番外編2章19話/花見盛恭三郎君の憂鬱(花見盛) - 1
言わずと知れた人間の三大欲求、食う、寝る、寝る、コレは些かばかり違うんじゃあないかと疑うことがある。食うのも寝るのも寝るのも全て生理的な欲求だ。しかし、人間、この劇的なるものはパンのみに生きない。感情で生きる。感情で生きる人間の欲求を身体のメカニズムで規定していいものかどうか。
まあ、俺とてもたかが高校生、常識に異論は挟めても、じゃあこんなのはどうですか――と、尤もらしい新規定を提唱することは致し兼ねる。ただ、漠然とではあるけれども、俺達は嫉妬と見栄と矛盾で生きているよなあとは感じる。世界は狭いよ。俺達はそのただでさえ狭い世界を自ら望んでより窮屈にしている。譲り合えば済むだけの道を自分だけのものにしたくて。
その点において、コイツらは実に恵まれているというか、羨ましいというか、ああ、ホラな、俺らはやはり嫉妬して生きているんだ。
「ピュンピュン」と、冗談みたいだ、古のインベーダー・ゲームの攻撃音みたいな鳴き声を、子供ワニさんたちはあげた。彼らは檻の向こうの岩場を模したプールで、仲間同士、じゃれあっていた。その近所ではすっかり飼い慣らされてしまったらしくあるお母さんワニがぐうすかと寝ている。寝ているのは木陰、それもただの木陰ではなく、熱帯植物の陰だった。熱帯植物は背が高い。その割に幹が細い。揺らせばしなる。パイナップルでも実りそうだ。そんなのが群生している。木の根元にはこれまた南国を彷彿とさせる草花が茂っていた。カラフルで綺麗なような目に毒なような。
俺は肩を落とした。見上げればドーム型の屋根である。ガラス張りである。日光が突き降ろすようにそのガラスを透過して来る。眩しい。室内はワニと植物のために湿度が高められているので、秋も暮れつつあるというのに、奇妙に蒸し暑く、水を吸った土と緑の青々としたニオイで噎せ返りそうだった。
「ワニって」サトーが楽しげに言った。「意外とボンキュッボンなのね」
サトーの隣に立つのは俺ではない。そのポジションを、ここ数日、占めている荒木は腕を組んだ。「ああ。確かに。言われてみれば。ハハハ。サトーちゃん、なに言ってんスか? 頭は大丈夫でスか? 死ぬんスか?」
俺は溜息を吐いた。傍らの井端が苦笑した。俺はバナナ・パフェでも食いに行くかと訊いた。井端はバナナ・アイスクリームがあるらしいよと言った。なんでもいい。サトーと荒木とはマナティーを見に行くとか行かないとか燥いでいた。『マナティーよ。マフティーじゃないわよ。マフティーよ。あれ?』