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4回避 強かな娘

か、書けた・・・。

まさかここまで難産だとは思わなかった。

まあ、もしかしたらこのペースがこの作品の通常ペースになるかもしれません。

まだこの作品の執筆スピードを把握しきれていないので分からないのです。

そんなわけで、チマチマ書いてようやく出来上がった四回避目をどうぞ!



 エスカルゴ―バス。


 それは地球にもいたエスカルゴ。日本でいうナメクジ。その魔物版だ。


 移動速度が極端に遅く、しかも移動中に長い間、休憩も取るという超鈍足モンスターである。エスカルゴ―バスは何年も掛けて新たな地に移動する。最も速い速度は時速5キロにも満たない。その体には殴魔熱の原因にもなり得る魔力が備わっており、エスカルゴ―バスはその魔力を周囲へと撒き散らす。災害認定すらされる危険種である。


 しかし、その強さは危険種扱いされているにも拘らず弱い。勿論、常に魔力を撒き散らしているので近づけず、倒すことは難しい。しかし、動きが鈍いので攻撃を受けまくる。これが弱いとされる理由なのだ。どんな攻撃も避けずに受けてしまう。だから大質量の魔法攻撃を受けたら倒せてしまうのだ。


 だが、エスカルゴ―バスにも厄介なものがある。それが自身から出している触手による攻撃だ。この触手、エスカルゴ―バス本体は遅い動きをするのに物凄い素早い動きをする。だから、防御無しで特攻してくる厄介な魔物という訳である。


「これをどうにかする必要があるわけだ」


 家にある魔物図鑑を読みながらエバイドは呟いた。


 父であるアドルが騎士をやっているため、魔物の知識が書かれた魔物図鑑の本などが多く置かれていたのだ。エバイドはそれらを読むことで魔物の知識を蓄えていっていた。おかげで珍しい魔物以外の一般的な魔物や、有名な魔物なら分かるようになったのだ。


 今回は忘れている部分がないかどうかを確認するためにも読み返していた。


「さて。それじゃ、準備を始めるか」


 まず、しなくてはならないのがエスカルゴ―バスの現在の居場所。移動速度がかなり遅いのに、発見された様子が一切ない。つまり、目立たない場所を移動中ということになるわけである。


「となると、候補として挙がるのはあそこか・・・」


 エバイドが思い浮かべたのはボルガ山である。このボルガ山というのは村から少し離れているので被害などはないのだが、危険な魔物も多い魔境になっている。ここは森がある方向からさらに進んだ先にあるのでゴブリンや魔猪が逃げて来てもおかしくはない。魔猪はともかく、ゴブリンはおいしくはないどころかマズいので、他の魔物も手を出さないのだ。つまり、それはこの村に逃げて来ていてもおかしくはないということになる。


「まあ、ゴブリンが美味しかったら、あんな襲撃もなかっただろうけど」


 しかし、ゴブリンが美味しいなどと思いたくもないのは誰でも同じことだろう。


「とにかく、まずは確認しに行くか」


 そう言って立ち上がるエバイド。そしてアドルから貰った軽量の防具と短剣。そして通常よりも短い片手剣を腰に佩いた。これは特に何の効果も付与されていない普通の装備である。


 世の中には属性による付与効果が施された武器や防具、魔法具が存在している。それらは属性によって効果が変わってくるのだが、今はあまり関係なので詳しい説明はまた今度に。


 そして持てる武装を完全装備し、家を出る。そして目立たないように村から出る。走って数時間。ボルガ山の麓に到着した。


「結構遠いな。いや、俺の体が子どもだからか。子どもの体ってだけでこんなに移動時間が掛かるとは思わなかった」


 子どもの歩幅と大人の歩幅の違いに戸惑うエバイド。転生前、まあまあの身長だったエバイドは今の体の歩幅とは倍近く違っていた。おかげで考えていた以上に時間が掛かってしまっていた。


 現在の時刻はすでに昼間に突入していた。つまり、帰りの時間を考えると2、3時間の捜索が限界ということになる。それだけの時間だけではかなりの広さがあるボルガ山を捜索し切ることは出来ない。


