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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編2章『七導館々々高校文学部』
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番外編2章52話(前編)/学院戦争 - 13(花見盛)

長いのでこの話は2話に分割しました。

なら番外編1章のラスト付近も分割するべきなんじゃ。それは言わないお約束。


10時にもういちど更新します。


「負ける確率は高いとは聞いてはいる」


 容喙したのは中村だった。現在は財務大臣と運輸大臣まで兼ねている。これは彼だけではなく能力のある者に課せられる義務のようなものだった。でなければ国が回らない。(ところでブラスペには役職はあっても階級はない。参謀総長を引き合いに出すと、彼女は参謀総長であるが、元帥でも大将でもない。これは親会社から禁止されているためだった。階級など殊更に設けるとゴッコ遊びでは済まなくなるからというのが彼等の言い分である)


「それは世間と体面を憚っての言い回しに過ぎません」


 参謀総長は早口に言った。この女は句読点に親でも殺されたのか。「我々は職分上、“負けるかも”などとあやふやな事を口にして、“なら勝てるかもしれないのか”なんて幻想を抱かれては甚だ困りますゆえ、事実を事実としてありのまま伝える義務があると考えています」


「……。……。……。」中村は腕を組んだ。溜息は言い負かされたから出たものでは決して無かろう。「分かった。揚げ足を取るような言い方をして失礼した」


「いえまあ気にしてませんので」と、参謀総長は言った。コミュ障である。言わなくてもいいことを。


「えー」助け舟を出した男が居た。ウチの副部長だった。苦笑している。彼の現在の配置は第一連隊副連隊長とかである。随分と偉そうな肩書だ。実際、第一連隊は公には近衛連隊と名乗っており、帝都の警備と他の部隊には禁じられている皇居への出入りが自由であるから、彼の立場はそれなりのものではある。しかし、高級官僚と高級軍人から織り成される、この御前会議の場に居並ぶまでかと言われると微妙だった。


 それでも彼が出席している理由はひとつしかない。こういう場合に備えてのことだった。会議の司会進行は皇帝自ら、それでなければ国務大臣にと定められているが、サトーには議長としての才能が無い。負けず嫌いで傲慢でプライドが高く、話し合いというよりも罵り合いが好きだから、いざとなると議長の癖に喧嘩を始める。才能が無いなら自覚を持てよという話だが、これでも我らの皇帝陛下、畏れ多くもそのような進言は致しかねる。言い方を変えるならば、サトーを無駄に怒らせて、へそを曲げさせると、機嫌が直るまでに無駄な時間を費やさねばならない。平時はそれでもいい。今は準戦時の布告がされている。


 国務大臣については、切って捨てるならば、無能だった。午後の死の建国時、その任に充てられた人は先の四月で引退しており、二代目は温和なことだけが取り柄のダルマみたいな男が就任している。山口という彼は、自分の役職が傀儡、サトーが独裁を保つためのスピーカーであることを自覚しているので、こうした場では何もしたがらない。無能を演じているのかもしれなかった。


 なんでもいい。(はじめ)、閣僚会議などで進行役を務める内閣書記長を引っ張り出して来て使っていたが、これも能力的にウーンてな具合だったので、ついには副部長が担ぎ出されることになった。名目上、近衛は最高戦力にして国家の武力と威信そのものでもあるので、連隊長だけではなく副連隊長も御前会議の場に居なければ嘘になる――ということにされている。進行役という大役を預けている理由は“他に適任者が居ないための特例措置”だとされていた。


 嘘になるとか、特例措置だとか、物凄くアレである。しかし、先例を作り、それが暗黙の了解によって制度化されると、近衛が力を持ち過ぎる。これはあくまで色枝副部長に限った処置ですよ、と、明確にしておかないと、俺達は良くても後の世代が困るだろう。ルールの中で生活するのは大変なものだ。


「お話を急ぎましょう」副部長は誰も損をしない言い方を選んだ。「時間を惜しまねばならない状況ではあります」


 場の、それとなく帯電した感じが失せた。続きをと副部長は促した。参謀総長はガクンと頷いた。頷いたんだよな。首の関節が外れたんじゃないよな。勢いが良過ぎる。


「必敗と申しますのもそれなりの根拠があります。一、動員展開力の差。二、戦力の差。三、装備の差。それから、四、兵站の差。簡単にご説明します。動員展開力については、兵を部隊に連れ戻す、部隊を戦場に移動させる、この二点を意味します。彼と我、南部と我々では、総兵力はそう差がありません。彼の最大動員せしむる戦力は一万余りです。我が国においても、根刮ぎ、国家の有事であると宣言して動員すれば、約一万名を動員することが可能ではあります。ただし、それは理論上のことでしかありません」


 参謀総長は机の表面を指で叩きながら続けた。「我が国の基幹兵力は四個旅団八個連隊です。大きく国を東西南北に分けてそれぞれに一個旅団。既存の八県にそれぞれ一個連隊。各旅団管区、旅団の担当地域は二個県に跨っていますから、各旅団は二個連隊を隷下に置いています。しかし、各連隊の人員は常に充足している訳ではありません。定数一〇〇〇名を満たし続けると、賃金もそうですし、食べさせねばなりませんし、訓練費用も嵩みますから、財政が破綻します。通常は定数の四割前後で運用されています」


「ウチは違うがな」近衛連隊長が補足した。夏川部長である。「ウチは首都近辺での面倒事に備えて常に定数を充足している。それから井端のところも」


「そうですね」井端はそれとなく認めた。彼の只今の役職は独立第一三連隊長であった。独立とは、この場合、旅団ではなく皇帝や参謀本部に直属することを意味する。一三個もそんな部隊があるのかと思われるかもしれないが、あのですね、言い辛いんですけれども、彼の部隊しかありません。


