うぉー!大金がはいりましたよ!!「スられて一文無しにでもなっちまえ」(神様)いや、何てこと言うんですか!
「「「「だ、大金貨200枚!!!???」」」」
ぶったまげた…あれ?この言葉分かるのかな?めっちゃびっくりしたって意味だよ。
まぁ、それは豆知識。
何せ大金貨200枚と言えば2000万円なのだ。
「ど、どうすれば…」
「俺に寄付して…冗談だよ。そんな顔するなよ」
「ギルマス。洒落にならないっすよ」
冗談を軽口で叩きながらギルドマスターは煙草を灰皿に押しつける。
いや、そこはどうでもいいが、実際どうすればいいか見当もつかない。
「とりあえず1人ずつ大金貨50枚ずつに分けましょう」
「おい、いいのか?ミヤビが150枚くらい持ってってもいいんだぞ?」
「みんなで運んだんですから、公平にね?」
そう。別にそんなにお金が欲しいと思ったことはないし、50枚も大金貨があれば最高クラスの装備は揃えられるらしい。だったら別に山分けで構わない。
「変わったやつだな」
「それはひどいですね。せめて欲のない人とかにしてくれません?」
笑い声が部屋を満たし、宝の艦艇の話は終わる。
本題はここからだ。
「さて、ミヤビ。改めて御礼を申し上げる。3人を救ってくれてありがとう」
「いえいえ。運が良かっただけです」
「ふむ。では何故私のスキルで君のステータスが見れないかが不思議なんだが…」
「スキル…ですか」
まずいな。ゲームに出てくるようなスキルは知ってるけど、あまりにも無知だったらこの世界の人間じゃないことがバレちゃう。
「どうせこの街の人間は知っているから教えるが、【鑑定】のスキルだ。これでステータスが見えない相手は私より高レベルの相手か、【妨害】を使っている人だけだ」
へ、へぇ〜。そうなんですか。知らなかった。
「ミヤビ?あなた今言ったスキルも知らないの?」
「す、すいません」
「謝る必要はないけど…あのすごい魔力持ちなのに魔法を知らないなんてもったいないわ」
「ほぉ?ヤミーにそこまで言わせるような魔力を持ってるのか」
興味深そうな目を向けながらギルドマスターは2本目の煙草に火をつけた。
「それだけじゃないわ!王の間の前にいたアヌビスも一撃で倒しちゃうし、テミュランっていう遺跡の王様が使ったマジックバリアを通常攻撃で壊したのよ!」
「お、おお。そ、そうか…すごいな」
ヤミーさん。熱くなりすぎですよ。ギルマスも若干引いてますし。
「はっ!ごめんなさい!私…」
「それにしても…テミュランか。すごい名前が出てきたな」
「知ってるんですか?」
「私の仲間に考古学に通じてる奴がいてな。そいつがいつだったか言っていたよ。歴史上最高クラスの王様はテミュランだろうってね」
へえ。テミュランさん本当に凄かったんだ。
「彼の類い稀なる才能は万能でな。ほぼ全ての分野の進歩に貢献したと言われている。特に武力、知力が優れていたようだ」
たしかに1人であの魔法を使っていたことや、あれだけ巨大な墓を作ってもらえるなんて、相当尊敬される人物だったのだろう。
「そんなことはどうでもいい。話を戻そう」
なんてこと言うんだこの人…。バチが当たりますよ?
