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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編2章『七導館々々高校文学部』
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番外編2章6話/死に至る病 - 上(花見盛)


 自分に出来ることは他人にも出来る。そう思い込んでいる輩は少なくない。『なんでこんな簡単なことが出来ないんだ』と、叱られた経験、誰にでもあるだろ?


 人には向き不向きがある。それぞれに様々な事情を抱えてもいる。サトーは、その点について、抜かり無くと言うべきなんだろうな、弁えていた。


 ……レイダー集団との対決から凡そ一ヶ月、九月も末を間近に控えて、巷は残暑に喘いでいた。北の方では広葉樹が順当に衣替えを始めたとか何とか、ニュースやネットで聞いてはいたものの、人間どもはまだまだ半袖で過ごしていたと記憶している。レイワ二年はそれだけ暑くて熱かった。少なくとも俺たちにとっては。


「無理ね」右を向けと言われたら左を向く性格とは関係なく、諸々の事情から、年中を長袖で通すサトーは言った。メンヘラは手首や肘の内側を人に晒したがらない。


「無理か」俺は大袈裟に肩を竦めた。「まあそうだろうな。ところで、なあ、おい、寒くないか?」


「私は特に。花見盛君は寒いの」


「ああ。寒い。ペンギンでも飼うつもりなのか、お前」


「はん」サトーは頬を膨らませた。彼女の頭上ではエアコンが轟々と鳴っている。「我慢しなさい。男の子なんだから。私は暑いのよ」


 サトーは机の上に、何千か、もしかすると何万か、積み上げられた書類の山を手でバンバンと叩いた。書類の山が崩れそうになる。サトーはハッとした。トロい。もう二ヶ月以上も共同生活をしていて、コイツの生態については修士論文を――博士となるとまだ無理そうだ――書けそうなぐらい知っているから、俺はすかさずフォローに入った。書類の山を支える。大惨事にならずに済んだ。と、思ったら、何を考えてのことか、俺を助けようとしたのか、慌てて椅子から立ち上がったサトーがよろめいた。自分の右足に? 自分の左足を? 引っ掛けて? ははあ。器用ですなあ。阿呆か。


 サトーは背中からすっ転んだ。派手な音と小さな悲鳴、大きな衝撃が相次いで、俺が保持しているのとは別の書類の山が崩れた。何てご近所迷惑な。今が昼時でまだしもだ。夜中だったら管理会社に苦情を入れられかねない。ただでさえ最近は夜になると五月蝿いってお隣から、いや、まあ、それはいいか。


「……。……。……。」大量の紙の下に生き埋めになったサトーは、三日月を横に倒したような目になって、何故か俺をジトッと睨んだ。俺のせいじゃないだろ?


 サトーに手を貸す。助け起こした。平気かと尋ねる。ふん、と、サトーは一度はそっぽを向いた。それから横目に、俺を盗むように見て、まあねと呟いた。恥ずかしいのだろう。また、何も返事をしない自分が如何にも嫌な女に思えたのだろう。


 俺は書類を拾い集めながら、いやはやそれにしてもと、改めて我が家の中を見渡した。かつてシックな家具でシャレオツに演出されていたリビングは、なんということでしょう、今や先程のような書類、火縄銃やマスケット銃の玩具、表紙にモビルスーツがどうだアーマード・トルーパーがどうだ戦略理論がどうだと書かれた各種書籍類、果てはどこから買い込んだやら臼砲の実物大模型などで埋め尽くされている。臼砲だぞ。砲だ。砲。大砲だ。最初は巨大な石鍋か何かかと勘違いした俺である。


 溜息が漏れた。足の踏み場がない。辛うじて人間が潜り込めそうな空白地には、あらこんにちわ、廃棄された核燃料を食べて巨大化した古代の恐竜的なアレのフィギュアがずらりと並んでいる。『古い順に並べてあるから動かさないでね。というか触らないで。デザインの変遷を視覚的に楽しむためにこうしてるんだから。あ、でも、偶に掃除はして。埃が積もるから』(触れたら駄目なのにどうやって掃除しろってんだ)


