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新作投稿です。

よろしくお願いします!

最初は三日間連続投稿します!



 そこは真っ白な空間。何もかもが白く染めつくされ、他の色など存在しない世界で一人の女性がポツンと一人、四つん這いになって肩で息をしていた。


「な、んで!捕まらないのよ!」


 大きな声で叫ぶその女性はそのかなり整った顔を美人とは言えない程に歪めていた。もはやもったいないとすら思わない程残念な感じに成り下がっている。


「このままじゃマズいのよ!お願いだから捕まってよ!」


 何かを操作するように手を動かしている。その捕まらない何かに対する怒りは懇願に変わっていた。すでにその何かが捕まらないままで数年が経過しているのだ。操作する手つきにも苛立ちが募っているかのようである。


「どうなってんのよ!私の力ですら避け続けるなんてありえないでしょ!」


 懇願は自身で言った言葉により再び怒りへと変化する。


「このままじゃあいつに負けちゃう上に私の世界も危ないってのに!もう指定まで済ませっちゃってるから他に変えるってことすらも出来はしないし・・・。なんであの時、あれを選んだのよ、私は!」


 今度はその怒りを自分自身に向け、頭を自分でポカポカと殴り出す。しかし、それほど力が入っていないのか、全く痛そうな表情はしないし、痛そうな音すら鳴らない。それでも戒めとしての形だけでもとやっているのか、そのまま数分間はずっと頭を叩き続けた。


「・・・もう、いいわ。最終手段に出させてもらうから!お前が悪いのよ!命だけは取らないで連れて行こうとしたのに。この私に捕まえさせず、何年も逃げ回った報いを受けるがいいわ!」


 その女性は少しだけ手元に力を溜め始める。光はドンドン強くなっていき、その光が十分に溜まった瞬間、光は一瞬にして下へ落ちるようにして消えた。


 一瞬の静寂。


 次に一瞬の閃光。


 そして、その日。


 一つの世界が消えた。




           ・・・




 地球が消滅することになった理由とは何か。それは数年前に遡る。


 地球の数ある国の一つである日本にある男がいた。


 その男は物事の全てから逃げてきた、所謂ニートというやつである。しかし、それも全てが男の所為というわけではない。確かに面倒くさがりな性格ではあったが、生きていく以上は社会の柵などのそういったものから逃れることは出来ないことは理解していたため、勉学にも励み、時にはアルバイトなどをしてお金を稼いでいた。


 しかしどういうわけか、男は気が付かないうちにその全てから逃げ出していたのだ。


 否。逃げ出したという表現は間違いである。


 男は勉学から逃げてなどいないし、アルバイトも自分から辞めてなどいない。だが、いつもある程度時間が経過するとアルバイトは辞めてくれとアルバイト先から言われ、勉強道具はいつの間にか無くなっているのである。勿論、働いた分だけお金は貰っているし、学んだ分の学力はしっかりと身についている。だが、どうしても本人の意思とは関係なく長続きしないのだ。


 そしてある日を境にしてそのよく分からない特性とでも言うべきものは変化した。何故か自分のやること為すことが向こうから逃げていくようになる現象が起こる期間が短縮し出したのだ。


 おかげで男は学校を辞めるしかなくなり、今まで溜めたアルバイトでの給料での生活を余儀なくされた。男は自身に起こることを漠然と理解しながらこのまま全てのものから避けられて死んでいくんだろうと思いながら毎日を過ごした。


 お金に関しては日雇いならばあまり影響が出ないらしく、毎日のように様々なアルバイトをしてきた。親もすでに男から逃げるようにして他界しており、すでに天涯孤独の身の上となっているので頼れる人すらもいない。


 一度、本気で死のうと自殺すらも考え、そのための行動を起こしたのだが、そのこと如くが失敗してしまった。


 首吊り自殺をしようとすれば縄が千切れ、トラックの前に飛び出せばどこぞの〇〇回目のプロポーズの主人公のように自分の目の前ギリギリでトラックが止まってしまう。こうなったら飛び降り自殺だと意気込んで高層ビルに忍び込んで、屋上から飛び降りれば下で何かのテレビ番組で使った超大型クッションがそのまま残っていたのか、男はそこに着地してしまう。


