S級素材なんて手に入るのかな…「あの辺とその辺と、ああ、あとこの辺だ」(神様) どの辺ですか!
「万年亀?ああ、あの伝説の亀か。居場所?知らねえよ。それよりお前らいい装備持って」
ドカッ!
「ああ?なんだお前ら?人にものを頼むときは…」
ズドンッ!!
「知らねえなぁ…それより姉ちゃん俺と良いこと」
ドカッ!ミシッ…ズドドド!!ボキッ!
「ふぅ。知ってる人中々いませんねえ」
「そ、そうですね…」
これで通算六人目。はぁ、何でこんなに治安が悪いんだ?
山の麓にある街、【トルチュ】。人口は少ないが、自然豊かで良い景色が多く、訪れる観光客は多い。
「はずだったのになぁ…」
ゴミが放置され、野良犬が歩き回り、仕事が無いのか、薄汚れた格好をした人が道に座り込んでいる。
「何があったんですかねえ?」
「とりあえず信用できる宿を探しましょうか」
なるべく綺麗な地区へと向かう。
一際大きな建物が見える方に進むにつれて治安が良くなって行く。
「ん?あれは…旅館?」
「りょかん?何ですかそれ?」
「僕の故郷にあるホテルみたいなものですよ」
【よもぎ埜】と書かれた看板に和風の建物。もしかしたら…
「ここにしましょうか」
「高級そうですねぇ」
「いらっしゃいっす!」
居酒屋の店員さんのような元気な声が聞こえる。
「えっと…ここに泊まりたいんですけど、女将さんはいますか?」
「目の前っすよ!」
「え?」
「?」
「嘘ですよね?」
「本当っすよ?自分、ここの女将をしてる、アイって言うっす。以後よろしくっす」
何を変なことを?みたいな顔をして首をかしげる。
目の前にいる女将さんは、どう見ても中学生ほどの歳である。
「それで?何名様で何泊っすか?日本人から来たお客さん?」
少女はニヤリと笑い、宿泊者名簿を持ってこちらを見る。
「…2名で、とりあえず10日で」
「はいはーい!名前は…ミヤビさんっすね。【フクシマ】っていう看板がついてる部屋使ってくださいっす!あ、お姉さん!靴は脱いで下駄箱に入れて欲しいっす」
「へ?は、はい」
荷物を持ち、部屋に向かう。
すれ違った瞬間、
「(夜、【トウキョウ】の部屋で待ってるっす♪)」
と、小声で囁かれる。
同じ異世界人なら、話は聞いてもいいけど、罠の警戒もしないと。
「…」
「ウヴァさん?」
何やら怒ったような表情でこっちを睨んでいる。な、何かやらかしちゃったかな?
部屋に行ってからも何故か警戒を…いや、臨戦態勢を取っている。
「あの〜」
「さっき、聞こえてましたよ…」
「(ギクッ)」
これじゃあ秘密で会うことが出来ない…困ったな。
「あんな小さい子がタイプなんですか!?」
「とんだ誤解です!」
「じゃあ!何で!?会って間もない二人が!夜に!二人きりで!部屋で会うんですか!」
激昂するウヴァさんの拳に、とんでもない力が集まっているのが分かる。
あれは流石にダメージを食らってしまう…。
「お、落ち着いてください!」
「失礼しま〜っす。おや?痴話喧嘩っすか?」
「「違います!」」
「そうっすか。夕飯の時間と、お風呂の案内っす。あと、これどうぞっす」
慣れた動作でお茶を淹れてくれる。淹れ終わり、帰るのかと思いきや近寄って来て、
「(ちゃ〜んと1人で来てくださいね♪)…失礼しました〜っす」
と耳打ちしていった。多分目線がウヴァさんの方を向いていたから分かっててからかっているのだろう。
「(てか、もしかしてさっきの会話聞いてから入って来たんじゃ…)」
「…この、、、」
「え?」
「ど変態っ!!!」
「ぐはぁっっっ!!!」
パワーが溜まりに溜まった正拳突きは、僕の下腹部に突き刺さった。
琉球空手の技、サンチンと呼ばれる理論上の最大防御をしたため、ダメージはない。
だけど…
「だから誤解だってえぇぇぇ…!!!」
ノックバックはあるため、体は吹き飛び、空いている大きな窓から数百メートルの空中飛行を余儀なくされた。
「…自業自得です!反省してください!」
「(ぷーっ!!本当に喧嘩になっちゃった笑後で謝らなきゃ…でも…笑っちゃうっすね!)」
部屋の外で最初から最後まで全部見聞きしていた少女は声を殺して楽しんでいた。
それはもう、全力で。
ーーー近くの森ーーー
「酷い目にあった…」
全く。あの娘には一度キツく言っておかないと…。
それにしても…飛んでる時から気づいてたけど、
「魔物がいない?」
【探索】で辺り5キロまで調べてもいるのは小動物だけ。それも極少数。
「何かが起きてるのは間違いないな…『要チェックや』」
…ふざけてる場合ではないな。さっさと街に戻って…
「ウヴァさんの誤解を解かないと」
はぁ、話聞いてもらえるかな…?