「君は…何者なんだ?」
ちぇっ。忘れてもらえると思ったのにしっかりと覚えていたね。
「これから話すことは死んでも他言無用でお願いします。それを約束してくれるなら…」
「なら、【誓約の書】を使うか」
そう言うとギルドマスターは一枚の紙を取り出した。
【誓約の書】
署名した者はこの紙に書かれた条件を破ることはできない。(ただし、条件によっては了解を得ればオッケーな場合もある)
「条件はこれからミヤビが話す内容はミヤビの了解を得ない限り他言無用。これでいいか?」
「それで大丈夫です」
「お前たちはどうする?話を聞くか?」
「俺はいいや」
「俺も」
「私も」
まさか3人とも断るとは…。これは予想外。
「別に過去とか素性とか興味ねえし。ミヤビは良いやつ。それでいいだろ?」
「うむ。素晴らしい考えだ」
ギルドマスターに褒められてユニオンさんは照れている。顔がニヤけていて気持ち悪い。
「んじゃぁ、俺たちは席を外しますよ」
3人が部屋を出て部屋は静かになる。
「…気づいているんでしょう?」
「ああ。言わなくても分かる。君は異世界人だろ?」
ギルドマスターは俺を異世界人だと分かっていた。この人は只者じゃない。
そしていつのまにか新しい煙草に火をつけている。
いや、何本目ですかそれ。
「別に確証があった訳じゃないですけどね。感覚で何となくですが本当に俺を知ろうとしているようには見えなかったんです」
「これでも元諜報部員。演技は得意なんだがなぁ」
通りで隙がないはずだ。テミュランさんともいい勝負が出来そうだ。
「まぁ、俺から君の素性をバラす気はない。安心してくれ」
「ありがとうございます」
「隠しておくのは正解だと思う。俺が昔見た異世界人はな、こちらの魔族のような見た目をしていてな。最後は殺されたよ。人間にな」
「…」
自分の身が危険に晒されるのは予想していたが本当に殺された例もあるとは。
「そのときは魔王が出現していてな。それを知らない一般市民が騒ぎ立てたのさ。その頃、異世界からの来訪者が現れたせいで魔物が増えたってな」
「今回は…」
「今のところ魔王は出現していないが、さらに悪い時期だ」
と言うと?
「災厄というものがある」
「災厄…」
「そう。魔族や人間によるものじゃない。この世界の意思とでも言えばいいのか、正体不明のナニカが世界各地で暴れ出す」
前回の災厄では、100年前天使のような人型のナニカが来襲し、この世界の生物を半分虐殺したそうだ。
その前の災厄は約500年前。ゴーレム達がたくさん出現したらしく、その時も生物の数が大幅に減少したらしい。
「…今回のはいつ頃に?」
「あと1年ってとこか」
短い…グズグズしていたらすぐにその日が来てしまう…!
「そろそろ魔物達が凶暴化するだろう。くれぐれも異世界人ということをバラすなよ」
「ご忠告ありがとうございます」
「さて、そろそろあいつらを中に呼び戻すか」
「その紙は…」
「ん?ああ、【誓約の書】か。どうせ条件は署名した者にか分からんからな…どうするか」
「こうしましょう」
既に署名してある紙をもらい、【煙草は1日3本まで】と条件の欄に書く。
「…やってくれるじゃねえか」
「吸いすぎは体に毒ですから。ほどほどにしてください」
「ったく。これを機に禁煙でもするか…」
少し不満そうにしているが良いきっかけになったと思う。それに災厄があると言うのだからこの人にも全盛期並みに戻ってもらいたい。
「おーい。入っていいぞ」
「長かったっすね」
「すまんすまん」
「今日の要件は終わりですか?」
入ってくるや否や、ヤミーさんがうんざりしたようにそう言った。
「終わりだ。長引かせてすまなかったな」
「ミヤビ!ギルド登録行くわよ!」
「えっ?は、はい!」
腕を引っ張られ、部屋から無理やり連れ出される。
「何だってんだまったく…」
「ヤミーにもやっと春が来たんすよ」
「ほぉー…そりゃ面白そうだ」
部屋に残った3人は心底楽しそうに笑った。
下卑た笑いだった。
一階に降り、ギルドの受付で登録する。受付嬢は綺麗なお姉さんだった。残念ながら綺麗な赤い指輪をしている。既婚者のようだ。
「ここに名前と希望する職業をお書きください」
ミヤビ。職業は【魔法使い】
「記入しました」
「はい。ご確認いたします。ミヤビ様。職業は…えっ?【魔法使い】?」
いや、そんな目で見られても…希望する職業って言ったじゃないですか…。
「し、失礼しました。えーと、本当に間違いありませんね?」
「はい」
いや、お姉さん。そんなに信じられないって顔で見続けないで。悲しいです。
「で、では受付の横にある扉から修練場に行ってもらいます。そこにいる教官に詳しい説明を聞いてください」
「分かりました」
扉のドアノブを回そうとした瞬間、
