々高校文学部』
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番外編2章61話/学院戦争 - 22(花見盛)

学閥の強さは~ → 本編3章2話/君と僕とその他大勢で繰り広げられる政治という名のドミノ倒し


砲架 → 番外編2章46話/学院戦争 - 7(花見盛)


車軸 → 番外編1章38話/いちばん最初のサトーさん(15)




『学閥の強さは』から始まるサトーの有名な言葉がある。俺達はそれを例の“勝ったかも宣言”の直後に聞いた。


 ところで、学閥とかいう、今ではブラスペ界隈において一般化――特定のゲーム内国家運営を取り仕切る学校集団として一般化――した用語を、彼女はこのとき初めて使った。これこそが学閥という用語の興りであったとする有識者まで居られる。有識者て。まあそれはいい。少なくとも、この時期の我々にとって、まだ学閥という単語が聞き慣れないものであったことは事実だ。俺とても学閥という彼女の発音に、一瞬、どういう字を当てるのか悩んだ。(しかも最終的にはスマホの変換機能を頼った)


 なして、サトーはわざわざ“学閥”などと警察官僚か医者しか好まない単語をチョイスしたのか。確かに、サトーの独裁の下で運営される午後の死に比べ、南部連合は学閥の観を呈してはいた。しかし、それにしても他に相応しい二字熟語のあるような気がする。


 俺は結論している。それは要するに彼女一流の皮肉だったのではないか。南部などというありもしない幻想に拘る敵軍に対しての。そして自らへの。


『学閥の強さはそれへ参加する学校間の連帯意識に依存する。そして、それは長くとも一年しか持続しない』――――


 ……時間軸を戻そう。先に述べたように、サトーは勝ったかもとか何とか抜かした直後、俺達が『はあ?』と唖然呆然としているのを尻目に、正確には、


「学閥のちゅよさは」――と、盛大に噛んだ。一同はサッと白けた。サトーは、心持ち頬を赤らめながら、何事も無かったかのように机の上に座り直すと言った。


「学閥の強さはそれへ参加する学校間の連帯意識に依存する。そして、それは長くとも一年しか持続しない」


「はあ」俺は今度こそ一同を代表して尋ねた。「お前はいきなり何を言ってるんだ、サトー」


「その“長くとも一年”は数時間前に終わったのよ。次の一年は私達のものになるの」


「すまん。人間の言葉で頼む。サトー語も銀河標準ベーシックも俺は喋れないんだ」


 サトーは『ふんす!』と俄に鼻息を荒くした。なんで分かってくれないのかしらとか何とか小声で愚痴ってから、


「理由について考えていたの。チョット商人の協力、自前で自慢の兵站能力、それで強靭に支えられてる敵軍部隊の足が遅くなって、挙句の果てに現地徴発をしまくる理由についてね。最初は分からなかった。普通に考えれば、いや、それは雪だし慣れない土地だし、遅くはなるかもしれないけど――それから今は猛吹雪だから停止するのは理解出来るけど――、現状、我が軍は集結すらまともに出来てないのよ。シュラーバッハまで突っ込んじゃえば勝ちゲーなの。あそこから先は工業地帯に人口密集地に要衝だらけ。そこを抑えられたら、仮に遠征軍をボコれても、国を立て直せなくなる。降参するしかない。そもそもシュラーバッハから首都は目と鼻の先だし」


「つまり、兵の足が遅くなったとしても、後少しだからと激励して強行軍するはずだって?」


「でしょ。私ならそうする。でも彼らはそうしない。何故か。“シズオカ”って単語で思い出したのよ」


「何か嫌な予感がするが、何だ、何を思い出した?」


「どんなに親しい相手とでも気不味くなるときはある」サトーは目を伏せた。微かに躊躇してから言った。「親友だろうが恋人だろうが口を利かなくなることはあるでしょ」


「……。……。……。仲間割れか。この一大事に。やるかね」


「この一大事だからこそよ。この戦争、あちらは百パーセント勝てると見込んでるだろうから、取らぬ狸の皮算用、“俺が活躍してやるぜ!”って奴らはライバルを蹴落とすことだけ考えてる筈。良い所をライバルより多く世間にアピールしたら、その分、良い大学に行ける高学歴はもちろんだし、それに対抗心や反発心を抱いてる生粋の南部野郎共もね。こう考えて見ると、あの地域、なんて言えばいいのか、プレイヤーの人口というか、その内訳というか、それそのものに火種を抱えているのね」

「南部は上手く行ってるって話だったが――」


「――そう。それは表面上。ウチも色々とあったでしょ。ダババネルでクーデターもどきを起こしたときも。この学院戦争のもともとの発端だって。生粋の南部野郎は北部への対抗意識とか、単純に人手が足りてないとかで、元はと言えば、それは高学歴の加入をありがたいと思ったかもしれない。でも事態がこうなれば話は別よ。第一、高学歴の側では、ハナから南部野郎と仲良くするのをビジネスと割り切っていたでしょうし、対立構造はそれなりに深刻かもしれない。見てないから期待し過ぎるのはあれだけど」


 サトーはあぐらをかいた。やめなさい。スカートの中が見える。俺以外にその純白の――ああ、なんでもない。


「ライバルが率いている部隊に渡る予定だった物資を、徴発する予定だった地域を、横取りしちまえ」


 サトーは机の上に放り出されていたタバコの箱を手にした。「そういう鍔迫り合いで無駄に疲弊して足が遅くなってるんだと思うわ、多分。捜索部隊を敵主力の三個旅団が別々に展開しているのはライバルの同行を見落とさないようにするため、と、まあ、こんなところでしょうね。恐らく、旅団未満の単位でも別々の捜索とか警戒活動をしていると思うわ。これも推察だけど、南部は平等精神が強いから、それが邪魔をしてる側面もあるかも。各部隊が均等に活躍出来るようにしてくれみたいな、無理筋な、でも全うな意見なんかも出てて、あちらの司令部はあちらの司令部で混乱してる可能性が高い。あ、平等精神と言えば、アイツら何でも話し合いで決めようとするから、もしかしたら野村の持ってる権限なんかも限定されてて、現場で起こってることを頭ごなしに叱り付けられない可能性もあるわね」


