第6話 ヌルヌル万能説
「はははは、何だ?大人しく斬られる気になったのか?」
レベル差に絶望して身動きを止めた俺に勇者が斬りかかる
上段の構えから振り下ろされる剣に咄嗟に両手で頭をかばう
ソファーすら簡単に両断する剣だ、俺のヒョロい両手など何の障害にもならないだろう
死の瞬間がスローモーションで近付いてくる、だが凡人の俺の身体は意識についていけず攻撃を避けれない
何かないか?こんな風に死にたくない!
必死に頭を巡らし一つだけ可能性が残されてることに気付き俺は叫んだ
「スキル発動!!」
直後、両手の周りに空気が纏わりつく感触があった
勇者の剣撃がヌルヌルになった空気に触れて大きく外れる
「何!?」
勇者が動揺している間に剣のリーチから外れる、勇者の身体能力の前では距離など無いに等しいが離れた事で少しだけ平静を取り戻す
「はっ…、なんとか上手くいったか…」
「貴様、何をした?」
勇者が格下と侮っていた相手に剣撃を避けられた怒りを隠さずに尋ねてくる
「スキルで俺の周りをヌルヌルにしたのさ、これでもうお前の剣は滑って俺を斬れない。分かったらさっさと帰るんだな」
自分の狙い通りにいった高揚感から自分の手の内を明かす
「……スキルか、なら滑るのを前提に斬るだけだ」
勇者が言葉を言い切ると同時に斬りかかる
だが恐れることはない、俺は周囲の空気をヌルヌルにし剣撃を受ける構えをとる
「愚かな、剣はもう効かないと言っ……」
勇者の剣撃が袈裟懸けに振り下ろされる
ヌルヌルの空気に剣が触れた、しかし勇者の剣撃は侵入角度を変えることなく俺の身体を切り裂いた
「がぁぁぁぁぁあ!!!」
斬られた胸から鮮血が舞い散る
「浅かったか、調整が難しいな」
勇者は呻く俺を気にせずに振り抜いた剣を見て感想を述べた
幸いにもヌルヌルの空気が壁になり表面の皮膚が斬られた程度だったが
「痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
今まで生きてきて大した怪我も無くヌクヌクと育って俺には過剰な痛みだった