序盤の敗北イベントは勝てる説「いや、お前だけだよ」(神様)
「こ、これがファラオ…」
「とんでもない威圧感だ…」
「立っていられない…」
3人はテミュランの強大な力に当てられ、ひれ伏してしまっている。無理もない。どう考えてもこの序盤に出る強さの敵ではない。
『不愉快だ…何故余の前にひれ伏さないのだ?』
強大な力とはいえ、僕には何も感じない。つまり同等な力か、僕の方が上回っている可能性が高いという事だ。
「これは失礼しました」
一歩遅れてひれ伏す。
『ほぉ、たかが人間が余の意思に逆らえるとはな』
王の意思に抗い、自分の意思で行動した事に興味を持ったのかこちらを値踏みするような目で見ている。
「あのー私たちは地上に帰りたいのですが、後ろにある通路を使わせてはもらえませんか?」
『ならぬ』
ですよねー。
『あの通路は余の緊急事態用の通路。余が認めぬ者に使わせる訳にはいかん』
どうやって認めてもらうか…戦闘は避けたい。持っている力の総量と戦闘した際の強さは別だ。
『だが、ここまで来たという事はアヌビスを倒したのであろう?ならば資格はあるようじゃな』
たしかにアヌビスの位置的には近衛兵みたいなものだった。ならば十分資格はある、というわけか。
「それで…私たちは何をすればよろしいのですか?」
『もちろん、戦え』
やはりそうなるか。しかしながらこの状態で勝てるのだろうか?一人は死にかけていたばかりだ。
「しょうがねえ…やるしかないだろ。ミヤビさんもう一度力を貸してくれ。協力してここを出るんだ!」
『勘違いをするな』
「え?」
『余とお主らが戦うのではない。お主ら同士が殺し合い、生き残った者に通路を使う資格を与えよう』
瞬時に重苦しい空気が四人を包み込む。
この四人で、少しの間だが共に行動した仲間で殺し合う?ふざけるな…。
「断る」
そう言い放ち、王に向かって右ストレートを繰り出す。
『愚か者が…』
繰り出された拳は王の顔の数センチ前で見えない壁に阻まれた。
「魔法障壁!?一人で使えるなんて有り得ない!」
『余は歴代最高のファラオ。武力、知力、政治力…様々分野において天から与えられし才能を持つ者だ。これくらい寝ながらでも可能だ』
余裕な表情を崩す事はなく、棺を椅子へと変化させて座る。あれも魔法か。
「そんな優れたファラオが殺し合えなんていうか?」
『黙れ愚民』
「ぐぁぁぁぁ!!」
ジャックの体に電撃が走る。先程ヤミーに教えてもらった黄色属性の雷魔法のようだ。
『侮辱するなどいい度胸だな?』
「やめろ!」
大声で叫ぶと部屋全体が震え、ジャックを襲っていた電撃が止んだ。
『お主…何者だ?』
「ミヤビ。ただの高校生だ!」
再度、拳を障壁に叩きつける。
『ふっ!無駄だ!』
障壁は拳を阻んでいるが、10発を超えたあたりから感じる。
これは壊せる。
「うぉぉぉ!!!」
さらに気合いを入れ、全力の攻撃を繰り返す。パンチだけでなく、キックや体当たりも加え、様々な角度から攻撃する。
『くっ…』
「どうしたんだ?余裕の笑みが消えたぞ?」
焦りの色が現れている。
そしてさらに蹴りを加えた瞬間
パリィンッ…!!
ガラスが割れるかのような音を立ててバリアは消え去った。
『ば、ばかな…』
「僕の勝ちだ!」
拳を顔へと全力で放ち、寸前で止める。
「まだやりますか?」
『…いや、余の負けだ』
意外にもあっさりと降参してくれた。体中から力が抜ける。
「ミヤビさん!」
「ヤミーさん…」
ヤミーさんが抱きついてくる。少し遅れてとても優しい良い香りがした。
「うぅ…本当に心配したんですよ…」
「僕はただ疲れただけですから、ジャックさんを回復させないと…」
そうだった!と本当に忘れていたようで、慌てて回復魔法をジャックにかける。
「…まったく、妬いちまうぜ。イテテ…」
「何言ってるんですか…こんな時に」
ユニオンさんが軽口を叩くジャックさんに呆れ顔で窘める。
「そ、そういうわけじゃないわよ!」
「そ、そうですよ」
『お主ら、余のことを忘れて騒ぐんじゃない!』
四人だけで和気あいあいとしていたらテミュランに怒られた。実は寂しがり屋なのかもしれないな。
『ったく…まぁよい。今回は余の負けじゃ。通路を使う事と宝を持っていく事を許そう』
「宝まで良いんですか?」
『本来なら通路だけだが、今回は誰かさんが余の事を倒すという有り得ない行為をしたからな。特例だ』
ぼ、僕は知ーらない。だ、誰のことだろう…?
