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☆3☆

 二十四日のクリスマス試験当日、課題の詳しい説明を聞いたあたしは目の前の現実にげんなり。

 まさかあたしとシロンのチーム名が、また『桃色猫組』だなんて!

 『桃色猫組』の名を頂いたチームは、試験で最下位になるジンクスがある。現にハロウィン試験で『桃色猫』のエンブレムをつけたあたしとシロンは、忠実にジンクスを守ることとなったのだ。

「はあぁぁっ、ツイてない……」

 学校の庭園で先生から細い革ベルトのついたエンブレムを受け取り、あたしは青ねず色の曇り空を背にした学園を見上げて大きくため息をつく。朝日が昇りきらない早朝、黒大理石の外壁は不気味な異彩を放っていた。北欧の城と似た建築様式だそうだけど、憂鬱な気分で見上げるそれはまるで悪魔の城砦のよう。

 今回の課題は『イグドラシル(世界樹)』の頂上に『クリスマス・スター』を飾ること、そのためには他のチームと頂上到達までの早さを競わなくてはならない。現地調達する『クリスマス・スター』を手に入れる方法は習ったけど、あたしに出来るかなぁ。

「また『桃猫』だな」

「そうなのよぅ、シロンがなんて言うか……って、うわっ!」

 振り向くと、当のシロン本人が苦笑を浮かべている。

「鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚かなくてもいいだろ? チームごとに並べという先生の声が聞こえなかったのか?」

「あ、ああそう、ゴメン。えっと、今度は……」

 足を引っ張らないように頑張るよと、あたしが言い掛けた時。

「今度は最下位にならないように、お互い頑張ろうぜ。それから昨日は、悪かったな」

 意想外の言葉に再び、あたしは目を丸くしてシロンを見つめた。シロンの方から謝るなんて、どういう事? 不機嫌そうな顔が少し赤い気がするのは、まさか照れてるとか? てっきり『桃猫組』になった運の悪さを、嘆かれるかと思っていたのに。

 そう言えば、あたしのことをドジとかノロマとか、役立たずと言うことはあっても、同じチームになったことを嘆くような言葉は今まで聞いたことが無かった。賢者様の決めたことだから仕方ないんだって、諦めてるだけなのかな……。

「『桃猫組』、出発しろ!」

 庭園に描かれた魔法陣が青白く輝く。先生が送ってくれる『クラッシュ・ケイブ』の外、未知の世界への期待と恐れを抱きあたしは魔法陣に足を踏み入れた。白く透き通る身体、軽いめまい。意識だけが先に、遠い世界に飛ばされる感覚。学園の外壁があたしを飲み込むように迫り、ゆがんで消えた。


 クリスマス・スター……クリスマス・スター、どうぞ願いを叶えてください。

 あたしの赤毛が、プラチナブロンドになりますように。

 孤児院のみんなが、幸せになれますように。

 あたしが本当のパパとママに、会えますように……。


 いつの間にかあたしは、ミルク色の雲の中をゆったりと漂っていた。白くて薄いカーテンの向こう、小さな女の子が泣いているのが見える。オレンジ色のツインテール、着古してボロボロの黒いワンピース。あれはあたしだ、きっと髪のことでまた孤児院の年長者に虐められたんだな。

 若いシスターが現れて、泣いているあたしを優しく抱きしめてくれた。年少者の面倒を見てくれる、シスター・エレクトラだ。いい匂いのする長い黒髪、いつでも暖かく見守ってくれるガーネット・ブラウンの瞳。シスター・エレクトラに抱きしめて貰うと魔法みたいに、辛いことも悲しいことも消えてしまう……だって、シスター・エレクトラは本当の魔法使いだったんだもの。

 七歳の誕生日を迎える少し前、髪の色をからかった男の子と喧嘩になったあたしは、自分でも解らないうちに不思議な力でその男の子を傷つけてしまった。救急車で運ばれた男の子は『てんかん発作』と診断されたけど、本当はあたしが心の中で『死んじゃえ!』と願ったから倒れたんだ。あたしは自分が怖くなった。どうしたらいいか解らなかった。男の子が死にそうになったのはあたしのせいだと、きっと誰かに気付かれる。もう孤児院にはいられないと思った。

