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01.青空

 土手を学校帰りの高校生が二人歩いている。

 黒い学ランに、濃紺のセーラー服に、おそろいの学生カバン。

 入学したての頃はピカピカだったそれらも、少しくたびれ始めている。


「ねえ、宗ちゃん」

 ウサギが跳びはねるような歩き方をする少女――燈子が声をかけた。

 めんどくさそうに少年――宗一郎は、少女の方に目だけをくれてやる。

「ん?」

「空が青いね!」

 燈子はこれ以上ないと言わんばかりの笑顔で言った。

 屈託なく、まるで赤ん坊のような笑顔。

「ふん。

 くだらない」

 宗一郎は吐き捨てるように言うと、彼の視線は前を向いた。

「ああ~!

 今、当たり前だ! とか、思ったでしょっ!」

 燈子は少年の制服の裾を引っ張った。

 宗一郎は、答えなかった。

 その愛想をどこかに忘れてきてしまった顔に変化はなかった。

「空が青いのは、当たり前じゃないんだよぉ」

 燈子は全身で訴えるように言う。

 宗一郎はためいきで返事をした。

「だって、夕焼けは赤いし、夜は真っ黒でしょ。

 曇りの日は、灰色。

 空が青いのは、晴れた日の昼間だけなんだよ」

 歳よりも幼い心を持つ少女は言った。

 世紀の大発見だと言うような口ぶりだ。

 宗一郎は、少女の頭は軽く撫でた。

「当たり前だろう。

 今は、昼間で空は晴れている。

 だから、空が青いのは」

 少年は無愛想に言う。

「……三段論法は危険だって、この前、寺島先輩が言ってた。

 とーこみたいなお子様ランチは、だまされちゃうって」

 少女は唇をとがらせる。

 少年の手がスッと離れた。

「?」

 燈子は目を瞬かせた。

「光治先輩の言うことの方が信用できるのか?

 ならば、光治先輩と一緒に帰れば良いだろう」

 真面目な少年は、告げた。

「だって、寺島先輩と帰る方向、逆だもん」

 燈子は断言した。

「送ってもらえば良いだろう」

 宗一郎は不機嫌に言う。

「宗ちゃんと、とーこの家はお隣同士でしょ?

 小さい頃から、そうだったんだし。

 どうして、今さら別々に帰らなきゃいけないの?」

 本気で燈子は言っていた。

「……。

 そうだったな」

 宗一郎は言った後に、ためいきをついた。

 それっきり、口を引き結んでしまい、帰り道を真っ直ぐに歩く。

 わき目も振らずに……とは、いかないが。

「あ、宗ちゃん」

 燈子は川の向こうを指差す。

 つられて、燈子の白い指先の示す方向を見る。

「空、青いの終わっちゃうね」

 寂しそうに燈子は言った。

 気がつけば、日は傾き、陽光は琥珀色がかっている。

 日が沈んで、夜が来る。

 少女の言葉を借りれば、青いのが終わる。

「そうだな」

 宗一郎は言った。

 幼子がするように、燈子は空に小さく手を振る。

「急ぐぞ。

 小母さんが心配する」

 宗一郎は燈子の小さな手を引っつかむ。

 その華奢さに、握ったら壊れてしまうんじゃないかと、ヒヤッとした。

「空さん、また明日~!」

 元気に燈子は空に向って叫ぶ。

 恥ずかしいからやめてくれ。と宗一郎は心の中で思った。

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