初異世界転移かー。ドキドキす「早よ行け」(神様)
「っ!神様!」
神様に詰め寄ったはずが、何故か起き上がる姿勢になっていた。
「…夢?」
夢を見ていたのだろうか。それにしては随分とバリエーションに富んだ会話だったような…
「それにしても…ここはどこだ?」
異世界かな?本当に…。
「そんな…まだ読み終わってない本もあったし…あ!トトの世話!じいちゃんやってくれるかな…」
というよりも僕は死亡した記憶が無い。最後にある記憶は自分の部屋で眠った。つまり…現実世界では昏睡状態なのだろうか…。
「ああ…もう。説明不足だよ…」
あの神様…怒りたくなってきた。
「まぁ、どうしようもないか。次に会った時に文句を言おう」
そう。今は目先の問題が一番だ。
「洞窟…じゃないな。明らかに人工の建物だ」
干したレンガのようなもので作られた壁や天井。普通の異世界転移なら森とかじゃないのか。
「部屋?から出てみようかな」
おそるおそる扉を開け、通路を見渡す。
……
すぐに僕は、そっと、扉を閉じた。
「何だあの怪物は…」
頭は犬?のような生き物だが、体は二足歩行だった。人間のような体だ。
「何だっけ?そうだアヌビスとか言う名前だ」
エジプトに出てくる守護神。わー、何でそんな凄そうな人が転移先にいるんですか?
「中盤以降じゃないと敗北必須でしょ…」
そんな状況なのにどうしよう…お腹が空いてきた。
《持ち物》
リュック大×1
財布×1
お茶×500ml
ハンカチ×1
柔らかポケットティッシュ×1
ハンドクリーム×1
簡易医療キット
非常食×3
メモ帳
筆記用具
ソーラー充電式ライト
良かった。いつも、非常時の準備をしておいて。震災が起こってからリュックに準備だけはしておいたのだ。
「でも…3食分しかない。やっぱりここから出ないとダメか…」
アヌビスをどう退けるか…。強行突破しようにも相手の武器は尖っていて、刺されたらかなり痛そうだ。
「うーん…」
答えが決まらないな…
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
扉の向こう、通路にいたアヌビスの方から男の悲鳴が響いた。
「なんだ!?」
さっきまで恐れていたのを忘れ、扉を開ける。むせ返るような血の匂い。男が1人倒れている。
「ユニオン!しっかりしろ!!」
倒れた男の前に立つ銀髪の男がアヌビスの猛攻を何とか防いでいた。
「くっ!!」
「ジャック!」
「しまっ」
ジャックと呼ばれた銀髪の男が、剣を弾かれて大きな隙を見せてしまう。すかさずアヌビスの槍がジャックの腹に向かってくる。
「ぬぉぉぉぉ!!」
警戒していなかった横方向からのタックルをアヌビスに食らわせ、壁に叩きつける。
「大丈夫ですか!」
「あ、あなたは…」
「いいから!早く彼を回復してください!」
「…できない」
「え?」
「回復魔法は使える人が希少なのよ!こんなに大きな傷…私には治せない…」
何ということだ…ゲームではありふれている回復魔法が使えないなんて…
「何か手段は…っ!」
アヌビスが起き上ってきて攻撃を仕掛けてくる。中々の速さだ。
「っっ!!邪魔だぁぁぁ!!」
大声を出すと何故かアヌビスの体が一瞬固まって隙が出来た。
…今だ!
「お前は、寝てろ!」
渾身のパンチ。武闘家の人が見たら激怒するくらいの大振りなパンチ。
だが、そんなテレフォンパンチも止まっている相手には当たった。
ズドン!ドカ!ゴシャ!ガン!
数回、壁や床にぶつかり、アヌビスは動かなくなった。
「ユニオン!」
ユニオンの体からは絶え間なく血が溢れ、辺りの床を赤く染めていた。
「とりあえずやれるだけ回復魔法をやるんだ!」
「で、でも…!」
「ヤミー、早く!」
何もせず、ただ死ぬのを見ている何て事は出来ない!できる事をやり、最後まで足掻くのが人間なんだ!
