第34話
こんな時間に誰からのメッセージだ?俺はそう思ったが一先ず届いたメッセージを確認することにした。近くにあったベンチに座り、メッセージを確認してみると、送り主は千春だった。
『夜分遅くに申し訳ありません。考えていたことがまとまりました。決心が鈍らないうちに貴方に伝えたいと思いました。時間の都合がつくときに二人で会いたいのですが時間の都合がつくときはありますか?』
千春が何らかのことを俺に伝えたいとのことだった。俺はいつでも構わないと思い、
『時間は何時でも問題ない。そちらの都合に合わせる。今らでも問題ない。』
そう返信したところ、数分の後に千春から電話がかかってきた。
「もしもし?」
「俺だ、どうした?」
「いえ、貴方が今からでもというから、気になったのよ。部屋にいるならそんなことを言うはずがないわ」
「いい読みだな。そちらの推測通り俺は部屋にはいない。ルームメイトの寝相で起こされたのさ。」
「そうなのね。それでどこにいるのかしら?今から行こうと思うのだけれど。」
「おいおい、本当に今からでいいのか?こんな時間に女が出歩くものではないと思うが。」
「貴方が言い出したのでしょう?それにもう外にいるわ。部屋でこんな通話できないもの。」
「はぁ…。いるのは体育館近くのベンチだ。ちょうど俺たちが終了後に休んでいたあたりの。」
「わかったわ。そこなら時間もかからないでしょう。」
「気を付けてくれ。」
「大丈夫よ、それともこのまま通話は繋いでおくかしら?」
「千春がそうしたいなら俺は構わないが。」
「冗談よ。一度切るわね。すぐ行くわ。」
「わかった。」
通話を終えたが俺は今から本当に会うことになるとは、と思いながら夜空に浮かぶ月を眺めて待つことにした。
待ち始めてから少し経つと、こちらに向かって歩いてくる気配を感じた。
「こんばんは。待たせてしまってごめんなさい。」
と千春の声が聞こえたので俺はそちらに向きなおってから、
「大丈夫だ、空を眺めていたからな。こっちの空の方がよく星も見える。」
俺がそう言うと千春も空を見上げてから、
「そうね。こちらの方が本島よりまだ明かりは少ないからかしら?」
と言った。どこか緊張したような様子ではあったが、夜空の星を見て少しリラックスしたようだった。
俺は千春のことを少しだけ待ち問いかけた。
「それで、こんな夜更けにどうしたんだ?」
俺はこんな時間で二人っきりで会っているのはどうかと思ったので本題にうつってもらおうと直球で聞いた。すぐには話し始めなかったが、大きく深呼吸をしてから千春は、
「そうね。こんな時間に呼び出している者ね、早く本題を話した方がいいわね。私の言いたい結論だけと、その結論に至るまでの過程を含めた話、どちらの方がいいかしら?」
そう問いかけられたので、
「過程から頼む。結論だけだと結局は過程も聞くことになりそうだ。」
「そうなるわね。ではそこに至るまでの過程も含めて話すわ。」
そこで一呼吸を置いてゆっくりと千春は話し始めた。
「私、初めは男子のことは兄を除いて好きではなかったわ。兄は優しくて、それでいて頭もよくて、運動もそこそこできたわ。だからそんな兄を見て周りにいる男子は幼稚でバカで、何でそんなことをするのかしらと常々思っていたわ。中学に入ってからもそうだったわ。けれど、いつからかは忘れてしまったけれど男子から告白され始めたわ。それからよ、いじめも始まったのは。よくある話じゃないかしら?何であんな女がって周囲の女子が徒党を組んで私を攻撃し始めたわ。あの頃の私は耐えることしかできなかった。でもね、兄は直ぐに気付いてしまった。私の様子の変化に兄は直ぐに気付いて私を問い詰めてきた。話したら迷惑がかかると思って最初は話さなかったの、けど兄さんは『俺たちは家族だ!兄は妹を守るために先に生まれ、妹の道を照らすためにいるんだ。今のお前は暗い道を一人で歩こうとしている。そんな危ない道を一人で行かせられるわけがないだろう?俺が隣で歩いてやるためには今千春がどこにいるのか探さないといけない。だから話してくれ。俺が兄としてお前にできることをしたいんだ!』そう言ってくれたの。例えで出した意味はよくわからなかったけれど、必死に私に向き合ってくれているのは伝わってきたわ。だから私は話してしまったわ。兄はそれを聞いてすぐに動き出したわ。兄のおかげでいじめていた人たちは呼び出され厳重注意をされ、私の生活は元に戻るはずだったわ。」
そこで千春は一旦区切ると辛そうな面持ちで、唇をかみしめていた。おもわず俺は、
「はずだった…?何があったんだ?」
と問いかけながら千春の震える手を握っていた。
「ふぅ…。ありがとう、少し落ち着いたわ。」
そう言ってから、大きく息を再び吐き、