 死すらも男を避けたのである。


 ここまで来たらもう死ぬことすら出来ないと諦めた男はいつも通りの毎日を送る。


 そして数年後。


 今日も誰からも、何からも逃げられる毎日の始まりだと憂鬱な気持ちで日雇いアルバイトへと向かった。


 しかし、その日。男の人生は一変する。いや、世界は一変することとなる。


 なぜなら、男のいた世界そのものが綺麗サッパリ消え失せてしまったのだから。




               ・・・




 男は真っ黒に暗転した世界が急に白く染まっていくような錯覚を覚え、目を覚ます。


「ここは?」


 そこにはいつもの雑多な街の光景はなく、ただただ真っ白なだけの空間が広がっていた。白過ぎてまるで白に呑み込まれるかと思ってしまうかのような感覚に男は陥っていた。


「ようやく・・・」


「???」


「ようやく捕まえることに成功したわよー!」


 声のする方を見てみるとそこには一人の女性が万歳をしながら小躍りしていた。綺麗なプラチナブロンドの髪を腰まで伸ばした、女性の平均身長よりも5㎝くらい高い背を惜しげもなく振り乱している。容姿はまさに聖母、女神と言っていいような少しタレ目で優し気な表情が良く似合うだろう美人である。体型もボンキュッボンで、もう文句のつけようがない。


 しかし、その顔はだらしなくニヤけており、まるで酔っているかの様だ。肌が白いこともあって顔が赤くなっていることが易々と分かるくらいには真っ赤になっている。一体、どれほど嬉しいことがあればあのような表情が出来るのだろうかと言えるほどに凄い顔になっている。


 こういう人を俗に言う残念美人と言うんだな・・・そう思う男であった。


「あ、あのー」


 男は意を決して話しかける。いつまでもこのままでいるわけにもいかないし、それにここがどこなのかも聞かなければいけない。ここのことをまるで自分の部屋のような気楽さで踊っているこの女性に早いうちに聞いてしまわないと。


 そう判断したのだ。


 そして男の声は嬉しそうに踊っている女性の元へと届いた。そこまで離れていないだろう距離、手を伸ばせばそれそこ届くような位置にいたのだが、あまりの狂喜ぶりに自分の声が届くのかどうか男は不安になったのだ。


「あら。すっかり忘れていたわ。この忌まわしい人間のことを」


 いきなりの物言いにビックリするとともに、急に表情を喜のものから怨のものへと変えた女性に恐怖した。しかし、その表情もすぐに消え失せる。そして残ったのは女性に似合う優し気な笑みだ。


「ここはどこなんでしょうか?」


 恐る恐るといった感じで女性に場所を尋ねる男。答えてくれるのかどうか不安だったが、その心配は杞憂に終わる。


「ここは私の世界よ」


「は?」


 急な意味不明な言葉に思考がフリーズしてしまう男。その表情もマヌケな感じにポカンとなっている。


「あら?人間には難しかったかしら?それならもっと分かりやすく言うわ。ここは私の部屋みたいなものよ」


(世界?人間?)