「で」俺は唯一無二の不可侵領域、約束の場所、ベッドに腰掛けて尋ねた。「どういうことになりそうなんだ」


「どうもこうも」サトーは椅子ではなくてダイニング・テーブルの上に座り直して、やたらカラフルな、外国製の玩具のピストルを弄りながら答えた。


「この次に同じようなことがあれば、今の体制が続いている限り、もうアウトね。無理。無理無理無理のかたつむり。無理ゲーよ。ヨコハマがリーグ優勝するぐらい無理ゲーね」


 ダババネルの人口、軍備、権限は、この数週間で以前の数倍以上に跳ね上がった。それに伴って各種行政判断と事務仕事(書類仕事)が指数関数的に増大している。


 例えば移住者、ラザッペの旧住人や前の戦いで棲家を焼かれた農耕民たちは、ダババネルに保護や定住を求めている。無論、我々としてはそれを断る理由がない。あったとしても、立場上、断れる筈もない。ダババネルに数百人の難民を受け入れるだけの、文字通りの余地もあるはずがないから、近隣の開拓や復興を急がねばならない。(尤も、サトーに言わせると、開拓はともかくとして復興については慎重を期さねばならないそうだ。何事も立て直すのは新しく作るよりも遥かに手間なのだと。俺とても連続震災を経験した世代である。実感ではあった)


 現状、難民たちはダババネルの外壁沿いや川を挟んで対岸に、応急建築された仮設住宅に入居している。仮設住宅と言えば聴こえはいい。実際には掘立小屋だ。設備は不十分である。家具の類は必要最低限をギリギリで満たしている。独自で煮炊きの出来ない家庭もまだ多い。否、煮炊きどころか、食料の配給自体が綱渡りで実施されている。寝床が足りていないという報告もあった。そういう世帯ではごろ寝をしているそうだ。藁だの布だのを敷くことすら出来ず、ありあわせの建材で組まれた凸凹の目立つ床に、直に横たわるNPCたちには同情を禁じえない。――同情するだけならタダさ。


 燃料と暖房についても深刻だ。ゲーム内では、現実の気候と正比例するように、緯度と経度に則って規則正しく秋が到来している。冬の足音すら聴こえかねない勢いで。薪はアチコチに転がっているものの、それらNPC達に勝手に取りに行かせると、忽ちの内に“縄張り争い”が始まる。下手を打てば血を見るだろう。そうなれば『ダババネルもこんなものか』ということになってしまう。一度、その結論が(PCとNPCとを問わず)印象付いてしまうと、せっかく手に入れた地位もパアだ。ようやくのことで増えた給与も失ってしまう。


 だから俺たちの方で薪の収集と分配を担わねばならないが、その俺たちも、日常的な業務から開放された訳ではない。商人達への徴税、依然として機能している三都市同盟の齎した人的物的流通の管理、水源や衛生の管理といったインフラの整備、橋や港や壁の改修や新設、街の内外の緑の手入れ、余所者の大量流入を恐れて怯える元からの住人たちへの挨拶回り、常備化することになった兵隊どもの兵站的支援とサトーが呼ぶもの、未だに終わっていないレイダーたちからせしめた金品などの整理、――ただでさえ忙しい。臨時業務まで手が回らない。レイダーとの戦闘を経てプレイヤーの総数は増加したが、それは戦闘要員だけのことで、事務や管理の人材は不足しているのである。


 ダババネルの行政機関には複数の部署があり、それらは~課と呼ばれていて、今回のこの仮設住宅事情については(そこに住まう難民の実態把握等と共に)住民課に投げられている。より詳細に述べるならば、サトーや様々な部署のリーダーを集めて設置された対策本部からの命令を、住民課の総力で以て実施している。まるで区役所みたいだが、実際、規模と言い業務といい、あれと同じようなものなのだから笑える。笑えない。


