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夢追いし者、儚く散った者達へ告ぐ。  作者: かいといか
第五章
6/7

夢追いし散りゆく者の涙

 私はあの瞬間何を思っただろう。

茜の話を聞いて頭が真っ白になってしまった。

私は彼女に何も言ってやれなかった。

何を言えばいいのかも分からなかった。

せっかく茜と良き親友になれたと思っていたのに神様ってのはとんだ不公平じゃないか。




 麗奈に話してしまった。

まだ家族以外誰も知らない私の秘密を。

あぁ、これ以上彼女を傷つけまいと思っていたのに。特に麗奈とは運命的な出会いを2度もして良き親友になれたと思ったのに。

神様どうか…彼女に明日を踏み出す勇気を。

どうか、どうか彼女が夢を叶えられますように。


2人の想いが波となって交錯し海原へと流れてく。


 茜はあと数日もしないうちにこの村から出て行くことになっていた。実は父親の仕事が夏に入る少し前辺りから上手くいっていなかった。

小さな漁村の経済が大きく傾いたのだから原因をつくった西条家は水穂村から追放。それが当然の結果であった。


「茜は関係無いのに…。」

麗奈がふと口にしたその言葉はクラスメートや教職員、茜と関わった事のある人は皆そう思ったに違いない。

しかし、このしきたりは先人達から受け継がれた伝統である。先人達はこの村を守るため経済的、物理的に問題が水穂村に生じないよう原因であるその一家を資産家や漁師等の身分に関わらず追放してきた。


 このしきたりは村人にはあまり知られておらず問題を起こした家は直接村長から沙汰が通知されることになっている。だから、麗奈はその制度を知らず茜も言えずにいた。


数日後…


茜が水穂村にいられる―最後の日の夜―


 麗奈と茜は不気味な静けさを放つ夜の砂浜を歩いた。そっと茜が口を開き唇を震わせて今にも泣きそうな声で麗奈に話しかけた。

「麗奈…ごめん。…ごめんなさい。」

「私達せっかく仲良くなれたのに、この村から出て行くことになって。ごめんなさい…。」

「麗奈に会えて良かった。私…必ず必ず手紙書くからね。」茜は涙をこらえ微笑んだ。


 麗奈はなんて言えばいいか分からなかった。

分からないから自分の素直な気持ちを茜に吐き出した。

「茜は謝らなくていいんだよ。謝る必要なんてない。だって、私達せっかく仲良くなれたし手紙も絶対書く。それに無理して笑わなくていいよ。泣きたいときは思いっきり泣いていいんだよ。私が全部受け止めるから!」


 茜は麗奈のその言葉を聞くと今までこらえていた涙が溢れ出てきた。茜は麗奈の胸に抱きつき悔しいのと恥ずかしいのと色々な思いを込めて泣いた。


しばらくして2人は体が冷えない内にそれぞれ家に帰ることにした。


―次の日の朝―

 茜がこの村から出て行く時が近づいてきた。

麗奈は茜と最後の別れをするとき昨晩帰り際に絶対に明日は泣かないと約束したのを思い出した。

2人は最後の時を笑顔で迎え泣きたい気持ちをこらえて茜は若くして生まれ育った水穂村から出て行った。

麗奈は茜の姿が見えなくなるまで手を振り続け姿が見えなくなった瞬間泣かないと誓ってたものが崩れ落ち涙の雨が注いでいた。




茜と別れてから約半年が過ぎた。

高校も無事卒業した麗奈と茜はそれぞれの道を進んでいた。


 麗奈は自らの夢を叶え漁師の見習いとして切磋琢磨に働いていた。

「夢叶ったよ茜…約束果たしたよ!」

心の中でそう叫んでいた。


 茜は新しい街で漁師としての道ではなく漁師を補佐する漁業組合として働いていた。茜が今まで培ってきた技術や学力が認められまだ若干19歳という若さで組合の二番目の地位に就いた。

「いつか必ず…麗奈と一緒に仕事するんだ!」

茜も心の中でそう誓った。


2人はそれぞれ違う道を歩んでいる。

一方は夢を追い続け入り口に立てた者。

一方は夢叶わず散り新しく花咲いた者。


 夢は必ず叶うとは限らない。

やむなく諦める日が来るかもしれない。

だからこそ私は言う。

夢を見ろと。

どんなに可能性の低い夢でも追い求めなければ可能性は〈ゼロ〉だ。だが、その夢を少しでも追ってみれば可能性はどんなに低くても〈ゼロ〉ではなくなる。

〈ゼロ〉でない限り人はあらゆる可能性を無限に持ち合わせる。

若者は周りからどんなに馬鹿にされようとも夢を見て追い求めるべきだ。


彼の有名な言葉を借りるなら

『少年よ 大志を抱け』

とでも言うべきであろう。

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