2章1話/どんな高級アイスだろうが地面に落とせば蟻がたかる
なして私は。ハンカチで額の汗を拭いながら考えた。こんな急勾配をば登っているのだろうか。そもそも、アレコレと理由をつけて欠席するつもりではなかったか?
せめてバスを使えば良かったか。否、送迎用のアレには大量の高学歴が詰め込まれているぞ。一五分も耐えられるか。耐えられない。まだしも、ガード・レールを挟んでお向かいさん、走り去る車の窓から『あいつは何をしてるんだ?』と指を差される方が良い。
咥えた棒アイスは景気よく溶け出している。いまとなってはバニラ味がしない。糖分でペタペタになった木の味がする。唇の端から溢れた白いのが頬を伝っていった。顎に溜まる。構うものか。袖で拭った。
私の悪癖が心の中で首を擡げた。曰く、人生、主に人間関係は棒アイスと似ている。余裕で楽しめるのは最初の二口だけだ。それからは蕩けるアイスに気を遣い、なんとか棒から落ちないよう、落ちないよう、工夫しながら食べ続ける他にない。一度、地べたに落ちてしまったアイスは棒には戻らないからである。
食べるのが下手だから大目に見ろって? そういうわけにはいきません。食べ始めたのは貴方なのです。たとえ食べないという選択肢がなかったにせよ。残念でしたね。ざまあみろ。
――ハチオウジのド田舎、その小山の上、登りきったところにある西洋屋敷は広壮だった。連合生徒会館である。
周辺は全くの山野、人家などは他になく、無論、商業施設なども存在しない。ただ全て、遺漏を許されず延々と運行する大都会、それを遠くに見下す贅沢を味わえはする。(五秒で飽きる類でも贅沢は贅沢、いいですね?)
立派な、私の身長の倍はある門の前に守衛と警備犬とが立っていた。移民二世らによるホームグラウン・テロが俄に流行しつつある近日では珍しくもない存在だった。
守衛が私の学生証を検めている間、私はこの警備犬を酷く恐れねばならなかった。私は犬が苦手だった。
内ポケットに仕舞った例のアイスの棒には『ホームラン』の文字が刻まれていた。私はアイスを食べるのが得意ではない。『当たりが出たらもう一本!』は、だから有り難くない。
今日は酷い湿度だった。何をした訳でもないのに髪の毛が絡む。曇っている。この後、晴れて、また曇るらしい。