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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編2章『七導館々々高校文学部』
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番外編2章35話/君が望む永遠


「花見盛君?」


「ああ。聴いてるよ」


「どうしたの。鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして」


「いや。なんでもないんだ。平気だよ」


「ふん。いい気なものね。私がこうして打ち明け話をするのにどれだけのMPを使っているか、貴方、知らないでしょ」


「そうだな。知らないかもしれない。“私のことが好きな人が好き”ね」


「そう。私は私のことが好きな人としか親しくしてないんじゃないか、って」


「……。……。……。うん。なるほどね」


「分かってないわ。絶対に分かってないわ。何も分かってないわね」


「じゃ、説明してくれ」


「しますとも。すればいいんでしょ。全く。ったく。あのね、私は、私は……」


「どうした。なんだ、え、君、泣いてるのか?」


「泣いてない!」


「見間違えか」


「そうに決まってるわ。私が泣くわけないでしょ。私はね、花見盛君、泣かないの。泣くとしたらトイレの中だけと決めてるのよ」


「分かった。それで何がどうしたって?」


「私はね、昔から、パパが居なくなって、母親とうまくいかなくなって、誰も彼も私をアレでアレするようになってから、しばらく思ってたのよ。“誰かに救って欲しい”」


「そりゃあ。まあ。そうだろうな」


「でもね、そうじゃないのよ、そうじゃないの。自分なんて自分で救うしかないわ」


「世間は冷たいからな」


「それも不正解。冷たくなくて、誰かが手を差し伸べてくれるにしても、私はそれを跳ね除けると思うわ。だって、救ってもらうのなんて、情けないでしょ?」


「そうかね。それは、君、君は――」


「分かってるわ。私は救って貰えなかった。貰えてたらこんな発想にはならなかったでしょうね。救えて貰えなかったから拗ねた。拗ねてこうなった。自分は救って貰えないのに、救って貰える人たちがいくらでも近くに居たから、それを妬んで、僻んだ。自分でも分かっているのよ。理窟はね。でも感情の方でこの問題をどうしようもないの。変えられないのよ。変えられないなら受け入れるしかないでしょ。変えようとして苦しむよりかはマシだわ。私は思うのよ。誰かが傍に居てくれても。“今更”って。凄く我儘で、ふざけたことを言ってるのは弁えてるけど、どうせ救ってくれるなら、あの頃に救って欲しかった、って、そう思うの」


「気持ちは分からないでもない」


「だからね、貴方達と居ると、偶に辛いのよ。とても辛い。こう、子供の頃からね、胸の奥にポッカリと穴が空いてるのよ。深い穴。私はその穴の淵に立って、風に吹かれながら、何時も穴の中を見下ろしているけど、底は見えないの。穴の中はとても暗いから。深いから。深淵を覗くとき深淵もまた私を覗いてるとか言うけれど、あれは嘘ね、深淵だけが私を覗いてるんだわ。もし、深淵を覗くとき、深淵もまた私を覗いてくれているなら、きっと私と深淵は良い感じの友達になれたと思うのに。お互い一人ぼっちだから。残念ね」


「浮き彫りになる?」


「なんて?」


「俺達と居るとその胸の穴が浮き彫りになる気がする?」


「ああ。言い得て妙ね。そう。救われれば救われるだけそういう気になるわ。その、認めたくないけど、きっとね、私は子供なのよ。子供のまま成長してしまったの。私にとって、良い人、親切な人、友達、好きな人、私を救ってくれる人、そういうのは、私を構ってくれて、無制限に我儘を許してくれて、甘やかしてくれて、――そう思う自分が凄く嫌い。かといって、自分に批判的な人間は、友達になれない相手なんて生易しいものではないわ、敵だと思う。そして、勿論、自分を構ってくれる貴方達に対しても、“そうじゃない。もっとこうして欲しいのに”って満たされない。親切にしてくれてるのが分かってるのに物足りなさを感じる。だからまた自分が嫌いになるの」


「しかし、離れる気にもならない」


「そう。それが厄介だわ。いやはや。我ながらなんともね。これが他人事ならぶん殴ってるわ」


「君が殴ったところで人を傷付けることは出来ないよ」


「あのね、正直に言うけれど、花見盛君」


「正直に言わなくてもいいよ?」


「茶化さないで。この旅行はね、その、ふとね、不安になったから企画してみたのよ」


「不安。漠然とした不安が元で自殺したりしないでくれよ」


「そんな勇気が私にあると思うの。私は、私はね、皆んなが私のことをどう思ってるのか、気になったのよ」


「どうって。そりゃあ。どういう意味だ」


「私は貴方達を、その実態がどれだけ無様で利己的でも、友達――ああ、もう、恥ずかしい――と思ってるわ。でも、貴方達の方では?」


「友達だと思ってるよ、それは」


「分からないでしょ!」


「分からないかねえ」


「分からないのよ。分かる訳ないでしょ。友達が居なかったんだから。友達ってどういうものか分からないのよ。それに、もし私が貴方達だとしたら、こんな嫌な女とは友達になりたいとは思わないもの。だから、えー、ほら、友達とは皆んなして何処かに遊びに行くものでしょ? 私、貴方達と知り合ってから、一度も、ホラ、仕事をさせたり、戦争させたりばかりで、遊びに行ったこととかなかったし……」


