依頼達成!やりましたよ!「そのステータスで負けるやつはいねーよ」(神様)ちょっ、水ささないで下さい!
「しゅ、集落が出来てた!?」
「はい、100匹くらいの規模でした」
依頼の報告をすると集落にまで拡大していたことに驚いている。
「なるほど…目撃情報が多かったのはそういうわけだったのか」
「これは危険度は低いですが、街道の近くということを加味して、緊急クエストを出さないといけませんね」
「「え?」」
「「へ?」」
緊急クエスト?なんで?
「え?倒したのにまだ何か必要だったんですか?ウヴァさん、知ってました?」
「私は知りませんね」
どういうことですか?と疑問を口にしようとした時、
「ゴブリンの集落を潰したぁぁぁ!?」
「え?ダメだったんですか!?」
「いやいやいやいや。そんなことはねーけど」
ありえない…ダージさんはそう呟き、リンさんは開いた口が塞がらない。
「はい、証拠です」
どさっ、ジャラララララ…
魔石の入った袋をカウンターに置く。
「「…」」
もう2人は驚きすぎて逆にリアクションが取れてない。そんな驚くことですか?ゴブリンですよ?
「…新人がゴブリンキングやゴブリンジェネラルがいる100匹の集落を潰すなんて、前代未聞です」
へー、そうだったんですか。
「3歳くらいの子供が逆立ちして腕立て伏せをするくらいありえないことだな」
例えが分かりにくいですよ、ダージさん…
「と、とりあえず報酬を考えないといけませんね。ギルドマスターを呼んできます」
リンさんが急ぎ足で二階の部屋に入っていく。
「…なんか、大変なことになりましたね」
「私もここまで驚かれるとは思いませんでした」
「規格外の2人だとは思っていたが、ここまでとはな…こりゃ、Sランクになるのも夢じゃねえ!」
そんな期待の目で見られても…高い能力だけじゃダメなんですよ?戦い方次第では格下にだって負けることもあるだろうし。
「ふむ、ダージ。お前がそういうなら相当なのだな」
「おう!相当期待できるぜ!」
「あとお前な、ここは公の場だ。そういう時は俺には敬語で話してくれといつも言って」
「ガハハ!すまんな!敬語は性に合わねえんだよ!」
「こいつは…」
横でこっそりリンさんが教えてくれた。
彼らは幼馴染で、かなり仲がいいそうだ。役職の関係があるからみんなの前では敬語で話してくれとお願いしているが、毎度ダージさんは無視して普通に話してしまうらしい。
「…まあいい。それで?報酬がどうこうって話だろ?」
「はい。新人の2人がゴブリン狩りのクエストに行ったのですが、集落が出来ていたから潰してきたそうです」
「それでこれか…」
カウンターに置きっぱなしにしていた魔石の山をちらりと見て呟いた。
「本当なら銀貨1枚ってとこだが…集落だったことと、そのままにしていたら緊急クエストになっていたことを加味すると…銀貨7枚ってとこか」
おお…普通の宿屋に三食付きで10日泊まれる!いや、お金には困ってないけど、あれは金額がデカすぎて現実味がないんだよね…。
「報酬は山分けか?」
「それで構いません」
「僕も構いませんよ」
銀貨3枚と銅貨5枚。1日目にしては上出来だろう。明日からどうしようかな。
「あの…ミヤビさん。よろしければパーティーを組みませんか?」
「パーティーを?」
「はい。あなたはとてもお強いですし、私が女なのに何もしようとしませんでした」
それだけで信用しちゃ危ないと思うんだけど…。
「理由は、パーティーを組んでくれたら説明します。しかし、確信できた…と言っておきましょう」
そこまで言われてしまうと断りにくい。別に嫌じゃないけど…。うーん…。
くぅぅぅぅ…
…随分と可愛らしい音がお腹らへんから聞こえたなぁ…気づかなかったフリがベスト?いや…
「…」
「そ、そういえばお昼食べてませんもんね、と、とりあえずどこかでご飯食べながらにしましょう…」
「…はい」
お腹を鳴らしてしまったウヴァさんが、顔を真っ赤にしていたのは言うまでもない。
【美味い飯だ!食うっきゃねえ!】という名前のお店に入る。
「変な名前」
「変わってますねー」
