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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編2章『七導館々々高校文学部』
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番外編2章59話/学院戦争 - 20(平松)

平松 → 野村の腹心


 上を見ればキリがないことは分かっております。かと言って下を見ても意味がない。どの組織も、その時、その都度、手元にあるリソースをやりくりしながら運営されているものです。一見、円満に運営されているように見えても、その内実は愚痴とも願望ともつかない益体のないものに溢れているはずです。『もう少し時間か人か金があれば』『せめて物があれば』『あいつが今より一・三倍でいいから努力してくれたら』『彼らが従順ならば』――


 私、平松幸太郎は困惑し且つ悩んでおります。その困惑がつい口を突いて漏れました。「まるで断層だ」


「同感です」乙坂という私の副官が小さな動作で頷きました。


 南部連合軍、その主力集団の司令部は、只今は占拠した農村の集会所に置かれていました。雪国の集会場だけあって石で堅牢に造られています。外は俄に吹雪始めていますが、ぶ厚い壁が冷気を遮り、暖炉では薪がバチバチと鳴りながら炙られているので寒さを感じることはありません。むしろ、もうこれ以上は白くはならんだろうと思っている窓の外の景色が、刻一刻と色味を失っていく様相に風情を覚える程です。


 壁にチョット商人から提供された周辺地図が掛けられていました。詳細な、どんな脇道や枝道も逃さず網羅しているその地図のお陰で、我々の破竹と言っていい行軍は支えられているのでした。(自国の地図を他国に提供したがる国はありません。戦争になったら悪用されることが決まりきっているからです。午後の死の地図についても、開戦前、我々が所有していたものは縮尺の超大きなもので、主要幹線道路にすら記載漏れがあるものでした。そして、敵国の地理も知らないまま戦争を遂行するのは困難です。初ホラ、デートとかで、初めて行く町の初めて行く映画館を指定されて、しかも遅刻厳禁だとすれば、地図が必須でしょう?)


 ……その地図には部隊配置が書き込まれています。何事も教範通り計画通りとは参りません。部隊によって使う道路の質、量、降雪状況、兵の脚の速さも違えば指揮官の性格や方針も違いますし、吹雪いたときなどは行軍計画を無視して近くの人口密集地に飛び込まねばならないこともあるため、主力集団約八八〇〇名三個旅団は広範囲に分散してしまっていました。各旅団、連隊、大隊、中隊はすわそのときに備えて相互に支援し合える距離を保つべしと事前通達されていましたが、現状ではどうにも――です。


 まあ、しかし、それは大して問題視されておりません。各部隊は会戦直前に時間を掛けて足並みを揃えればいいと判断されていました。と、申しますのは、現在、敵は決戦場と目されるシュラーバッハへの集結を急いでおりますが、我々の目論見通り、電撃的開戦と兵站の差で、その脚が頗る鈍くなっているためでした。我々が考えられる限り最も遅くシュラーバッハに到着し、敵が考えられる限り素早く集結したとしても、敵は六〇〇〇名前後の兵力を集められるだけだと推測されています。敵には分散した我々を各個撃破していくような時間的物的余裕が無いのです。


 問題視されるべきは意識でした。地図の前には長机が二つの群れを作っていました。そして、その群れ同士の間に私の言ってしまった“断層”が生じているのでした。


 断層、――物理的にも群れと群れは背を向けるように、距離を取って配置されていましたし、精神的にもそうでした。片方の群れから、


『これをやってくれないか』と乞われたとき、


『嫌だね』ともう片方の群れはけんもほろろに断ります。無論、形の上でのことで、本当に“嫌だね”を押し通す訳ではありませんが、日に最低でも三度は群れと群れ同士は鍔迫り合います。これが助け合いの南部か。私は溜息を危ういところで堪えました。乙坂君が微苦笑しました。


「そろそろ会議の時間です」乙坂君は私に気を取り直させるように言いました。


 野村さんは何を考えているのだろう、と、私は訝しみながら頷きました。



次回更新は9/13(日)の昼過ぎとなります。よろしくお願いします。

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