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短編 女性主人公

婚約破棄の末に売られた令嬢、何故か売られた先で冒険者になる為に鍛えられる

「リューナ、貴様との婚約を破棄する!」


「……え?」


 豪奢な貴族達の夜会。突如、私は婚約者に婚約破棄を告げられた。何故か怒りの形相の婚約者。その後ろで震える令嬢。あまりに突然の事にリューナは言葉が頭に入ってこない。


 コンヤクヲハキスル? 文字だけが頭に反響し意味を理解してくれない。だが、婚約者は続ける。私が如何に卑劣で性悪だという事。そして、それを隠してとある令嬢を虐めていたと言う事を話し続ける。


 同然、私にそんな覚えは無い。そもそも婚約者の後ろで震えている令嬢とは喋った事すらなかったのだ。


「そ、そんな事してないわよ!」


「嘘をつくな。証拠があるんだーー」


 怒りに染まる婚約者。その後ろで震える令嬢。驚き、疑惑の眼差しでこちらを見る人々。息が苦しくなり視界が歪む。悪い夢でも見ているのか、私は思う。だが、夢ではない。私は嵌められたのだ。


 その夜会を境に私ーー貴族令嬢リューナ・ヴァルシュタインの人生は180度変わる事になった。


 私の悪事は事実ではない。詰まるところ、私の婚約者を掠めとろうと企む令嬢の策略であった。


 説得力のある嘘と、不確かな真実。正当性を得るのは前者である。私が幾らやってないと叫んでも最早意味がなかった。


 あっという間に悪評が広まり私に居場所が無くなった。家族にも見捨てられ、最早、私に味方はいない。この先どうなるか……そんな時、私を引き取りたいと言う男が現れた。






「ふん、お前が例の」


「な、何よ」

 

 そいつは隣の大陸から来たと言う。異国の人間らしい褐色の肌。名をハンザと言うらしい。そいつは大金を出し、私を買った。両親としては厄介払いも出来るし、金も手に入るし好都合だったんだろう。トントン拍子に話は進み、私は売られた。


 そうして別の大陸に連れてこられる。ハンザは結構名うての冒険者らしい。その住まいは中々立派なものであった。


 何故私を買ったのか。たまたま依頼で此方の大陸に来ていて私を見かけたらしいが……。まぁ、男が女を買うとなれば一つしかない。元貴族の娘は好き者にとったら貴重だろう。……あのままだったら死罪になるのを待つだけだ。だったら生きているだけましだ。私は覚悟を決めた。







「よし、今日から鍛えるからな」


「は?」


 私がハンザから命じられのは夜枷では無く……何故か冒険者になる為の訓練だった。その日から私は一日中しごかれる。訳が分からない。


「く、くぅ……」


「なんだへたばったのか?」


 ハンザの訓練はスパルタであった。私が倒れる絶妙なラインを見計らってしごいてくる。なんなんだこいつは。何で大金叩いて買った私にこんな事をさせるのか。そういう趣味なのだろうか。



「く、くそ。一生許さないから……」


「お、いいぞその息だ。追加で100回」


「ひぃ」



 訳わからないが主人の命令には逆らえない。私は毎日、毎日しごかれ続けた。



 ■ ■ ■ ■



 ハンザにしごかれて1年が経った。相変わらずスパルタではあったが人は慣れる。それ程苦にはならなくなっていた。寧ろ……何だか悪くない。訓練で教えられる事を学んでくのは達成感がある。


 ……ただ随分筋肉がついてしまったが。もう昔のドレスは着れないだろう。着る機会もないが。


「ど、どこに連れてくの」


「ん? 秘密」


 馬車に揺られてついたのは見知らぬ森の中。そこで降りるように私は促される。


「はいこれ」


「……ナイフ」


 ハンザからナイフを渡される。何時も訓練で使うナイフだ。


「じゃあ1ヶ月この森で過ごしてね。またここに迎えに来るから」


「……へ?」


 い、1ヶ月過ごす? 私が呆気に取られているとハンザは馬車に乗り込む。


「ち、ちょっと待って。ナイフ一本で?!」


「ああ」


「し、死ぬよ?!」


「大丈夫大丈夫。ちゃんと鍛えたから。じゃあ」


 そう言うとハンザ馬車で走り去ってしまった。森に残されたのはナイフ一本で立ち竦む私だけ。


「く、くそがああああ!!」


 誰にも届く事の無い罵りが森にこだました。




 ーーーー1ヶ月後。




 結論から言うと私は生き延びた。ハンザにしごかれて教えられた冒険者としての知識を活用してどうにか生き延びたのだ。


 ただ、やはり現地で実際に行うのは違う。イレギュラーな事ばかりだし、応用が必要な事ばかりだ。


「成長したなぁ」


「う、うるさいわよ。置き去りにして」


 悔しいが今回の事で成長できた事は確かだ。くそっ。ひどい事をされたのに何故か憎めない。それが何だかもどかしくてむず痒かった。同時に認めたくは無いが……ある思いが胸に浮かび始めていた。……ダメだ。私は買われた身分なんだから。



