9.初雪の月
今冬最初の雪が降り、今朝、起きたら外は一面真っ白だった。本格的な冬の到来だ。
ここ数ヶ月、ねえさんは王都の魔道具屋さんに作った魔道具を売りに出すようになっていた。王都で紹介してもらった妖精の魔道具屋さんでは、ねえさんの作ったものをいい値段で引き取ってくれるらしい。
最近、固定のお客さんもついて注文も入るようになったんだと喜んでいた。
とうさんは、ねえさんもいよいよ独り立ちしてしまうのかと寂しそうだ。ぼくには、大人になるのはもっとゆっくりでいいからなと言っていた。
そんなねえさんが、ある日王都から帰ってくると男の人を連れていた。とうさんとかあさんに紹介したい人なんだと言った。
とうさんは絶句して持っていたお茶のマグをぽとりと落としてしまうし、かあさんも目を丸くしたままお盆から手を離してしまうし、ぼくはおやつを食べながら「晴天の霹靂」ってこういうことを言うのかなと考えていた。
ねえさんが連れてきたおにいさんは王都の警備隊に勤めていて、ねえさんに妖精の魔道具屋さんを紹介してくれた人でもあるらしい。すごく緊張してるようで、今日はこんなに寒いのに、何度も汗を拭きながらとうさんと話していた。
とうさんがうちの事情を知ってるのかと聞くと、そのおにいさんは、自分は妖精のクウォーターで精霊の眼というものを持ってるから、種族のことなら最初からわかりましたし、後からだいたいのところも聞きましたと答えていた。
精霊の眼を持っていると魔力の流れとかが全部見えて、幻術とか幻覚も見通せてしまうのだそうだ。そういえば、おにいさんが見たねえさんの魔力は、おにいさんが知ってる魔法使いや魔族の誰よりも静かで穏やかできれいで、初めて見たときは驚いたと言っていた。
うちへ来てみたらぼくやかあさんもそうだったから、たぶん、心配ごとも無くきちんと暮らせてると自然にそうなるのかもしれないとも言っていた。
王都にいる魔族のまとう魔力は、なんというか、すごく威嚇してきて怖いんだそうだ。
それから、ねえさんは、おねえさんからとうさんへの手紙を預ってますと、紙束のたくさん入った大きな封筒を出した。
中には、おねえさんからの「虫を付けることになってしまいたいへん申し訳ないので、せめて虫の身上調査をしておきました」という手紙と一緒に、おにいさんのことを調べた書類がたくさん入っていた。
おにいさんは、ぶっとお茶を吹き出して、師団の探知魔法使い怖いと呟いていた。
おにいさんは、ねえさんからぼくが魔法剣士になりたがってると聞いていて、妖精の魔法剣士なら知り合いに何人かいると言った。中には弟子を取りたいと考えてる人もいるから、その気になったら紹介してくれるそうだ。
けれど、その前に剣と魔法の基礎をしっかり勉強したほうがいいとも言った。もう少し大きくなるまでは、とうさんとかあさんにしっかり教えてもらおうと思った。
ねえさんは、魔道具の工房の問題もあるからすぐにというわけにはいかないけれど、少しずつ用意して、王都の近くに自分の工房を作るつもりだと話していた。
おにいさんとはそれからだけど、まずは挨拶をというので、今日連れてきたんだとねえさんは笑った。
夜、とうさんはとうとうねえさんが嫁に行ってしまうと、いつもより多くお酒を飲んでかあさんに慰められていた。