「賭けだな。見つけることが出来なくても、せめて痕跡ぐらいは見つけたいところだ」


 そうしてエバイドは山の中へと入っていくのだった。




           ・・・




「あった」


 それは何かを引き摺った後のような大きな痕跡だった。むしろ、探そうとなどしなくとも見つけてしまえるほどのものだった。


「こんなサイズだったなんて・・・。図鑑だけだと分からないものだなぁ」


 半ば現実逃避気味に空を仰ぎ見ながら呟くエバイド。


「とにかく、本体を確認しに行くか」


 近くにまで行こうとは思わない。しかし、視認することぐらいはしておかないと、村までの到達時間が分からないという事態に陥ってしまう。だからこそ、多少の危険は冒してでもエスカルゴ―バスのいる場所へとエバイドは急いだ。


 走ること十分。ボルガ山の周辺の森。その中腹辺りにその姿はあった。


「うわぁ」


 エバイドはそんな声を漏らしてしまった。しかし、それも無理はない。大きな痕跡があった所を見ているが、それでも実物を見るのとでは反応は違ってくる。


「大体の大きさは分かっていたけど、実物を見ると圧倒されるな」


 全長二十メートルほどで、木々をゆっくりと押しのける巨体。ナメクジらしいドロッとした体躯。そのドロッとした体液に触れた木々は「ジュウッ」という音と共に溶けてしまっている。さらに、その体から滲み出る魔力によって周囲の動植物は倒れたり、枯れたり、溶けたりと、散々なことになっている。山、森側からしたら災難以外の何ものでもない。


「動き自体は本で読んだ通り、物凄い遅いから幸いだったけど・・・」


 それでも移動先は明らかに村のある方向である。それはつまり、このままでは村にこの巨大なナメクジが襲来してしまうことを意味する。


「でも、一人で倒せるレベルを超えているしな。それに遠距離攻撃が出来ない俺だとそのままやられてしまうだけだ」


 冷静に考えてその場で戦いを挑むという愚かな選択をしなかったエバイド。エバイドなら<回避>を使えば戦うこと自体は出来る。だが、体力は普通の子どもよりはある程度にしかないエバイドでは倒すよりも先に体力が底を尽きてしまう。エバイドはそんな考えで踏み止まったのだ。しかし、その行為により、気持ちはより焦っていた。


「父さん達はゴブリンキングやキングボアが相手だと考えてこっちに来るはずだ。それがいきなりエスカルゴ―バスに変更される。装備も対策も何もかもが違ってくる」


 そこら辺は村長が早馬を出して街に知らせに行っているのだが、焦っているエバイドはそこまで考えが及んでいない。


「この分だと村まで2、3日で到達してしまう。村長に知らせに行かないと」


 エバイドはエスカルゴ―バスに見つからないように少し遠回りをしながら村へと走って帰るのだった。




            ・・・




 帰って来たエバイドはすぐに村長に見てきたことを知らせに行った。


 当然、勝手にボルガ山に行ったことについて叱られたが、それよりも有用な情報を持ち帰ったことにより、長い間の説教とまではいかなかった。だが、ここで説教中にユーナが村長の部屋に入ってきたことでことが露見する。


「エバイド!どういうことなの⁉」


「え、いや・・・。その・・・」


「どうして私を連れて行ってくれなかったのよ!一人じゃ危ないでしょ!」


「いや・・・でも・・・」


 今はまだ、<回避>について話すことは出来ない。そう判断しているエバイドは言葉を濁すしかない。


「私じゃ足手まといなの?」


 怒っていたら急に悲しそうに表情を変えるユーナ。


「ま、待て。そうなったら俺が止めていたぞ。だからそんなにエバイドを責めるんじゃない。それにエバイドはこの村のために行動してくれたんだ」


「私だって戦えるの!お父さんなんかに止められたってついて行くわ!」


「お父さん・・・なんか・・・」


 ユーナの物言いに傷ついたのか、あからさまに落ち込む村長。分かりやすく崩れ落ちている。


「悪いかったよ。今度からは必ず何かある時にはユーナを連れて行くから。だから機嫌治して」


「・・・約束のデートに手を繋ぐっていうのを追加して」


「・・・はい」


「おい?デートってなんだ?エバイドと何をするつもりなんだ?」


 ユーナの言葉に同意することしか出来ないエバイド。そのエバイドとユーナのやり取りを聞いて顔色を変えて真剣に聞いてくる村長。ここで村長の父親の部分が反応したのだ。


「今度エバイドと街でデートするの」


 村長の問いに正直に答えるユーナ。何もやましい気持ちがないことを証明しているかのような反応である。子どもだからこその反応でもあるだろう。デートを親に隠す必要を感じないのだ。そして親の方も子どものデートでそんなに目くじらを立てたりしないだろう。


