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銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア  作者: K@e:Dё
番外編1章『いちばん最初のサトーさん』
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番外編1章20話/転換点


 俺たちは青春ドラマのキャラクターではない。俺たちが悪かったと涙ながらに訴えて、それでサトーも泣き出して、夕焼けか星空か、いずれロマンチックな景色の中で和解する。透き通った声で歌われる主題歌、若さと勇気を讃えた歌詞、二年後には見なくなっている新人俳優の名前の羅列、一件落着、感動のエンドロール、――そんなことはできない。大体、そういう綺麗なオチが着けられるとして、俺たちの誰がそうなることを望んだろう? 綺麗なものほど怖いものはない。それは常に不安と義務感と圧迫感を俺たちに強いる。


 ……キャラバンは約一日遅れでウェジャイアに到着した。事故そのものによる遅れは勿論、馬車数が減ったことによる輸送効率の低下、なんやかやしている間に降り始めた雨の影響もあった。雨の粒は大きかった。到着したのは昼間だったけれども、まるで蓋をされた鍋の中、俺たちは薄暗い中で馬車から荷降ろしをした。


 それから諸々の手続き、ウェジャイアの支配者や商人たちへの事情説明、人質の取り扱いに関する方針の再確認などに、俺たちは丸二日を費やした。この頃には部長の体力はまずまず戻っていた。高木先輩の憔悴はもはやどこ吹く風、寝ていろというのに聞かず、行く先々で訳のわからんイチャモンをつけては些細なことにキレ散らかして、傷口が開いて派手に出血することもあった。なんなんだあの人は。 


 サトーは全ての行程を遠巻きに見守っていた。何度か俺たちのやることに口を差し挟むこともあった。無駄口を叩くことはまるでなかった。三度、サトーへの態度を改めた高木先輩は、


「俺たちを助けて頂いたんだ。お礼を申し上げたくて」


 と、花束を手に挨拶に行って、最初に逢ったときの五倍は冷たくあしらわれた。今回、彼は怒らなかった。ただ、サトーの欲しがるものは何でも与えろ、世界の裏側へ行っても調達して来い、不自由は決してさせるな――と、後輩たちに厳命した。彼にそんな決定権があったろうか。なかったはずだ。誰も文句を垂れることはしなかった。


 高木先輩はサトーに対してそういうスタンスを取る一方で、しつこいぐらい、仲間たちには感謝を述べて回った。俺のところへすらやってきた。彼は鼻を鳴らしながら余計なことをしやがってと俺の胸倉を小突いた。俺がそれで感謝するとでも思ったかと彼は言葉を続けた。感謝?


 翌日、俺のアパートに差出人不明の酒と食べ物が届いた。


 更に慌ただしい一週間が経過した。ダババネルへの帰還、柘榴たちへの事情説明、人質たちの勾留、やることは無限にあるように思われた。


 俺たちはサトーの言い付けであの青年、俺たちと彼の仲間をレイダーに売ったあの野郎、彼の罪をウェジャイアでもダババネルでも明らかにしていなかった。サトーは彼をダシに彼の高校のリーダーとある交渉の席を設けた。そのセッティングにも俺たちは奔走せねばならなかったのである。


 ようやく気分と身体が落ち着いた頃、高木先輩が唸りだした。「やはり我慢できん」


「鷹を撃ちに行くならログ・アウトして下さい」


「花見盛、花見盛、ああ、花見盛、テメェは後で校舎の裏だ。――やはり我慢できん。いや、我慢はしようと思えば出来る。納得ができん。俺たちは救われたろうに。サトーの姉御に救われたろうに。それなのに礼のひとつも述べんのは薄情者のすることだ。第一、俺も、お前も、皆んな、このままではいかんと思っとるはずだ。それで何もしないのはよくねェやな。そう思うだろうが?」


「先輩、姉御ってね、サトーは年下でしょう」


「うるせェ! 心の姉御だ! なんなんだ、テメェってやつは。せっかく俺が気を利かせてやったってんのに」


「はいはいはいはい。わかりました。わかりました。俺が悪かったですよ」


「チッ。いいか、花見盛、俺は決めたぞ。決めちまった。やっぱりあの方の歓迎会をやろう」


「はあ。ご自由に営まれたらどうです?」


「大馬鹿野郎! テメェも手伝うんだ。特にサトーの姉御の連絡先はお前しか知らねェんだからな」


「言うだけ無駄でしょう。サトーは来ないと思いますよ」


 高木先輩は鼻を鳴らした。彼はマシュマロにも似た頬肉をぷるんと吊り上げながら言った。「()()()()()()()()()()()()


 俺は高木先輩を尊敬した。その自信はどこから来るのだろう。わからない。わからないけれども、ここまで自信満々なのだ、サトーは必ず来るのだろう。俺は高木先輩の命令に従った。男手を集めて部室を飾った。飲食物を確保した。加藤先輩の力も借りた。副部長にもお世話になった。この三日をそのことだけに使った。クタクタになった。その甲斐あって上出来な準備が出来たよ。


 しかし、連絡のついに取れたサトーは『行かない』と言ってきた。夕暮れだった。部室には斜めから赤い太陽光線が差し込んできた。何もかも紅く染まった。遠くで鳥たちがアホーと鳴いた。パーティ会場の設営に動員した仲間たちが一斉に項垂れた。どうしてくれる、高木?


「花見盛」と、彼はどんぐり眼で俺を正面から見据えた。肩を叩く。というよりも掴む。


「表にチャリがある。行け」



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