娘は高速バスで帰ってくる
高速道路のサービスエリアで、沙織はトイレに走った。
そして肉まんを買って、急いで席についた。車内はカップラーメンの匂いがするが仕方ない。
確か冬の行列でカップラーメン禁止の現場があったな。沙織はそんなことを思い出して、肉まんに食らいついた。
「お手洗い行けました」
親にメールしたが、まだ海老名だ。仕事で来たことがあるが、神奈川の筈だ。
(まだ神奈川だよ、おい。)
沙織は心の中で呟いて、携帯に目を落とした。
「大変だよー」
本音をマイクロブログに投稿し、今度はフェイスブックの友人一同の近況に目を通す。大体皆帰省している。沙織の夫も明日の便で香織の実家に来ることになっている。
何のために帰るかと言えば、自分の好きなアイドルのカウントダウンコンサートなのだが、決断したのが直前とは言わないまでもギリギリだったので、バスしか取れないと思いきや、成田から関空までの便は残っていた。
くそっ。夫と共に飛行機にすれば良かった。と思っていたら、この世のものとは思えないほど絶景の富士山が見えた。
ラッキーだ。ドライブだと思えば良い。
沙織は何度もシャッターを切って、隣の人と「綺麗ですね」と微笑みあった。雲一つない快晴の空に、白い富士山が映えた。