第8話
「さて、そろそろ店を出るか。」
「うん、そうしよっか。」
俺たちは、ディスプレイにあった会計というボタンを押した。
そうすると、金額がいくらだったのか表示されて、『間違いがなければもう一度押してください。』と表示されたのでもう一度押した。
画面は、『ご利用ありがとうございました。』となったので、俺たちは忘れものがないかを確認して部屋を出た。
1階に上がると、男性が会計の所で待っており、
「どうでしたかな、私の店は?」
「大変おいしく頂かせてもらいました。」
「それは何よりで。では、会計の方をしましょうか。」
「はい。」
と、俺が、会計をしようとすると、黒宮が、
「ここは私に払わせてほしいな。私が呼び出したんだもん。」
「いや、しかし、…」
「ほっほっほ。払うというんだ、払わせてあげたらどうかね?男性が払うのが普通だと考えている風潮と違って自分で主張して、筋を通そうとしてるんですから。」
俺はそう言われて、何も言い返すことなくおとなしく引き下がった。
ここで言い争う必要がないし、払うと言ってくれたのを無碍にするわけにもいかないと思い直したからだ。
「では、こちらに端末を。」
黒宮が言われた場所に端末をかざすことでポイントが支払われた。
「支払いは確認しました。またのご来店お待ちしておりますぞ。」
「「ごちそうさまでした。」」
俺たちはそう声をかけながら会釈して、店を出た。
店を出ると、地下の暗い雰囲気の中での人工的な光の下にいたせいか、太陽の明るさがまぶしく感じられた。
時刻を確認すると14:00ごろになっていた。
もう昼時は過ぎているという感じでもあり、周囲には人の姿は見受けられなかった。
俺たちは、取りあえず気になる店がないか見ながらあちこち見て回った。
「白崎さんとはどうなの?」
しばらく歩きながら会話をしているとそんな話題になった。
「どうとは?」
「やっぱり相棒となることで関係が変化したりしたのかなって。」
「そうだな…。そこまで変化はないと思うが、強いてあげるとするならば、俺に気を許してもらえているとは感じやすくなったぐらいか。」
「気を許しているって?」
「あまりプライベートなことを話すのはどうかと思うが、まぁ、そうだな…、普段学園で見せている姿とは違った一面を俺の前では見せている。悪いが千春のことも考えてこれぐらいしか言えないな。」
「ううん、大丈夫。でも、やっぱりそうだよね。気を許せる相手と同居しているなら学園とは違って家なら人前でも自然体でいられるんだね。」
「どうした?」
「白崎さんが羨ましいなって。私はみんなの期待が重くて他の人といてもなかなか気を許せる状態じゃなくてね…。」
から笑いをして無理に大丈夫という様子でそう言ってから、
「だから白崎さんが羨ましいんだ。誰か信頼できる人がいるならそう言うものにも押しつぶされないで済みそうだし、何かあっても助けてくれそうだしね。」
「…話ぐらいなら聞くぞ?もちろんクラス内部のことで話せないことを無理に話せというわけではない。押しつぶされるくらいならば、話して楽になれってだけだ。」
「はははっ。ありがとう。それなら困ったことがあったら話させてもらおうかな!」
「好きにしろ。聞くだけならしてやれる。意見を求められても俺の主観によるものになって解決できるとは限らないからな。」
そんなことを話しながら小物屋や服屋を見て回ったりしていると、書店があったのでそこに寄らせてもらった。
「気になる本がないか確認してきたい。」
「うん、いいよ。私もちょっと見てくる。」
俺たちは書店の中で自分が興味のあるジャンルのコーナーへと別れていった。
俺はそこでミステリー物を2冊、SF物を2冊、計4冊を購入した。
黒宮は雑誌コーナーで立ち読みをしていて、俺は会計が済んだことを伝えた。
「あれ、もう買ってきたの?」
「待たせても悪いと思って早めに済ませてきた。」
「全然大丈夫なのに。じゃあ行こっか?」
俺たちは書店をあとにして、他の店を見て回ろうとすると、1人の女生徒とすれ違った。
俺はその時立ち止まってしまった。
(なんだ、この感覚は…?)