「デ、デート・・・だと?お父さん、聞いてませんよ⁉」


 だが、この父親は違った。


「俺の可愛い娘がデート?誰の許可貰ってんだ?俺は許可した覚えなぞないぞ!ユーナと何かしたいならまず俺に一言断りを入れろや!」


 バリバリの親バカである。っていうか、なんで村長の許可を貰わなければならないのか。そんなことを村長の様子を見ていたエバイドは思っていた。


「そもそも僕はデートをするつもりはなかったんですけどね」


「俺のユーナとはデートする価値もないってかぁ⁉」


「(この親、面倒くさいな)」


「何ぼそぼそ言ってんだ?」


「いえ?特には何も」


「お父さん、いい加減にして!」


「しかしだな?こういうことははっきりとさせておかないと―――」


「そんなことするお父さん、嫌いになっちゃうわよ!」


「はい。すみませんでした」


(切り替え早っ)


 ユーナに説教されている村長に近寄ってエバイドはこっそりと語り掛ける。


「村長」


「なんだ、エバイド?」


「ユーナには出来るだけ危険な場所には近づけないようにします。だからユーナを連れて行く許可を出してあげてください」


「だ、だが―――」


「勿論、僕も危険な場所には行かないように気をつけます。それに、これ以上駄々を捏ねたらユーナに嫌われますよ」


 エバイドの「ユーナに嫌われる」の部分でビクンと反応する村長。


 このままではただの親バカ拗らせた嫌な親という認識がエバイドにも、ユーナにも根付いてしまう。それは思うところではないと判断した村長はずっと崩れ落ちていたままだったポーズを戻してその場に立ち上がる。


「分かった。ユーナ」


「何?」


「危ないことをしないと約束するならエバイドについて行く許可を出そう」


「ホントに⁉」


「ああ」


「でも、その約束は出来ないわ」


「な、なにィ⁉」


 いいリアクションである。どこぞの芸人みたいに過剰反応だ。


「危ないことをしないなんて約束出来ないもの。でも、危ないことをしないように気をつけることなら約束するわ」


 中々しっかりしている女の子である。出来ないことを出来ると言わないのだ。それに相手が納得出来そうな妥協点もしっかりと伝えている。


「確かにそういうことははっきり言えないな。分かった。そのことを約束出来るなら許可を出そう」


「良かったな、ユーナ」


「うん!」


 満面の笑みでエバイドに微笑むユーナ。


「これでデートのお許しも出たわね」


「「えっ?」」


「何を驚いているのよ。さっき、お父さんが言ったんじゃない。『危ないことをしないと約束するならエバイドについて行く許可を出そう』って」


「あれは今後のボルガ山の探索のことについて言っただけなんだが・・・」


「僕もそうだと思ってたんだけど」


「誰も山への探索ともデートとも言わなかったじゃない。つまり、それは両方合わせて話を進めていたってことでしょ?」


「「・・・」」


 絶句するエバイドと村長。


 まさか9歳の女の子がここまでやってのけるのか・・・と戦々恐々なエバイドと村長。


「エバイド」


 こっそりとユーナに聞こえないように村長がエバイドに話しかけてきた。


「何ですか、村長?」


「こんな娘だけど、今後とも見捨てることなくよろしくお願いする」


(この人、さっきまで親バカだったのに。流石にこのままだと娘がヤバいと判断して俺に今後を押し付けたな・・・)


 しかし、逃れる術を持たないエバイドは「はい」としか答えることが出来ない。まあその「はい」もかなり葛藤して溜めた「はい」だったのだが。


 ちなみに、学園入学で年齢が一つ上のユーナはエバイドよりも先に学園に行ってしまう。言い方は悪いが、その誤差一年だけがエバイドのユーナから解放される唯一の時間だった。


「あ、それじゃそろそろ僕は行きますね。時間的に母さんが晩御飯を作って待っている時間でしょうし」


「もうそんな時間か」


 そもそもエバイドが村に帰って来た時間自体が夕方で遅かったのだ。そこから村長に報告をしていたら遅くなるのは必然。むしろ、そこからユーナによる村長の説教が開始したのでさらに遅くなっていた。