「治癒」
ヤミーと呼ばれた魔導師の女の子が呪文を唱えると淡い光が少しだけ傷を覆い、数ミリだけ傷を塞いだ。
「…もう、魔力が…」
「治癒と唱えればその魔法は使えるのか?」
「あなた魔法の基礎は知ら…いや、それはいいわ。属性を持っていれば可能よ」
「出来るかもしれない」
神様に見せてもらったステータスが本当に僕に適応しているのなら、固有スキル【全属性適応】がある。
「…治癒」
「「「「うわっ」」」」
同じように呪文を唱えた瞬間、目を開いているのが難しいくらいの眩い光が通路を包んだ。
「……」
たっぷり数秒を要して、視界が戻ってきた。
「…な、何だったの?」
「分からん…そうだ、ユニオンは!?」
「…」
血が足りないのか意識は無いが、脈も呼吸もしている。命はとりとめたようだ。
「よかった…本当によかった…」
「と、とりあえずこの部屋に運びましょう。また何か来るかもしれないから」
ジャックと一緒にユニオンを部屋へと運ぶ。部屋に入ったあとに、残りの2人にも治癒をかけてあげた。
「あ、ありがとう」
「助かった」
2人が土下座の姿勢でお礼を言ってきた。
「いや!そんな頭をあげてください!」
「いいんだ。俺たちが助かったのはあんたのおかげだし、ユニオンが死なずに済んだのも奇跡だ」
「そういえば、貴方何者なの!?初級魔法で致命傷が治るなんて見た事も聞いた事もないわよ!?」
「ぼ、僕は…」
なんて言えば正解なのだろうか。
異世界から来た?いや、頭おかしいと思われる。
遠方から来た?こんな軽装備で?
この部屋に住んでる?化け物に間違われそうだ。
「私はミヤビという名前です…じ、実はですね。この近くを通った時に追い剥ぎにあいまして…逃げきったのですが、荷物を失い、ここに迷い込んでしまったのです」
…我ながらなんてアホな理由だ。簡単に嘘だって分かっちゃうじゃん。
「そうだったのか…」
「大変でしたね」
え?し、信じてるの?うわー、信じられない。
「あの力を持ってたら簡単に返り討ちに出来そうだけどな!」
「ねぇ、ミヤビさんにお願いしたら?」
「ああ、それがいいかもしれんな」
ヤミーさんとジャックさんがこそこそと話し、こちらを伺っている。
「なぁ、ミヤビさん。頼みがある」
「何でしょう?あと、ジャックさん、僕はミヤビでいいですよ?呼び捨てにしてください」
さんを付けられると何故か恥ずかしい。
「そうか、じゃあ、ミヤビ。俺たちの護衛をしてもらえないか?そうすればお礼として俺たちは近くの街まで案内できる」
なるほど。(彼等には言えないが)異世界に来たばかりで右も左もわからないからその方が助かる。
「分かりました。護衛はやったことはありませんが…それでもよろしいのでしたら」
「よし!お願いするぜ!」
「よろしくお願いします」
体を張って、頑張れば何とかなるはずだ。あんなに強そうなアヌビスを倒したんだし。
「…あ、うう…」
「ユニオン!」
「…ジャック?ここは…?」
「隠し部屋だ。アヌビスは倒したぞ。安心しろ」
「そうだ、俺はアヌビスに…」
少しずつ記憶も戻って来ているようだ。起き上がり、僕に気づく。
「この人は?」
「俺たちの命の恩人だ」
「恩人だなんて…大袈裟です。僕はミヤビ。よろしくねユニオンさん」
「そうだったのか。助かった。恩にきるよ」
ふらふらとしながら頭を下げてくれた。みんな礼儀正しいなぁ。
「これ、どうぞ」
少しでも血を精製できるように持っていた栄養価の高い非常食を渡す。3個しかないが、ここを出られなければ意味がないので遠慮なく使う。
「こ、これは…」
「どうした?ユニオン」
非常食を口にした瞬間、ユニオンさんの顔に驚愕の表情が浮かぶ。口に合わなかったのだろうか?それともこちらの世界では食べない物が入ってたのかな?