「どうしたの?」
「いや、何でもない。」
「そう?」
俺は黒宮に心配されたが、何でもない風を装ってその場を立ち去ろうとした。
「あら、残念です。気づいたなら声をかけていただきたかったですのに。」
先程すれ違った女生徒が後ろから声をかけてきた。
「えーと、どちら様?新庄君の知り合い?」
「…いや、うっ…、知り合い…?」
俺は彼女の声を聞いたときに頭痛がした。
過去に、自分が幼い時によく聞いていた声と酷似している。
しかし思い出せなかった。
(いや、思い出すことを身体が拒絶している…?)
「大丈夫ですか?新庄君はあの時の記憶を持っていると思ったのですが、違うのですか?」
「…あの時…?」
「大丈夫!?」
俺が頭を押さえていると横から黒宮が心配していた。
(俺は彼女のことを知っている。彼女も俺のことを知っている。おそらくあの施設にいた1人なのかもしれない。なぜ思い出せない…?)
「うふふふ、どうやら新庄君は私のことを覚えていないようですね。では、改めて自己紹介をさせていただきます。1組の有栖院 橙香です。」
「橙…香?聞き覚えがあるような…。」
「ええ、当時の私たちは名前で呼び合っていましたよ、雪君。」
「うっ…。悪い、思い出せない…。」
「いえ、私と違って他の人も忘れてしまっていますし、雪君も忘れてしまっていてもおかしくはありませんよ。ですが、残念です。約10年ぶりに会えたのに忘れてしまっているんですもの。けれど大事なところが変わっていなくて良かったです。その野性味あふれる闘争心と鋼のような理性は失われていないようなので約束は果たせそうです。」
「おい、俺のことを…どこまで知っている…?そして、約束だと…?」
「ええ、その目です。ゾクゾクします、興奮してしまいます。けれど、忘れてしまっているなら思い出してから果たしてもらいましょう。それでは、また。」
彼女は最後に狂気的な笑みを浮かべ、そのまま立ち去ってしまった。
彼女は過去の、あの時の俺のことを知っているようだった。
俺は頭痛が収まるまで端に寄って休んでいた。
黒宮は途中から黙ったままで、彼女が立ち去ってからは俺の隣に立って何も聞かずにいてくれた。
「悪い、黒宮。もう大丈夫だ。」
「本当に?無理してない?」
「ああ、問題ない。」
「そっか。よかった。」
「…何も聞かないのか?」
「聞きたいけど、また頭痛が起こっても大変だし、覚えていないんでしょ?」
「…ああ。だが、彼女について覚えていないことがあるというだけで、全く覚えがないわけでもない。少なくとも同じ施設にいたということは分かった。」
「…その施設については聞いてもいいの?」
「そうだな…。答えることもできなくはないが、今この場では難しい。先ほどのSecret Cafeならまだしもここは人が多くて他に誰が聞いているかわからないからな。」
「そっか。じゃあ今は聞かないけど話せるときに教えてほしいな。あ、でも無理にはいいからね?」
「ああ、そうしてくれると助かる。あまり聞いていてもいい話ではないからな。」
「そうなんだ。」
少ししんみりとした空気になったが、
「それじゃあ、デートの続きしよ?このまま解散じゃすっきりしないでしょ?」
黒宮はそう提案してきたので、
「そうだな。どこかで気分転換できるといいかもな。」
俺もそう答えた。
俺たちはどこかいい店はないか探していると、
「あ、あそこ寄っていかない?」
黒宮が指していたのはゲームセンターだった。
ゲームセンターは以前よく行っていたが、最近は全く行っていなかった。
「気分転換にはなりそうだな。」
俺たちはゲームセンターへと向かうことにした。
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