「あの…」
「はい?」
「本当の本当に魔法使いでいいんですか?」
受付のお姉さんはそう聞いてきた。
「…見た目と職業が違ってちゃダメですか?」
そう笑って言い返し、扉の奥へと進んだ。
ちなみにそれを聞いた受付嬢が唖然としていたのは言うまでもない。
【修練場】と書かれた扉を開けるとサッカーコートの半分くらいはある広い空間が目の前に広がった。
「お?来たか」
真ん中に立っていた男がこちらを見て声をかけてくる。30代くらいの男、しかしその体は実用的な筋肉がついている。それに歩いてくる時にわかったが、体幹がブレていない。
「おう。お前がミヤビだな?リンから聞いてるぜ。俺は教官のダージ。よろしくな」
握手を返すと気づいた。赤い指輪をしているのだ。
「その指輪ってことは…」
「ん?おお。どうだ?珍しいだろ。この宝石はな、貴金属しか食べない魔物の体内で生成される珍しい宝石なんだよ。Aランクの化け物だが俺が5年ほど前に仲間と倒したんだ」
「いや、それと同じ物を受付のお姉さんも嵌めていたような…」
「…本当によく見てるなぁ。あれが俺の妻のリンだ」
なんて羨ましいんだ。あんなに綺麗なお姉さんを貰うなんて…そんなにイケメンじゃないのに。
「失礼なこと考えてねえか?…気のせいか。んじゃぁ早速やろうぜ」
本当にこの世界の人は勘が鋭いな。
「さて、まずはお前の職業だが…本当に魔法使いなのか?」
「…そうです」
この先何回このくだりをやるんだろうか。
「そ、そうか。ならこれからやろう」
倉庫から7つの綺麗な宝石がついた変なものを持ってきて、手が触れない近さで手をかざす。
「これは魔法の適性を見極める道具でな。俺は赤と黄の二属性だから魔力を流すと」
なるほど。適性のある魔法の属性と同じ色の宝石が光るってことか。
「魔力の流し方とかは分かるよな?」
「多分…大丈夫です」
魔法は何回か使ったんだし、いけるはずだ。
「行きますよ」
目を閉じてリラックスし、手のひらに意識を集める。
「え!?」
魔力が流れる感じがした時、ダージさんの驚いた声が聞こえた。
「お、オッケーだ」
目を開けると全ての宝石が輝いていた。流石神さま公認の【全属性適応】。
「全属性持ちなんて初めて見たぞ…」
「そ、そうなんですか…」
「そうなんですかって、お前なぁ、俺の二属性でさえ珍しいってのに…」
ブツブツ言いながらダージさんが次の準備をしている。今度は…なんだこれ?膨らませる前の風船?
「これは魔力バルーンって言ってな、魔力を入れることで膨らみ、空気を入れるよりも遥かに長く膨らむ風船だ。お祭りなんかでよく使われるな」
なるほど。魔力の操作と魔力量を見るわけか。
「やってみな」
「全力でやっちゃっていいんですか?」
「最大値を測るからな。やっていいぞ。確か昔に、大賢者様が直径10メートルくらいにしたと記録に残っているな」
よーし。全力を出してみよう。リラックスして…
「!!」
「うぎゃっ」
急激に大きくなった風船がダージさんを突き飛ばし、僕も押されて倒れてしまった。うわー…割れたら五月蝿そうだな。
「なんて大きさだ…大賢者様の5倍はあるんじゃ…」
実はまだ余力が残っている。突き飛ばされてしまったせいで半分ほどしか魔力を込めれなかったのだ。
「お前は…何者なんだ?」
似たような質問をギルドマスターにされましたよー。
「魔法使い志望の新人冒険者でふ」
噛んだ。かっこ悪いなぁ…恥ずかしい。
「…素性の詮索はマナー違反だな。気を取り直して次をやろう」
いくつかのテストを終え、受付に戻る。
「あ、お帰りなさい。どうでした?」
「とっても良い人でしたよ」
「いや、彼のことではなくて…」
「ああ、こんな感じでした」
終わった後にダージさんにもらった紙を見せる。
【ごーかく】
お世辞にも綺麗とは言えない平仮名で書かれた紙を見てリンさんのこめかみに青筋が浮かんだ。
「しょ、少々お待ちください…」
そう言い、受付の裏に下がる。
『ダージさん!あなたねえ!毎回毎回これで済ますのやめてって言ってるじゃないですか!報告書にまとめるんですからもっと細かく情報を書いてください!ていうか何ですか【ごーかく】って!…めんどくさい!?あなたって人は…!!』
ものすごい大声でダージさんが叱責されてる。だから言ったのに。もっと細かく書かなくていいんですかって。
そして1分後、怒られてしょんぼりしているダージさんが受付にやってきた。
最初に会った時の威風堂々たる面影はなく、尻に敷かれたうだつの上がらないサラリーマンのようだった。
ああはなりたくないと心から思ったよ。
ダージさん…本当はカッコいい先輩冒険者みたいな設定だったんだけどな…
尻に敷かれないようにみなさんも気をつけてください。