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旅の途中で死にかけましたね…「そうかお前の死因は滅死(めし)か」(神様)それ、絶対ウヴァさんに言わないでくださいよ!

気づくと僕は倒れていた。

道中、新人冒険者とは思えないほど数多くのモンスターと戦い、蹂躙したが、HPを9割以下に減らされた事はなかった。それなのに何故…


「だ、大丈夫ですか?」


倒れている僕の目の前にしゃがみこみ、顔を覗き込む天使は不安そうな表情を見せる。

大丈夫。心配ない。そう返したいが、体は動かなかった。


(どうしてこんな事になった?)


時間はこの時点から5時間ほど遡る。


ーーーーーー


「ここが…チャイさんが言ってたドワーフさんの店か…意外と小さいな」

「たしかに小さいですね…いや、大きければ良いとは限りませんけど…」


チャイさんの店から少し離れた場所にこぢんまりと佇む店、【鍛冶屋ニルギリー】の看板が見えた。レンガ造りの建物で、簡単には倒れなそうな頑丈さが目に見える。


「これは流石に私の攻撃でも一回じゃ壊れませんね…八回ってところでしょうか」

「いや!誰も壊そうなんて話はしてないでしょ!?」


見た目の天使さと懸け離れた凶暴性があるね…。なんで丈夫そうな建物見た瞬間に何回の攻撃で倒せるか考えるんですか!

これ以上外にいたらなんか本当に壊しそうで怖い。早く中に入ろう。


「すいませーん…」

「あんだおめーらは!」

「えーっと、ニルギリーさんですよね?チャイさんにこの店を紹介された冒険者です」

「チャイ?ああ。あの偏屈じじいか」


へ、偏屈じじいって…このおじさんはチャイさんとどんな仲なのやら。


「まあいい。あいつが紹介したってことは多少は期待できるんだろ。んで?何の用だ」

「えっと、武器を作って欲しくてですね」

「姉ちゃん。悪いけど俺は僧侶の武器は作らねえんだ。そこの兄ちゃんみてえな戦士系の武器と、魔法使い用の杖だけだ。魔法使い用でも構わねえってんなら杖を作るが…職業(ジョブ)と違う武器を使っても本来の効果は出ねえってことを考えてくれや」

「え、えっと…」

「そんな泣きそうな顔されても困るからやめな。俺は一度決めたら絶対に」

「あの!」

「うぉ!びっくりするじゃねえか」


あなたがまったく話を聞いてくれないからですよ…。あ、ウヴァさんが軽く怒ってる。


「私は僧侶系の職業じゃありません!戦士系です!」

「は?」

「そして、僕も戦士じゃなくて魔法使いです」

「は?」


ふう…流石に慣れてきたぞ。だってこのくだり毎回やってるし。


「ちょ、ちょっと待て…ステータス見せてくれ!能力値だけでいい」

「はいどうぞ」


スキルは隠しておきたいものもあるしね。万人に見せたくはないな。


「な、なんじゃこの化け物ステータスは…」


僕のステータスを見てニルギリーさんが閉じていた目を見開く。誰が化け物ですか!


「俺も目を閉じてるわけじゃねえ!細いだけだ!」

「す、すいません…」

「ったく…次そう思ったら海の真ん中くらいまでぶっ飛ばすからな」


恐ろしいドワーフだ。気性も荒い。


「さて、お前らの武器だが…作ってもいい」

「「本当ですか!」」

「ただし条件がある」


まあそうなりますよね。ただじゃぁないですよねー。


「お前らの規格外なステータスに耐えられる素材がいくつか足りない。それを採ってこい。採ってきたら作ってやるよ」


ぶっきらぼうにそう言い、殴り書きしたリストを見せてくる。


万年亀(ミリオンタートル)の甲羅】

兜虫王(ヘラクレス)の角】

世界樹(ワールドトレント)の古枝】

堕天使(フォールンエンジェル)の羽】


「…なんか名前だけで凄そうですね」


どれもこれも強そうだなぁ。平和なのは世界樹だけかな?