「大丈夫よ、心配ないわ」

 恐怖と混乱で泣いていたあたしを抱きしめ、シスター・エレクトラは小さな子をあやすみたいに背中をさすりながら何度もそう言ってくれた。それはお母さんの温かな胸に抱かれているみたいで、不思議と恐怖も不安も消えていく。 

 記憶は無くしてしまったけれど遠い昔、自分は魔法使いだったのよとシスター・エレクトラは教えてくれた。魔法を使えなくなった今は、あたしのように小さな魔法力があるために人間界に居場所を失った子供を助けているという。

「あなたには、行くべき世界があるわ」

 シスター・エレクトラに案内され、『時の賢者』様の作った魔法陣をくぐりこの世界に来た。そしてママ・グレンダの家にお世話になって、十五歳で『ファートゥーム魔法学校』に入学したのだ。

 ママ・グレンダは実の娘みたいに可愛がってくれるけど、時々、無性にシスター・エレクトラに会いたくなる。あの胸に、抱かれたくなる。

「シスター……」

 こぼれそうになる涙を堪えて、あたしはローブの裾をギュッと握りしめた。

「シスター? それって、誰のことだ?」

 その声は一瞬のうちに、あたしを夢から現実に引き戻した。

 見回せば辺りはミルク色の霧につつまれ視界が悪く、足下はゴワゴワした黒くて薄い皮のようなものが幾重にも重なった歩きにくそうな場所。そして目の前に、シスターならぬシロンの姿。

 はあぁ……またしてもシロンに不覚をとってしまった。あたしは小さくため息をつく。魔法陣を使った『スキップ』は、マスタークラスの弟子でないと意識を失ってしまうのが普通だ。でも、これまで何度も一緒に『スキップ』したけど、シロンが意識を失ったのを見たことがない。つまり失神するのはあたしだけで、悔しいけど今回も無防備な姿をさらした事になる。

『スキップ』の最中は時々、恐ろしいものが見えるという。魔法を習っているから、ある程度は不気味なものに耐性と免疫が出来たけど、やっぱり幽霊や魔物や得体の知れないものは大嫌い。言い訳するワケじゃないけど、失神してた方がマシ。

「なっ、なんでもないわよっ! それより早く行きましょ、他のチームに後れをとるじゃないっ!」

 慌てて歩き出そうとしたあたしは、何かに縫い止められたように進行が妨げられて前につんのめった。

「うわっ、とととっ!」

 黒くひび割れた塊の角が、眼前に迫る。ヤバイ、顔から突っ込む! と思った瞬間。素早く伸びたシロンの腕が、身体を抱き留めてくれた。

「あのなぁサイ、俺のローブを掴んだまま前に進まないで欲しいんだけど」

「えっ? あ、やだっ!」

 あたしが自分のローブだと思って握りしめていたのは、シロンのローブの裾だったのだ。ああだから、前に進めなかったのか。恥ずかしさで頭に血が上った顔は、真っ赤になっているに違いない。なんだか心臓も動悸が激しいぞ、どうしちゃったんだろう、あたし。

「ゴメン……えっと、その、助けてくれてありがとう」

「いいよ、別に。それよりいつも思うんだけど、その道化師みたいな服装で寒くないのか? 鼻水くらい拭いておけよ、みっともないからさ」

 ムカッ! せっかく素直にお礼を言ったのに、そういう言い方するかな? 転びかけた拍子で長いローブが捲れ上がり、露わになったあたしの勝負服。大きく開いた襟ぐりが、レースとビーズで縁取られたモカブラウンのニット。白のショートパンツ、赤と緑のクリスマスカラー・オーバーニー(膝上靴下)、そしてママ・グレンダがプレゼントしてくれたピンクのティペット(毛皮製付け襟)。スタイル抜群のあたしによく似合うってママ・グレンダは絶賛してくれたのに、寒くて鼻水出すようなマネするわけないでしょ。女の子はおしゃれのためなら、どんなことでも我慢できるんだから。

