旅館の料理や景色堪能中!!「そんな事どうでもいいから。やることは…分かってるよな?露天風呂だぞ?」(神様)なんの事だかさっぱりでーす
「あ、お帰りなさいっす。ご飯にするっす?お風呂にするっすか?それとも…きゃーっす!」
「初めて女性の口にアロンアルファ塗りたいって思ったよ…」
はぁ…領主の疑いとウヴァさんへの説得で頭がこんがらがってるのに、この人は…
「それでどうっすか?領主の事は分かったっすか?」
「君に言っても大丈夫っていう確証がないから何も言わないよ」
「そう言ってる時点でどんな印象かなんて予想できちゃうけどね!まぁ、私は何も干渉しないっす。安全に稼げればそこにいるし、ダメなら逃げる。そうやって生きてきたっす」
さっきまでのふざけた雰囲気は無く、真剣な眼差しで語る。彼女の苦労が少し垣間見えた。
「…部屋に戻る」
「じゃ、ごゆっくり〜っす」
さて、目先の問題としては最大級だな…どうやってウヴァさんに話を聞いて…いや、部屋に入れてもらうか。
「ウヴァさーん?入りますよ?」
「…」
返事はないが昼間とは違って殺気が邪魔してこないから許可ってことでいいのかな?
「ウヴァさ…寝てたのか」
「…」
部屋に入ると壁にもたれかかって寝息を立てているウヴァさんがいた。
とても可愛らしい姿なのだが、あの感情的になった時の怪力を考えると不埒な事をしようなんては思わない。命がいくつあっても足りない。
(さて、どうしたものか…起きるまで待つか?)
「う、うーん…」
「おっと」
寝返りで床に倒れそうになった所を受け止める。
まあ、ステータス的には怪我どころかダメージにもならないだろうけど。
側から見たら今の僕の姿はアウトだ。
2人きりの部屋で寝ている女性を抱きかかえ、角度的に見たらキスしようとしてるように見えるだろう。
「まったく、こんな所をあの女将さんに見られでもしたら…」
「…」
「…いつからそこに?」
「…『ウヴァさ…寝てたのか』らへんっす」
「ほぼほぼ最初じゃないですか!」
最悪だ…いや、むしろ最初から見てたなら何もやましいことはないと分かるはずだ!
「ま、まあ?私は第三者ですし、お客様がどんな関係で何をしようと干渉するのは良くないっすよねー…出直しまっす!失礼しまっすぅぅぅ!!」
「誤解だってぇぇぇ!!!」
「うーん…あるぇ?ミヤビさん?」
「あ、おはようございます」
とりあえず、調べてきたことの報告でもするか。
「森を調べた後ですね、領主の館に行ってきたのですが…」
聞いた話をとりあえず全部話す。情報の共有は大事だ。
「なるほど、強大なモンスターですか」
「ですが、門番の人が何やら気になる事を言ってました。明日それを聞きに行くのですが」
「行きます」
「わかりました。では、明日は話を【ざこ家】に聞きに言った後、森の調査でいいですか?」
「はい。それで構いませんよ」
よし、明日の予定も決まった。そろそろ夕飯の時間だな。
トンットンッ。
「どうぞ?」
「失礼するっすよ〜」
「女将さんか」
わざわざノックなんかしたりして。さっきはノックしてなかったくせに。
「いや〜何かしてると反応に困るっすからね…」
「何もないから安心していいよ…」
はあ、疲れる。
「今日のメニューは異世界の食材で再現した日本料理っすよ!」
「ニホンリョウリ、ですか?」
「ああ、僕の生まれた国の料理です。他の国よりも食にはこだわりがあって美味しいですよ」
「再現できてるか不安っすけどね」
見た感じは和風料理だ。山菜をふんだんに使った天ぷらや炊き込みご飯。魚の活け造りまである。
「こんなにたくさんの料理をどうやって…いや、まずは頂きますか」
「その方が嬉しいっす。あとで話しますよ」
「では、いただきます」
「いただきます」
「はいどうぞっす」
刺身は淡白な味だが、それを醤油ではなく岩塩で食べるというのがいい。僕は基本的にはわさび醤油で食べていたがこれはこれで美味しい。
山菜の天ぷらも炊き込みご飯も再現度が高いどころか日本の高級料亭と大差のない味だ…。
この子は一体何者なんだろう。
「とても美味しいです!これ何をどうやって作ってるんですか!?」
(あ、やばい。女将さん教えちゃダメだ!僕はもう死にたくない!)
