第2話
―――――ゴールデンウィーク初日
俺は千春に誘われて映画館へ向かっていた。
映画館は休日と言うこともあってそこそこの人が入っていた。
俺たちは飲み物だけ購入してシアターへと入っていった。
事の顛末は、昨日家に帰った後のことだ。
俺たちは夕飯を食べながらこの休みの間に何をするか話し合っていた。
「明日時間はあるかしら?」
「特に予定は入っていない。」
「それならよかったわ。その、デート、しないかしら…?」
「デート?」
「ええ。貴方に想いを伝えて振り向かせるつもりなのだけれど何をすればいいかなんてわからなかったわ。だからシンプルに考えてみたの。」
「なるほど。それでデートというわけか。」
「そういうことよ。普通は男性から誘うものだけれどあなたにそれを期待するわけにもいかないもの。だったらこちらから行くしかないわ。」
「悪いな、そういう男で。」
「本当にね。けど、それでも惚れてしまったのよ、私は。」
千春がどこか恥ずかしそうな様子ではあったものの後半からは堂々とこちらにアピールをしてきた。
俺が早く答えるべきであるが、未だに恋愛というものをどう考えていいかわからず、俺は千春に対する答えに困っていた。
それでも急かすことなく気持ちを伝え続ける千春には申し訳なくも思った。
俺は千春との会話を終えると、どうしたものかと考えながら自室へ向かった。
考え事をしている俺に対して、
「ゆっくりでもいいから考えてほしいわ。答えは卒業までには聞かせて。」
と、千春は俺のペースで考えてくれと言ってきた。
俺自身の問題で、どうしたいか、ということはわからない。
どうすべきか、という答えは出ていてもそれは感情ではなく自己満足の義務感で千春に申し訳ない。
だからこそ真剣に悩んでいた。
結局その晩に答えは出ず、風呂に入ってから寝てしまった。
翌朝は、時間通りに起きてからランニングをした。
こちらの家に引っ越してからは毎朝俺もランニングをするようにしていた。
1時間ほど走ってから帰るようにしているが、ランニングをしていると会長の姿も見かけていた。
ランニングを始めた初日こそ声をかけられたが、今では何も話すことがなければ話しかけられることもなかった。
ランニングを終えると、シャワーを浴びてから朝ご飯を食べていた。
朝雄範を食べるころには千春も起きだしているので一緒に食べるようにしている。
「昨日の約束覚えているかしら?」
「ああ、デートのことだろう?」
「そうよ、忘れていないならいいわ。」
「何処に行くのか考えているのか?」
「私から誘ったんだもの、一応考えているわ。できれば次回はあなたから誘って、あなたにプランを立ててもらいたいけれどね。」
千春はこちらに微笑みかけながらそう言ってきた。
俺としては振り回されていることが昔から多かったので、そちらの方がいいと思ったが、
「善処しよう。」
さすがに千春に毎回考えてもらうのはどうかと思い、また、これだけアピールもされているのでそれに甘えてばかりではダメだと考えた。
俺は千春に今日のデートのことを聞き、見たい映画があるということで最初に映画館へ向かうこととなった。
そして、冒頭に戻る。
映画館で俺たちの受付をしてくれたのはあの時の先輩だった。
あちらも覚えていてくれたのかこちらに気が付くと、少し話しかけてくれて、案内をしてくれた。
今回見る映画は、余命数か月と宣告された彼女と、その彼女と最後の思い出を一緒に作ろうとする彼氏を描いた恋愛映画であった。
俺はこういった映画を見るのは初めてで、また、千春も同じだった。
千春がこの作品を選んだ理由はこうなってほしいわけではないが、恋愛映画はどのようなものか気になったことと、デートをするならこういった話の方がもう少し意識してくれるようになるんじゃないかという理由だった。
そんなことを本人に言っていいのかと聞いたが、
「言わないと伝わらないでしょう?」
と言い返されてしまった。
館内には俺たち以外にもカップルや、女子のグループ、果てに男子二人組で観に来ている人人たちもいた。
映画館などの施設は夜間か、休日しか空いていないので、この休みに観に来たという人が多いようだった。
上映が始まると、内容は大変興味深いもので、俺も思わず映画に観入ってしまった。
途中で千春がこちらの手を握ってくることがあったが、俺も握り返していた。
また、終盤では、気が付くと隣の席で千春は目を潤ませていた。
作中のヒロインに感情移入をしたようで、自身の気持ちも抑えきれなかったようだ。
上映が終わると、明かりがついたが、思ったよりも多くの人がこの映画を観に来ていたようだった。