 とは言え、なんだか鼻がむずがゆい。

 肩からさげた、あたしのお気に入りガマ口型ビーズポーチからハンカチを取り出し鼻先をぬぐう。その時ようやく、自分の目元に涙が滲んでいたことに気がついた。やばい、シロンに気がつかれたかな? でも多分、寒さのせいとしか思ってないわね。

「うん、きっとそうよ!」

「何をブツブツ言ってるんだ? 鼻をかんだら桃猫を探しに行くぞ」

 もうちょっと、女の子に対して他の言い方が出来ないのかな。と、思っている間にシロンはローブを翻し、霧の中に消える。

「ちょっと、待ってよシロン!」

 白い霧に紛れてしまいそうな薄灰色のローブを見失わないように、あたしは急いでシロンを追いかけた。いったい、どこに行くつもりなんだろう?

 魔法陣を使って、あたし達が移動した場所は『イグドラシル(世界樹)』の枝を斬って作られた『ステージ』と呼ばれる場所だ。この世界では一本の大木として存在が見えるけど、人間界ではエネルギーの流れる血管のようなもので実態はないらしい。

「シロン、桃猫のいる場所を知ってるの?」

 この課題をクリアするために、それぞれのチームは乗り物になる『魔獣』を手に入れなくてはならない。エンブレムに記された種族がそれだ。つまり、あたし達が手に入れるのは『魔獣・桃色猫』。『黄色豹』や『白色狼』なら格好いいのになぁ。

「『スキップ』途中で、気配をサーチしておいた。時間がもったいないからな」

「あっ、そう……」

 優秀なシロンらしい、素早い行動。

 シロンならきっと、一年くらいで『時の賢者』様の弟子になれるだろうな。でも正統後継者と言われるオーギュ様に、張り合えるわけがない。死ぬ前のお母さんを助けることが出来るのは『時の賢者』様だけだ。他に方法があるとしたら、『冥府の賢者』様になること……。

 あたしは大きく、かぶりを振った。だめだ、そんなの。死者と冥界を管理する『冥府の賢者』様になんて、なって欲しくない。そしたらシロンは、シロンじゃなくなってしまうような気がする。想像しただけで、あたしの背筋は凍り付いた。

 一度だけ授業を受けたことがある『冥府の賢者』様。その存在は教室の空気を真冬にし、窓の光を陰らせ、すべての候補生の心を暗く陰鬱な気分に変えた。地の底から響くような重い声、黒炭色の精気のない瞳。白い額に纏いついた、タールのような髪。授業中はとても眠くなったけど、もし眠ってしまったら二度と目が覚めないような気がして必死に起きていた覚えがある。

 『冥府の賢者』様になれば、いつでも死者の魂を呼び出せるという。だけどシロンだって、生きているお母さんがいいに決まってる……。

「桃猫、いるなら姿を現せ!」

 突然シロンが大声で叫んだから、考え事をしていたあたしは心臓が止まるほど驚いた。

「どこ、どこっ? どこに桃猫がいるの?」

 シロンは頭上を指差したけど、ミルク色の霧が河のように流れていくのが見えるだけ。

「契約に来た、隠れていないで出てこい!」

 もう一度大きな声でシロンが叫ぶと、頭上の霧が薄桃色に変色する。

「断りもなく、俺を起こすヤツは誰ニャァああっ?」

 破鐘を岩場の急斜面に転がしたら、おそらくこんな音だろう。それは声と言うより、雷の轟き。頭に共鳴する大音響に、眩暈がして倒れそうになった。でもシロンも負けていない。

