第51話
翌朝、俺がいつも通りの時間に目を覚ますと、布団では正悟が爆睡していた。
(一体何時まで勉強をさせられていたのだろうか?)
昨夜は眠れずにいた時間も少しあったため、寝つきがよくなかったが、正悟が部屋に戻ってきたことに気が付かなかった。
少なくとも日付を跨ぐ前には部屋に来れたのだろうか?
正悟の寝ている様子はいつもならば、俺が起きて部屋を出ていくのに気が付いた、と言っていることもあるから浅い眠りである可能性が高いにもかかわらず今日の寝ている様子は完全に眠りが深い。
かなり疲れているということはわかった。
俺は正悟が目を覚まさないように気をつけながら着替えて走りに行こうとした。
1階に降りたところで誰かがリビングにいる気配を感じ、俺は外へ行く前にリビングへと移動をした。
「…あれ、おはよう?」
「おはよう。朝早いな。」
「うん、ちょっと白崎さんとね。」
俺がリビングに行くと、そこにいたのは座ったままぼ〜っとしていた瑞希だった。
「昨日何か言われたのか?」
「ううん。昨日というよりさっきかな。」
「さっき?2人は何時から起きているんだ?」
「4時ぐらいかな?昨日は途中から記憶があやふやだけど、早くに寝ちゃったでしょ?だからその分早くに目が覚めちゃって。とりあえず起きちゃったから何か飲み物をもらおうかなって思ってリビングに降りてきたら…。」
「私もそれに気が付いて降りてきたのよ。」
瑞希が言い切る前に背後から千春の声が聞こえてきた。
どうやら千春はどこか別な場所にいたようで俺たちが話していることが聞こえてきたのでこちらに移動してきたらしい。
「千春か。おはよう。」
「おはよう。それで話を続けるけどいいかしら?」
「ああ、かまわない。」
「1階に降りていく黒宮さんがいたことに気が付いた私もついて行ったわ。昨日何があったのかを聞き出すために。」
千春はそう言うと、瑞希の隣に移動をして瑞希のことをじっと見た。
そして、バツが悪そうにしながらも瑞希が千春の言葉を引き継いで説明してくれた。
「ごめんね。私のせいで蒼雪君と白崎さんに迷惑をかけて。昨日私がしたことは全部説明したの。一応その理由はちゃんと白崎さんにも伝えたよ?」
「ごめんなさい。昨夜はあんなに問い詰めたりしてしまって。」
「いや、説明できなかった俺が悪いんだ。」
「もとはと言えば私があんなことしたからだよ。」
「そこは否定しないわ。ただ、理由としては納得できないわけではなかったから今回は許すわ。」
「ありがとう。」
2人の間では決着がついたことのようで今は特に問題が起こっているようには感じられなかった。
また、2人で何か通じ合っているような空気を出していて俺も当事者であるはずなのに置いてきぼりのような疎外感を感じていると、
「ん、ごめんなさい、蒼雪君のことを無視していたわけではないわ。理由をあなたに直接話すわけにはいかないからこうなっただけよ。」
「そうか。」
「けれど、確かにあなたから直接言いにくいとは思ったわ。話を聞いて嫉妬もしたわ。けれど、私にはあなたを拘束するようなことはできないし、今は一夫多妻も多夫一妻も認められている。だからあなたが他の女の子とイチャついていようと相手の合意さえあれば問題にはならないわ。今回は事後的に認めるし特に深く何かあったわけではないけれど、私のことも考えておいてほしいわ。」
「善処する。」
俺がそう言うと呆れた様子も見られたが、今後もあるだろうと思っているのだろう。
俺は基本的に他人に無関心であるが、一度親しくなった相手にはそう言うわけでもなく対象が少ない分深くかかわりあう傾向がある。
このままでいくと瑞希のことも千春のように甘やかす時があるかもしれなく、千春は自分にされているようなことは瑞希にもするのだろうと思ったのだろう。
ただ、こればかりは俺も改善できることとは思っていない。
ある幼馴染の影響で長年こうなってしまっていたので今更変わろうと思わないし、変えようとしても無意識化でもこうしてしまうと分かっているからだ。
“懐にいる人には優しくしなさい。あなたは人に興味がなさすぎるのよ。だから親しくなった人にだけ早しくしてあげて。貴方にも味方は必要なのだから。できれば、私が1番だといいんだけどね!”
