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3回避 あの時の襲撃の原因

書けたので早速投稿します。

こちらは日にちも時間も不定期になります。

よろしくお願いします。



 エバイドとユーナはとても8歳と9歳とは思えないほどのスピードで村へと戻って来た。


「ただいま」


 エバイドは村の入り口で待っていた殴魔熱を患っている患者の家族へと帰還の挨拶をした。


「エバイド。それにユーナ。・・・・・・どうだった?」


 心配そうに、そして祈るようにエバイドとユーナにエルー草が採れたかどうかを聞いた。それだけ病気に苛まれる家族が心配なのだろう。


 ちなみに、殴魔熱に罹った患者は村で毎日畑を耕している中年の男だ。そして、実は村がゴブリンと魔猪に襲われた時に5歳のエバイドを止めた村人でもある。


「勿論、持って帰ったよ」


「そ、そう。良かったぁ」


 そう言って崩れ落ちる患者の奥さん。


「エバイド、早く薬師の所に行きましょう」


「ああ。そうだね。急ごう」


 この村には薬師などいないのだが、殴魔熱に罹ったと聞いたエバイドの父、アドルが隣街の薬師に依頼して村まで来てもらったのだ。おかげで薬をすぐに処方することが出来る。このことに患者の家族だけでなく、村全体が感謝した。勿論、お金も必要となってくるが、ここ最近は運も良く、豊作で通常よりもお金が手元にあったこともあって無理ない支払いをすることが出来た。


「父さん。エルー草を持って来たよ」


「ああ。よくやってくれたな」


 エバイドとユーナが入ったのはエバイドの家だ。村には空いている家などはなかったので薬師に依頼したアドルの家で待機してもらっていたのだ。


 アドルはエバイドの報告とそして持って来たエルー草を確認して、エバイドとユーナの頭を撫でて褒めた。


「これでペーターも助かる」


 ペーターというのは殴魔熱に罹った患者の名前だ。


「良かった。これで依頼は達成だね」


 勿論、良かったというのはペーターが助かるという部分である。多少は依頼が成功したことによる喜びもあるが、それは気の良い村の住人の命よりも大切なことではない。村が魔物に襲われているのにも関わらず、自分の心配よりも子どもの、エバイドの心配をしてくれるような人なのだ。エバイドは純粋にそんなペーターが助かることを喜んだ。


「ああ。お前たちは休んでくれ。後は俺達がやる」


「うん。分かった。あ、でも。家はこれから使うんだよね。僕、どうしようか」


「なら私の家に来なさいよ。私の家なら多少は広いし、いいでしょ?」


「そうだな。そうしなさい、エバイド」


「分かったよ。父さん。それじゃ家にお邪魔するね、ユーナ」


「え、ええ。それじゃ行きましょう」


 エバイドが家に来ることが嬉しかったのか、顔を少し赤らめている。そしてエバイドはユーナに連れられてユーナの家へと向かった。


「ねぇねぇ、エバイド」


「何?ユーナ」


 ユーナは家に戻り、自分の部屋にエバイドを連れて入ってエバイドに声を掛けた。


「エバイドってどういう女の子が好きなの?」


「唐突に何⁉」


 エバイドは驚いた。さっきまで依頼で森に出ていたというのに、この唐突な話題。しかし、エバイドは困った顔をするしかなかった。何故なら・・・


(困ったぞ。中身が大人なことには変わりない俺が9歳の女の子から好みのタイプを聞かれている。地球なら大人に憧れを抱くませた子どもだなぁって感じで微笑ましく思うんだが、生憎俺は現在、体は子どもだからな。しかも、ユーナよりも肉体年齢は低い。このユーナの感情は普通に憧れとかじゃなくて恋愛感情になってしまうだろうか)