 おかしなことを言っている部分もあったが、とにかく知りたかったことは確認出来た。つまり、ここはこの女性の部屋で、自分は部外者なのだろう。そう判断した。


 それに世界には中二病というものがある。だからこの女性もその病気でも患っている患者の一人なのだろう・・・そう判断した。


「すみません。気が付いたらここにいたものですから。すぐに出て行きます。出口はどこにありますか?」


 男は立ち上がりながら出口がどこにあるのかを訊ねた。目視ではどこに何があるのかさえ分からない。確かに真っ白なだけの空間であった。


「そんなものはないわ」


 しかし、帰って来た言葉は全く予期しないものであった。


「出口がない?それはどういう・・・」


「言葉通りの意味よ。入口も出口もこの空間には存在しないわ。この世界に存在出来るのは私だけなの」


 その言葉に男は疑問が浮かび上がる。


「では、どうして俺はこの真っ白な空間にいることが出来るんでしょうか?」


「そんなの私が聞きたいわよ」


「はい?」


 小声で女性が何かを呟いた気がしたのだが、小さ過ぎて聞き取ることが出来なかった。


「なんでもないわ。あなたをここ連れてきたのは私。あなたにどうしてもお願いしたいことがあったからなの」


「はぁ」


 そこからはまるでよく分からなかった。


 この女性は所謂神様というもので、女性の管理している世界に完成された完璧な勇者を送り出したいのだと。


そのために地球にあるありとあらゆる能力を一人に結集させたいのだと。


 そして完璧な勇者を作り上げることによってある相手を打倒したのだと。


 そのありとあらゆる能力の中の一つを男自身が持っていて、それを女性は欲しがっていること。


 どうやらその能力というものが男を長年苦しめてきたあのあらゆるものから拒絶されるものであること。


 要点を掻い摘んで簡単に説明するとそんな感じであった。


「それではその能力を渡せば元の場所へ返してくださるんですか?」


「それは無理よ」


「え?」


「だって、あなたの世界はもう存在しないもの」


「・・・え?」


 男は女性が何を言っているのか理解出来なかった。なにせ、男のいた地球という世界は無くなったと言われたのだ。理解など出来るはずもない。自分の暮らしてきた世界が急に無くなったと言われたら誰だって同じような反応をすることだろう。


「それでお詫びとして私の管理する世界への転生を許可してあげるわ」


「転生?その言い方ではまるで俺が死んだみたいじゃないですか」


「そうだよ?死んだ」


「そんな・・・」


 あれだけ苦労して死のうとしても出来ず、寿命までは決して会うことなど出来なかっただろう死とこんなに早く対面出来るとは。男の心情はすでによく分からないものへと複雑化していた。


「それじゃ、軽い事情は説明したし、早速転生してもらいましょうか」


 そう言って女性は男に向かって手を向けてきた。それを慌てて男が止める。


「ちょっと待ってください!俺はこのまま死んでいたいんですが」


「はぁ?なんでよ。生き返れるって訳じゃないけど、それでも再び生きることが出来るのよ。なんでそんなチャンスを棒に振って死んだままがいいなんて言うのよ。ありえないわ」


 物凄い冷たい目で男を見る女性。しかし、男はすでに生きることに疲れていた。散々あらゆるものから避けられて生きてきたのだ。こうなってしまうのも仕方のないことかもしれない。


「それにこうしないと私が困るのよ。嫌でも転生してもらうわよ」


 そう言われたらこちらに選択する権利はない。そう判断してすぐさま男は死なせたままにして欲しいという願いを諦めた。


「・・・分かりました。それで、どんな世界なんですか?」


「魔法で成り立っているあなたのいた世界で言う、ファンタジーの世界ね。でも、全部が全部違うわけではないわ」


「それはどういう?」


「地理がほぼほぼお前のいた世界と一緒なの。転生先もあなたの生まれ育った日本という国と同じ位置にある国に転生させてあげるわ」


「そこは安全な国なんですか?」


 転生したばかりで死んだりしたら転生した意味がない。そう考えての確認だった。


「ええ。他の国と比べたら比較的安全な国ね。国の制度とかもお前のいた地球という世界と似たような感じだし」


「そうなんですか。でも比較的安全っていうのはどういう意味なんですか?」


「どの国でも絶対に安全とは限らないのよ。お前の転生する世界は魔物や魔族もいる世界なの。だからそう言う意味では危険はどこにでもあるし、それに科学もないから文明も地球の中世のような感じになっているわ」


「そんな世界で俺は生きていけるんでしょうか・・・」


「知らないわよ。転生させてあげるのと、多少の安全は保障してあげるけど、それ以外なら私の知ったことじゃないし」


 そんな突き放したように女性は言う。これには少しカチンと来たが、流石にこの場で完全に上位の存在である女性にそんなことをしても損しかないので心の中で「天罰でも当たってしまえ」と念じておいた。


「それじゃ、聞きたいこともこれぐらいだろうし、軽い説明の後に転生させるわよ。もう質問とかも受け付けないからね」


 そう言って女性は説明を始めた。


「まずはあなたのその能力を貰うわ」


 女性がそう言った瞬間、男の体を光が包んだ。そして次の瞬間、体から何かが抜けていくような感覚があって光は収まっていった。


「はい。これで回収完了。それじゃ説明ね」


「は、はぁ」


「まずは能力について。転生先の世界では能力、才能、技能が明確化されているの。人間だと15歳の成人でそれが見えるようになるわ」


 15歳で成人か。早いな。


そう思った男ではあったが、口にはしない。ここで話しても仕方のないことだし、ここまでの会話で女性がふとした軽い疑問に丁寧に答えてくれるとは限らない・・・というか答えてくれないだろうと確信していたからだ。