「いや〜。教えたいのも山々なんすけど、これを作るには固有スキルが必要なんすよ」
「それは残念です」
(ふぅ、危なかった)
死にかけるほど美味しいなら最高だが、ウヴァさんの手料理は違う。もはや不味いという概念ではない。美味しくないと感じすらしないほどなのだ。
「そういえばさっき言ってましたね。何と言うスキルなんですか?」
「私がこの世界に来た時に持ってた固有スキル【再現者】と普通のスキル【解析】と【分解】っす」
なるほど。【解析】で元の世界の食材や調味料と似た成分を持つ物を見つけて、【分解】し、【再現者】で再現するってことか。
「その通りっす」
「ふむふむ。それは確かに私には出来ませんね〜」
「無理っすねー」
本当、出来なくてよかったよ。
「「ご馳走さまでした」」
「じゃあ片付けちゃいますね。それで?ウヴァさんも混ぜて3人で話し合うってことでいいんですか?」
「ええ。それでいいですよ」
「了解っす!少し待ってて欲しいっす」
食べ終えたお皿を下げて女将さんが部屋から出て行く。
「私もいていいんですか?」
「ウヴァさんは僕が異世界人ということは知っていますし、言いふらしたりしないって信用してますから」
女将さんはまだ完璧に信用はしてないけどね。
「お待たせしましたっす」
「それじゃ、始めましょうか」
「何から聞きたいっすか?」
それはもちろん…
「どうやってこの世界に来たんですか?」
「まあ、そうっすよね。順を追って話すっす。元の世界では私は至って普通の女の子でした…」
実家は旅館を経営。8歳になった頃、旅館の裏山に変な渦ができていたそうだ。
気になってその渦に触ってみたところ、この世界に来てしまったらしい。
それが今から5年前の話。
「そんな小さい頃からこの世界に来ていたのか…」
「最初は大変だったっす。食べ物を買うお金は無かったんで、スキルを使ってその辺の草ばっか食べてたっす」
なるほど。そのおかげでこんなにたくさんの野草を使った料理が得意になったのか。
「それで、作った料理を行商人に振る舞ったら美味しいって評判になったんす」
「ふむふむ。そして資金を得て、それを料理で増やしてを繰り返したら…」
「今の旅館を持つほどになったっす」
「大変だったんですね…」
というか、ウヴァさん隣で泣いてるし。
ちなみに多分それ本にしたら売れるぞ?【異世界転移して料理人始めました〜】とかそんな感じでうまく書いたら。
「まあ、実際女将さんの素性に興味はないんだ。それよりも大切なのは、元の世界に戻れるかってことなんだけど…」
「御察しの通り、まだ見つけてないっす」
「そうか…」
そんな方法あるならとっくに帰ってるか、もっと楽な商売してるよね。
「それで?お兄さんはなんでそのお姉さんと旅してるんすか?」
「私じゃいけなかったんですか?」
「ああ、ごめんっす。そういう訳じゃなくて。2人じゃなくても十分強いっすよね?異世界人だって知られるリスクを高めるだけの何かがあったのかなって思ったんす」
と言われましても…。全部話していいのか悪いのか…。
「…僕は召喚されてこの世界に来たのですが、その時にその人は僕に世界に起きる災厄を止めることを頼みました」
「(ミヤビさん…全部は話さないって事ですね?)」
「ふむふむっす」
「それで、召喚された場所の近くの街でギルドに登録してた時にウヴァさんに会いまして、災厄を止めるために手を貸して欲しいと頼まれました」
「ほおっす」
嘘はついてないからいいよね?神様に頼まれたなんて本当に信頼できる人にしか言えないよ。ごめんね女将さん。
「それで一緒に世界を巡ることになりまして、今に至ります」
「大変な運命を持ったもんっすね」
「本当にそう思いますよ」
さて。後は…
「領主の事を聞いても大丈夫ですか?」
「やっぱそれ聞きたいっすよね〜。場所を変えるっすよ。ここはそこまで信用できる場所じゃないっす」
そんなに危険な話なのか、領主は一体何者なんだ?