「君、そんな理由で仕事を放り投げて、この旅行を?」


「悪いの!?」


「悪いというか。微笑ましいね。とても」


「はん。貴方に話をした私が悪かったわ。そうやって何事も右に左に捌いて。いい? 私はね、この旅行で、貴方達に楽しんで欲しかった。それは間違いないわ。それと同時に、つまり、貴方達が私をどう思っているか、確かめたかったの。もし、もしも、“仕事を一緒にしてるだけの奴”だと思っているならば悲しいな、って」


「結果はどうだった?」


「分からないわ」


「分からないか」


「分からない。貴方達を楽しませることは出来なかったしね、私には。ああ、先に言っておくけど、“俺は楽しんだよ”はナシね。貴方の意見なんて訊いてないわ」


「君は相変わらずだなあ」


「たかが数週間で人が変わってたまるものですか。変えられるなら変えてみせてちょーだいよ」


「それで、悪いんだが、この流れで個人的な話をして本当に悪いんだが、続けて説明して貰っていいかな?」


「何を?」


「どうして俺と話さなくなった?」


「あー」


「“あー”じゃないよ、“あー”じゃ」


「花見盛君」


「うん」


「花見盛君」


「うん」


「花見盛君」


「うん?」


「えー」


「なんなんだ?」


「貴方は特別よ」


「……。……。……。なんだ、その、え、なに、俺を胸キュンさせてどうする気なんだ? 心臓発作狙いか? 生命保険なんて加入してないぞ」


「落ち着きなさい」


「落ち着いた」


「私はね、だから、まあ、こんな人間なのよ」


「どんな人間だ?」


「クズ」


「うん。まあ。そうだな」


「へえ。認めるのね。庇ってくれないのね」


「嫌いかね」


「嫌いよ。死になさい。はあ」


「真面目にな?」


「そう。真面目にやって」


「はいはい」


「はいは一回」


「はいはい」


「いいわ。もういい。強引に話を進めるけどね、花見盛君、貴方は特別なの。特別だから、私みたいな、こんなクズと一緒に居て欲しくないのよ」


「ははあ。なんだ。これは別れ話だったのか?」


「それは。まあ。いや。分からないけど。あの。だから」


「だから?」


「嫌だな、って、思ったのよ。私は皆んなに好かれていたいの。私を好きでいて欲しいの。自分が悪い人間なのが分かっていても。自分からはふざけたことしかしない癖に。それでも好きでいて欲しいの。どれだけ愛してくれても満たされないと分かっていても。貴方には特に。特に私を好きでいて欲しいの。だからこそ不安なのよ。不安なの。好きでいて欲しいけど。こんな自分だから。嫌われるんじゃないかって。直ぐ傍に居るから。誰よりも私のことを知ってるから。知らないものより知ってるものの方が怖いから。勇気が無いなんて言ったけど、いっそのことね、こんな辛さに耐えなきゃいけないなら、死んだ方がマシだと思うこともあるわ。発作的になら。こう、感情が極まってるときなら、サクッとね、死ねる気がしなくもないし。“私のことが好きな人しか好きでない私”なんて、うん、凄く無価値で、居なくなった方がいいと思うことがあるのよ。貴方の近くに居ても、こんな私、迷惑だろうから」


「――――――。」


「どうかした?」


「いや」


「顔が、えー、なに、それは。見たこと無い顔してるけど」


「嫌われたからだと思ってたんだ」


「は?」


「嫌われたからだと思ってた。違ったのか。そうか。むしろ好かれていたからか。好かれていたから……」


「えーと。なに。あの。貴方、えー、泣いてるの?」


「そうだな。泣いてるかもしれない」


「なんで泣いてるの? 私のせい? 私のせいでしょ?」


「尋ねられたから答えるけど」


「尋ねられたから答えなさい」


「昔、君と同じことを、一緒に住んでた彼女が言ってた。“私は私のことが好きな人としか親しくしないんだ”って。知っての通り彼女は死んだ。いきなり自殺した。俺はその理由をずっと考えてたんだ。俺に関係あるに違いない、と。そして、だとしたら、俺のことが嫌いになったからなんだろう、とも。そうなんだな。彼女は――ん?」