「けど、これは最初から見えるようにしてあげるわ。そのくらいのサービスはしてあげる」


「ありがとうございます」


 この偉そうな態度と物言いに腹は立っていたが、転生することが決まってしまったのだ。貰えるものは何でも貰っておかなければ。そう考えたからこその我慢である。


「その明確化された表を見るための起動キーみたいなものは〈オープン〉って言う言葉ね。勿論、言葉だけじゃなくて見るぞっていう気持ちを込めて言わないと発動してくれないから注意しなさい」


「はい」


「見本として転生前の、つまり地球で生きていた頃のお前の表を見せてあげるわ。見なさい」


 そう言って女性は男の前に手をかざした。するとその指先にいきなり透明な、だけどはっきりと表だと分かる、まるで透明なパソコンのウィンドウみたいなものが出現した。


「これが表ですか」


「ええ。向こうの世界では〈オープンウィンドウ〉って呼ばれているわね」


「なるほど」


 そこには男の死ぬ前の値であろうものが明確化されていた。




北上(きたがみ) 回流(かいる) 男 年齢21歳


力:G

防:G

魔:H

耐:F

速:F

運:D


能力

回避 Lv.Max


技能

料理 Lv.3

作製 Lv.3

自動回避 Lv.Max


魔法

なし


加護

なし




「これが転生前のお前の〈ウィンドウ〉よ。見て分かるように回避だけおかしなことになっているわね。これのせいでの物凄い苦労をしたけど、今はいいわ」


 怒りがぶり返して来たのか、女性は怒気を強めるが今は捕まえることが出来たのだからと胸に手を当てて落ち着きを取り戻す。


 技能の〈料理〉は一人暮らしだった男―――回流には持っていて当たり前のものだし、〈作製〉は日雇いのアルバイトではとび職がダントツに多かったからこその技能だからだ。


「次にお前の転生先の〈ウィンドウ〉を提示するわ」




エバイド Lv.1 男 年齢0歳


力:H

防:H

魔:H

耐:H

速:H

運:D


能力

回避 Lv.1


技能

料理 Lv.3

作製 Lv.3

自動回避 Lv.1


魔法

なし


加護

なし




 軒並み身体能力値が下がっている。それに新しくLv.ってものが増えている。


「値が下がっているのは当然ね。赤ん坊からやり直しなんだから。でも、感謝しなさい。回収しなかった技能はそのまま残してあるし、回避系統の能力もLv.1にはしているけど残してあげているのだから」


「ありがとうございます」


 勝手に世界を巻き込んで殺しておいて、勝手に回流の持っていた回避能力をぶん捕っていく身勝手な相手に苛立ちはするが、それでも我慢する。文句を言って何をされるか分かったものではないからだ。それに自分の重荷にしかなっていなかったものだと考えられる回避能力を取っていってくれるのだ。確かに感謝してもいいだろう。まあ、少しだけ残ってはいるようだが、これは生き残るために必要になる力になるだろう。そう回流は考えた。


「転生する先は温厚な家族の元にしてあげるわ。ほら、名前も新しくあるでしょ?これはお前を生む夫婦が名付けた名前よ」


「これが俺の新しい名前・・・」


「大事にしなさいな。もうこれっきりで転生することなど出来はしないのだから」


 元々転生するつもりはなかったんだが・・・。そう思ったが、これも口には出さない。


「それじゃ、転生させるわよ。いいわね?」


「・・・はい」


 そして北上回流改め、エバイドは新たな世界へと出発するのだった。




              ・・・




「ふぅ。忌まわしい人間も送ったことだし。これでようやくね」


 女性はエバイドが新たな世界に転生したのを見送った後、そう呟いた。


「さあ、ここからが楽しい勇者作りの開始よ。完璧な史上最強の勇者を作るわよ!誰にも負けない、誰にも屈さない私につり合う最高の勇者をね」


 そしてそこから途中で作製が止まっていた勇者のウィンドウを取り出し、エバイドから抜き取った回避能力を入れ込んでいく。


「よし。よし!これで完成よ!」




 勇者 男 年齢‐歳


力:S

防:A

魔:S

耐:A

速:S

運:A


能力

全能力(オールマイティ)