 こんな感じでエバイドは思い悩んでいたのだ。ユーナのエバイドに対する態度の変化を、エバイドはこの数年でようやく思い至ったのだ。ユーナはエバイドに好意を寄せていると。勿論、子どもなのでその感情は可愛らしいものなのだが、このままだと体が大人になるまでは地獄のような日々を送らなければいけないのではないか?とエバイドは考えていた。


(このまま、ユーナに好意を寄せられ続けられたら俺はロリコンなんじゃないかという精神的苦痛に苛まれる。それだけは勘弁してもらいたいところだ)


 別にエバイドはユーナのことが嫌いなわけでも好かれることが嫌なわけでもない。そもそも、前世では人に好かれた記憶すらないのだ。嫌がるわけがない。しかし、それでも地球でのモラルがエバイドを苦しめるのには変わりはない。


「いいから答えてよ!」


 恥ずかしそうに答えを望むユーナに増々困った表情になるエバイド。


 しかし、エバイドにも救いはあった。


 それはユーナの学園入学である。


 この世界では制度というか、ルールが地球と似ているため、学園入学が義務付けられている。勿論、貧富の差や身分の差があり、学ぶ年数も変わってくる。貧しい者ほど在学年数は少なく、富んでいる者ほど多い。


 また、学園にも種類があり、それぞれ上級学科、魔法学科、冒険者学科、通常学科という分けられ方がされている。


 上級学科というのは、魔力、戦力、知力全てを学ぶ将来のエリート育成学科である。ここには主に貴族が所属しており、たまに成績優秀者が特別に所属することもある。


 魔法学科は魔力、戦力、知力の内、魔力を主目的に学ぶ学科で、大体の魔法使いがここに所属している。ここにも成績優秀者の特別枠があり、特待生制度も存在している。


 冒険者学科は魔力、戦力、知力の内、戦力を主目的に学ぶ学科で、名前の通り、冒険者希望の者がここに所属している。また、冒険者志望の者だけでなく、騎士志望の者もここに所属している。学科内で冒険者クラスと騎士クラスに分かれていて、考え方が違うのか、気質が違うのか、よく諍いが起こるらしい。


 そして最後に通常学科。この学科では魔力、戦力、知力の内、知力を主目的に学ぶ学科で、義務として通常の入学をしてきた村人や、地球でいう官僚のような官職に就きたいという者が所属している。ここではクラスがそのままランク分けされており、上からS、A、B、C、D、Eクラスに分かれている。これは毎年行われる学年末テストで振り分けられており、そのテストでいい点を取るとその点に応じてクラスが決まるのである。


 この魔法学科にユーナは特待生として入学が決まっており、10歳になると村を出て学園に行ってしまうのだ。寝泊まりも寮で、帰ってくるのは長期の休みのみ。勿論、エバイドも入学するのだが、それはユーナより一年も後になるのでエバイドにとっては救済の一手とも言えるものだった。


 ちなみに、エバイドはアドルから冒険者学科に進むことを勧められており、エバイドもそのつもりである。


 そんなわけで後少しの辛抱だと考えながらエバイドは渋々とユーナの問いに答える。


「年上が好みかな」


 と、ここでエバイドは失敗を犯す。前世で一人であったエバイドは包容力のある年上に憧れにも似た好みがあったのだが、それをこの場で素直にそのまま言ってしまったのである。


「そ、それ、ホント⁉」


 エバイドの言葉を聞いて嬉しそうにするのはユーナ。


(しまった!ユーナは俺より一つ上だった!)