内装はあっさりとしていた。余計な装飾品は付いておらず、知る人ぞ知るラーメン屋。みたいな雰囲気だった。
「人の店の名前にケチ付けんのか?あぁ!?」
「うひゃっ!」
「うわっ。びっくりした…」
カウンターの奥、厨房になっている場所からかなり背の低いおっさんが出てきた。
「てめえ…小さいとか思っただろ?」
「え…そんなことは…」
『嘘をつくな』
「はい!すいません!小さい人だなって思いました!って…あれ?」
「ったく…これだから新人は…俺を知らねえのか」
「も、もしかして【小さき巨人】のドン・チャイさんですか!?」
「ほぉ、嬢ちゃんは知ってたか…嬉しいねえ」
「チャイさんに憧れて私は拳闘士を志したんです!きゃー!サインください!」
「ほらよ」
どこから出したのか分からないが、いつのまにか持っていた色紙と羽根ペンでサインを書いている。
「あのー、ウヴァさん。どんな人なのか知らないんで、教」
「チャイさんはですね!今から50年ほど前まで活躍した伝説の拳闘士なんです!ポリシーとして武器を使わない、唯一使う魔法も身体強化だけ。それほどの条件下で魔王を5人倒した歴史上でも最強と呼び声高い人ですよ!元ですが、SSランクです!」
「へっよせやい。照れるぜ」
「それだけじゃないんです!あれは54年前の…」
チャイさんの歴史を語り、自分の世界に入ってしまったウヴァさんを放っておいて注文する。
「とりあえず何か美味しいものを2人分」
「おう。待ってな…ほらよ」
「え?」
待つこと3秒。すぐさま料理が出てきた。どうなってるんだ?
見た目は麻婆豆腐みたいな感じか?辛いのは好きだけど、あまりにも真っ赤だから怖いなぁ…
「いただきます……美味しい…」
「あ!なんで先に食べちゃうんですか!ひどいですよ!」
「自分の世界に入ってたのは誰ですか…」
「おいしー!」
「うめえか!そりゃ当たり前だ!俺が作ってるんだからな!」
香辛料の効いたピリ辛の料理。中に入ってる肉が旨味を出して調和している…
「これはなんていう料理なんですか?」
「あ?料理名なんてねーよ。適当に毎回作ってるだけだ。だから同じ料理はできねえ。それでも無理やり名前をつけるなら…【チャイ・スペシャル】だな」
て、適当?このクオリティで?
「おかわりください!」
「おう!…ほらよ!」
いや、だから速いって…。
「どうやってそんな速く作ってるんですか?」
「ん?ああ、俺のスキルだな。【超速】っていうスキルなんだが…それが自分が速くなるだけじゃなくてな?特定の物体の時間を速めることもできるんだ」
「チートじゃないですか…」
「ちーと?なんじゃそれ。まあ、便利だが…俺は特定の物体を料理関係だけにしちまったからなぁ…」
つまり、料理関係と自分に関しては時間を好きなだけ加速できるってことか…
「もちろん制限はあるがな1日に使えるのは15回が限界だ」
「え?じゃあもう二回は使っちゃったんですか!?」
1回目の料理と二回目の料理でそんな貴重な回数を消費してしまった!?
「いいんだよ。これは俺が使いたい時にしか使わねえ。そしてそれが今なんだよ」
「それじゃお客さんは…」
「客が店を選ぶんじゃねえ。飯の方が客や時間を選ぶんだよ」
某グルメ冒険漫画で似たようなセリフを見た気がするなぁ…。
「そんで?おめーらはパーティー組んでんのか?」
「まだ組んでませんよ」
「…それは、お前の不自然な強さが原因か?」
「!」
なんでこう、みんな分かる人が多いのかな…
「超一流冒険者なら分かるぜ」
「心を読むのもやめましょう。なんなんですか…みんなして。スキルですか?」
「そんなスキルあったらいいねえ!ハーレムウハウハだぜ!」
…なんでこんな人が伝説の拳闘士になれたんだろ…。
「ほんで、そっちの嬢ちゃんがこいつを誘ったのは…世界の災厄を止めるため…とかか?」
「あたりです…すごいですね」
【超速】で作ってもらった7品目の料理を食べ切り、皿を置いてそう言った。
「修道女の考えは良くも悪くも単純だからな。あと一年で災厄が起こるって考えたらそうなるだろう」
なるほど…え?災厄?