 一時、住民課は大混乱に陥った。難民からのクレーム処理だけで人員の半数以上を動員せねばならなかったと聞く。人工無脳相手に『すみません』と頭を下げるのには忸怩たる思いがあったそうだ。で、忸怩たる思いで仕事がスムーズに進む訳がないから、薪問題を解決するための対策立案は遅れに遅れた。実施面ではまだ幾らか遅延している。遅延すればするだけ難民からのクレームは増える。悪循環だ。


“薪を取るだけのことがそんなに大変なのか?”


 馬鹿を抜かせ。毎日、同じ場所で同じの量の薪が拾える訳ではない。薪の分布を調査して、今日はここ、明日はここ、収集のためのルートやローテーションを効率的に組む必要がある。無論、ルート作成の際には薪の種類――木の種類によって火持ちや重量が違う――も考慮に入れねばならない。集めたら集めたで、その薪、どれぐらいの重量になるだろうか。真冬を想定した場合、一世帯辺り、一日に消費する薪の量は三五キロとなる。世帯数が三〇〇あるとして、では何千キロという薪を、どのようにして仮設住宅まで輸送すればいい? そのルートは収集の際と同じでいいのか? 悪いのか? 馬車を使うならそれをどこから手当する? 馬車の御者に払う給料は? 馬に食わせる飼葉はどこから出すんだ? もし輸送にトラブルがあって、薪の入手に滞りがあった場合、どのように対処するよ? ふざけんなと怒り狂う難民たちを宥める手段は? いざ配る段階に辿り着いたとして、不正をして、必要以上に薪を受け取っている者がいないかをどう確認する? 余剰分などの保管についてはどのようにすべきだ? 拾い集めるだけではなくて他都市から買い上げる薪もあるが、では、それらの扱いや購入から納品までの手順はどうすればいい?


 住民課だけでは決められない事柄も多い。他部署との連帯が必要だが、その他部署も忙しいから、人的なトラブル、言ってしまえば喧嘩や意見対立が生じることもある。それらをどのように防止するか。防止し切れない部分はどう処理するか。


 薪問題だけでもこれだ。ありとあらゆる部署がパンク寸前である。パンクしていないのは何故か。


『戦争は常に政治と経済に接続されているからよ』だそうだ。


『しかも政治と経済が戦争に繋がっているんじゃないの。戦争が政治と経済に繋がっているのよ。戦争の前後には必ず政経問題について頭を抱えるフェイズとターンがあるわ。戦争なんて、結局、利益を得るためのものなんだから、それはまあ当然でしょ? 戦争するのに戦争に勝つことしか考えていないヤツを戦争屋の馬鹿って言うのよ。戦争しながら考えるべきことは常に勝った後と負けた後のことなの』


 サトーはレイダー戦の前から今回のことを念頭に置いていた。各部署毎に、初動対応の詳細なマニュアルを事前用意していたぐらいだ。マニュアルが無ければどうなっていたか。各部署は“何をすればいいのか分からない。分からないところが分からない”状態に陥っていただろう。


 それでも反省すべき点は無限にあるとサトーは言っている。まあ、ご存知の通り、元々、ダババネルの行政府はこんな事態を想定して構築されていない。組織運用もなあなあだった。住民課だの財務課だの言ったところで、そこに所属する連中が、それらの業務についての専門教育を受けた訳でもない。(というか、サトーがノウハウを持ち込むまで、プレイヤーに専門教育を施すという発想があってもその方法が誰にも分からなかった。いや、ま、方法が分かっていても、進んで面倒なお勉強をしたがる奴が居たとも思えないけれども)


 サトーが柘榴から街を、敢えて彼女風に言うならば、掠め取って以来、細々とした組閣は――文書主義の開始も広く見ればその一部である訳で――行われていた。しかし、時間的、物的、人的限界から抜本的なものでは決してなかった。なあなあの気風はまだダババネルから抜けていない。