去ってから五分後、ミヤビがいた場所に1つの巨大な影があった。
『…』
影はしばらくあたりをウロウロした後、その場から姿を消した。
ーーー【よもぎ埜】ーーー
「ウヴァさん…」
「…」
「ウヴァさーん」
「…」
だめだ。話どころか部屋にすら入れてもらえない。
「にっひっひ。お困りっすか?」
「君のおかげでね」
気配もなく背後に立つ少女。女将さんだ。
「はぁ、何とか誤解を解かないといけないのに」
「ごめんっす。遊びすぎたっすよ〜」
「本当に謝ってる?」
「もちろんっす!」
どうもそうは聞こえないけど…。
「だって、異世界人同士、聞かれたくない話もあるっすよね?」
「まあそうだけど、ウヴァさんは僕のパートナーで、僕が異世界人ってことも知ってるから」
「え!そうなんすか!?」
「そうだよ。だから2人で会う必要は無いんだよ」
「な〜んだ。それならそうと言ってくださいよ〜」
帰る方法や、こちらの話、他にも異世界人はいるかとかは聞きたいが、別段2人きりでする話でも無い。
「それと、あまりああいう事を冗談で言っちゃ駄目だよ。危ないから」
「お姉さんが聞こえるの分かってて言ったっす」
「へ?」
わ、分かってて?
「異世界人って事を言わなければそれっぽく聞こえるし、彼女さんなら怒鳴り込みに来るかなって思って」
「彼女じゃないです」
「えー、お似合いなのに?」
「どこかですか…?こんなゴツい男と綺麗な女性ですよ?どう考えても不釣り合いでしょう」
自分で言ってて恥ずかしくなる。
「ゴホンッ。とにかく、君のせいで僕は部屋に入れないんだから、協力してくれよ?」
「んー、別に夕飯になったら流石に襖も開けるんじゃないっすか?」
「そこまでおとなしく待つしかないかな?」
「フツーに開けたらだめなんすか?」
「どうも開けようとするとね…」
襖に手をかけ、開けようとすると手が見えない何かによって弾かれる。
「結界魔法?」
「いや、魔法ではないよ。ただ単にウヴァさんが、僕が入ろうとした瞬間に襖の外側に殺気を込めて飛ばしてるだけ」
他の物質には殺意を向けていないため傷つかない。と言った論理なのだが、そう簡単にできるものではない。
「器用っすね〜」
「とりあえず、街をぶらついてみるよ。何でこんなに荒れてるのか調べなきゃならないしね」
「原因は多分領主の館に行けば詳しく教えてもらえるっすよ。あ、これ紹介状っす」
ポケットから紙を取り出し、サラサラッと用件と署名を書き込む。
「サラッと渡してくれるけど、これ凄い物だよね?あの大きい建物がそうでしょ?」
「うちは御用達っすから」
なるほど。ならお言葉に甘えようかな。
「それじゃ行ってきます」
「夕飯はあと3時間後っすからね〜」
「あれ?ちょっと待って」
「どうしたっすか?」
「あれで聞こえるくらい耳がいいってことは少なくともさっきの部屋の前の会話は…」
「多分全部聞こえてるっすよ。にひひっ」
はぁ、恥ずかしいな。急いで済ませてくるとしよう。
ーーーウヴァーーー
2人の会話は全て聞こえる。強化された聴力は、この旅館内の会話くらいなら、全て聞こえる。
「まったく…」
そういう事ならそう言ってくれればいいのに。
異世界人同士の話がしたいって。
「それなのに…あの女の子は…!!」
自分を弄ぶような言動を…。見事に乗せられた自分も悪いが、それだけではなく、ミヤビさんを本気で殴ってしまった。
「ダメージが無かったとは言え、どんな顔して会えば…」
それに、さっきの会話で…
「き、綺麗な女性??」
面と向かって言われたわけじゃないけど…自分のいないところの話は本音が出やすい。
「今の顔、とんでもなく赤いんだろうなぁ…」
神よ…この状況をどうすればいいのですか?
