第32話
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「蒼!」
俺が会長たちを見送っていると背後から声をかけられた。
正悟たちは俺の荷物まで担いですぐにどこかに行こう焦っていた。
「どうした?」
「どうした?じゃない!いいからここを離れるぞ。」
「どういうっ…。」
「いいから来い、説明はあとだ!」
俺は正悟に手を引かれてその場を立ち去ることになった。
俺の左右には秀人と響真、背後に一がいて、詩音と正悟が先導する形で移動をしていて、まるで俺のことを周囲の目から隠しているような陣形だった。
エレベーターに乗り、2階に移動をしたのち、俺は正悟と詩音に連れられてトイレに押し込まれた。
「おい、いい加減に理由を話してほしいんだが。」
「悪い。思ったよりもお前に迫ろうとしている人が多くて、蒼を隠さないとまずそうだったからな。」
「隠す?」
「うん…。なんか、蒼の試合を見ていた人が蒼と関わりを持ちたいって言ってて、それだけならマシかな?って思ったんだけど。」
詩音がそこで一度言葉を区切ると、正悟が後を引き継いだ。
「今組んでいる男よりも乗り換えた方がメリットがあるんじゃないかって言いだす女もいてよ、それで言い争う連中の姿も見えて、このままあそこにいたら厄介ごとに巻き込まれないかねないと思ってな。」
「そう言うことか…。」
会長は『俺に勝利したことで面倒になる』と言っていたが、既に地味に面倒ごとは起こっているようだった。
さらに会長は『ここで負けるとは思っていなかった』とも言っていた。
おそらく現段階においては負けることを想定していなかったようだ。
この先どこかで争うときは俺が勝つことを想定していたようだが、俺のあの状態を知らず甘く見ていた結果、今回の事態につながったと考えることもできなくない。
本来ならここまで注目を集めないと思っていたのかもしれない。
少なくとも俺にとっても想定外のことでみんなに迷惑をかけてしまっているようだった。
「悪いな、俺のせいで。」
「ううん、蒼は悪くないよ?それに蒼はあの会長に勝ったんだから誇っていいと思うんだ!見ててすごい試合だったよ!」
「そうだぜ。会長の実力は少なくとも高校生レベルじゃないし、その道でもやっていけそうなレベルだ。それに勝つ蒼も蒼だと思うけどな!だから俺たちに悪いとか思わなくていいぜ。」
「…感謝する。」
俺たちはしばらくトイレに隠れていたが、響真たちから連絡が来ると俺たちはそこから出ていった。
「よう、待たせて悪いな。」
「いや、大丈夫だぜ。それより部屋はどこだ?」
「ああ。207だ。一応3時間使えるようにした。それだけあれば見つかることもなくほとぼりも鎮まるだろう。」
「わかった。じゃあ行こうか。」
俺は最初のうちは何の話だったのか読めなかったが、移動をしていくことで何を話しているのか理解することができた。
どうやら彼らは俺を隠す詩音と正悟、どこか人目につかないところに隠す場所を探してくる響真、秀人、一に分かれて行動をしていたようだった。
そして、隠し場所というのはカラオケで、そこならば個室なので見つかる可能性も低いだろうという判断だったようだ。
俺は彼らに連れて行かれるままにカラオケの個室に入っていった。
中に入ってからも俺の姿は外に見えにくい位置に座るように言われた。
「ふぅ〜、ようやく一息付けるぜ。」
「まったくだぜ。なんでこんなことになってんだか。」
「悪いな。」
「いや、蒼のせいじゃねーよ。勝手に騒いでいる周りのせいだろ?」
「そうだな。そんなことよりも、おめでとう、蒼雪。お前はあの会長に勝ったんだ。すごいことじゃないか。」
「すごい試合だったよ、おめでとう、蒼。」
「ありがとう。」
俺は改めてそこで響真と秀人、一からも称賛された。
会長のことを知っていた秀人からは本当にすごいことだと言いたいというのが伝わってきた。他の人からはあの試合の展開を見て、高次元の戦いだということだけは分かったようで、その試合を制した俺がすごいという感じのようだ。
「さて、せっかく入ったんだから何か歌うか?」
正悟がそう提案をしてきた。
俺と秀人は乗り気ではなかったが、3時間の予定ならば歌わない方が時間ももったいないだろう。
そう考えた俺たちは、適当に歌う順番を決めて歌い始めた。
最初にマイクを持って歌い始めたのは、正悟からだった。
提案してきた本人だからこそ最初に歌うべきだという一の発言によるものだった。
