表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/53

ヴァレンタインデー

「ねえ、宗ちゃん!

 ヴァレンタインデーって、知ってる?」

 燈子が瞳をキラキラさせて尋ねてきた。


「キリスト教徒のお祝いだ。

 海外では恋人たちの記念日だが、日本ではお歳暮代わりのチョコレートが飛び交うらしい」

 宗一郎は答えた。

 春分が終わって、ようやく暖かい日が続き始めたある日のこと。

 縁側で、二人は並んで日向ぼっこをしていた。

 純白の光の粒子が降り注いでいた。

「好きな人にチョコをあげる日なんだって。

 美咲ちゃんが教えてくれたの!」

 燈子は元気良く言う。

 学校が楽しくて仕方がないらしい。

 無邪気に燈子は笑う。

「そうか」

 少年はうなずいた。

 この山上にはない風習だ。

 歳の近い男女が少ないのも、原因の一つだろう。

 分家なら、もう少し人数が増えるのだが、分家の人間が本家の人間に贈り物をする度胸があるとは思えない。

 どちらにしろ、宗一郎には無縁の行事だった。

「だから、今年はお父さんと宗ちゃんにチョコをあげるね!

 楽しみにしててね」

 燈子は言った。

 どうやら、義理チョコの概念も教えてもらったらしい。

 宗一郎は、同世代の同性の友人の必要性を再確認した。

 母の制止を振り切った苦労も報われる。

 燈子は閉塞的な環境で育ったせいもあり、世間知らずすぎた。

 こうやって、年頃の少女らしく過ごす時間は大切で尊いものに思える。

「では、お返しを用意しなくてはいけないな」

 真新しいことは、どんな類のものであっても面白い。

 少年は甘いものがあまり好きではなかったが、少女の笑顔を曇らせたくはなかった。

 甘党な少女がわざわざ自分の好きな物をくれる、と言うのだ。

 楽しみにしない男がいたら、それは人間の屑だ。 

 寡黙な少年はかすかに笑む。

「三倍返ししてね!

 ちゃんとしたチョコをあげるから」

 2月14日を心底楽しみにしている少女は、屈託なく笑う。

「ああ、そうだな」

 宗一郎は燈子の小さい頭をなでた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