「思ったよりもいい映画だった。誘ってくれたことに感謝する。」
「いえ、私も気になっていたから来れてよかったわ。」
俺たちは互いに映画のことについて話しながら映画館を出ていった。
昼食は近くのお店で食べることにして、そこで今後の予定について聞いた。
「この後は服を少し見に行きたいのだけれど、いいかしら?」
「ああ、それぐらいかまわない。」
「ふふふ、今度みんなでショッピングモールへ行くときに着ていく服をあなたに選んでもらおうかしら?」
「む。それは責任重大だな。」
「あなたのセンスに期待するわ。」
「自信はないがやれるだけ頑張ってみよう。」
俺たちは昼食を食べてから近くの洋服屋へ入っていった。
服に関しては以前に選ばされたこともあったので、多少は慣れているが、人が変われば似合う服や好みも変わるのでどんなものを選んでいるか傾向をつかみながら似合いそうなものを探してみた。
いくつかは彼女に聞かれてどちらがいいか選んだが、どちらがいいか聞くときはどちらかに本命がある時もあるので反応も見ながら答えた。
いくつか彼女が選んで気に入ったものを買うつもりのようだったが、
「それじゃあ、選んでもらおうかしらね。」
「わかった。それじゃあこっちに来てもらっていいか?」
俺は千春に店内を連れられている間に服を見ていて、似合いそうなものをいくつかピックアップしていた。
その中で似合いそうなものを俺はいくつか千春に合わせてみた。
いくつかピックアップしていたが、その中に千春が気に入ってくれたものがあって彼女はそれを買うと言ってくれた。
俺としても選んだ中に気に入ってくれた服が合ってよかった。
「あなたにしてはセンスがいいもの選んでいて驚いたわ。」
「俺としても気に入ってくれたものがあって助かった。内心ではこれでも緊張していた。」
「あら、あなたでも緊張するのね。」
「さすがにすべて否定されたらと思うとな。」
「あなたが選んでくれたんだもの、そこまで否定はしないはずよ。」
「そうだったらいいが、幸いにして俺の目に狂いはなかったようでよかったよ。」
「それじゃあこの服も買ってくるわ。」
「いや、その服は俺からプレゼントにさせてくれ。」
俺は皆生に向かおうとした千春から服を取りそう言った。
「待たせてしまって千春に甘えてしまっているんだ。それにデートなら少しはこちらにもいい格好させてもらわないとな。」
「わかったわ。………ありがとう。」
「どういたしまして。」
俺は千春にプレゼントする分の服の会計をしてきた。
千春はそれとは別に自分で選んだものを購入していた。
「それで、次はどうするんだ?」
「次はあなたの服よ。」
そう言われて俺はメンズの服屋に連れていかれた。
「人の服を選ぶセンスはあるのだから自分のも少しは選べるのかしら?」
「多少はな。だが、実際自分の服は適当だ。」
「そうでしょうね。だから、これを機に私から選ばせてもらうわ。」
そう言って千春はいくつか服を選び、俺を着せ替え人形にしながらしばらく服を選んでいた。
しかし、長時間その扱いはきついので30分程で勘弁してもらったがそれでもかなりの服を千春は選んでいた。
「この辺りがいいと思うのだけれど、蒼雪君的にはどちらがいいのかしら?」
時折俺にもこうやって確認をしてくれるので助かっていた。
「それなら、左の方だな。」
「左ね。わかったわ。」
そうやって服を選んでいると3着ほどに絞り込めたので、俺はそれを買うことにした。
ポイントを払い彼女からもプレゼントにすると言ってくれたが、俺は遠慮させてもらおうとした。
結局、話し合いは平行線になったので1着だけはプレゼントということにしてもらったが、それ以外は自分のポイントで購入した。
お互いの服を買い終えると、時間もそこそこ経っていた。
「今回のデートはここまでかしらね。」
「時間的にはこれ以上回るなら夕飯も外食になるだろうな。」
「私としてはそれでもかまわないのだけれど?」
「いや、今日は終わろうか。千春と料理をしている時間も良いからな。」
「あら、そう言ってくれると嬉しいわ。それなら帰りに夕飯の買い出しも済ませましょう。」
この日はデートをして1日千春と過ごしたが、夕飯も一緒に作りゴールデンウィーク初日は充実した時間を過ごせた。
この休みがこうした充実した時間で終わるといいと、らしくもなく俺はそう思っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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