第2話
続きが書けたので投稿します。
書き溜めることなく毎日書いているのでいつまで連続で書けるかわかりませんがよろしくお願いします。
「この学園の理事長である近江 秀一郎だ。まずは入学おめでとう。」
そんなありふれたような第一声から始まる挨拶だったが、このあとの発言は予想できたものはいなかったと思う。
「この場で長々と話したところで君たちの大部分は私の話なんてすぐに忘れてしまうことだろう。そこで、君たちにはこれから新入生特別試験を受けてもらう。これによってこの学園がどういうところか知ってもらおうと思う。それでは担任となる先生方、彼らの誘導を頼みます。」
理事長はそれだけ告げると壇上から降りて席についてしまった。俺たちに理事長が告げてきたのは試験を開始するという宣言だけだった。静まり返っていた体育館は騒然とした。
「試験が始まるってどう言うこと。」
「入学式を行うんじゃないのかよ。」
「どういう内容かもわからないしどうしろってんだよ。」
あちこちで不満や不安、疑問を口々にしている人がいる。俺も少なからず動揺している。入学式を行うのではなく特別試験を行うとはどういうことか。俺はこのことについて考えようとしたが情報が全くない中では考えることもできなかった。
「蒼!これから一体どうなるんだ?」
正悟がいつの間にか俺の前に来ていてそう尋ねてきた。
「情報がなさ過ぎて分からない。」
俺はそう返すことしかできなかった。
「だが、あの教員たちがこれから説明してくれるだろな。」
俺の視界に映っていた移動してくる教員たちを見ながら正悟に告げた。
「静かに。これから特別試験についての説明をする。その前に簡単に自己紹介をしよう。私は鮫島 海斗、君たちの学年の数学を担当している。ほかのクラスの前に立っているのもこの学年の担当教員だ。よく覚えておくように。これから試験の概要について説明をするが、一度しか話さないつもりだからとしっかりと聞くように。」
移動してきた教員の一人である眼鏡をかけた男性教員が俺たちに向かって話し始めた。
「それにしても、君たちは一度しか話さないと聞いたにもかかわらずメモを取らなくてもいいのかね?」
鮫島先生は俺たちにそう聞いてきて、多くの人たちが慌ててメモの用意をし始めた。俺はそんなことをする必要はないと思ったのでそのまま話し始めるのを待った。
「準備ができたようなので始めようと思う。先に断っておくがこれから始める特別試験は成績には直接関係しないからその点については心配しなくてもいい。これから始める試験はオリエンテーリングだと考えてもらうと理解が早く済むだろう。スタンプが置いてあるのはこの学園の敷地内だけではなく君達が今後行くことになるだろうという施設も含めた場所である。もちろん立ち入り禁止区域には置いていないから勝手に入らないように。もし入るような人たちがいれば当然罰があるから気を付けるように。君たちが集めるべきスタンプは8つだが、ここで注意してほしいのがスタンプは全部で40個設置してある。用紙に記載された設問に対して一致する場所のスタンプを押してくるように。そして、設問を作ったのは私たちだ、つまりそれぞれの担任が作成をしている。これぐらいなら解けるだろうと思って作っているつもりだから君たちがスタンプにたどり着けることを願う。スタートはすべてのクラスで説明が終わってからタイミングを見て合図をすることになっている。期限は明日の18時までだ。スタンプを集め終わっていなくとも提出をしなければ評価はできないから、定刻までには持ってくるように。もちろん評価をするからには上位者には特典がある。各自頑張って狙ってくれ。評価基準は話せないが、総合的に判断することになっていることは伝えておこう。提出先は自分のクラスの担任だ、間違えるなよ?以上だ、何か質問のある人はいるか?」
鮫島先生がクラスを見回すと、
「質問をよろしいですか?」
あの時の女生徒が質問をした。
「いいぞ、どうした?」
「明日の18時までとのことでした、私たちは夜の間も探索をしていていいのですか?それとも一度どこかに集まり翌朝一斉に再開するのですか?」
「ふむ、私は18時までにとしか言っていない。つまりそれまでの時間の間という意味だからもちろん夜の間も探索してくれて構わない。もちろん休みたい者は休んでいてもいい。休みたい者は、この学園の合宿所を使ってくれ。君たちの部屋が決まるまではそこが生活拠点になる予定だからな。男女は別れているし、勝手に侵入することはできないから安心してくれ。合宿所の場所はこの後支給される端末を使って自分で確認してくれ。端末については後程全体に対して説明をする予定である。」
「ありがとうございます。」
