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第8話「名工グリーバスの店にやって来た件」

 レベル上げする為の武器がほしいので順に見ていく。

 金貨10枚、白銀貨1枚。お金はそこそこあるが、もちろん大切なお金だ。

 無駄遣いはできない。最初だし一番安いのでいい。

 そもそも僕だけの為にあるお金じゃないしね。

 とは思いつつも、そのどれもが高価な品ばかりだ。

 もっと安い物はないのかな?


「……思ったより高いなぁ」

「平気。白銀貨があればそこそこのモノが買える」


 シェリルは平然と言うが、金貨も白銀貨も臨時収入で同額を普通に稼ぐとなると、大変な苦労を伴う。ほんと僕だけのお金じゃない。

 全部使ちゃうと、生活費を稼ぎにシェリルは森へと再び踏み込むことになる。

 そうならないように選ばないとだ。


 縦型で奥行きのある店内には、様々な形状の武具、馬のあぶみまである。

 更に奥へと進むほどに店内の熱気が増してくる。

 

「なんだか蒸し蒸ししてるね……」

「うん。店の奥に工房がある」


 この熱気は金属を溶かす炉からもたらされているようだ。

 それに何故だろう? 奥に進むほどシェリルの表情が少しずつ険しくなっていく。


 して、奥から一人の男が現れた。

 うん、間違いない。


 彼こそがチャンネル登録者数360万人率いるランキング3位の武具職人、グリーバス、その人である。

 だが、その第一声は歓迎するものでは無く、厳しいものだった。


「フン、エルフの小娘が何の用じゃい!」


 客に対してこの一言は、失礼極まりないのだが、本気でシェリルを嫌ってるって印象は受けなかった。それは言葉とは裏腹に、グリーバスの眼光の奥底に優しさが感じられたからだ。

 

「まあ良い。客人を連れてるようだしな」

「そう……ユーキに、ユーキにぴったりな武器がほしい……」

「ふ、ふむ……はて? 隣の御仁はどこかで見覚えがある気がするのう……」


 ここで僕は挨拶した。


「ヨーチューブで動画投稿してます。ユーキです。ひょっとして僕の動画で見たんじゃないですか?」

「ふむ。そうじゃ! 思い出したぞ! そなたの動画を拝見したのじゃ!」


 ランキング3位の名工グリーバスが僕の動画を見てくれていたのは素直に嬉しい。

 グリーバスの話を聞くと、僕が守衛のガラハウさん経由で、ラムレス侯爵へ献上したライターを預かり、早くも試作品を作ったという。


「丁度良い。お主に試作品を見て貰ってもよいか?」

「はい、こちらこそ見てみたいです」

「ふむ、奥に工房がある。ついて参れ」


 僕とグリーバスが奥へと進む。


「なに突っ立てるのじゃ? シェリルも着いてこぬか」

「あ、はい!」


 グリーバスが「シェリル」と名を呼んだ。

 シェリルが慌ててついてくる。どうやら顔見知りのようである。


 工房は熱気に包まれていた。

 鋼を鍛える金床に、金属を溶かす炉の隣には水槽がある。

 その他にも様々な形状をしたハンマーや、トングがあった。

 更に、机の上には分解されたライターと、それを元に設計した設計図があった。

 そして試作品を渡された。


「重っ……」


 金属製のライターで重量もありサイズも手のひらよりも大きい。

 これはまだ試作品でこれから小型化、軽量化をしていくそうだ。

 それにしても、これはライターと呼ぶより、ジッポンライターと呼んだ方が良さそうだな。

 出来栄えに関心していると、グリーバスに「どうじゃ?」と感想を求められた。


「素晴らしい出来だと思います!」

「ふむ、そうか」


 手軽に火が灯せる機能はそのままだし、下部からオイルを補充できるから使い捨てになることもない。

 この世界にぴったりな出来栄えだ。

 さすがランキング3位のドワーフ鍛冶師だ。

 その人気と実力は伊達じゃない。


「名はユーキと申すのじゃな。ユーキ殿は何ゆえ、このエルフの小娘と一緒にいるのじゃ?」


 グリーバスが事情を尋ねてきたで、今までの経緯を話した。


「なるほどのう。ユーキ殿と一緒にいればこやつも安心のようだ。とは言え、お主もまだまだ新米のヨーチューバーだ。いつぽしゃってもおかしくない。ワシもヨーチューバーじゃて、ここは人肌脱いでやろうかのう」


 この試作品のライターを僕の動画で紹介してくれるそうだ。

 それもグリーバス自身も僕の動画にコラボ出演してくれるという。

 ランキング3位のグリーバスが出演してくれるとなると、相乗効果で僕のチャンネルの人気も跳ね上がる。

 これはまたとない申し出だった。


 しかし、初対面の僕にどうしてそこまで?