 そう考えに至ったが、時すでに遅し。嬉しそうに表情を輝かせているユーナに今更否定の言葉を見つけることの出来ないエバイドであった。


 こうしてエバイドはユーナの好感度を上げてしまったのであった。




          ・・・




 次の日。


 無事に薬が出来たことでペーターに処方され、事なきを得た。そのことで村には安堵の雰囲気が漂っていたのだが、エバイドは薬師とアドルが家でこっそりと話していることを聞いてしまう。


「パーシー。何か言いたいことがあるのか?」


「ええ」


 薬師の名前はパーシーという女性らしい。エバイドは初めて知った。話し方からしてアドルの街での知り合いなのだろう。それだけの親しさが感じられる。


「殴魔熱の原因って分かる?」


「いや。何なんだ?」


「特定の魔物が振り撒く魔力が人間の体内に入った時に発病する病気よ。これの意味するところが分かる?」


「原因となる魔物がこの村の近くにいるってことかい?」


「ええ。聞けば、数年前に魔物の群れがこの村を襲ったそうじゃない」


「ああ。ゴブリンと魔猪が襲って来た」


「なるほどね。なら、ゴブリンキングかキングボアが近くで巣を作っている可能性があるわね」


「何⁉」


(なっ―――⁉マジかよ。あの時、ゴブリンの巣には何もいなかった。父さん達が巣を潰しているし、ゴブリンキングの可能性は低いだろう。つまり、いる可能性が高いのはキングボアか・・・)


 エバイドは物陰に隠れてそんなことを考え出す。


 ゴブリンキングとは、文字通りにゴブリン達の王のことである。ゴブリンの個体の中で最も優れた者が進化するとも言われており、その能力値は魔物のランク分けの中でも中層に位置づけすることが出来る。また、全てのゴブリンを統べる者とも言われており、オーガ種に最も近い個体である。


 もう一体のキングボアとは、ゴブリンキングと同じように猪系統の魔物達の王のことである。キングボアは通常の猪系統の魔物から進化する個体で、猪系統の魔物でこれ以上の魔物となれば、ベヒモスのみとも言われている。能力値は魔物のランク分けの中でも中層の下位辺りに位置しており、倒すのにも何十人もの人員を動員しなければならない。


 どちらも戦って勝てるなどとは簡単には言えない魔物である。不幸中の幸いだったのは、エバイドが結論付けたようにランク的にゴブリンキングよりも下に位置するキングボアがいる可能性の方が多いということだ。


「それが本当なら討伐のために街に戻って依頼を出しに行かなければならないじゃないか!」


「ええ。そうね。騎士だけでなく、冒険者も雇わないといけなくなるわね」


「そんな金は村にないぞ」


「分かっているわ。でも、これはこの村だけの問題ではない。ここで防がないと街にまで被害が行きかねないわ。そうなったら私の仕事にも影響が出てしまう。それは望む所ではないから、領主にも口添えしておいてあげる」


「助かる」


「いいのよ。あなたには街で大分お世話になっているからね」


 どうやらあの薬師は話し振りからただの薬師というわけではないらしい。しかし、エバイドにはこれ以上のことは分からないし、調べようもない。ならば、これ以上ここにいる必要もないと考え、そのまま眠るべく、自分の寝床へと戻るのであった。




           ・・・




 次の日の朝。


 薬師のパーシーは殴魔熱の薬の処方の仕方を家族に教え、アドルと共に街へと戻って行った。慌ただしく戻って行ったので、恐らくは騎士や冒険者たちを連れて戻ってくるつもりなのだろう。勿論、すぐに戻ることは不可能なので数日は掛かるだろうが。


 昨日の夜、エバイドが寝付いた後にアドルはパーシーが言っていたことを村長に伝えに行っていた。なので、いざという時には村長は対処出来るような心構えが出来ているのだ。


「さてと。それじゃ、ちょっと危険だけど、キングボア探しに行きますか」


 エバイドはアドルを見送った後、メリスと共に家に帰ってからすぐに出掛けた。


 行き先は以前、ゴブリンが巣を作っていた場所。


「手掛かりらしい手掛かりはないわけだからな。とにかく何かありそうな場所に行ってみるしかない」


 そう判断し、エバイドは一人で森の中へと入っていった。


 エバイドがこんな単独行動に出た理由は勿論ある。


 一つはアドル以外にこんな危険なことに連れていける者がいないこと。一応、ユーナは連れて行けはするが、それでも危険なことには変わりない。だからこそ、ユーナは置いて来たのだ。