『ふんっ。というわけだ。持っていくがよい』
「やったぜ!俺たち大金持ちだ!」
「いえーい!!」
「きゃー!嬉しい!!」
冒険者3人組は嬉しそうに宝物を手当たり次第にバックに詰めていく。
『お主は何もいらんのか?』
「僕は…これだけでいいですね」
壁に掛かっていたローブを手に取り、テミュランに見せる。
『お主は良い目をしているのだな。それは魔法のローブ。様々な効果と高い性能を持っておる』
「へぇー」
『なんだか感動が薄いのう。それは余が生前使っていたローブ。本来ならば余だけが装備できるローブじゃぞ?』
「そんな物僕が使っちゃって良いんですか!?」
王家にしか許されないローブて…一般的な高校生が身につけていい物じゃないじゃないか!
『構わん。余が許す』
わー。王様のお墨付きだー。
「ミヤビ!もうこれ以上は無理だ!!」
「バックが一杯になっちゃった!」
「詰め込みすぎですよ!」
今にも千切れそうなくらいにバックが膨らみ、その重さのせいで背負っているジャックさんが後ろに傾いている。
「では、そろそろ失礼しますね」
通路に入り、最後にテミュランに挨拶をする。
『ミヤビと言ったか?お主は面白い存在じゃな。何かあったら来い。何もなくても後で顔を出せ』
「王様のご命令とあらば」
そう言うと、テミュランが嬉しそうな顔を見せ、通路の扉を閉めた。今まで黄金の部屋のおかげで通路は明るかったが、暗くなってしまった。
「また、来ますね」
「ミヤビさーん!置いて行っちゃいますよー!」
「わっ。ヤミーさん置いて行かないでください!!」
上で待つヤミーさんたちを追いかけて、地上へと伸びる一本道を登って行った。
〜神様の部屋〜
「やっぱあいつ面白えな!」
お洒落なカフェのような広い部屋で紅茶を優雅に飲み、世界の管理神であるディオスは楽しそうにパソコンを覗き込む。
パソコンの画面には彼の目に留まり、不幸にも召喚されてしまった可哀想なミヤビが映っていた。
「ん?なんか知らんけど馬鹿にされた気分だ」
気のせいです。
「まあいいか。それにしても…ステータスが高いとはいえ、戦闘経験どころか喧嘩すらしたことの無い奴がテミュランを倒すとは…」
ブツブツと呟いているとモニターにテミュランのローブをもらう姿が映った。
「あ!馬鹿やろう!それは魔法使い用だぞ!」
神様の中にはミヤビが魔法使いを希望した記憶など微塵も残っていない。自分勝手を具現化したような方なのだ。
「…神託でも出すか?いや、まだ早いな」
そんなことで神託を使わないでください。
「まぁ、そのうち気も変わるだろう。前衛できる奴が少ないのは事実だしな」
そう自分に言い聞かせるように呟き、ティーカップを傾ける。すでに紅茶は冷めてしまっており、本来の美味しさが失われている。
「…魔力が戻ったら召使いでも生み出すか」
ミヤビを無理やり召喚したせいで神様の魔力はかなり減ってしまっている。それでも人に比べたら膨大な量なのだが…。
「よし。お菓子作りが得意なやつにしよう。紅茶に合うお菓子を調べておくか」
パソコンを一台増やし、ミヤビを観察しながらお菓子を調べる。
「へぇ、こんな美味そうな物があるのか」
…神としての仕事をしてもらいたいものである。
〜人間界〜
「何故か分からないけど見られてる気がするな…」
「ミヤビの感は鋭いからな」
「探索に引っかからないなら大丈夫でしょ」
砂漠の進行が激しい地帯を通り抜け、視界の中に緑が多くなってくる。
「もうすぐなんですか?」
「ええ。この近くに【テネグロ】という国があります。そこそこ大きくて賑やかな国ですよ!」
「「デートスポットも多いぜ」」
にやにやとユニオンさんとジャックさんがヤミーさんを見ている。
「二人とも?怒るわよ」
「「冗談だって」」
二人同時に同じ言葉を返してくる。つい先ほどの休憩で知ったことだが、ユニオンさんとジャックさんは双子で、ヤミーさんは幼馴染らしい。
「あれですか?」
「そう、あれが俺たちの今の拠点、【テネグロ】だ」
豊かな森を背後に構え、左右が山脈に囲まれた街。三人の話では初級と中級の冒険者が多く、ギルドの本拠地があると言う。