「こんな時間までごめんね?」


「いいよ、ユーナ。気にしないで」


「そう?」


「ああ。それじゃ僕はこのまま家に帰るよ。お邪魔しました」


「ああ。また遊びに来なさい。それと、山に行くなら行く前に俺に報告するんだぞ」


「じゃあね、エバイド」


「はい。ユーナもバイバイ」


 そうしてエバイドは家路についたのだった。


 ちなみに帰ったら帰って来た時間が遅かったことをメリスからこってり叱られたことは言うまでもない。




                ・・・




 次の日。


 エバイドは約束通り、行動する前にユーナの家を訪ねた。今回はエバイドも普段よりも荷物が多い。大き目のリュックまで持って来ている。


「エバイド!ちゃんと私のこと置いて行かないで来てくれたのね!」


「あ、ああ」


 今後のことを考えてきちんとユーナを連れて行くことにしたエバイド。何故なら、ここで放っておいたら後々、自分にとって何か悪いことが起きる。そんな気がエバイドにはするのだ。


「それで?今回は山に行って何をするの?」


「いや、今回は山には行かない」


「え?行かないの?」


「ああ。今回はちょっと早めにしておかなくちゃいけないことをしようと思っている」


「しておかなくちゃいけないこと?」


「そう」


 エバイドは頷き、今日の予定を話そうと口を開く。


「今回は街に行こう」


「えっ⁉デートしてくれるの⁉わ、私は嬉しいんだけど、今はそれどころじゃないと思う・・・でも!私的にはアリ!」


「アリじゃない!」


 ユーナがテンションを上げて断言すると、家から出てきた村長が否定する。


「昨日のうちに私がエバイドに頼んでいたんだ」


「お父さん?」


「今でもアドルはゴブリンキングか、キングボアだと思ったまま依頼を出している、もしくはこちらに向かって来ているはずだ」


「でも、お父さんが早馬で知らせに行かせたんでしょ?」


「ああ。だが、昨日になって早馬で行かせた奴が帰って来てな。どうやら街と村の間にモンスターの集団が道を塞いでいるらしいんだ。それで倒すことも出来ずに帰ってくるしかなかったという報告を受けた」


「それで、この村で父さん以外で戦える僕達に白羽の矢が立ったという訳ですね」


「ああ。エバイドの言う通りだ。早馬役、頼んだぞ」


 この村には基本的に魔物が襲ってくることはない。今までそんなことがなかったということもあるが、立地的にこの村よりも住みやすく、それでいて食料的にもたくさんある場所があるのだ。例として挙げると、森やボルガ山が挙げられる。


「分かったわ。そういうことなら仕方ないわね」


「分かってもらえて良かったよ。それじゃ頼んだよ。魔物としてはそこまで強いわけではないから大丈夫だとは思うが、油断だけはしないようにな。これ、必要な荷物」


 それをエバイドが受け取り、予め持って来ていたリュックの中に入れる。


「「はい」」


「良し。それじゃいってらっしゃい」


「「いってきます!」」


 そして俺達は街を目指して出発するのだった。


 出発してからは予期せぬトラブルも起きず、問題なく街への旅路は進む。


 そして夜。


「野宿って初めてだけど、エバイドと一緒だと楽しいね」


「あ、ああ」


 エバイドはそんなことはないのだが、ユーナはエバイドと一緒にいることによって補正が掛かっているので野宿でも何でも楽しいのだ。


「(俺はこの硬い地面に雑魚寝することに今から憂鬱になってしまって仕方ないよ)」


「何か言った?」


「い、いえ。何でもないです」


 どういうわけか、ユーナのその問いに肯定でしか返すことが出来なかったエバイド。


「ともかく、今日は早めに寝よう。僕は先に見張り番をやるからユーナは寝てて」


「いいえ。先にエバイドが寝て?私が見張りをするから。これだけは譲れないわ」


「うえっ⁉」


 ここで譲ってはいけないと何かがエバイドに訴えかけてくる。どう考えてもエバイドの本能がこの場面を回避せよと叫んでいるのだ。


「くっ」


 そこでエバイドは<回避>を発動。勿論、<制御>も同時発動しているので制御不能でエバイドを振り回したりはしない。


(ここは仕方ないか)


