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雪乃・【1】

時間ないですが完結を目指します

「何か大事なこと忘れている気がする」

その思いにしばらくふけって、ぼんやりしていた。

本のページをめくる手をしばらく止めていたと思う。

目の前のソファでこっちに背を向けて座り、テレビモニターでゲームをしている黒髪の男子が振り向かないまま、私に訊いた。

「何を?」

「うーん、思い出そうとしてるんだけど…」

彼がこっちに一瞥をくれる。

「あなた最近そういうことよく言いますね。猛暑のせいかな」

む、彼に本格的に心配されないうちに思い出さなければ。

「逆になにか覚えてることあるの?言ってみて」

「あるよー、もちろん、他のことはちゃんと覚えてるよ」

笑われて、私はむむむと言い返す。

「たとえば?」

彼はますますからかい口調だ。

レポートは、ちゃんと全部出したし、あと、やるべきことだって…ええと…

ええと…

いくら猛暑の名残でまだ暑くて、私はとろいといっても、ぼうっとしすぎだ。落ち着こう。

私の名前は萩尾雪乃(はぎおゆきの)

大学の幼児教育科で学んでいる。

趣味は、家にどっさり植えてある金木犀を、有効活用すること。

毎年、ポプリ、香水、シロップ、ルームスプレー、などをつくる。

眼の前のソファに沈み込んでいる、細身の生成りのシャツを着ている彼は望田響(もちだきょう)君という。

私の彼氏で、一応、婚約したような、ことになってる。

小学校のときから知っていて、最近、お互いの家に改まって挨拶にも行った。

ほら、ちゃんと覚えてる。

ここは響ちゃんの住むアパートで、今朝食べたのはキウイヨーグルトだったし、昨日の夜食べたのは…

昨日の夜はええと…

やばい、これではまた笑われてしまう。

ちょっとど忘れしただけだ、最近忙しくて考えることも多いから。

「ね、これみて、ツイッターでバズってたやつ。」

私が自分に言い聞かせていると、響ちゃんがソファの背から後ろに身を乗り出してスマホの画面を見せてきた。

「年端もいかない子が、何か大事なこと忘れてる気がするって言ったら、それはこの世に生まれる前に、「何か悪いもの」と」した約束の可能性があるかもしれなんだって。だからそう言われたら周りの人は「それは終わったよ、忘れていいよ」と言ってあげなきゃだめなんだって。言わないとその悪い約束が継続してしまって、悪いことが起こるかもしれないから」

「え、なにそれオカルト?」

ツイッターではたまにこういう不思議でちょっと怖い話がバズる。

響ちゃんがこんな話に興味を示すのは珍しいな。

「わあ…変なの」

私は彼が示したツイートを眺めた。

「ね、怖いね」

「怖いっていうか、ミステリアス…?」

「だからもしこれからアナタがやたらとそういうこと言ったら、そのたびに俺が忘れていいよって言いますからね。それは終わったよ、忘れていいよって」

「え、うん、わかった」

軽口に思わずうなずいてしまったけど、私は年端もいかない子じゃないんですが。

でも、そっか、忘れていいんだ。

私は安心し、読みさしの本に戻った。

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