窓の外に見える空はどんどん赤くなっていく。
ーーー領主の館ーーー
高い塀に囲まれ、2人の門番に簡単に壊せそうもない門。いや、壊す気はないけども。
「ごめんください」
「何用か?」
門番に引き止められた。
紹介状を見せながら用件を伝える。
「モルダモ様に伝えてくる。暫し待たれよ」
1人の門番が門の中へと入って行く。
「若いのに只者ではないな?あの宿の紹介状など、並大抵では貰えないはずだからな」
「いえいえ。そんな大した者ではございません」
あまり目立ちたくはないからな…謙虚にいこう。
「それにしても、この街にはなんで来たんだ?噂くらい耳に入るだろ?」
「へ?」
門番さんは少し驚いて、
「あ?知らねえのか…うーんそうだな。明日暇か?」
そう、誘って来た。
「えーっと特に予定は無いですね」
「さっき聞いた用件ってことはこの辺の状況を知りたいんだろ?なら、庶民側の意見も聞いた方がいい」
なるほど、それもそうだな。
「明日どこに行けば…」
「庶民街の方に【ざこ家】っていう店がある。そこは俺の知り合いの店だから貸切にできるから」
聞かれたくない話をする時は都合が良いんだよ。そう周りに聞こえないように小さく呟いた。
「わかりました。それでは」
「おーい。入っていいぞ」
門の向こうから門番さんが歩ってくる。
「それじゃあな。俺はノルガーってんだ。店に行ったらその名前出しな」
ノルガーさんに頭を下げて、館に入って行く。
何が起こっているのか…。
「モルダモ様、連れてまいりました」
ノックをすると、大きな、そして豪華な扉の向こうから声が返ってくる。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると落ち着いた雰囲気の内装が目に入る。
高級そうなデスクに書類が積み重なり、羽ペン用のインクはいくつもストックされている。
「お主が面会希望の冒険者か」
「お初目にかかります。冒険者のミヤビと申します。本日はお忙しい中」
「ああ、堅苦しい挨拶はなくてよい。お主は仕事に戻ってくれ」
「かしこまりました。失礼します」
門番がいなくなり、自由に話しやすいようになった。
「それで?この街の現状について聞きたいと?」
「はい。【テネグロ】で街について聞いた時は賑わっていて、危険なんて言葉とはかけ離れた街だとお聞きしたのですが…」
「ふむ。あの街とは直接行き来することは少ないからな。他の街を経由すると情報が伝わりにくい」
書類を書き終えたのか、羽ペンを置き、こちらに近づいてくる。
「まあ、ソファーに座り給え。おい。お茶を頼む」
「はい」
給仕の人が部屋お茶を用意しに部屋から出て行く。
「さて、それでは順に話していこう。あれは1ヶ月ほど前のことだ」
森で異変が起こった。
元よりそれほど多くは無かったとは言え、魔物たちの姿が消えたのだ。
3日ほどで7割超の魔物が姿を消し、残りはその日の内に逃げ出した。
それだけではなく、観光スポットであった景勝地が突如、破壊されていた。
これはおかしいと思い、何度もギルドに依頼して調査をしてもらったのだが…。
調べに行った者たちが帰ってくることはなかった。
その事実を知り、観光客は激減。
働き口が無くなり失業者で下町の治安は悪化。
なんとかこの周囲の治安は維持しているが、時間の問題なのは目に見えている。
そう諦めかけていたが、つい先日、1人の男が森に行き、原因を突き止めてきたのだ。
原因は恐るべきものだったよ。
山の上には景勝地の火口湖があるのだが、そこに強い魔物が棲みついたらしい。
そして辺りの魔物を餌に、この地域を荒らし回っていたと。
今まで返り討ちにあった者たちのレベルを考えると、この辺の冒険者では倒せん。
現状手の打ち用がないのだ。
「と、言うわけだ」
「なるほど」
注いでもらったお茶を飲む。美味しい紅茶だ。
だが、領主は手をつけない。
「今度は毒殺か…」
「へ?」
「この暗殺者め!」
いきなり立ち上がり、給仕の女性を叩き、無理やり紅茶を飲ませる。
「モルダモ様!?何を…」
「むぐっ!んんんん!!うぐっ…」
女性を引き剥がし、大丈夫ですかと声をかけようとすると、苦しみだした。
「毒入りの紅茶だ。ミヤビ殿、念のため触るなよ」
「え…と、とりあえずこの人を助けないと!」
「必要ないだろ?人の命を狙った犯罪者だ」
「それでも、一つの命です…【キュアポイズン】」
毒消しの魔法を使うと顔に赤みが戻ってきた。
「ほぉ。応急処置レベルとはいえ、戦士職なのに魔法を使えるのか。やるな」
「…ええ」
この人はまだ信用できない。戦士と思わせておいた方がいいかもしれない。
デスクの上のベルを鳴らすと執事風の男がやってきた。
「お呼びでしょうか?」
「こいつを牢屋にぶち込んでおけ」
「かしこまりました」
女性は連れていかれ、部屋には2人だけが残る。
「今日はわざわざ来てもらったのにすまなかったな。何かあったらまた来るといい。紹介状もいらん」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
今はまだ判断材料が少なすぎる。全ては明日以降、話を聞いてからだ。
屋敷を出て【よもぎ埜】へと戻った。