そんな最初の国にしては門が立派なんだけど…。
「さて、審査場に行きますか」
「審査場?」
〜始まりの街、テネグロ〜
「ここに荷物全部置いて」
「あ、はい」
どうやら審査場とは入国審査のようなことを行う場所だった。手荷物のチェックなどを軽く行い、問題なしなら通れる。もちろん通れた。
「お疲れ」
「ヤミーさん達は早かったんですね」
飲み物片手にくつろいでいるので早く終わったのだろう。あ、ホットココア飲みたいな。
「俺たちはギルドカードでパスできるからね」
「ギルドカード?」
「ギルドに所属していると貰えるカードさ。まぁ、ギルドは商人ギルドと冒険者ギルドの二つに大きく分けられる」
「私たちは冒険者ギルドよ。ミヤビも登録した方がかなり楽になるわ」
確かに。毎回国に戻った時に1時間もかかったらもったいない。
「じゃあ…あとで登録してみようかな」
「よし、一回ギルドに行こう!」
「ぼ、僕もですか?」
「だって、お宝の鑑定しないと。ミヤビの分け前もあるのよ?」
「僕はいらないですよ」
「何言ってるの!?ひょっとして寝ぼけてる?こっちは助けられたんだから本当は全部ミヤビでも文句言えないのよ?」
そ、そうなの?でも、少し暮らせるお金さえ貰えればそんなに大金は…。あぁ、ある程度武器とか揃えたら寄付すればいいのか。
「…ある程度は自分のために使いなさいよ?」
心を読まれた?この世界の人も心を読むのがスタンダードなのかな?
「…まあ、貴方のお金だし、好きにすると良いわ」
そうこうしてるうちに冒険者ギルドと書かれた立派な建物に到着した。今更だが言葉は日本語であり、文字も全て同じである。
「ま、マスター!あれ!」
「…おや?【煌めく翼】か?」
木製の扉を開けると広間があり、カウンターに若くて綺麗な女性とナイスミドルなオジさんがいた。
「遅かったな。全滅したのかと思ったぞ」
「いやー、全滅しかけましたよ。あのダンジョンは中級でも厳しいです」
「ふむ。それじゃ入場制限をかけないとな」
「ギルドマスター!詳しい話は後でいいですか?私お風呂に入りたいんですけど…」
長話になりそうなのを感じたのかヤミーさんが割り込んだ。へぇ、この世界にもお風呂があるのか。せめてシャワーがあればいいと思ってたから少し嬉しい。
「おお、そうだな。無料で浴場に入れるように言っておくから、鑑定する品を出して、行ってきていいぞ」
「「「やったー!!!」」」
無料と聞いて大喜びしている。さて、僕はどうしようか。
「あ、ギルドマスター!この人、私たちの命の恩人なんで、この人も無料にしてください!」
「ん?そうなのか。すぐ手配しよう」
「あ。ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらだ。助けてもらったようだしね。詳しい話は後で聞かせてもらうが…いいかね?」
「ええ。構いません」
「…ギルドマスターとして、君の働きに感謝する。3人を救ってくれて、ありがとう」
〜浴場〜
「いやー、ギルマスが頭下げるとはな」
「びっくりしたな!」
ユニオンとジャックが僕たち以外誰もいない浴場でそう言う。もちろん混浴ではない…期待してなかったと言えば嘘になるが。
「そんなに珍しいことですか?」
「あの人は若い頃は武闘派の冒険者でな、100人くらいの盗賊団を1人でぶっ潰したんだ」
「他にも色んな伝説を持つ上級冒険者だからな。この辺の奴らはみんな頭が上がらないんだよ」
軽く貴族レベルだと言う。そんな人に頭を下げて貰えたのか。貴重な体験だったんだね。
「さて、鑑定はどうなったかな?」
「よゆーで大金貨10枚はいくと思うぜ!」
「そんなに行きますかねえ?」
口ではそう言うが、内心楽しみではある。
なにせ自分の力でお金を稼ぐのは初めてだしね。
石貨・・・1円
鉄貨・・・10円
銅貨・・・100円
銀貨・・・1,000円
金貨・・・10,000円
大金貨・・100,000円
白金貨・・1000,000円
物価はかなり安いです。安いパン1個で鉄貨1枚です。
目安ですので、自分の中で変換していただいて結構です。