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12.風の息吹

「風の息吹で運ばれるものってなーんだ?」



 なぞなぞは燈子が大好きな遊びだ。

 燈子の家にも、宗一朗の家にも、現代っ子のための遊具がないからだろう。

 ひと昔前の遊びばかりして、一日を過ごすことになる。

 他の家に遊びに行けば良いのに、燈子は外に遊びに行かない。

 きっと、燈子なりの理屈があるのだろう。

 宗一朗の傍で日がな一日、過ごしているのだ。

 楽しいのだろうか。

 たまに、宗一郎は思う。

 自分は、燈子に気を使わせてしまっているのではないのだろうか。と。

 尋ねても答えは返ってこないだろう。

 燈子が「燈子」だからだ。


「宗ちゃん?」


「さあ、何だろうな?

 雲か?」

 宗一郎が顔を上げと、燈子と目が合った。

 長い睫毛に縁取られた目は大きく、キラキラしている。

 夜空の雲母を微小な粉にして、研磨剤代わりに真っ黒な黒曜石を磨いたら、燈子の瞳になるのかもしれない。

 まがい物にはない輝きだ。


「ハズレ。

 ちょっと、違う。

 確かに、雲も風に吹かれて空を飛ぶけどね」

 燈子は屈託なく笑う。


 宗一朗は読み止しの本に挟まれたリボンの端をなぞる。

 元は鮮やかな真紅のリボンだったが、今は色褪せて渋い茶色になってしまった。

 燈子はこの色を『赤薔薇の精霊のまとう衣のすそ』の色だと言う。

 ローズベージュと呼べなくもない色だが……、小さい燈子は夢見がちだ。


「じゃあ、燈子」


「?」

 燈子はきょとんとする。

「燈子も風で飛びそうだ」

 宗一朗の視線はしおり代わりのリボンを見たままだった。


「とーこ、そんなに軽くないよ!」

 憤慨したようだった。

 燈子の声が尖っている。


「それで、答えは?」


「宗ちゃんには教えてあげない!

 春まで、考えていれば!」

 本当に怒ったのだろう。

 燈子はそう言うと、そっぽを向く。

 見なくても、宗一郎にはわかる。

 燈子はとてもわかりやすいのだ。

「それは残念だ」

 宗一郎はつぶやくようにそう言うと、薄い文庫本を開く。

 しおり代わりのリボンは、そっと本の見返しに挟む。

 少年の視線は、ヘッセの情熱的な恋の詩の原文を追う。


 しばらくすると、隣に座っている少女はソワソワしだす。

 神の造り出した歓喜の炎が魂の中核になっている少女は、ジッとしているのは耐えがたい苦痛なのだ。

 それを幼なじみの少年も良くわかっている。


「答えは、タンポポ」

 宗一郎は、本を見たまま答えた。

 少女が喜んでいるのがわかる。


「大正解♪」

 燈子は本当に嬉しそうに言った。

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