 二つ目にアドルには使ってはいないが、<回避>という能力がある。しかもレベルがMaxなのだ。これでエバイド自身には体力が続く限りは全ての攻撃を避けることが可能なのだ。だからどんな敵が来てもある程度は逃げることが出来るのである。


 エバイドは自覚していない・・・というかすっかり忘れているのだが、<回避>をフルに使った時には体力など関係なく全てのものから避けることが可能である。まあ、それをすると、<制御>で<回避>を抑えないとずっとあらゆるものから回避し続けるのだが。


 そんなわけでエバイドは一人で森へと入っていったのだ。


「さて。後で怒られないように夕方には戻っておかないといけない。その時間まであと5、6時間。この間に何か手掛かりが見つかるといいんだけど」


 そう言ってあちこちを見渡しながら高速で移動するエバイド。


 しばらくするとゴブリンの巣だった場所に到着した。


「さて、埋まっちゃってるからそんなに手掛かりがあるとは思えないけど、ここしか心当たりがないからなぁ。とにかく手早く何かあるかもしれないし、探してみますか。あー、面倒くさいなぁ!」


 ブツブツ言いながらも黙々と手掛かりになる何かを探していくエバイド。


 しかし、時間が過ぎていくだけで手掛かりになりそうなものは何も出てこない。


「あっても埋まっているだろうしなぁ。ここはいい加減諦めるか・・・」


 と、そこで思い出す。


「そういえば昨日、魔猪がいたな。あれってもしかして・・・」


 何かを考え出し、そしてある結論が出たエバイドは顔を上げて動き出した。


「猪が何かしらの情報を持っている可能性が高い」


 そう。キングボアも猪。魔猪が何か教えてくれるかもしれないと考えたのだ。勿論、この「教えてくれる」というのは会話的な意味ではない。物理的な意味でだ。


「くそっ!こっちから探し出すと見つからないもんだな!」


 こっちが嫌な時には簡単に出てくるのに欲した時には出てこない。まさに真理のようなものである。


「それに、見つかったとしても手掛かりになるかどうかも分からないし・・・」


 そうなのだ。見つかってもただの魔猪だったら何の情報も持ってはいない。キングボアが何かしらの情報系統を持っているなら猪系統の魔物を攻撃してから逃がせば巣に逃げていくという方法が取れるのだが、それも空振りする可能性がある。


 しかし、こういうものは考え出したらキリがないものだ。そう考えたエバイドはとにかく猪系統の魔物を探すことに専念した。


 そして捜索から4時間。


「何もいないってアリかよ・・・」


 魔猪どころか、魔物に一切遭遇しなかったのだ。こんなのアリですかとエバイドは頭を垂れた。しかし、これは無意識に<回避>を意識していたからである。いざという時には使うという心構えは無意識の発動を促したのだ。それにより、何にも遭遇しないまま捜索は終了時間へとなった。


「仕方ない。今日はここまでにしておこう。父さんが戻ってくるまで警戒しておけばいいだけだし。それ以降は騎士と冒険者達がやってくれるでしょ」


 そう考え、エバイドは暗くなる前に村へと戻るのであった。


 そして、その日の夜。


 エバイドはゴソゴソとメリスに隠れて何かの作業に取り掛かっていた。


「流石に何の準備も無しじゃ危険だからな」


 準備しているのは網。それもまあまあな大きさのものだ。


「落とし穴ぐらいは作っておいても損は無しだ」


 勿論、そんなものを仕掛けて置いたら誰かが引っかかってしまうだろう。だからエバイドは考えた。


「これで重さ対策にはなるはず」


 網に細工をした。その細工とは、網に使うものを糸や縄ではなく、木や蔦などの木材にしたのだ。これで人間が数人乗っても大丈夫ぐらいの罠を作る。


「キングボアとか、普通の魔猪でもかなりの重さだからな。あの重さが乗っかって初めて壊れるようにしないとな」


 しかし、こんなものを家の中に作っていたら音とかでメリスにバレてしまう。そうでなくても隠す場所すらない。だから、作業する所は家の裏で、隠す場所は家の裏にある茂みの中だ。これでメリスにはバレないだろう。入念に探そうとさえしなければ。