「それで」俺はライターを取り出しながら尋ねた。「それをどう利用する?」


「信用金庫」タバコを咥えたサトーだが、俺の差し出した火を手で払い、フィルターの部分を噛みながら、


「潰れたって話で閃いたのよ。ねえ、敵軍はチョット商人にも我が国民にも信じられない勢いで現金をばら撒いてて、チョット国内にも我が国内にも、それから南部においても、物資が急速に目減りしてるのよ。それがこのまま進展すればどうなると思う?」


「さあ」俺はライターをカチカチやりながら首を傾げた。「どうなるんだ」


「インフレよ。それも空前の。そうなれば戦争なんてやってる場合じゃなくなるわ。南部は意地とプライドで続けるだろうけど、チョットはどうかしら、南部への加担を止めにするか、それでなくとも加担の度合いを大幅に緩めると思うんだけど」


「チョット商人も馬鹿じゃないだろう。貨幣流通量にも物資量にも気を配って工夫してるんじゃないか?」


「うん」サトーは素直に頷いた。俺の胸が無性にトキメいた。しかし、彼女が子供っぽかったのは一瞬で、間もなく口元を嫌味たらしく歪めると、


「だから我々がその工夫を台無しにしてやるのよ。国内の商人を駆り出して、そうね、我が国を見限ったからオタクに協力するとか芝居をさせて、敵軍に大量の物資を売りつける。我が軍の備蓄物資をね。奴ら、ライバルに物品を渡したくないからって、限界を超えて抱え込むでしょう。それで市場をハチャメチャにする。市場がハチャメチャになれば、儲けが出ないし、南部が負ける可能性も出てくるから、チョット商人の加担度合いは絶対に緩む。チョット商人の援助が無くなれば敵軍は大いに弱体化するでしょう。今より更に行軍速度が落ちて、そうなれば、我が軍の集結が間に合う。間に合わなくても勝算はグッと増す。打てる手も増える。新規客を呼び込むって言ってもね、多過ぎてもね、駄目なのよ」


 サトーは藤川が飲んでいた炭酸飲料のペット・ボトルを手にした。藤川が「あ」と間接的な抗議をしたのも構わず、咥え煙草のままグビグビと飲み、


「ぷはー!」湯上がりのオッサンみたいな動きをした。ゲップまでする。


「備蓄物資と言っても」俺はこのサトーには萌えられないなと思いながら話を進めた。萌えって死語か?


「うちの備蓄物資は食料か弾丸だぞ。食料なんて、まあ、そりゃ、あって困るもんでもないが、相手はそれこそ山のように持ってるぞ。弾丸の備蓄はたかが知れてる。一度でも関係を持った後はあれよあれよと物を買ってくれるだろうが、最初が肝心だ。魅力的な商品でないと、ライバルを出し抜くって目的もあることだし、敵軍は飛びつかないかもしれん。罠だって敵も勘付くかも」


「花見盛君、前の大陸会議のとき、宿舎に砲が入ってたのを見た?」


「榴弾砲か。見たよ。それがどうした」


「あれの砲架は二脚だったの」サトーは口元を袖で拭った。「こう、砲を二本の腕木で抱え込むような感じね。ダブルブラケット式って言うんだけど」


「二脚ならなんなんだ」俺はハンカチを差し出した。


「二脚砲架は脆いのよ」サトーは受け取ったハンカチをすんすん嗅ぎながら言った。「それぞれの腕木が細くて砲の発射反動で直ぐに傷む。いや、砲を撃ってなくても、ちょっとした地面の起伏を乗り越えてるウチに徐々に傷んでいくのね。耐久力だけなら単脚砲架の方が圧倒的にいいんだけど、そっちはそっちで仰角を付けるのにかなりの制限があるから、榴弾砲には不向きと」


「なんだ。俺達は砲架を売るのか。車ディーラーの営業許可を得ないとな」


 サトーは、すっかりお得意になったな、俺の真似をして肩を竦めた。「二脚砲架は脆い。すぐにぶっ壊れる。壊れたとき、一番困るパーツって、じゃあなに?」


「検討もつかない」


「車軸よ」サトーはピシャリと言い、


「あ」と、俺を含む一座が異口同音に喘いだ。


「砲車自体が歪んだりすると、それに伴って、車軸の固定なんかもガタが来るの。ガタが来た状態で長く使ってると車軸がバキッと、あるとき、折れる。しかも、荒木さんちゃんが言ってたでしょ、ただでさえこの湿気、ただでさえ冬の寒さ、それから猛吹雪よ。侵食対策は精々が油を塗って塗装する程度。車軸には相当に錆が出始めていると思う。――覚えてるわよね。車軸はウチの、ダババネルの、特産品なの。南部のものより遥かに上質だから、営業次第だけど、敵は飛び付くでしょう」


 室内は静まり返った。サトーはクシャミをふたつ――『くちゅん』『ぶっ』『ぶえくしょん!』――としてから、ツーと垂れてきた鼻を俺のハンカチで拭い、澄まし始めた。俺はゴクリと生唾を飲んだ。勝てるのか、と、夏川先輩が小さな声で尋ねた。


「安心しなさい」サトーは決め台詞を使った。「何も心配要らないわ」



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