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10.水溜り

 雨が降った。

 庭に水溜りが出来た。

 どの地面にも、どこの家にもそれは出来た。


 にわたずみ 行方知らずの 涙痕


 川上の、月神を祀る神社の境内。

 雨上がりの庭。

 水溜りに空が映る。

 それを興味深げに覗きこむ少女。

 サラサラとふれたら音がしそうな細い黒髪が、肩からこぼれ落ちる。

 白く細い首筋。

 片手でつかめそうだ、と宗一郎は思った。

 燈子は元より、小さく細い。

 それが、さらに小さく細くなった気がする。


「宗ちゃん」

 燈子が呼ぶ。

 透明な声が宗一郎を誘う。

 風に色がないように、水に彩がないように。

 その声は、澄んでいて、無色だった。

 だから、現実感がまるでない。

 濁ったところがないから、綺麗すぎて、胸が痛む。

 燈子がいつか消えてしまうのではないか、と不安に囚われる。


「水たまりに、空が映っているよ!」


 何でもないことを、凄いことのように燈子は言う。

 宗一郎はその度に気づかされる。

 平凡な何もない毎日も、素晴らしくささやかな驚きと幸せに充ちていることを。


「お空が二つ。

 どちらも、本物だよ!」

 当たり前じゃないことを、当たり前のように燈子は言う。

 そして、笑う。


 あと何回、この笑顔を独り占めに出来るのだろうか。


「宗ちゃん」


 あと何回、この声に名前を呼ばれるのだろう。


「幸せだね♪」



 あと何回……。

 いつまで、隣にいられるのだろう。

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