「あと、村の周りや森の中に設置する場所を考えておかないと」


 下手に誰かが大人数でそこを通って落とし穴に嵌まりでもしたら大事になってしまう。それは避けたいエバイドは明日は捜索時間を半分にして、そっちに作業の時間を割こうと考えたのだった。


 そしてまだ子供のエバイドは睡魔の誘惑に勝てずにその日は遅過ぎないくらいの時間に眠りについたのだった。


 次の日の朝。


 ユーナがエバイドと遊びたいと誘ったのだが、エバイドはそれを断って村の外へとこっそりと出た。


「捜索と同時に落とし穴の目星をつけておくか。これなら時間も節約出来るし」


 あちこちを捜索しながらエバイドは落とし穴の設置場所の目星も付けておいた。これで捜索時間の短縮も少しで済む。エバイドは森中を捜索しまくったのだった。


 そして夕方。


 落とし穴の目星も付き、捜索する時間も終わりに近づいたこともあって、そのまま帰ろうとしたのだが、エバイドはあることに気が付いた。


「おかしい。なんでこんなに捜索しているのにいないんだ?」


 エバイドの<回避>はすでに発動していない。初日は発動していたが、それは発動することを意識していたからこそであり、今日は発動することを意識するよりも罠のことに意識を割いていたため、そんなに<回避>に意識はいっていなかった。つまり、発動していないのだ。


 なのにこの遭遇率の無さ。明らかにおかしい。


「普通ならこれだけ森の中を探し回ったら流石に一回ぐらいは遭遇してもおかしくはないはずなのに・・・。それが一度もないなんてどう考えても変過ぎる。どうなっているんだ?」


 不安になったエバイドはとにかく急いで村に戻る。


「父さんが騎士や冒険者達を連れてくるまで早くても明日、遅かったら後数日は掛かる。この不安が取り越し苦労だったらいいんだが・・・」


 そう考えはしても、その不安はエバイドの胸から消えてはくれなかった。


 そしてそうこうしているうちに二日が経った。


 アドルはまだ帰ってこないし、エバイドは森の中で魔物を見かけない。明らかに異常だと考えたエバイドは流石に一人で抱え込むことは危険だと判断し、怒られるのを承知で村長に話をしに村長の家に行った。


