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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編1章『いちばん最初のサトーさん』
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番外編1章32話/いちばん最初のサトーさん(9)


 飼い犬は飼い主に似るそうだ。同様に家の内装は住人に似る。少なくとも個性が出る。この“家”は、その意味から言うと、随分と没個性だなと思った。いまのうちにこう思っておかねばならない。昨日はまだしもだった。今日もまあである。明日、明後日、明々後日になるとわからない。この家も家主好みに大改装されることだろう。いまから掃除の不安が絶えない。


「それで」加藤先輩はここ数日で量産された何百枚かの書類を抱えたまま苦笑した。「サトーと暮らし始めたって?」


「そうなんですよ」加藤先輩と同様、やはり大量の書類を抱えた俺は、苦笑に苦笑を返した。サトーがこの建物の主となって以来、気合を入れて磨かれるようになった庁舎の床は滑りやすく、角を曲がるとき、危うく転びかけた。俺は身体と顎を使って書類の山が崩れるのを防いだ。山は崩れなかった。山の天辺の一枚だけがふわりと浮き上がった。俺はその書類の端に噛み付いた。落とすよりかはマシだ。ふうと、一息、吐いたところで、油断した。書類の山がダバーッと崩れた。加藤先輩が肩を竦めた。俺は後頭部を掻いた。二人で書類を掻き集めた。恐縮です。


「それで」加藤先輩は集めた書類を揃えながら訊いた。「サトーはどんな塩梅だ」


「そうですね。俺の部屋は、ああ、あいつの部屋、荷物は燃えないで済みましてね、主な被害は二階でしたから。アレの荷物で埋まりまして」


「サトーはどんな荷物を持ってるんだ?」


「もう雑多ですよ。ゲーム筐体とかもあります。格ゲーの。入り口から入らないんで窓から入れました」


「優しいな。俺なら頼むからどこかに売り飛ばしてくれって頼む」


「まあ、大事なものらしいので、はい。俺もそう思いはしたんですけど」


「そもそもなんで火事なんかになったんだ?」


 加藤先輩は一枚の書類を流し読みしながら顎を撫でた。「学校で」


「老朽化した建物でね。汚れも酷くて。積もってた埃とかに何らかの原因で火が着いたとか。建て替えすら出来ずにいた寮ですからね」


「そいつはなんというか不運な。新しい寮が出来るまで他の生徒は?」


「自宅通学に切り替える。或いは下宿を学校が斡旋してくれるそうなんですが――」


 サトーは断固としてそれを拒否した。『一人だと不安だわ』と彼女は言った。疑り深い、或いは被害妄想とすら俺には思えるのだが、サトーは、寮の火事を偶然ではないと信じていた。自分の身を狙って引き起こされた放火事件だと主張している。そんな馬鹿なと思う。しかしその一方で、確かに、ゲーム内での恨みが人殺しに繋がってもおかしくはないよなとも思った。ブラスペがこのまま進歩していったら、将来、やらかしたプレイヤーはリアルで殺されるとか、そんなことにはなって欲しくないが、さて、どうか。とりあえず、とにかく学校の斡旋してくれる下宿なんて面白みがないし、馬鹿と暮らすのはもう二度とご免だし、それに何よりも、だから、不安を解消するためには誰か信頼できる人間と暮らしたいと言うので、俺はサトーが我が家に棲み着くのを許した。歓迎すらした。あの家にこびり着いた一種のニオイを消したいとも思っていた。


 実際に消臭に成功したかと言えば、ま、どうかな、成功したとは思う。色々と五月蝿いし、構わないと拗ねるし、それでいて俺が話しかけたいときに話すと不機嫌になるので困っているが、遊びたいタイミングが一致さえすれば、サトーは割と楽しく暇を潰せる相手だった。尤も、アイツ、


『コレ、貴方の本? 違うの。そう。前の住人の本。へえ。そう。私、この作家、読んだことないのよね。――読んでいい? なんだか読まないと負けた気分だから』


 このところは、ある、自殺したメリケンの文豪にドハマリしていて、奴にくれてやった客間から出てくることは珍しい。


「最近は、アイツが部屋を散らかすんでね、それを片付けるのが、なんとなく、こう、楽しくなってきました。子供でも育ててる気分で」


「子供ね……。大きな子供だな。お前、将来、教師にでもなるか? 向いてる気がするぞ」


「どうですかな。教師は嫌だな。教師は、むしろ、高木先輩のが向いてると思いませんか?」


「時代が許さないよ」加藤先輩は頭を振った。


「確かに。ま、サトーが教師になるってのよりかは、でも、現実的だと思いますがね」


「言えてる」加藤先輩は笑った。俺たちは書類の整理を終えた。


 余計な時間を使ってしまった。俺たちは急いで大会議室に向かった。そこには、今日、ウェジャイアなどのVIPが募っている。なんとなれば、


「これより第一回“四都市会議”を始めるわ」


 間一髪で間に合った。俺たちが大会議室の扉を開けたまさにその瞬間、上座のサトーがそう宣言したところであった。



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