 ーーーーそうして、月日が過ぎて行く。



 森に置き去り事件から5年が経った。私はハンザの紹介で冒険者ギルドに登録し、ハンザの指導の元依頼をこなしていった。順調にランクも上がり今ではBランクまで成長した。


 この若さでBランクは大したものだと皆は褒めたたえる。努力家だと。……だが私だけの成果では無いのだ。ここまで来れたのも。



「呼んだ?」


「来たか。まあ座ってくれ」


 ある日ハンザは私に話があると私室に呼び出した。私はハンザの正面に腰を下ろす。何故かハンザはいつになく神妙な顔をしていた。


「ど、どうしたのよ」


「お前を買ってから何年が経った?」


「んー……六年くらいかな」


 月日が経つのは早いものだ。婚約破棄されたのが昨日のように思える。……婚約破棄の夜を思い出すと何だかイライラして来た。


「どうした?」


「……婚約破棄されたの思い出してイライラしてきた」


「……懐かしいな」


 ハンザはくくっ、と笑う。婚約破棄か。だけどもういいわ。昔の事だし。それにしてもあれから色々な事があった。突然買われて、毎日しごかれたり、森に置き去りにされたり。因みにあれから3ヶ月に1回は森に置き去りにされた。……まあ良い経験だ。


「まぁ、でも良いわ。昔の事だし。……それに今も……悪く……ない」


 なんか言葉に出すと気恥ずかしい。今だから言えるが冒険者も中々良い。自分の力で生き抜く。これは貴族の時には学べなかった事だ。


「そ、それでどうしたのよ」


 ハンザは何かを逡巡するように俯くが、やがて意を決して告げる。


「リューナ。君を自由にする」


「え?」


 突然の事に私は呆気に取られる。だが、ハンザは続ける。


「昨日、文が届いたが……君のいた国は滅びたそうだ」


「え……」


 ほ、滅びた? あの国が?


「君はもうBランクだ。どこでだってやっていける。元の大陸に拠点を置いても良いし……リューナの自由だ」


「……」

 

 自由。普通なら買われた身柄が自由になる事など滅多にない事だ。喜ぶべきなのだろう。だけど……私はその言葉を聞いて怒りが湧いて来た。


「……ふ、ふざけんな。私を異国まで連れてきてしごいた挙句、あとは好きにしてなんて……ふざけないでよ!」


 胸が一杯になり涙が溢れて来た。するとハンザは静かに続ける。


「……俺も昔は貴族だったんだ」


「……え」


 ……貴族。ハンザが?


「経緯は違うけど、リューナの様に国を追い出されて……。そっから死にものぐるいで冒険者になったんだ。だから……君を見つけた時、自分を重ねてしまったんだ。君を助けたのも、自分の為なんだよ。浅ましいんだ俺は」


「……勝手だわ」


「すまない」


「……なら、勝手にするわ」


 私は立ち上がり、そしてーーハンザに口付けをする。


「り、リューナ」


「浅ましいとか、元貴族とか知らないわよ。昔なんてどうだっていいわ。言ったでしょ。一生許さないって」



 ■ ■ ■ ■


 


 結局私はハンザと一緒になった。1人で過去や身分を気にしていたのが馬鹿みたいだ。冒険者として今を生きる力を教えられたのにハンザが過去を気にしていた何て思わなかった。


 動機は何だって良い。ハンザが私を救ってくれたのには変わらないのだから。


「よし、行くか」


「ええ」


 その後も2人で私達は冒険者として共に歩み続けた。


 


 



 


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― 新着の感想 ―
[一言] やっさっしー けどまあ、設定詰めて丁寧な描写をしてれば もっと面白かったでしょうね
[良い点] シンプルながら異彩を放つ。令嬢がブートキャンプに耐えられるかはさておき。 格好いい女性?、ワイルドな女性?というのも成り上がり・ざまぁの1つの方向性だと思いました。 [気になる点] リュー…
[良い点] だいたい予想つきますが、 逆ハー女が王女教育を拒否して、 国庫を食い潰して、 咎めた国王夫妻を暗殺して、 税金増し増し、 あちこちで反乱起きて、 良識貴族は参加、悪徳貴族は討伐、 国王にな…
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