彼女に言われたことを俺は思い出していた。
「それで、それでどうするのかしら?」
「どうするとは?」
「今朝も走りに行こうとしていたのでしょう?」
千春に言われて現状を思い出した。
そして、時間を確認するもすでに予定した時刻よりも遅くなっており、今から行っても問題ないとは思うがいつもより遅くなることはわかりきっていた。
「そうだな…。今日はめておく。この時間からでも問題はないが、今からだと勉強の開始も遅くなる。夜か夕方にでも行ってくる。」
「わかったわ。」
「とりあえず着替えてくる。2人はどうする?」
「私たちはここで話しているわ。」
「うん。まだ話したいことがあるしね。」
「わかった。」
「着替えたら降りてきてもいいわよ?」
「遠慮しておく。走り終わる時間ぐらいにこちらに来る。」
「え〜、蒼雪君もいたら面白そうなのに。」
瑞希は不満そうにしていたが、女子がこうやって話しているところに俺がいるのはなんとなく危ない気がしたのだ。
俺は2階に戻ろうとしたが、地下室へと移動をした。
着替えて部屋で何かしようにも正悟が疲れ切っているので起こさないようにするのは難しいと思ったからだ。
地下室ならば筋トレをしていても何かあればすぐに1階に戻ることもでき、時間を気にしながら体を動かすこともできる。
そう思った俺は雨の日に筋トレをしている部屋へと行き、そこでいつもよりは軽くした時短メニューをこなした。
一通り終わり、俺は着替えを持ってシャワーを浴びると、リビングでは皐月も交えて女子3人で話していた。
「あら、シャワーを浴びていたの?」
「ああ。地下で体を動かしたからな。あそこなら時間を気にしながらやっていればこれ以降に影響はないからな。」
「そういうことね。」
俺と千春が話していると、瑞希は、
「地下って?」
「ああ。2人には話していなかったな。この家には用途がよくわからなかったが地下室があるんだ。」
「そうなんだ。」
「行ってみてもいいかしら?」
「何もないぞ?」
「いいのよ。こういうことは見てきた方が面白そうなのよ。」
「そうか。千春、2人を連れていくがいいか?」
「ええ。いいわ。」
千春の許可も得られたので瑞希と皐月を連れて地下室へと移動をした。
地下室に2人を案内したが2人とも興味津々という様子でいた。
「先程も言ったが、ここには何も置いていないからな?」
「わかっているわよ。なんとなくここは空気も冷えて冷たいし、何度も足を運びたいとは思わない空気があるのを感じるわ。」
「う〜ん、なんとなく不気味だね。」
ここにある2部屋を見せたが2人とも何の用途あったのかはわからないがなんとなく長いしたい雰囲気ではないと感じ取ったようだ。
俺はここで正悟にやったようないたずらを仕掛けるか?と思ったがあの時は正悟には問い詰めたいことがあったからしたわけだが、特に意味もなく2人にやったらどうなることか…。
俺はそんなことを考えていると、考えていることが読まれたのだろうか。
それとも単に皐月は同じことを考えていたのだろうか。
「ねえ、瑞希?」
「ん〜、何?どうしたの?」
「ちょっとそこの部屋に忘れ物したから探すの手伝ってくれない?」
「忘れ物?でも何も落ちてなかったと思うけど…。」
「だから手伝ってほしいのよ。」
「わかった。」
そう言って瑞希を部屋に誘導すると、皐月は中に入ったふりをして扉を閉めた。
「え、ちょっと待って!」
中から最後にそんな声が聞こえたが、扉は閉まり切った。
「おい。」
「ふふふ。面白そうと思ったからつい、ね?」
「ついでやることではないと思うぞ?」
中の電気は通っているわけではないから真っ暗だ。
そして防音になっているから中からの声は聞こえない。
「開けてやったらどうだ?」
「もう少し。」
楽しそうに皐月はそう言ってきたので、俺は可哀そうに思ったので開けようとしたが、
「開けてもいいけれど、その場合は最後まで瑞希のことも面倒を見ることを約束しなさい。」
「何?」
皐月は俺に対して先程のような楽しんでいるかのような笑みを見せているのではなく真剣な眼差しでそう言ってきた。
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