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08.青い月

 とーこは「青い月」の意味を知っています。

 それは『できない相談』という意味です。


 宗ちゃんにとって、それは「青い月」なのでしょうか。

 小さいとーこにはよくわかりません。

 宗ちゃんととーこは、恋人同士なのです。

 でも、ちっとも恋人らしくありません。

 どうしてか、最初はよくわかりませんでした。

 とーこは気がついてしまいました。

 世の中には、知らない方が幸せなことがある。というのは、このことなのです。

 とーこは一つ、物知りになりました。

 その分、悲しくなりました。

 とーこの心のお空は涙でいっぱいになってしまいます。

 小さなコップは見つけられません。

 それぐらい、悲しいのです。

 どうして、宗ちゃんはとーこにしてくれないのでしょうか。

 とーこが「小さい」からでしょうか。

 きっと、宗ちゃんにとって「青い月」なのです。



「とーこ」

 そう言ったきり、燈子は口をつぐんだ。

 いつものように庭伝いにやってきて、縁側で本を読んでいた宗一郎の前までやってきた。

 普段のとおり、宗一郎は顔を上げて――。

 泣きそうな顔をした燈子が立っていた。

「どうしたんだ?」

 宗一郎は立ち上がった。

 表情があまり動かない少年だが、流石に動揺する。

「宗ちゃんは……」

 星の宿る瞳は潤んでいた。

 それでも涙をこぼすまいと、こらえているのがわかった。

「燈子、何があったんだ?」

 宗一郎はひざをかがめ、燈子と目線を合わす。

「それは『青い月』なの?」

 しぼりだすように燈子は言った。

 辛くて仕方がない。

 そんな想いが伝わってくるようだった。

「青い月?」

 耳慣れない言葉に少年は途惑う。

 一ヶ月の間に二回満月が見られるときに、二回目の満月をブルー・ムーンと呼ぶ。

 二、三年に一度見られる珍しい現象だ。

 しかし、目の前の少女はそういう意味でこの言葉を選んだわけではないだろう。

 宗一郎があれこれ考えていると、燈子の涙が頬を滑り落ちた。

 あふれてしまえば、止まることはない。

 燈子はポロポロと大粒の涙を零しはじめた。

 宗一郎はぎょっとした。

「燈子、どうしたんだ?

 理由を話してくれないか?」

 慌てて、少年は言葉を紡ぐものの、悲しくて仕方がない少女は泣きやめない。

 感情の振り子が激しい少女だが、大泣きすることは滅多にない。

「燈子」

 ほとほと困り果てて、少年は少女の名を呼ぶ。

「どうして、……宗ちゃんは。

 とーこの……こと、……ぎゅって……してくれないの。

 お父さん……は、お母さんが、悲しく……なるとする……のに」

 泣きながら、燈子は言った。

 それでようやく、宗一郎は理解に到った。

 どうして、少女が泣いているのか。

 悲しい、と言うのか。

 わかったものの、困っていることには変わりがない。

 新しい悩みだ。

 迷う。

 それでも、少女が泣き続けているのは辛いから、心が痛むから。

 宗一郎はためらいがちに手を伸ばす。

 燈子は、本当に「小さい」。

 繊細な硝子細工にふれるように、緊張しながらも細心の注意を払う。

 決して、壊さないように、と。

 宗一郎は燈子を抱き寄せた。

 その背を優しくなでる。

 燈子は良い香りがして、温かい。と、宗一郎ははっきりと感じた。

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