「あの…何か食べちゃいけない物でも入ってましたか?」
地球でもある宗教では宗教上の理由で食べてはいけない物がある。
それだとしたら大変な事をしてしまった。争いの火種になる可能性もある。
「いえ、そういう事ではないです。ただ、あまりにも栄養価の高い物だった物で」
「はい?」
食べただけで非常食の栄養価を分かる人なんているのか?果物とかなら分かるけど…。
「…実は私のスキルのせいです。私は固有スキルで【分析者】というものを持っていまして…。それのおかげで今のレベルでも成分くらいまでは分かります」
話を詳しく聞くと、スキルとはスキルレベルが上がると性能が上がるらしい。ユニオンさんのスキルレベルは2で、最大で10まで上がる。
「へぇー。そうだったんですか」
「今回はミヤビを信頼して言ったけど、あまり他の人には言わない方が良い」
珍しいものを持っていると狙われるということか。気をつけよう。
「さて。そろそろ行くか」
「分かりました」
ユニオンさんも大分歩けるようになったので出発の準備をする。
「隊列は、俺が前衛。真ん中にユニオン。一番後ろをミヤビとヤミー。ヤミーは【探索】を時々使ってくれよ」
「了解」
「分かりました」
「分かったわ。それじゃ早速…【探索】」
何か見えない波動のようなモノが体を通り抜けた感じがした。
「なんですかこれ」
「え?分かるの?」
え?分からないものなの?普通は?
「魔法を自分の周囲へと波として放って、辺りの様子や生物の有無を調べる魔法よ」
「すごいですね!」
「私は魔力が少ないからあまり広範囲には出来ないんだけどね」
そうなのか。普通のスキルは固有スキルと違い、レベルだけでなく、魔力量にも左右されるようだ。
「出来るかもしれないし…やってみますね」
「【探索】は【無】属性の魔法だからね。貴方は【白】属性はあるみたいだけど。」
どうやら治癒系の魔法は【白】のようだ。他にも後で色々教えてもらおう。
「…【探索】」
ちょっと力を込めて、体の内側から押し出すイメージで魔力とやらを放つ。
「「うぉ!?」」
「きゃっ!」
3人が驚く。またなんかやっちゃったかな?
「で、出来てる…しかも、すごい強さよ…」
「どんな感じだ?」
頭の中にやはり地球のピラミッドのような形の迷宮の構造が浮かんだ。地下深くだったようだ。
「…こっちに地上までの抜け道?みたいなものがありますね。…ここの向こう側です」
アヌビスが最初にいた、通路の奥の方へと向かうと扉があった。中には生物の反応や罠も無い。
「多分これが最深部の王の間、みたいなものです」
「ボスもいないのか?」
「アヌビスがそうだったんじゃないですか?」
そっと扉を開けて中を確認する。やはり王の間だったようだ。
「すげえ…」
「お宝ばっかりだ!!」
「きれい…」
冒険者3人は見とれてしまっている。しかし、気になることが一つだけある。
「みなさん警戒してください。この部屋の中に敵意を持つやつがいます」
「「「!」」」
そう言うとすぐさま武器を構え、警戒態勢に入る。
「ミヤビ…そいつはどこに…」
「目の前ですよ」
目の前にある棺を指して言う。
そう、最初の【探索】には掛からなかったが、実はもう一度発動させていたのだ。
案の定、棺の中から敵意を感じ取った。
やはりこれはお約束通り…
『余の眠りを妨げるのは誰だ…』
ファラオの復活だ。
『貴様らが誰なのかなど興味は無い。余の眠りを妨げた犯罪者。それで十分だ』
棺が開かれ、ミイラになったファラオが出てくる。
『我が名はテミュラン。貴様らに死を与えよう』