「続きを話すわね。いじめをしていた彼女たちの中にはヤンキー崩れの兄がいたらしいの。自分たちがいじめをしていたことを棚に上げて彼女たちは私のことをその兄にやり返したいと告げたのよ。その男たちは兄と私の両方に手を出してきたわ。私と兄で出かけていることがあるのを彼女たちはなぜか知っていて、道中を襲われたの。人通りの少ない道を近道として使っていたのも悪かったわ。最初は兄も抵抗して私をかばいながら戦っていたわ。けれど不意を突かれてあの時も私は捕まって人質にされてしまった。そこから兄は一歩的に殴られ怪我を負ってもまだ私のために必死に耐えていた。男たちは兄が倒れてから私を目の前で犯そうとかそんな話をしていたわ。私は抵抗しようとしても泣くことしかできなかった。けれど、私をつかんでいる手が口元の近くに来ていると気づいたとき今しかないと思って、思いっきり噛みついたわ。それでその男に投げ出されてはしまったけれどそこから私は逃げられると思ったの。けれどね、不運はそれだけで終わらなかったわ。投げ出された先が車道だったわ。あまり人通りが多くはないとはいえ車も通る道。タイミングが悪いことに私はそこに車が来たタイミングで投げ出されたわ。私はそこで死んだと思ったわ、目を閉じて諦めていた。そこで助けてくれたのは兄よ。あんなに怪我をしていたのに私のために飛び出して、私の身代わりとなって…。」
彼女はそこまで言うと鼻をすすり涙も流していた。俺はどうすべきか迷ったが、彼女のことを抱きしめた。誰にでもするわけではないが俺は幼馴染から、
『泣いている女がいたら胸を貸してあげるくらいしてやんなさいよ!あんたが大事に想っているならそれくらいしなさいよ、バカ。』
と泣きつかれたこともあり、泣いている女が大事だったら胸を貸すぐらいした方がいいのだろうと考えていた。千春はまだ1日とはいえ一緒にいた仲だった。知らない仲じゃないからしてもいいのだろうと判断した。
千春は俺に抱き着いたまま泣いていたが、少し落ち着くと、
「ごめんなさい、突然泣き出して。」
と謝ってきた。
「大丈夫だ。それよりも千春の方こそ大丈夫か?」
「ええ。貴方のおかげで何とか。」
「それならよかった。」
と言って俺は千春を放した。少し残念そうにしたが話はそれで終わりじゃないだろうと思ったので続きを促した。
「その後は駆け付けた警察と救急の手によってこの事件は終結したわ。けれど兄は今でも入院しているわ。あれから一度も目を覚まさずに。亡くなっていない方が不思議だとお医者様は言っていたわ。それほどひどかった。それから私はふさぎ込んでしまいそうになったけど、それは兄の望みではないと思ったわ。兄が命を懸けて私を助けてくれたのなら兄の分まで私は頑張らないといけない。そう思って私は我武者羅に突き進んだわ。全ての科目で満点をたたき出せるように勉強もした。二度といじめにあわないように口調を変え相手の上に立ち続けられように徹底的にやったわ。もう弱い私とはそこでサヨナラをしたつもりだったわ。けど、今日、いえもう昨日ね。昨日同じ目にあってしまった。また私は捕まり男たちによって貴方たちがやられてしまう、そう思ったわ。けど貴方は違った。貴方は一人で男たちを倒し私を助けてくれた、それだけで私は嬉しく思った。その反面どうして貴方がそんなに強いのか、どうしてあの時兄は…って思ってしまったの。私の心はあなたに惹かれているわ。貴方の強さにも惹かれている。けど、私は私を見つめなおして知っているの。私は誰かに頼ってしまったら依存してしまう女だって。だからこの感情も好きという気持ちからきているのか依存心からきているのかわからないわ。けど、それでも貴方と一緒にいたいの。そう思ってしまったらどうしたらいいのかわからなくなって…。急にこんなことを言われても迷惑よね。ただ、これだけは言えるわ。私は貴方の側にいたいと思っているの。」
そこで言葉を区切ると、俯いてこちらの様子をちらちらとうかがっていた。思いがけない告白にどうしたらいいか、どう答えるべきか俺は迷っていた。
少し時間が経ち千春は不意に、顔を上げ、
「答えを急かすつもりはないわ。けれど、私は貴方に対して女として好ましい感情を持っている、それだけは覚えていてほしいの。」
それだけを告げると立ち去ろうとするので、
「待ってくれ。」
とだけ言い呼び止めた。
「な、何かしら?」
と彼女は不安げな瞳でこちらを見ていた。
「俺は、まだ自分の中で整理がついていないし、誰かに伝えるような話ではないと思っていることがある。だが、それがきっかけで自分の感情というものがわからないことがある。俺は千春に対して抱いている感情が何かわからないが、少なくとも悪い感情は持っていない。今の俺からはそれだけしか言えない。」
「そう…。それならいつかあなたの話も聞かせてほしいわ。」
「…わかった、善処する。」
俺はそう返すが精いっぱいだった。あの時のことを自ら進んで話したいと思ったことはなかったからだ。千春はそれを聞くと、またこちらに近づき、
「このまま帰るのも何だか癪だわ。貴方に伝えたかったことを伝えきれていないもの。もう一つ考えていたことがあるのだけれどいいかしら?」
と言ってきた。
「何だ?」
「貴方、いえ、蒼雪君。私と相棒になってもらえないかしら?」
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