正悟が歌った曲は、少し前に流行ったアーティストの曲で上手くも下手でもないという感じだった。
聞いていた他のメンバーも同様の評価をしていて、採点の結果も全国平均より少し下という評価でそこそこだった。
「ふ〜、緊張したぜ。」
「その気持ちわかるよ、僕も人前で歌うの恥ずかしいし。」
「それに俺は初めに歌わされてるから余計に緊張したぜ。」
「まぁよかったんじゃないか?」
「そう言う秀人はどうなんだよ、得意なのか?」
「聞いてみればわかるだろう。」
そう言って秀人は正悟からマイクを受け取って曲を入れていた。
「あ、次に良いかな?あまり後の方だとやりにくそうだし。」
一はそう言って、曲を入れ終えた秀人からデンモクを受け取って曲を入れていた。
その間に秀人の入れた曲が流れ始めた。
秀人の選んだ曲は正悟が入れた曲よりもさらに古かったが、それでもかなり有名な曲だったので俺たちも知っていた。
歌い始めた秀人の声は、音程が一定で安定していた。気持ちが昂ってオリジナリティが入っていた正悟とは違って、譜面通り丁寧に歌っているので落ち着いた印象を与えてきた。
歌い終わった後に秀人は大きく息を吐いていたが、採点の結果は全国平均よりも高く高評価だった。
「どうだ?」
「くっ…、俺よりも得点は高いけど、秀人の方が機械的に聞こえたし俺の方がよかったと思うぜ?」
「たとえ機械的であろうと、安定して歌えていたのは俺だ。」
「まぁまぁ、2人ともよかったよ?この後に歌うこっちの身にもなってほしいよね。」
一はそう言って秀人からマイクを受け取っていた。
一が歌う前に響真と詩音も順番に曲を入れており、俺の手元にデンモクはあった。
一が入れた曲は最近のアニソンだった。
一は歌い慣れていない雰囲気を出していたが、サビやその前の部分では音程が安定してきて声を大きく歌っていた。
採点こそ高くなかったが本人は満足そうにしていた。
「ふう…。初めて歌うから途中でわからなくなったよ。」
「初めてだったんだ。でも、上手かったと思うよ?」
「そう言ってくれると僕も安心だよ。2人ともそこそこうまいし、その後の僕だと余計に悪く聞こえちゃいそうだし。」
「まぁ、歌うのは自分が気持ちよくなければ聴いているやつらも良く聴こえないだろ?自信もって歌えばそれでいいんだよ。」
響真はそう言ってからマイクを一から受け取った。
響真が入れた曲は有名なロックバンドの曲だった。
響真の印象にあった曲だったが、詩音曰く、響真はバラードも得意なようでこの日は歌わなかったので詩音は残念そうにしていた。
響真の歌は曲に合った激しいものだったが、譜面の音程からも外れることはなく豪快さと丁寧さを併せ持っていた。
採点結果は言わずもがなほとんど満点というレベルだった。
響真も歌い終えてすっきりしたような様子を見せていた。
「どうだった、俺の歌は?」
「うまいんだな。聞いていて鳥肌がたったよ。」
「ああ。響真は音楽をやっていたというがこれほどうまいとは思わなかった。」
「俺と秀人の勝負が何だったのかって思ったぜ。」
「本当にうまかったし、先に歌っていてよかったって思ったよ。」
各々感想を言っていったが、どれも響真を称賛する声だった。
詩音はいつも通りという様子でニコニコしていたが、どこか嬉しそうだった。
そして、響真からマイクを受け取ると、
「じゃあ、響真の後で悪いけど、次に僕が歌うね!」
そう言って、詩音も歌い始めた。
詩音が入れた曲はドラマの主題歌に使われていたラブソングだった。
詩音の歌は響真のような荒々しさとは真逆のもので落ち着いた印象を与え、それでいて、好きな人に気持ちを届けるという感情も伝わってくるような歌声で響真とは違ったうまさをもっていた。
採点結果は響真には及ばないが十分にうまいと言えるレベルだった。
「どうだったかな?」
「うまかったよ!まるで本人が歌っているのかと思ったし、本物より好きかも。」
「大袈裟だよ。それにそんなこと言ったら歌っている人にも悪いし。」
「それでもかなりうまかったと思うぜ?」
一も正悟も詩音の歌を高く評価していた。
「蒼はどう思った?」
「俺か?かなり良かったと思う。そんなに不安そうに聞かなくていいはずだ、自信を持て。」
「ありがとう!」
そう言って詩音は嬉しそうにしていた。
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