「今年の競技で貴様と契約する権利を得た候補生、シロンとサイだ!」

「ほほぉう……その名からして『ひろいっ子』のコンビだニャあ? ずいぶんと高圧的で生意気な物言いをする、気に入らニャイねぇええ」

 確かにシロンにしては、随分と高飛車な言い方だ。普段はこんな話し方すること無いと……そうだ、そう言えば一度だけあった。

 『ファートゥーム魔法学校』に入学したばかりの生徒達が、基礎教育である賢者の歴史を学んでいたときだった。突然シロンが立ち上がり、魔法使いはみんな敵だと言いだしたのだ。高圧的な態度で魔法使いを糾弾し、憎んでいると言い切った。教室は大騒ぎになり、他の部屋で専門学習をしていた生徒達まで入り乱れて乱闘騒ぎ。先生達や学園に用事で来ていた賢者様のお弟子さんでようやく事を納めたんだけど、あの後一ヶ月くらいシロンの姿を見かけなかったな。だけどクラスに復帰したとたん、あらゆる分野で好成績を収めるようになった。

 一ヶ月の間、賢者様や先生が魔法使いの立場を説得したのだろう。だけど一番奥深い部分で、シロンは魔法使いを憎んでいるのかもしれない。お母さんを亡くし、自分がこの世界に来る原因となった魔法使い、しいては賢者様のことを……だからこんなところで態度に出てしまうんだろうな。それなら、やっぱりあたしが頑張らなくちゃ!

「ごめんなさい桃猫さん、悪気はないのよ。シロンは少し言葉が乱暴だけど、とても勉強熱心で優秀なの。賢者様の血族に、ひけをとらない成績なんだから。それに真面目で正義感も強いし、将来必ず『時の賢者』様のお弟子になって立派な勤めを果たしてくれるわ。だからお願い、力を貸して貰いたいの」

「『時の賢者』の弟子だと?」

 必死で訴えるあたしの願いが通じたか、桃猫の声は少し柔らかくなった。熱意で落とせる相手かもしれない。

「そうなのよ、敢えて困難な道を選ぼうとしてるけど、シロンは……」

「弟子で終わるつもりはない、俺は『時の賢者』になる」

「ええっ?」

 ああなんてこと! そんな偉そうなこと言ったら、せっかくのフォローが台無しじゃない。あたしは急いで取り繕う言葉を探す。だけど焦りが募るばかりで、うまい言葉が見つからなかった。ところが。

「『ひろいっ子』の分際で、なかなか面白いことを言うニャあ。だが強気の発言は悪くない、最近の候補生は保守的でいかん」

 意想外の反応に驚いて、あたしは桃色の霧を見つめた。するとその中から大きな、とても大きな、信じられないほど大きな猫が姿を現したのだ!

 双肩を揺すりながら、しなやかに繰り出される長い足。その足下から徐々に見上げると、あたしの頭三つ分上の位置に小振りのカボチャほどもある黒々とした鼻が濡れて光っている。鼻の周りを覆う、ふわふわしたピンクの毛。真綿のようなその毛の中から突き出すのは、一本があたしの小指ほどの太さのある長いお髭だった。

 桃猫は背中を丸めるようにして、あたしに顔を近付けた。

「よぅお嬢ちゃん、俺の名はロセウムだ。あんた、なかなか素敵な格好してるニャぁ」

「ど、どうもありがとう……」

 瞳は金色の真球、しかも隻眼! 左目に彫金を施した眼帯を掛け、かなり癖がありそうな顔つきだ。

「シロンというのは、お前か」

 金球を分かつ黒いラインを、すうっと細めて桃猫はシロンを見つめた。シロンは挑むような目で、その視線をまっすぐに受け止める。緊迫した空気に、あたしの心臓は締め付けられた。桃猫と契約しなくては、『イグドラシル(世界樹)』の頂上に登ることが出来ない。どうかシロン、桃猫を怒らせないで……。