「……。……。……。」


「……。……。……。」


「……。……。……。」


「……。……。……。あー、あの、どうした?」


「他の女の話?」


「待て待て待て待て待て待て待て。尋ねられたから答えるけど、って、前置きしたじゃないか。この展開で俺が責められるのか?」


「へえ。ふうん。あ、そう、へえ。私のせいにするわけね?」


「待て。待つんだ。落ち着け。でも、今の話、しないわけにはいかないだろ? せずにいたら後日に禍根を残すぞ。君、禍根は徹底的に排除する派だろ」


「何が禍根よ! んなもん残ればいいでしょ! いきなり泣き出すから心配してあげたら他の女の話!?」


「おい、待て、声が大き――」


「大体、このエロガッパ、その前髪の長さからして二昔前のエロゲの主人公みたいだなとは思ってたけど、人がスキを見せたら直ぐに手を出して!」


「あれは合意の上じゃないか! いや、まず、その話をいまここで持ち出すのは間違ってないか?」


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」


「その話を君が持ち出すならだな」


「あー、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」


「先に酔って俺に抱き着いてきたのは君だぞ! あのとき、あの晩だ、君の誕生日の晩だ、君は“私のことなんて嫌いでしょ”とか言いながら――」


「あー! あー! あー! あー!」


「むしろアレは俺の側に拒否権が無かった。その後もなあなあで。付き合ってるんだかないんだか。俺のことをどう思ってるか訊いても確たる言葉もなく」


「だから! それは! いま! 説明したでしょ! 何を聴いてたのこの馬鹿は! 私がそんな素直に気持ちを表現できると思ってるの!?」


「気持ちを表現? その割にむしろ毎日のように君の方からアレだったな! あれはなにか。気持ちの表現でなくて快感――」


「死になさい。死になさい。そこの海で大好きな昔の彼女と一緒に入水自殺を図って貴方だけ生き残ればいいのよ!」


「なんだとこの野郎! お前な、前から思ってたが、幾ら何でも言っていいことと悪いことがあるぞ!?」


「お前!? 貴方ね、希に私のことをそうやって“お前”呼ばわりするけど、普段は“君”とか言っちゃってる癖に、化けの皮が剥がれてんのよ、このスットコドッコイ!」


「スットコドッコイだと!?」


「スットコドッコイでしょ!」


「スッ――」


「なに笑ってんのよ、この馬鹿!」


「いや、お前、いや、スットコドッコイは無いだろ?」


「スットコドッコイにスットコドッコイって言って何が悪いのよ、この馬鹿!」


「駄目だ。ツボに入った。怒る気力も無くした」


「一人で落ち着いてるんじゃないわよ、バーカ! 馬鹿! 馬鹿! 死んじゃえ!」


「おい、息切れしてきてるぞ、君」


「可愛いって言いなさい」


「え?」


「可愛いって言いなさい」


「なんだって?」


「可愛いと言いなさい」


「君を?」


「そう。褒め称えなさい。私を」


「ああ。あの、実は、今日な、井端と話したんだ」


「そんな話をしろって言った?」


「“自分と他人のどちらを優先するか”って話をアイツはしてくれた。それで気が付いたことがあってね。俺はね、寂しかったんだよ、心の底から」


「寂しかった?」


「親父の顔は思い出せない。母親は、ま、俺のために必死で働いてたから、あんまり家に居なかったからな。前に話したよな。俺は、中学時代は、人身事故の動画をネットにアップロードしてだな、それがバズったら喜ぶような、馬鹿なガキだった。あれも、思えば、寂しかったからだった気がする。誰かに構って欲しかったからだった。つくづく君には悪いが、彼女は、姉のようでもあり、母親のようでもあった、彼女が死んでからはそれはそれは寂しかった。君は、俺の方で、君を構ってると考えてるかもしれない。俺も実はそう考えてたよ。ずっと。仕方ない奴だなあ、と。俺が居ないと何も出来ねえんだからなとかね。でも違ったのさ。君をマジで必要としてるのは俺の方だ。君が居なくなると、まあ、なんだ、困る」


「困るって。困るって。他に言い方はないの?」


「そんな風にだな」


「なに?」


「想ってる相手を可愛いと思ってないと思うのか、君は」


「え。なに。え。そう話を繋げるの。やめなさい。なに。は。へえ。なにそれは。なに」


「ニヤけてるぞ。そういうところが可愛いと思う」


「やっぱりなし。そういうのなし。なしでいきましょう」


「可愛いよ」


「あー……。――――じゃあ、これからも一緒に居てくれる?」


「居るよ。居る。ずっと居る」


「あれじゃないでしょうね。青春に特有の。SNSで見掛けるあの感じの。愛してるぜベイビー的な」


「まあ、そういう感じにするには、少し重過ぎるだろ?」


「二人ともね」


「そうだな。二人ともね」


「安心したわ」


「安心したか」


「なんだろう。凄くね。安心したわ。ねえ、花見盛君、ねえ」


「今度は何がどうした?」


「好きよ」


「ほう。知ってたけどな。ちなみに俺も好きだよ」


「奇遇ね。私も知ってたわ」


「ごめんな」


「いや。私の方こそ。ありがとう」


「帰るか」


「そうね。帰りましょう。と、思ったけど、そうだ、しまったわ」


「なんだ?」


 不意を打たれた。押し付けられた彼女の唇は柔らかかった。彼女は悪戯っぽくフヒヒと笑った。


 月と海と砂浜に転がる貝殻と俺だけが目撃者の、それは権上かなでという彼女の、偽りを全く含まない笑顔だった。

 



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