「じゃあ、ユーナ。ちょっと頼み事を頼めるか?」


「え?エバイドから私に⁉」


「ああ。魔法で家を作ってくれ。無理なら何か防護壁みたいなものでいいから」


 これならばお互いに見張り番をする必要はない。しかし、これで納得するユーナではない。だが、そこはエバイドもちゃんと考えていた。


「そうね。それなら見張り番をする必要もなくてエバイドも私もゆっくり休むことが出来るわね」


 <回避>により、そのユーナの納得出来ずにこのままエバイドに危機が訪れるということ自体を回避したのだ。<回避>を使わなければユーナがこんなエバイドの提案を無条件で吞むはずがない。ここで何かしら行動を起こし、既成事実を作る気満々なのだから。


(こういうことになるっていうのは村長から聞いていたからな。何とか対策を思いついておいて良かった)


「それじゃ、早速いくわよ」


 ユーナは地面に両手を置く。


「我が内に存在する魔の元に命令を下す。土よ、我らの身を守る盾となれ。『グランドウォール』」


 ユーナの詠唱により、ユーナとエバイドの周りが土の壁により覆われる。


「おおー。立派な壁が出来上がったね」


「えへん!」


 自分の魔法が褒められて嬉しそうにしているユーナ。壁はかなり高く出来ているが、上は塞いでいない。空気が籠って息苦しくなっては困るからというユーナの配慮である。ちなみに塞いだらいつ朝になったとかも分からないのでそういう意味合いでも塞ぐの止めておいて吉である。


「寒くならないようにしっかりと布団を被ってね。エバイドが風邪ひいたら私が看病してあげるから!・・・いや待って?そうなると、風邪をひいた方がいいのか?やっぱり布団は無しでもいいかも!」


「いや、ちゃんとするよ。心配してくれてありがと」


「エバイドにお礼言われちゃった!」


(なんか、パワーアップしてない?ユーナってここまで俺の言葉に一喜一憂してなかったよな?)


 余程、エバイドにここ最近構ってもらえなかったことが効いたのか、かなりの過剰反応である。


「ま、まあ気にしないでおこう。それじゃ、お休み」


 そしてそのまま寝に入るエバイド。ユーナもそれに続くようにエバイドの隣に陣取って眠りについた。




           ・・・




 翌日。


「それじゃ出発しようか」


「ええ。行きましょう」


 ユーナは作った土の壁を解体して元に戻した。そして布団をリュックの中に戻して準備完了。二人は出発する。


「後どのくらいで街に着くのかな?」


 歩いているとユーナがエバイドに聞いた。


「このペースだと今日の夕方には着けるかな?まあ、魔物がいるからもうちょっと時間が掛かるだろうけどね。だから時間短縮のためにちょっと走ろうか」


「分かったわ。それじゃ行きましょう。と、その前に」


 ユーナがエバイドに手を向けて魔法を発動させる。


「我が内に存在する魔の元に命令を下す。風よ、我らの動きに加護を与えよ。『ウィンド・アップ』」


 魔法の発動と同時にエバイドの体全体にそよ風が凪いだ。


「これ、僕が自分に使えばいいんじゃないの?」


「この魔法は中級なの。だからエバイドにはまだ使えないと思うわ」


「そうなのか。それは残念」


 この魔法はエバイドには相性の良い魔法だと判断したのだが、まだ使えないと分かり、分かりやすく残念がるエバイド。


「今度、中級魔法も教えてあげるね。あ、でもいいの?他の魔法を覚える時間が無くなっちゃうけど」


 ユーナの学園入学までにエバイドに教える時間を考えると風の中級魔法を教えてもらうとそれだけで時間が無くなってしまう。初級魔法だと後、二つぐらいなら覚えることが出来る。どちらを選ぶべきか。