 煎じ詰めると、マニュアルがあり、やるべきことが示されていても、その処理能力と意欲とに問題があるのだった。事実として現場でのサボタージュは頻繁に見られた。マニュアルを参照している上、部署間での横の繋がりを確保するために設置された対策本部からの統括的な指示を受けているにも関わらず、ある部署とある部署が全く同じ業務内容をこなしていたりもした。(縦割り行政だ)

 

 結果、サトーは自ら現場に乗り込んで、お前はあれをこうしろ、君はこれはこうだ、指図というよりも実質的な差配を行わねばならなかったのである。


「組織が一人の人間の能力だけで成立しているのは危険よ」


 サトーはまだ玩具のピストルを弄っている。確かダーツとか呼ばれる、発泡ウレタンと軟質樹脂とで成る弾丸を装填しながら、彼女は頭を振った。ダーツの先端は面白いぐらい派手なオレンジ色である。


「私が倒れたら。私がミスを犯したら。私が居なくなったら。これまでは一人で何もかも決め過ぎたわね。少なくとも優秀な中間管理職が必要だわ。私が現場に出なくとも、私の指示、それを部下に執行させられる能力のあるような。見込みが甘かったわ。もう少しぐらい連中もまともに働くと思ってたんだけど」


「逆に言えば」俺は慰めることにした。


「あんな連中を率いてすら、君は今回の、まあゲーム内で言えば空前の問題を処理しているだろ」


「ふん」サトーは躊躇わなかった。銃で俺を撃った。痛くも痒くもない。俺は肩を竦めた。サトーも肩を竦めた。


「だから何だっていうの。誇れと? 私は天才ですって? 冗談ではないわ。本来ならもっと手早く、完璧に、今度の問題は粛々と処理されているはずなのよ。少なくともここまで後手後手ではなかったはず。薪の備蓄ぐらいは終わっていても良かったはずなの。気に入らない。気に食わない。誠に。実に。まさに。はん」


 サトーは二発目、三発目、四発目の弾丸を俺に撃ち込んだ。着弾の度に間抜けな音がする。俺は苦笑した。くさくさした様子だったサトーも苦笑した。


「兎に角、組織の再編、それを並行して進めるわ。他の都市にも人材を供出して貰って。まずは組織の規模を拡大せねばならないでしょう。区役所から市役所ぐらいの所帯に迄は。マニュアルの最適化も必要でしょうね」


「組織の方は分かる。マニュアルの最適化っていうのは?」


「表現が難解だとか、抽象的に過ぎた場面が、実際にあったのよ。そのせいで起きたサボタージュとかもね。それは私が全く悪かった。でも、貴方相手だからはっきり言うけれど、貴方達の大半は頭が悪いでしょ」


「……。……。……。まあなあ。実家に金がないからこうして働いてるんだからな。金があるならもっとマシな高校にも行ってるだろう」


「それね。つまりはそういうことよ。私の言う最適化というのは、ま、マニュアルを、どんな馬鹿が読んでも理解できるように書き直すって意味ね。イラストとか図とかもふんだんに使って。デザイナーが必要ね。誰か絵の巧いコを探しておかないと」


「ご苦労なことだ」


「茶化さないで。これは真面目な話よ。教育格差、知識量、それを考慮せずに定められたマニュアルには何の価値もないわ。読んでも理解できないマニュアルなんて価値がないもの。それに、世間で言われている程、マニュアルは悪いものではないしね。誰だって、家具を組み立てるとき、難しそうなゲームを買ったとき、薬を飲むときだってマニュアルを参照するでしょう。あるとないとでは判断や行動に差が出るから。マニュアルを必要としないのはどの分野でも、それに、ある程度以上まで精通した人だけよ」