「あれ?エバイド。どうしたの?」


 村長の家に行くとユーナが出迎えてくれた。


「ああ。ちょっと村長に話があるんだけど・・・。村長いる?」


「お父さんなら居間にいるわよ。呼んで来ようか?」


「いや、僕が行くよ。悪いんだけど、村長にだけ話があるからユーナは部屋に戻っていてくれる?」


「え?どうして?私もエバイドと一緒にいたいよ。最近、全然一緒にいないじゃない。私、寂しいよ」


 シュンとして悲しそうにエバイドに訴えるユーナ。この表情にはエバイドも罪悪感とかその他諸々で堪えたが、ユーナを巻き込むことは出来ない。そう判断した。


「ごめん。埋め合わせに今度一日ユーナに付き合うからさ」


「ほ、ホント⁉じゃ、じゃあデートして!」


「うぇ⁉」


 思ってもみなかったユーナの切り替えしに面食らってしまうエバイド。


「一日付き合ってくれるんでしょ?村には何にもないから街に行きましょ!」


「うぅ。父さんや母さん、許してくれるかな・・・?」


「大丈夫!私が説得するから!」


 なんとも頼もしい。エバイドは観念してデートすることにした。


「それじゃ、私は部屋に戻ってるね!」


 嬉しそうにユーナはエバイドに手を振りながら自分の部屋へと戻って行った。


「ま、まあ仕方ない。お金は依頼で稼いで貰っているから困らないし、大丈夫だろう。むしろ初めてのデートが9歳の女の子だということが問題なんだけどね・・・」


 まさに自分の肉体も子どもであったことに感謝したエバイドであった。


「ま、それは置いておくとして」


 ノックをして居間へとエバイドは入った。


「村長」


「ん?エバイド、どうしたんだ?何か俺に用か?」


「はい。話があります」


 村長は椅子に座って本を読んでいたが、読むのを止めてエバイドに視線を送った。


「どうした?まさかその歳でユーナをくれ、なんて言わないよな?」


「言いませんよ・・・。今回は真面目な話です」


「こ、子どもでも出来たのか?」


「出来るわけねぇーだろ。馬鹿か、お前は」


 ボケる村長についつい素に戻って反応してしまうエバイド。


「ま、ここまでにしておくか。それで?真面目な話ってなんだ?」


「村長は僕の父さんからゴブリンキングか、キングボアの話を聞いていますよね」


「―――ッ!お前、それをどうして・・・」


「父さんと薬師の人が話しているのを聞いちゃったんです」


「なるほどね。それで?それがどうしたんだ?」


「はい。僕、それを聞いてから色々と調べたり、罠を作ったりしていたんですけど」


「おい。子どもがなんて危ないマネしてんだ」


 かなりの怒気を孕ませながら村長はエバイドを睨む。


「怒られるのは分かっています。それは後にしてください。それよりも今は僕が感じた異変の話を」


「異変だと?」


「はい。おかしいんです。ここ二、三日。僕は森の中を探し回ったんですけど、ゴブリンキングやキングボアどころか、魔物の姿が全然見当たらないんです。あの広い森でもいくらか遭遇しそうなものなのに。一回も遭遇しないんですよ」


「確かに。それはおかしいな。もし、ゴブリンキングやキングボアなら森にはゴブリンの大群か、魔猪の大群がいてもおかしくないはずだ。それがないってことは」


「はい。もしかしたら森には何もいなくて、数年前にこの村を襲ったのは他所から逃げてきたからってことになります」


「おい。それって」


「それだけの魔物がこっちに向かって来ているってことです」


「でも、おかしくはないか?あれから数年が経っているんだぞ?それなのにそんな魔物が何もしないなんて」


「いえ。いるじゃないですか。移動速度が極端に遅くて、それでいて狂暴な魔物が」


「ま、まさか―――」


「はい。アレですね」


「速度からいってもそろそろこの村付近に近づいてくるんじゃないか⁉」


「はい。アレの接近があるから森に何の魔物もいなかったんだと思います」


 村長はこの村にやって来る魔物の正体が分かって酷く動揺している。


「そうか。だとすると、早くアドルが騎士と冒険者達を連れてくることを願うしかないな」


 殴魔熱の発症原因にもなりえるからこそこの村に接近している魔物の正体が分かったエバイドと村長。


「僕の用意した落とし穴とかの罠も無駄になりますね」


「ああ。罠は無意味になるな。よし。俺はこれから村の大人たちにこのことを伝えに行く。エバイド。今回は村に迫って来る危機を知ることが出来たことも考えてお叱りは無しにしてやる」


 そう言って、村長は居間から出て行った。


「さて。それじゃ、俺もいざという時のために準備をしておくかな」


 この準備とは、戦うための準備である。勿論、戦うといっても騎士や冒険者達が間に合わなかったり、エバイド自身やユーナやメリス、アドルに危険が迫った時に戦うための準備であって、騎士や冒険者達と一緒に戦うための準備ではない。


(騎士や冒険者達だけで倒せるなら俺が頑張る必要性はないわけだしな)


 そんな面倒くさがりな性格が滲み出る考え方であるが、命の危険性があるのでその考え方が決して駄目だというわけではない。


(さて、エスカルゴーバス相手だ。気張りますかね)




読んでくれて感謝です。

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