「それじゃ風の中級魔法を教えて。僕と相性もいいし」


「分かったわ。付きっ切りで教えてあげるわね!」


「うん。頼むよ」


 それから休憩を挟むながら走ること数時間。エバイドとユーナは魔物がいると思われる地帯に入っていた。


「ここら辺にいると思うんだけど・・・」


「もしかして移動したり、冒険者の人が依頼で討伐した?」


 エバイドが辺りを見回しても魔物がおらず、ユーナがどうしていないのか、理由を考えてありそうなことを呟いた。


「確かに。それならあり得そうだね。それじゃ行こうか。僕達が倒す必要性もないわけだし。(っていうか倒すの面倒だから、いないならいないってことでいいし)」


「ん?最後なんか言った?」


「いや、何でもないよ。そういうわけでさっさと街に移動しよう。これなら予定よりも早く街に着けるし」


「そうね。早く行きましょう」


 そういうわけで魔物がいると思われた場所をスルーしてそのまま街へと向かうことになったエバイドとユーナ。


 サクサクと進んでいき、特に問題もなく街に到着した。


「さて。後は父さんを探すだけなんだけど」


「依頼を出したなら冒険者ギルドに行けばいいんじゃないの?」


「いや、依頼自体は出していると思うけど、そこに父さんがいるとは思えない。依頼は出したら待つだけだからね」


「じゃあ、どうするの?」


「騎士の詰所に行った方がいいと思うから、そこに行こう」


「そうね。確かにそこならアドルさんの仕事場だし。行きましょう」


 街の入場門にある検閲所に問い合わせてもらうという方法をすっかり失念していた二人は仲良く街中へと歩を進めていった。道中、ユーナが何かをチェックするかのように厳しい目で通りに出ている店を確認していたが、エバイドは藪蛇になると考えて何も聞かなかった。


 決して、聞いたらその場で約束したデートとは別で、デートの確認と称して街をあちこち回ることになると怖くなったわけではない。決してないのだ。


「ここが詰所かな」


「そうみたいね。騎士の人達がうろうろしてるもの」


 街を歩き、あちこち回った後にようやく到着した二人。どういうわけか、詰所はこっちじゃね?ってエバイドが思った方向の真逆にユーナが誘導していたが、気にしないことにした。これも藪蛇になると感じ取ったからだ。


「さてと。それじゃ入ろうか」


「ええ」


 そのまま二人で詰所に入る。


「すみませーん」


「はーい」


 詰所で受付を担当しているだろう若い騎士の人がエバイドの呼びかけに応じて出てきた。


「どうしたんだい?何かここに用事でもあるの?」


 優し気に聞いてくれる若い騎士。確かに年齢が二桁にも満たないから興味本位で入って来た子どもと判断されてもおかしくはない。


「あの。ここにアドルさんはいますか?」


 ユーナが若い騎士に聞く。エバイドが自分の父親の名前を呼ぶのは気まずいだろうというユーナの配慮だ。エバイド本人としてはそんなこと全くないのだが、ここはユーナの厚意をありがたく受け取ることにした。


「ん?君達、アドル隊長に用なのかい?でも、隊長は忙しいからね。そう簡単に会わせられないんだよ。ごめんね」


 アドルに憧れているとでも思われたのか、やんわりと断られる。だが、ここで諦めるわけにはいかない。


「アドルは僕の父さんです。村のことで知らせなくちゃいけないことがあるのでここまで来ました」


「おいおい。子どもだけでアドル隊長の出身の村からここまで来れるはずがないだろう。一日は掛かるんだぞ?」


 しかし、全く信じてもらえない。


「なら、信じてもらえなくてもいいです。でも、エバイドとユーナが来たってことだけは伝えてもらえないでしょうか?」


「んー。まあ、それくらいなら」


「良かった。ありがとうございます。僕達は冒険者ギルドか宿屋にいるので出来れば早めに伝えてください。お願いしますね」


 そう言ってエバイドとユーナは詰所から出た。


「いいの?」


「何が?」


「これで引き下がって」


「ああ。いいのいいの。ここで粘っても父さんが出てこないとどうしようもないからね。だから伝えてもらうことを条件に引き下がった方がマシだよ。まあ、もしも子どもの戯言だと思って父さんに伝えずに一日経ったら、もう一回言いに行くよ。それでもダメなら今度は父さんに強引に会いに行く」


「そんなに深く考えていたのね。流石はエバイドね!」


「そんなに眩しい笑顔で褒めないでよ(自分の心が汚れているような気持ちになる)」


 自傷気味に笑うエバイド。時々怖いが純粋な子どもであるユーナにそう言われてどんより落ち込むエバイド。


「と、とにかく。まずは冒険者ギルドに行って父さんの出した依頼を確認しよう。それをした後は宿屋で休もう。昨日は野宿だったし、今日は戦ってはいないけど、ここまで走って来たんだ。疲れてるから早めに休んでもいいだろう」


 その言葉にユーナも同意し、冒険者ギルドに行った後に宿屋に行って眠りについた。結局、その日はアドルは冒険者ギルドにも宿屋にも現れなかった。




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