 グリーバスが話してくれた。

 シェリルの両親とグリーバスは、元々冒険者で喧嘩しながらも長い間共に戦ってきた仲間らしかった。不幸なことにシェリルの両親はこの世にいない。

 グリーバスは二人の忘れ形見であるシェリルをずっと見守ってきてるようだった。

 そしてシェリルが危険な森に踏み込むことを嫌ってるようだ。

 工房で働くことを何度も提案までしていたらしい。

 

 が、


「シェリルは自然の草花と触れ合っていたいのです」


 なるほどな。

 エルフのシェリルからしてみれば、この工房は馴染めないようだ。

 

「ではユーキ殿、早速動画の撮影をしようかのう」


 試作品のジッポンみたいなライターを一緒に宣伝した。

 その様子をシェリルが撮影してくれた。


「ふむ、上手く撮れたか?」

「うん!」


 シェリルが撮った動画をグリーバスと一緒に覗きこんだ。

 ピントもずれてなく完璧なものだった。 

 動画を撮り終えると何でも僕に武器を無料で提供してくれるらしい。


「よかったね。ユーキ」


 シェリルが微笑んでくれた。


「うん。動画まで出演してくれて武器まで貰えちゃうなんて、思ってもなかったよ」


 グリーバスが僕のために2種類の武器を持って来てくれた。

 一つはミスリル製の短剣で、魔力を帯びているのか淡く光を放っている。

 もう一つはスリングショットに鉛玉だった。


 グリーバスが鉄板に狙いを定め、スリングショットから鉛玉を放った。

 アルミ缶のような薄めの鉄板だったが、見事に命中し貫いた。


「お主の細腕では剣はまだ早かろう。レベルが上がり筋力が上がるまでこれで辛抱するのじゃ」


 短剣は接近戦用の武器としてくれた。

 デザインはサバイバルナイフに近い。しかもミスリル製だった。

 この短剣は白銀貨1枚で買えるような代物ではないのは容易に想像ついた。

 どちらの武器にもグリーバスの名が刻まれている。

 グリーバスは自信のある作品にしか名を刻まないそうだ。


「ほんとに貰ちゃっていいのですか?」

「ふむ、修理が必要な時は遠慮なく持ってくるがいいぞ」


 練習したらスリングショットは直ぐに慣れそうな気もした。


「何から何まで本当にありがとうございます!」

「ふむ。気にすることじゃないて。それよりもシェリルのことをよろしく頼む」

「はい」


 名工グリーバスは元々冒険者でドラゴンを退治したこともあるという。

 これほどの冒険者のステータスってどうなってるのだろうか。

 ステータスが見てみたいが、恩人のステータスを勝手に盗み見るのはよくない気がする。


 またの機会に頼んでみるとしよう。

 と、思ってたら職人気質なのか、グリーバスは僕のアイポンに興味を示してるようだった。

 

「しかし変わった魔幻鏡だのう」

「そんなに変わってるんですか?」

「ふむ、少し見せてくれぬか?」


 グリーバスがアイポンの隅々まで、眺め見る。

 軽く指で小突いてみたり、適当に画面を操作したりしている。


「これは頑丈そうだ。少し試させてくれ?」


 なんのこっちゃと快く頷いた。


 グリーバスの手にはスミスハンマーが握られていた。

 すぐさま逞しい二の腕を振り上げた。

 ――――えっ!? まさか? 嘘だよね?


「ちょ……ちょっと、待って!」


 僕が叫んだ時には後の祭りだった……。

 大切なアイポンが哀れに砕け散ってる姿を見るに耐えなく、そっと視線を逸らす。


「思った通りじゃわい! これはオリハルコン製だ!」


 僕の大切なアイポンをハンマーで砕いて、なんで歓喜の声を上げてるの?

 って……オリハルコン? オリハルコンって言ったの?


「ユーキ殿、見てみるがよい。このミスリル製のハンマーが、使いモノにならなくなった」


 グリーバスが握るハンマーがぺしゃんこに潰れていた。


「幻の金属を見ることになるとは驚いた。この魔幻鏡はどこで手に入れたのだ?」


 その手の質問はライター動画のコメントにも、ふんだんに書かれている。

 そこは全て適当にはぐらかしてきたが、目の前の人物に尋ねられるとそうも言っていられない。

 なんて返事しよう……。


「うおー! なんじゃこれは!」


 またしてもグリーバスが大きな声をあげる。

 アイポンの画面を見て驚いている。

 僕とシェリルも何だろうと覗きこむ。


 --


 名前:グリーバス

 レベル:56

 天職:鍛冶師

 職業:斧戦士

 種族:ドワーフ

 HP:550/550

 MP:103/103

 

 腕力:205

 耐久:356

 敏捷:96

 魔力:85

 幸運:95


 スキル:【魔神斬り】

 ユニークスキル:【鉱石鑑定眼】【魔力付与】


 --


「これはワシのステータスではないか!」


 どうやら適当に弄ってるうちにステータス表示ボタンを押したようだ。

 グリーバスが慌てる。が、おちゃめに照れて恥ずかしそうにするグリーバスだった。


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