「いい面構えだニャ、彼女の格好も気に入った。俺は可愛いオニャノコが大好きなんだニャあ。契約に応じてやっても良いぞ」

 やった! この勝負服が功を奏したみたいね。苦々しそうに顔をしかめてるシロンに向かって、あたしはにっこり笑って見せた。

「だがニャあ、契約の条件はきちんと守って貰わねばならん。解っているだろうニャ」

「もちろんよ」

「ふふん、可愛い子ちゃん。お手並み拝見だニャあ、易々とは探らせないぜ」

 契約とは、魔獣を従えるために取り交わす約束事だ。賢者候補生は定められた『魔獣』の心象を探り、『魔獣』の真の姿を見つけなくてはならない。真の姿とは『魔獣』が熱望する望みのことで、そしてその望みを体現するため、互いに協力し合うことを約束するのだ。

『桃猫ロセウム』の、真の姿とはなんだろう? 目の前の大猫は薄桃色とクリーム色の縞模様を身に纏い、金の隻眼で値踏みするようにあたしとシロンを見つめていた。鋭い牙が覗き見える大きな口は耳まで裂け、長い髭を揺らしながらニヤついてるみたいだ。あたしは静かに目を閉じると、桃猫の内面をサーチした。その心象を、探る、探る、探る……。

 攻撃や防御、変換や錬成などの物理魔法が得意なシロンと違い、あたしの得意は精神的ダメージを与えたり、回復したり、思考を読み取ったり操作したりするメンタルな魔法だ。だけどさすがに『魔獣』のガードは堅い。あたしは暗闇の中に針の先ほどの光を求め、桃猫の内面に神経を張り巡らせた。

 ああ何か聞こえてきた、あれは戦う兵士のときの声? 黒く渦巻く煙、赤々と燃える火、焼け落ちる城壁……戦火の中を疾走する金色の獣。左目に刀傷、背には白銀の鎧を身に着けたプラチナブロンドの青年。

「桃猫、あんた『時の賢者シグルス』様に仕えていたのね!」

「ニャニャニャニャニャああっ!」

 驚いた桃猫は高く跳び上がると、宙で一回転して華麗に着地した。

「おまえ、嫌な魔女だニャあ……今までの賢者候補は、誰も探り出すことが出来なかったんだが」

 人間界で大きな戦争が起こると、場合によっては賢者様が直接介入する。多くの命が犠牲になる大規模な戦争は、賢者様の管理が及ばない他の世界からの介入があり、直に出向かないと収められないときがあるらしい。

 『時の賢者シグルス』様も、一〇九六年頃から十三世紀後半まで人間界の戦争に時々出かけていたという。確かに競技場のレリーフに猫科の獣も一緒に彫られていたけど、まさかこの桃猫が従者だったなんて。そして桃猫が熱望しているのは、本来の金色の姿に戻ることだった。

「だけどどうして、そんな姿になっちゃったの?」

 桃猫は決まり悪そうに前足で顔を洗い、毛繕いするため後ろに首を回した。

「まだ契約を取り交わしていないからニャ、話す必要はない」

 真の姿を言い当てられた『魔獣』は、素直に契約の言葉を待つと聞いていたけど態度悪いなぁ。まあいいわ、切り札はあたしが握ったんだもの、どうせ逃げられない。

「それなら今ここで契約を取り交わす! 『桃猫ロセウム』、汝が真実の姿を得るために我は力を尽くすと約束しよう」

 そっぽを向いている桃猫に、あたしは大きな声で契約の言葉を叫んだ。すると桃猫は、反射的に直立不動の体勢になる。

「我は契約に従い、真実の姿を得るまで汝に従うことを誓おう」

 返礼した桃猫は、肩を落として大きくため息をついた。

「はあぁぁ……しかたニャい、背中に乗れ」

 シロンが先に飛び乗り、手を差し伸べてくれた。少しは見直してくれたのかな、照れちゃうけどすごく嬉しい。あたしはフワフワして暖かい桃猫の背に乗ると、チームエンブレムのついた革ベルトを首に回して取り付ける。

「さてと、どこに行けばいいのかニャあ?」

「もちろん、『イグドラシル(世界樹)』の頂上よ!」

「了解!」

 一足で桃猫は、空高く舞い上がった。



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