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one・days 「1.10」始まりの日の先へ  作者: 仲仁へび
第1章
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第8話 罪在の森



 高校校舎 教室内 AM11:30


 一日が過ぎるのは、早い。

 うちの学校は、まったく自慢にならないくらいに暖房の一つもついてない貧乏学校だ。


 今どきこんな悪環境の学校があるのかよ、と思うのだがあるのだから仕方がない。

 数年前まではなけなしの数がついていたらしいが、経年劣化の為に俺が入学する一年前に全滅。

 よって俺は今日も凍える様な極寒の中、全く身にならない授業を受けるのだった。


 こうも寒いと普通に眠いんだか、寒くて生物の本能が眠くしているんだか分からない。


 教師のやけに眠たくなる口調の授業内容を耳に入れながら、俺は昔の事を夢に見ていた。




 ザイアの森 PM5:00


 幼なじみに寄って中二な名前がつけられた森の中を、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして動き回る。元の名前も中二のような名前だったが、カタカナにするとよりいっそうそれっぽく感じられる。ちなみに漢字は「罪在」で発音は同じ。人によっては、そちらの方が中二っぽいと感じられることもあるそうだ。

 俺にとってはどうでもいいが。


 そんな中二の森にやってきたのは、俺達だけではない。

 距離を置いて離れたところには、円や桐谷先輩の姿もあった。


 比較的近くであちこちをキョロキョロ見回していた茉莉が、口を尖らせながら不満を言う。


「えー、全然見つからないよー。どこー。ないよー。あたしはがっかりです」

「そういうもんだろ、噂話って言うのは、真に受ける方がおかしい」

「そんなことないもんー。未来は夢がないよー」


 確かその森で、基地メンバーが大捜索することになった理由は、ザイア……ではなく罪在の森に、願いを叶える何かがあるとかいう噂話を茉莉が信じたからだった。


 それで、その願いを叶える何かが欲しいと主張する茉莉の為に、こうして俺や円、先輩たちが大捜索することになったのだったか。


「だいたいもし見つかったとしても何を願うつもりだったんだ。どうせどうでも良い事しか考えてないんだろ、お菓子沢山食べたいとか魔法使いになりたいとか」

「どうでも良くないもん、そんな意地悪言う未来、あたしは嫌いです。ふーんだ、未来なんかかまってあげないもん」

「俺の方がかまってやってるんだろ。ったく……」


 拗ねた茉莉は遠くの方へと移動して、一人で地面の草地や落ち葉をかき分け始める。


 あんな調子であんまり遠くにいかれると、もし何かあった時にフォローできなくなるのだが、あれで意外に頑固なところがある茉莉の機嫌を直すのは中々難しい。

 

「未来には宝探しのロマンが分からないんだよー。トレジャーハンターは、お金持ちになれるからお宝探ししてるわけじゃないんだもんー」


 そうじゃない奴も中にはいるだろ。

 ともあれ、大した理由がないということは今の発言でよく分かった。


 好奇心が強いのは結構だが、もう少し信ぴょう性を考えるべきだと思う。

 そんな事を普通に思う俺は夢がないんだろうか。


「罪在の森ねぇ……」


 知らない間に近くに寄って来た円の言葉に、俺は聞き返す。

 茉莉の観察で忙しかったから気が付かなかった。


「何か言ったか?」

「オカルト研究部の間ではこの森はちょっとした有名スポットなのよ。幽霊が出るって」

「見間違いかなんかだろ」

「どうかしらね。とても幻には思えないような声を聞いたり、体験をしたっていう子がたくさんいるわよ」


 円が俺を怖がらせようとしているのか、ただ情報を教えてくれているのか分からないが、非現実的なものにこれっぽっちも興味がない俺が返せる反応は大したものじゃない。


「まあ、人間なんて罪を犯してない方が珍しいけど。この森は罪人には厳しいらしいって話があるわ。その昔、禁忌を破った多くの人間が生贄にされて、この森に埋められたことがあるわしいのよ。そんな事から、同じ罪人が来ると相応の罰を受けるって話よ」

「そうか」

「それだけ? 面白みのない反応ね」

「怖がったら怖がったで、色々言うだろ」

「確かに。そんなの、男のくせに軟弱だしキモイわ」


 篠塚円という人間は、本当に良い性格をしていると思う。

 先輩や茉莉にはそうでもないのに、こいつは日ごろから俺にだけやたら厳しいところがある。


 何が気にくわないのか知らないが、ことごとく俺につっかかってくるし。

 いちいち相手をするのも面倒なので、ほどにしてほしいところだ。


「宝探しね……、まあ、茉莉ちゃんにもアタシ達にもぶっちゃけ必要ないんだけどね」

「どういう意味だ」

「教えるわけないでしょ、アンタに。自分で考えなさい」


 ほら、この態度。






 気がついたら授業中に居眠りしてしまったいうだ。


 あくびをかみ殺している最中に、眠りに落ちてしまったらしい。


 しかし、ずいぶんと懐かしい夢を見たな。


 あれは、中学生の時の出来事だ。


 懐かしさをかみしめながら背中を伸ばすと、教室の壁にある丸い物体が視界に飛び込んでくる。時計の時刻が目に入った。もう、昼放課だ。


 そんなに眠っていたのか。


 俺は、未だ頭に残る眠気を振り払って、机の上に出しっぱなしだった勉強道具を片付けていく。




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