「君のように」


「そう」サトーはふふんと得意げに鼻を鳴らした。「私のように。――そして、ある程度以上まで精通した人というのは、実はどの分野でも少ないの。それを“自分にも出来るんだから”と、自分の常識を一般化して、他人にも当て嵌めるから問題が生じるのよ。いや、そうするからこそ生じる問題もあるのよ。その手の問題は、往々にして、放置しておくと対人関係を酷く悪化させるわ。我々のケースに当て嵌めるならば、組織を構成する上下の関係が腐って、最後は組織全体が朽ちてしまう。上が下に対して細かい気遣いを示すのはね、権利でも情でもなくて、義務なの。そうしないと誰も着いてこないのよ。一人で出来るならお前一人で戦え、って、そうなってしまうから」


 サトーは唇を尖らせた。自分が言っていることが、遠回しに、自己批判になっていることに気が付いたようだった。


 彼女はウェーブの掛かった毛先を指先に巻き付けた。それをグイグイと引っ張る。引っ張りながら、机の上の、どこかの書類の陰から煙草の箱を見つけてきた。


「花見盛君」サトーは細いメンソールを咥えた。


「はいはい」俺は、表面上は大儀そうに、彼女のところへ出向いて煙草に火を着けた。


「悪いのは」と、肺まで吸い込んだミントの香りのする煙を吐き出しながら、彼女は無表情を繕った。


「私よ。忘れないで。口先で私がなんと言っても。貴方達が悪いんじゃないわ。別に望んで頭が悪く生まれたんじゃないんでしょうし」


 最後のフレーズは撮ってつけたようだった。俺は分かってるよと言った。それならいいわとサトーは言った。


 ……数日後、藁のような暇を掴んだ俺とサトーは気分転換にコンビニに出掛けた。それ迄はそれすら許されない程に忙しかったのである。久々のリアルな外気は俺たちの気分を高めた。足取りも軽く、テケテケと歩くサトーは、二回も転んだが、まずまず上機嫌だった。


 時候は移ろいつつあった。雨の度に気温が下がって、人々は、半袖の上に羽織れる一枚を入用にするようになった。サトーは衣装持ではない。それどころか『服なんてあればいいのよ』とか何とか、強がり二割、本音六割、照れ二割で主張している。アイツの一張羅はあの黒いセーラー服なのだ。そのうち服でも連れ立って買いに行こうかと俺は考えなくもない。抵抗されるだろうなあ。


 徒歩一〇分のコンビニ、その往路で、サトーは珍しいものを見付けた。こんな田舎町にも居ることには居るものだ。ホーム・レスである。外国人だった。栄えている(当社比)駅前の広場の一角に座り込んで、彼は、空を見上げていた。この世の全てを憎んでいるような表情だった。時折、通行人を睨んでは、ニッと笑う。そうすることだけが娯楽と化しているらしい。


「下らないわね」コンビニ袋に手を突っ込みながら、サトーは、そう評した。俺たちはまさにホーム・レスのオッサンの前を通過して睨まれたところだった。


「声が大きいぞ」俺は窘めた。オッサンはニタニタしていた。彼の周囲だけ人気がない。


「事実を指摘しているだけよ。下らないわ。あんなになって。何でも他人のせいにして。助けて欲しいなら助けてって言えばいいのに」


 そう断定したものでもないだろう――というツッコミは、このとき、俺には出てこなかった。サトーは悠長に袋からジュースのパックを取り出した。それにストローを突き刺す。刺さらない。突き刺す。刺さらない。ネコのようにシャー、と、パックを威嚇してから、勢い良く再び突き刺す。今度は突き刺さった。サトーは「二度と逆らうんじゃないわよ」と紙パック相手に中指を立てた。


「でも」サトーはジュースを啜りながら言った。どろり濃厚ピーチ味の凄まじいニオイが俺のところまで漂ってきていた。


「そうじゃない? 助けて欲しいなら助けて欲しいっていうべきなのよ。簡単なことじゃない。私にだって出来るわ。なんでそうしないのかしら、あの人」

 

 

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