「ど、ど、どれもSランク指定以上の素材じゃないですかぁぁぁぁぁぁ!!」

「ウヴァさん静かにしてくださいよ…びっくりするでしょ?」

「なんでそんなに悠長にしてられるんですか!?時間がないのにこんな難しい素材ばかり採れるわけないじゃないですか!」


あー耳がいたい。たしかに時間は無いけど…。


「とりあえずどこにどれがあるか場所を教えてもらえますか?」

「余裕だな。気に入ったぜ。いいか、まず万年亀だが…」


ニルギリーさんからできるだけ情報を教えてもらう。一番近いのは世界樹かな?


「いいか?それら全部が集まったら世界最高の武器を造ってやる。最高クラスじゃねえ。文字通り最高のだ」


おお。流石ドワーフ。自分の仕事には誇りと自信を持ってるな。


「それまではこれ使っとけ」


ほらよと渡されたのは軽い籠手と厳かな杖。


「【拳帝の籠手】と【魔神の杖】だ」

「け、拳帝様の!?」

「ああ。あの拳帝のだ」

「検定?」

「拳帝です!前回の災厄で命を落とされましたが、自然界最強の生き物と名高い伝説の猿の王様です!その拳は山を砕き、聖剣ですら斬ることはできないと言われるほどです!」


そ、そんな猿がいたのか…。それに、魔神?


「ん?魔神の杖を知らねえのか?」

「顔に出てましたか?」

「まあな。それにしても魔神の杖を知らねえとは相当な田舎もんだなー」


曰く、前回の災厄で魔神が使用していた杖。一振りで森羅万象を司る魔法を放ち、人間軍を恐怖に陥れた。


「これは強力だけど癖も強くてよ。大賢者レベルじゃないと使えない上に、戦士並みのパワーでやっと持てるくらいなんだよ」


ああ、なるほど。僕のステータスなら扱えると。


「そういうことだ。本来なら値が付けられないほどのお宝だがよ、俺は鍛冶屋だ。使って欲しいという武器の気持ちを汲んでやりてえ。埃かぶらせるくらいなら無償でくれてやるよ」


…期待が高いなぁ。ま、やるっきゃないよね!


「ありがたく頂戴いたします」

「おう!そう言ってくれると助かる。まあ、繋ぎだけどな」


がはははと豪快に笑う彼にお礼を再度言い、店を後にする。


「まずは万年亀ですか」

「行きましょう!」


街を出て東に向かうのだった。


ーーーーーー



「日が落ちてきましたね」

「そろそろ野営の準備をしましょうか」


適当な大きさの木の下に簡易テントを張り、無属性魔法、【ブービートラップ】を仕掛ける。


「本当に何でもできるんですね…」

「魔法のイメージを崩さないようにするのが大変ですけどね」


会話しながら魔法で火をつける。マッチはあるが、消耗品だし、時間がかかる。魔法の発達したこの世界の科学レベルは低い。


「私は…頑張ってもこの程度ですね…ふぅ」


ウヴァさんが魔力を右手の人差し指に込めると、ライターの火よりもさらに小さな火が申し訳程度に出ていた。


「魔力の最大値が低いんですよねぇ…だから私は魔法は使えないですね」

「魔力の最大値が関係してるのは知らなかった…」


MPは使える回数だけかと思ってた。どうやらINT(知能)も兼ねているらしい。


「あとは…こんな感じかな」


最後の罠を仕掛け終わり、夕飯の準備をする。食材は少しは持ってきたし、火や水は問題ない。


「私が作りましょうか?」

「ウヴァさん作れるんですか?」

「はい。教会にいた頃は趣味程度ですが作っていました。みんな喜んでくれていたみたいです」

「それじゃあ、ぜひお願いします!」


そんなに自信があるなら本当に楽しみだなぁ。どんな料理なんだろう。ビーフシチューがいいなぁ。いや、肉じゃがってのもアリか…。


「ちなみにメニューは?」

「チャイさんを見習ってシェフの気まぐれって感じでいこうかと!」


おお…ワクワク感が出てくるね。

今日使う食材は人参などの野菜と、途中で狩ったウサギの肉だ。


「それじゃ、僕も何か手伝いますよ?」

「いえいえ!罠も仕掛けてもらったのにこれ以上やってもらうわけにはいきません!」

「ええー」

「座っててください!」


はーい。と大人しく丸太の椅子に座る。魔力を扱う練習でもするか。

右手の人差し指にピンポン球ほどの火の玉を作る。さまざまな指の上に出しては消すを繰り返し、その速度が速まっていく。


「次は…」


両手のすべての指先に火の玉を作り、親指から小指へと順に大きさを変えていく。大きくしたり小さくしたり。


(難しいな)