技能

全技能(オールスキル)


魔法

全魔法(オールマジック)


加護

女神の寵愛




「さあ、私の主人公。私のヒーロー。あいつに目に物を言わせていなさい。そして勝利と栄光を私に捧げるのよ!」


 そして女性は勇者を世界へと送り出す。エバイドと同じ世界に。しかし、違う国へと。


「私こそが最高の神だと証明してちょうだい」


 嬉しそうにニコニコととある王国に召喚された勇者を眺めながら女性は嬉しそうに楽しそうに呟く。


「いや、ダメだな」


「え?」


 しかし、その女性の後ろにさっきまではいなかった男が姿を現す。


「しゅ、主神様⁉」


「お前の所業、確かに見させてもらった」


「なっ⁉」


「自分の欲のため、勝利のために一人の人間を殺し、その人間を殺すために一つの世界を壊したお前を私は許しておけん。極刑が下ることを覚悟しておけ!」


「そ、そんな・・・」


 主神と女性が呼んだ初老の男を前に女性は項垂れる。


「どうか・・・。どうかご慈悲を!」


 土下座をして何とか許してもらおうと願う女性。


「ならん。神はその凄まじき力を持つ代わりにそれ相応の責任があるのだ。そのための神の法は厳しくなくてはならん。ここでお前だけ許すわけにはいかんのだ」


「・・・まさか、あの男が私の世界に存在していられたのは・・・」


「私のおかげだな」


「私の対応を確認するためですか・・・」


「うむ。お前があの者に丁寧に心から接しておれば多少の温情は出ていたやもしれんが、今更何を言っても遅いことよ」


 主神の言葉に慈悲すらないことを悟った女性は力なく項垂れる。


「ヘルガ、オータム。こ奴を連れてゆけ」


「「はっ」」


 そして主神の言葉によってどこからか出て来た新たな二人の男性に連れられて女性はどこかへと消えていった。


「さて、あとはあの申し訳ないことをした者へとお詫びをしなければな」


 そして主神は何かの〈ウィンドウ〉を開く。


「まずはLv.が他の者よりほんの少し上がりやすくしてやるか。それと元々持っていた能力を勇者から取り上げ、返してやらんとな・・・む?これはまた厄介な仕様になっておるな。どれ、扱いやすいように少し手を加えてやるとしよう」


 それから主神は少しだけエバイドの〈ウィンドウ〉を弄った。


「よし。これでいいだろう。それと加護については見ていただけで助けてやれんかった償いだ。さあ。新たな生に幸あらんことを」


 そして主神はその場から消え、女性の世界は消えてなくなった。




            ・・・




 そこは魔法が動力として、戦力として使われることが当たり前の世界、フィリアス。地球と地形がほとんど同じであり、国としての制度などもどことなく似通った部分がある世界。違いといえば科学ではなく魔法。そして地球には存在しなかった魔物や様々な種族。似てはいるが、全くの別世界。それはフィリアスである。


 そのフィリアスのどこにでもあるような村で一つの新しい生命が誕生した。


「おぎゃあおぎゃあー!」


「メリス!生まれたよ!可愛い男の子だ!」


「本当?」


「ああ、本当だとも!よくやってくれた」


「ふふっ。これで私たちもパパとママね」


「ああ!これからさらに精一杯働くよ!」


「これからもよろしくお願いしますね」


 そんな二十代前半の男女に挟まれるように抱かれた男の子こそ、回流の転生先。エバイドである。


 母親はおっとりとした雰囲気を持つ女性で、そんな雰囲気の中にしっかりとした芯を持っているように感じる。髪は肩甲骨辺りまで伸びた淡い茶髪で持っている雰囲気によく似合っている。