「ウヴァさんも災厄を止めるために冒険者になったんですか!?」
「ウヴァさんもってことはミヤビ、てめーもか」
「はい。全てがそうとは言えませんが…世界を巡るキッカケの一つです」
流石に神様に召喚されたなんて言えないし…。
「あの、ミヤビさん。改めてお願いします。私はこの世界の災厄を止めたいんです。ですが、私だけの力でどうにかできるものではありません…ですが、私は諦めたくない!!!」
「ウヴァさん…」
「私は一度だけ災厄の魔物と戦いました。何かの綻びから1匹だけがこの地に降り立ったのです。しかし、結果は…惨敗で、パーティーの2人が重傷を負いました」
カウンターの上で握っている手に力がこもっている。自分の力の弱さを痛感している…だけど目は死んでいない。
「だから、私より強い人を…パーティーメンバーを探していたんです」
そうだったのか…。あの強さの裏にそんな事情があったんですね…。
「ウヴァさん。この人…ドン・チャイさんは本当に信用して大丈夫ですね?」
「当たり前です。むしろ私よりもチャイさんの方が信用できますよ!」
…まあ、大丈夫か。
「これから話す事は他言無用でお願いします」
「どんな話が飛び出すってんだよ?まさか魔王の末裔です〜なんて言っても驚きはしねえぞ?」
「…僕は…異世界から来ました。こことは全く違う世界から…神を名乗る男に転移させられました」
「ガッハッハ!!それは面白え!」
「それは本当なのですか?」
「証明しろと言われても証明することは難しいです…ステータスを見せることが唯一の方法でしょうかね」
ゴブリンの殲滅でレベルが16に上がったステータスを見せる。
【名前】ミヤビ
【年齢】18
【職業】無し
【レベル】16
【体力】2895
【魔力】2120
【攻撃力】2010
【守備力】1600
【敏捷性】1045
【スキル】剛力 鉄壁 縮地 威嚇 威圧
【固有スキル】測定不能 限界突破 万能器
天賦の才 常識破壊 全属性適応 魔法創造
【加護】無し
新しく【魔法創造】が加わっていた。多分あれは最後に使った爆発魔法でゲットしたんだろう。イメージさえできれば再現可能ってことかな?
「なんですかこの人間離れしたステータスは…」
「おいおい…全盛期の俺より遥かに上じゃねえか!」
普通の人よりもかなり強い二人がここまで驚いているのだ。相当なレベルだと分かった。
「そしてここに…この世界に来たのは【災厄】を止めるためだと言われました。今、世界では前衛職が不足していて、僕の力を借りたいと」
「それで転移してきたってか」
「はい」
「あれ?でもミヤビさんは…」
「魔法使いです」
「は?」
チャイさんの顔が凍りついた。おーいチャイさーん戻ってきてくださーい。
「どう見ても前衛職だろ?」
「魔法使いです」
「…」
全然信じてもらえないなぁ。このくだりをあと何回やればいいんだろうな。
「さて、ウヴァさん。僕の目的も災厄を止めることです。しかし…今の話を聞いてまだ組みたいと思いますか?この世界の人間ではない人とパーティーを組みたいと思いますか?」
質問をウヴァさんに向けると、即座に、しかも迷いなく答えた。
「とりあえず武器を揃えてこいよ。そんな初期装備でどうやったんだって感じだぞ」
「この先の店ですね?」
「ああ。そこなら大体の物は揃う。質はこの街どころかこの領地一帯でも最高クラスだ」
「じゃあ、それなら…」
「ああ。お前の魔法使い用の武器とか、嬢ちゃんの拳闘士用の武器も手に入るだろう」
「何から何までお世話になりました!」
店を出て、お礼を言う。
「おう。また来いよ。そん時は更に美味くなってるからな。期待しとけ」
「期待しときますよ」
「頑張れよ」
「はい!」
チャイさんに背を向け、歩き出す。
「それじゃあ行きましょう」
「はい」
一人ではなく、二人で。この世界を救うために。新パーティーとして頑張るのだ。
「はりきって行きましょう!」