彼女は礼を言って何かを考え始めた。
「ほかに質問のある人はいるか?」
「先生、僕からも一ついいですか?」
爽やかでいかにもモテそうな雰囲気な男子が質問をした。
「先ほどの話だと男子にしか行けない場所や、女子にしか入れない場所があると思うのですが、そういった場所にもスタンプは隠されているのでしょうか?」
「隠し場所については言えないが、そういった場所にもあるかもしれないな。だが、もちろん異性しか入れない場所は進入禁止だからな。スタンプは誰が押しても問題はないからな、誰かに頼んで押してもらっても構わないぞ。」
「わかりました、ありがとうございます。」
つまり、協力者がいなければ押せないところがあるかもしれないのだな。誰か協力してくれる人を探す必要もあるな。俺はそう思いどうやって頼めばいいのか考え始めた。
「ほかに質問のある人はいないか?」
今度はだれも手を挙げる人はいなかった。
「いないようだな。それでは他のクラスの話が終わるまで待っていてくれ。」
先生はそう言って俺たちの元を離れた。
これからどう動くか考えようとしていると、
「みんな、少しいいかな。」
先程の爽やか君が俺たちに対して呼び掛けてきた。
「さっきの話を聞くともしかしたら、男子だけ、女子だけではスタンプが集めきれないかもしれない。だから、そんなときのためにみんなで情報を共有して協力できるようにしておくのはどうかな。できればみんなで全部のスタンプを集めたいからね。グループを組んで行動してみるのはどうかな?」
確かに一理ある提案ではあるが、俺には懸念事項があるため断ろうかと考えた。それに他人と行動して余計な時間がとられるというのも面倒だった。俺はそう考えて単独行動させてもらうために発言しようとしたが、
「私は賛成しかねるわ。」
どうやらまたあの時の女子のようだ。
「どうしてかな?」
「そうよ、みんな一緒の方が楽じゃない。」
「協調性ないわけー?」
男子生徒に便乗して一部の女子も彼女を非難するように声を上げた。
「別にあなたたちがグループを組んで参加することは反対しないわ。けれどね、鮫島先生は総合的に判断すると言ったのよ?グループ行動をした結果、あまり貢献できない人や全て他人に任せるような人がいたら評価はどうなるのかしら?答えだけ知ってスタンプを集めて来るだけの行動も減点対象になるかもしれないと考えるべきではないかしら?そう考えるなら安易にグループを組むわけにはいかない、それに答えを教え合うことも本人のためにならないわ。」
なるほど、俺が懸念していたことは彼女も考えていたようだ。総合的に判断というからには加点も減点もあると考えていたし、どういった行為が評価されるかわからないのだから高評価を狙うなら慎重に考えるべきだ。だが、
「発言いいか?」
彼女の発言を受けて他のクラスメイトもどうすべきか話し合っている中、俺はそう切り出した。
「まず、彼女の言ったことは俺も考えているため一理あるかもしれない。だが、協力することによる加点もあるのかもしれない。今のままでは情報も足りないし、個人で行動したい人とグループで行動したい人に分かれて後は自己責任でいいんじゃないか?」
面倒な話し合いになる前に俺は折衷案を出すことにした。こう言っておけば俺も単独で行動できると考えたからだ。
「…そうだね、うん、そうしようか。」
爽やか君も俺の意見には渋々だが賛成のようだ。そこまで全体行動にこだわる理由はないと思うが、そこは彼の譲れないところだったのかもしれないな。
「それじゃあ、みんな、彼が提案してくれたように分かれてみようか。」
彼がそう提案したため、多くの人は悩みながらも分かれていった。大半の人たちはグループ行動するようだった。単独行動をしようとしているのは両手で足りるほどしかいない。
それにしてもまだ説明は始まらないのだな。ふいに俺はそう思った。各クラスの動向を確認しているのかもしれないし、もしかしたらどこかのクラスが本当に質問をし続けているだけかもしれないが。
少しすると再びアナウンスが聞こえてきた。
「各クラス話し合いが一段落したようだな。これから全体に向けて支給品を配るのと、それらについて説明をする。これから支給するものは大事なものになるからな、しっかりと聞くように。」
やはり、こちらの様子をどこかからうかがっていたのだな。俺たちだけではなく他のクラスも何かしら対策を練るために動いているようだ。どんな競争相手がいるのか少し楽しみに思えてきた。そんなことを考えながら支給品が配られるのを待つのだった。
お読みいただきありがとうございました。
また書け次第投稿していきたいと思います。
このような作品ですが、読んでいただけるとありがたいです。