女将さんに着いて行くと事務室のような場所に着いた。
「こっちっす」
手招きされ、隠し扉から地下へと向かう。
「秘密の話がしたい時はここを使うっす。基本は貴族がヤバイ話する時に使うんすけど…」
ヤバイ話…ね。
「まずはここがこんなに荒れた理由からっすかね」
「「よろしくお願いします」」
「おそらく領主はこう言ったんじゃないっすか?この街がおかしくなったのは火口湖に化け物が棲みついたから。とか」
その通りです。
「それは嘘っす。棲みついてはいるっすけど、それが原因じゃないんす。だってあの亀は火口湖が出来てからずっと棲んでる守り神みたいなもんっすからね」
へ?化け物のせいじゃないの?しかも守り神なの?
「怒りに触れた時はそりゃー被害が出たらしいっすけど、それは愚かな人間が火口湖を汚したり、森をむやみに壊そうとした時っす。最近は特に何もなかったんす」
なるほど。それじゃあ別の理由が?
「領主はおそらく洗脳か何かを受けているっす」
「洗脳?」
「能力の断定は出来ないっすけど、操られているのは確かっす」
曰く、元々は誰もが信頼する素晴らしい領主だった。景勝地の保護に始まり、観光地のPRや、公共事業の拡大により失業者を助けたり、慈善事業として孤児院の設置や寄付を行う人だったようだ。
「それが急に税収を上げたり、奪い取った税収で自分の好き勝手にしたりしたっす」
「強い反発に合わなかったんですか!?」
「もちろんみんな反対したっす!…でも代表として行った2人の教師の夫婦が…なにも言わない無残な骸になって帰って来たっす」
それ以来誰も逆らえなくなり、裏で悪口を言っただけでも牢獄行きや、死刑になった。そうして段々治安は悪くなり、街は廃れた。
そう語った女将さんの頬には涙が流れていた。
「なんでこんなことになったんすか…!!みんなで頑張ってきたっす!辛い時も苦しい時も…なのに…」
「辛い事を話してくださりありがとうございました」
「…ぐすっ…いえいえっす。お見苦しい姿を申し訳ないっす」
この子は強い。これならこの領主をどうにかすれば生きていけるはずだ。
「明日街の人の話も聞いてからこれからの行動を決めようと思います」
「それがいいっす。それじゃ、自分は仕事に戻るっす」
事務室から部屋に戻る。
「とりあえず、今日は自由に過ごしてください。明日に備えましょう」
「はい」
ウヴァさんを部屋に残して大浴場へと向かう。
「おお…すごいな」
室内の大浴場の1つだけでなく、露天風呂が2つもある。しかも檜のような木が使われている。
「これは…やはりちゃんとした温泉だ…」
アルカリ性かな?身体に良いだけではなく美肌効果もありそうだ。女性に人気だろうね。
「僕にはあまり意味ないけど…」
身体を洗い、湯船に浸かる。ふう、溜まっていた疲れが吹き飛ぶようだ。
さて身体も温まったし、露天風呂を堪能するとしよう!!
ガラガラ。
「おお!!景色もいいなあ!」
外から見えないようになっているが、立地条件とそこから見える山のおかげで風情のある露天風呂になっている。
「はぁ〜。良い湯だっな♪」
ガラガラ…
「ガラガラ?」
「へっ?」
「へっ?」
お約束というか、なんと言うか…
「「…」」
「きゃぁぁぁ!!!」
「その叫び声は私が出すべきではないですか?ミヤビさん…!!」
「なんでウヴァさんがここに!?」
「女湯に入ったんですよ!」
「僕も男湯に入りましたよ!ちゃんと!」
これは間違いではない。ちゃんと確認して入った。
「ということは…」
「脱衣所で笑ってる人のせいってことですね…」
(やべっバレてるっす。退散退散っす)
脱衣所から気配が消える。
「行ったみたいですね」
「そうですね…さて、ミヤビさん」
「…はい」
後ろ向きのまま返事をする。…怖くてそっちを向けない。全国の男子諸君。ごめん、そんな気持ちは今0だ。
「とりあえず記憶が消えるまで殴って良いですね」
「拒否権は無し!?」
しかも僕のせいじゃないのに…。
その後なんとか説得し、事なきを得たのだが…。
次の日のお風呂からウヴァさんが風呂全体に殺気で男性が絶対に入れないようにしたのは…言うまでもない事ですね。