10分ほどだろうか。滑らかに変化させれるようになり、最早自分の指先に火があるのが普通に思えるほどだった。


「出来ましたよ…ってなんかすごいことやってますね。器用ですねー」


どうやらご飯が出来たらしい。


「はい!どうぞお召し上がりください!」

「!?」


そこにあったのは料理ではなかった。え?何で女の子の手料理にそんな酷いことが言えるのかって?


「あの…ウヴァさん…真っ黒なんですけど…」

「え?ああ、たしかに色はすごいですけど、自身ありますよ!」


も、もしかしたらこの世界には真っ黒な料理が普通にあるのかもしれないよ…ね?


焦げた訳でもなくただただ黒い料理をスプーンで掬う。


(おかしい…なんでこんなに重量を感じるんだ!?)


まるで金を溶かして掬ったかのように思えるほどに重かった。密度が濃い…尋常じゃなく。


「もしかして…何か嫌いなものでも入ってましたか?それともやはり私の料理は不味そうですか?」

「そ、そんなことない…ですよ?い、いただきます」


ええい、僕も男だ!女性が作ってくれた料理を無下に扱うことなどしたくない!

覚悟を決めて口に闇を放り込んだ。




そこで僕の記憶は途絶えている。




ーーーーーー


「いやーあまりに美味しくて天に昇るほどだったなんて…褒めすぎですよー!!」


ポッと頬を赤らめ、肩を叩く要領でオーガですら粉砕する拳を放ってくる。正直僕じゃなきゃ右肩は消し飛んでいただろう。


「お世辞じゃなく本当に天に昇るかと思ったんですヨー…アハハ…」

「褒めても何も出ませんったら!」


何とか最大の山を越え、無事この世界に戻ってきた。一瞬で三歳の頃の記憶まで遡ったからあと少し多く食べてたら死んでたかもしれない。


「こ、今度は僕に作らせてください。僕も料理出来るんですから」

「それじゃ、今度はお願いしますねー」


鼻歌を歌いながら食器を片付けるウヴァさん。力の制御が出来ていないのか陶器の皿はリズム良くパリン♪パリーン♪と景気のいい音を立てる。


(割れにくい木の食器を用意しないと…)


先が思いやられる最初の野宿だった。




夜になり辺りが真っ暗になる。僕の故郷はある程度は都会だったから暗闇というものには慣れていない。エジソンは偉大だとしみじみ思う。


「ウヴァさん。もし夜でも明るく…魔力を使わないのに明るくなる物があったらどうですか?」

「それは素敵ですけど…悲しい面もありますね」

「と言うと?」


聞き返すとウヴァさんは寝袋から体を起こし、空を指差す。


「明るいとこの星空の美しさは減りますよね?こんなに綺麗な景色を見れるのは夜だけ。だから…その道具は便利でもありますが…少し無粋ですね」

「面白い意見ですね」

「そんな道具があるんですか?」

「いえ?ありませんよ」


僕の知識でも作れるだろう。それに、魔力を応用すればライトを使った魔道具も簡単に再現できる。でも、やはりそれはウヴァさんが言った通り無粋だな。


「早く…寝ましょう。明日から…大変…です…よ」

「おやすみなさい、ミヤビさん」


星空は煌々と輝きを放ち、6時間ほどの間、優しく2人を見守っていた。

星空はお好きですか?僕は好きです。

風情がありますよね…夏の夜空を見上げて田んぼにいる蛙たちの合唱を聞くのはさらに好きです。


田舎の特権ですね。ちなみにこれを都会に住んでる従兄弟に話したら『蛙の合唱?何言ってんの?五月蝿いだけじゃん』って風情もへったくれもないこと言われました。


まあ、人それぞれですね〜

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