 じゃ、一三じゃないじゃないか、――ご尤も。『いいのよ。格好いいから。それに一三は戦記物では縁起が良い数字なのよ』との皇帝陛下の思し召しですので……。


「“キラー・エリート”の仕事は」井端は連隊の通称を口にした。これも皇帝陛下直々の命名であらせられる。


「各地の匪賊狩りですから。人が足りていないと仕事にならないですからね」


 参謀総長は間合いを計った。部長と井端の言葉が途切れたとき、


「ですので、まず部隊に兵を集めねば、呼び戻さねばなりません。これがまず難しくあります。動員は、既に学院が南部に保護を求めた時点で、演習名目で、と言いますのは南部を過剰に刺激しないためですが、開始されています。しかし、その進捗は捗々しくありません。帝都付近の連隊であればまだしもですが、地方となると、道路整備がまだまだだからであります。しかも今は冬季であります。降雪により、県内各地、地元から連隊の駐在地に辿り着けない兵が続出しています。また、辿り着けたとしても、今度は連隊が戦場に機動するのが困難となります。各旅団の戦場への機動経路は我が参謀本部で算定し、連隊のそれについても計画は立てますが、現場ではその計画を礎に各旅団本部の判断に委ねることになります。我々は現場を見ていませんので。事故が起きたりしたら事前計画は台無しになり、それに拘れば、戦場への機動はより遅れることになるからです。そして、旅団本部から連隊への命令は騎馬による伝令で成されますが、この騎馬もまた降雪の影響で迅速且つ円滑な移動が困難になるものと考えられます。すると、連隊単位での行方不明、それから独断による機動で部隊の足並みが揃わなくなる危険性が否めません」


 参謀総長は息継ぎした。「翻り、南部は河川の積極的な利用により、我が方に比べて極めて速やかな動員と部隊展開を可能としています。降雪もありません。ウファツェア山脈を抜け、我が領内に侵入すればそこから先は脚が鈍るでしょうが、それでも事前の時間の貯金がありますので、我々が彼等を迎え撃てるのは国内のかなり深いところになります。回廊を抜けてきたところを、敵が展開する前に叩き潰す、そのような贅沢は許されないものであります。恐らくは――」


 参謀総長は、おいしょと言うと、立ち上がって壁に掛けられた地図の前に立った。ある一点を指差す。「――このシュラーバッハ辺りが戦場になります。街道の結集点で部隊の集結が容易ですし、ここなら各旅団の移動距離がそれなりに短くて済みますし、ここより浅いと集結する前に敵に遭遇して各個撃破されるかもしれませんし、ここより深いと首都圏に入ってしまいます。ただし、シュラーバッハに我々が集結するのも敵が来寇する直前ですので、シュラーバッハを要塞化して敵を有利な状況で迎え撃つのも困難です。そもそも築城するにも地面が凍結しておりますので、春や夏に比べれば、手数と手間が段違いです。築城のための物資を現場まで運ぶのも骨でしょう。我々は敵と正面からぶつかるしかありません」


 参謀総長は席に復した。それから、お茶、お茶、お茶とブツブツと呟いて、卓上にあったティー・カップを無闇に傾けた。喋り通しで喉が乾いたらしい。甘くないなコレと文句を言ったのが聴こえた。誰かが溜息を吐いた。


「次に戦力の差ですが」


 参謀総長は言いながら隣の席の奴を見た。それは警察の幹部だった。ジッと見られて彼は狼狽した。参謀総長の視線はその間に彼の分のティー・カップに移動していた。警察の彼はそれに間もなく気が付いた。飲みますか、と、尋ねる。いいんですか、と、白々しく参謀総長は尋ね返した。どうぞどうぞと彼は言った。では遠慮なく良い人ですね貴方と会話があった。参謀総長はカップの中を舐めるようにしながら、


「これについては簡明です。我が軍が徴兵制を敷いたのはつい最近のことです。国家の規模が拡大して軍備を拡大する必要に駆られたのが最近だからです。先に触れた、平時の部隊要員、それはPCと志願兵で構成されており、動員されてやってくる兵が徴兵された兵になります。徴兵は連隊が割り当てられた連隊区内で行っていますが、村や町の人口に応じて、少ないところだと五、六人、多いところで三〇人前後を籤引きで採用することにしています」


「籤引き」誰かが唸った。国内のことでも担当部署が違うと詳細については知らないということがある。だからこそ参謀総長は一から全てを説明していた。


「籤引きです。籤引きでないと村の厄介者とか町の犯罪者とかを自治体が送りつけてくるので。軍隊が野盗の群れのようになってしまう。しかし、籤引きは籤引きで、NPCの側に“なんて運が悪いんだ”と思わせてしまいます。ですから兵の士気は低いです。やる気がない。実際、兵営から逃亡を試みる者も少なくありません。村に逃げ帰ったら村全体を処罰対象にしていますが、人工無脳ですから、なかなか改善しません。戦闘になると、傭兵よりはまだ良いでしょうが、敵弾を恐れて命令違反に走る可能性もあります。尤も、現状、この方法以外に効率的な徴兵手段はありませんので、仕方のないことではあります」


 最後の部分は遠慮かな、と、俺は思った。国家制度をあけすけなく採点することはサトーを採点することと変わりない。そして、そのサトーは、参謀総長の傍でもくねんとしている。



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