 父親は優しさと誠実を併せ持ったような雰囲気を纏う男性だ。髪は短く切り揃えており、それが黒い髪と相まってよく似合っている。体つきもガッチリしており、中々の体躯だ。


 そんな2人の間に生まれたエバイドの髪は黒く、生まれたばかりとは言え、どこか母親と似た雰囲気の容姿をしている。超絶イケメンとまでは行かなくてもまあまあのイケメンに育ちそうな顔立ちである。


(確かに優しそうな父と母のようだな。あの女性の態度からして変なところに転生させられてもおかしくなかったからちょっと安心)


 赤ん坊からやり直しなので父親に抱かれたまま動くことが出来ないエバイドはまず、フィリアスに生まれて最初に抱いた感情は安堵であった。


(しかし、本当に生活水準も中世なんだな。生まれた場所が病院とかじゃなくて自宅?だなんて)


 科学がない世界で、しかも文明は中世なのだ。現代日本のような病院施設があるはずもない。


「おや?この子、今笑わなかったかい?」


「生まれたばかりの赤ちゃんが私たちに分かるように笑うわけないでしょ。あなたの気のせいよ」


「そうかな~?」


 実はエバイドは皮肉だなと思ったのが卑屈な笑いへと転じてしまったのだが、赤ん坊であったことが幸いして二人にはバレていない。そしてバレなかったことに赤ん坊ながら冷や汗をかきながらも安堵するエバイドであった。


「それよりも赤ちゃんの名前を教えて?考えていたんでしょ?」


「あ、ああ!名前はエバイドだ!良い名前だろ?」


「エバイド・・・。そうね!いい名前だわ。よろしくね、エバイド」


「あうー」


(新しく母親になる人だ。ここはサービスしておかないとな)


 そう考えたエバイドは母親、メリスと呼ばれた女性がこちらの手を優しく握って来たので握り返してあげる。


「ああ!エバイドが握り返してくれたわ!」


 満面の笑みで父親に話しかけるメリス。声も本当に嬉しそうである。


「本当かい⁉それじゃ僕も」


 そう言ってメリスが握っている手とは反対の手を握って来る。エバイドはその手にもサービスとして握り返す。


「本当だ!僕の息子は可愛いなぁ」


 二人してデレデレしだしたのでやり過ぎたかと思ったエバイドはニギニギするのを辞める。


「おや、終わりのようだね」


「そうね。でも生まれたばかりですもの。仕方ないわ」


「そうだね。夜も遅い。君も疲れただろう。今日はゆっくりお休み」


「ええ。あなたも」


 そして二人はエバイドを赤ちゃん籠に入れて就寝した。


二人が寝たことを確認したエバイドは心の中で安堵する。


(やれやれ。赤ちゃんってのも大変なんだな。まあいいや。とりあえず、もう一回〈ウィンドウ〉を確認しておこう)


 エバイドは〈オープン〉と念じる。すると目の前に〈ウィンドウ〉が現れた。




エバイド Lv.1 男 年齢0歳


力:H

防:H

魔:H

耐:H

速:H

運:D


能力

回避 Lv.Max

制御 Lv.Max


技能

料理 Lv.3

作製 Lv.3

自動回避 Lv.Max


魔法

なし


加護

主神の加護




「ふぎゃ⁉」


(なんじゃこりゃ⁉)


 ビックリするもの当然だ。転生前には確かに回避などの能力はLv.1になっていたはずだし、制御の能力もなかった。しかし、それが軒並みMaxで表示されているのだ。驚きもする。しかも、主神の加護というよく分からないものまである。転生前のあの女性の態度からはありえない内容である。


(まあでも、考えて解決するような問題じゃないし、そもそも面倒だからな。もうこのままでもいいや)


 転生するまでに色々とあったエバイドは生まれたばかりにも拘わらず、すでに精神的に疲れていた。もう眠たくて眠たくて仕方ないのだ。


(・・・もう・・・げん・・・・・・・・か・・・い・・・)


 そしてエバイドもフィリアスに転生して最初の睡眠を取るのであった。




読んでくれて感謝です。

感想・評価・ブックマークをしてくれると嬉しいです。

よろしくお願いします!


明けましておめでとうございます!

一年の一番最初に投稿開始という中々にキリのいい時からなのでチマチマゆっくり書いていこうと思います。

二度目ですが、よろしくお願いします!

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